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北エリアへの進攻が始まり、ブレイブは坑道へと突貫する。坑道には事前の調査時から監視員の存在があるが、彼らの役割は坑道から出てくる者に対してが主であり、坑道へ入ろうとする者に対しては今まで全く考慮していなかったためか対応できず、そのまま素通りさせてしまった。
ブレイブは坑道へと入りそのまま先へと進む。パティによる魔力探知を利用しても坑道内の魔物の数は今まで攻略した二つの迷宮以上のため、できるだけ戦闘せずに抜けられるということはなく、確実に魔物に遭遇することになる。ブレイブのメインに使う魔法スキルは基本的に物理的破壊力の大きいスキルが多く、それらを使用してしまうと坑道を破壊しかねない。坑道はそこそこ丈夫であるため、多少の攻撃ならば気にする必要はないがブレイブの魔法スキルでは厳しい所がある。一応、あまり使わずにレベルを上げていないいくつかの魔法スキルや、パティに渡している魔法スキルもあるが、そういったスキルでは結局戦闘はしづらいだろう。
そんな中、ブレイブのとった行動はできるだけ戦闘を行わず、消費を少なくしての強引な突破方法だ。
一度だけ、迷宮という強固な壁を持つ場所でもできた物を、単なる坑道でできないはずもない。レーザーカノンによる、出口まで一直線の通路の作成である。後のことはまったく考慮していないごり押し方法である。普通ならば今後のことを考えれば使えないが、異世界の人間であるブレイブに今後のことを考えて行動する必然性はないし、そもそもブレイブはこの世界の諸々の事情を知っていることもあって後々を考える意味合いがない。ならば、どれだけの無茶苦茶であっても全く問題ではないということである。
レーザーカノンにより、出口まで一直線の通路を作ったブレイブはその道をまっすぐ進む。この道は他の坑道の道ともつながっているためどうしても道中で魔物は入りこんでしまうが、一直線のルートであるため、前方に向けてのファイアーランスのごり押しで問題なく進める。そんなごり押しの結果、苦労なくブレイブは坑道を突破した。
そのまま先へと進み、魔族の集落を発見する。ブレイブのレーザーカノンがここまで見えているせいか、集落は色々と慌てふためいている様子が遠目に確認できる。外へと脱出させるわけにもいかない、ということでブレイブは躊躇なく太陽落としを敢行、魔族の集落を容赦なく焦土に変えた。相手に対して同情してはいけない。相手について知らなければ、無慈悲に殺戮を行うことができる。
そうして目的を達成したブレイブは北エリアに存在する迷宮、三つあるうちの残りの一つである最北の迷宮へと向かう。
ブレイブは最北の迷宮へと向かっている。他のプレイヤーたちの状況は、リュージ達は集落にたどり着いたことであり、オルハイムたちは今ニアーズレイ付近で魔族と魔物たちと戦闘を行ってる頃合だろう。アルディス側からではブレイブの殲滅、フィルマの夜襲により面倒なく攻略できた二か所とは違い、騎士たちを連れての真っ向勝負しかないのである。
他の場所での戦いはブレイブには関係ない話であり、彼には彼の役割がある。最後の迷宮の攻略をし、魔王討伐後に備える。そうして迷宮に向かう際中、パティが何かに気づく。
「ん……?」
「何か見つけた?」
パティの反応に気づいたブレイブがパティに訊ねる。それを聞いてはいるが、パティ自身が納得していないというか、理解できない、みたいな感じの反応をしている。
「あれ? でも……うん?」
「おーい?」
「……あ、こっち来た」
「え?」
絶妙に不安にさせるパティの台詞である。しかし、そのあとパティはどうせ来るのだからとそちらに向かえとブレイブに言い、ブレイブもしかたないなとパティの指示した方向に向かった。現在いる場所が森の中であったため、どうにも進みづらく相手の姿を確認する前にブレイブは自身へと向かってきた相手と合流した。
「こんにちは、先輩」
「……フィルマ?」
ブレイブと合流した何か、それはフィルマだった。現在の状況は北エリアへの進攻を行っている状況である。ブレイブは目的が会ってここにいるのだが、リュージ達やオルハイムたちの状況を考えれば、フィルマがここにいるのはおかしな話だ。いや、フィルマは前日の夜から独自に行動をしているのだが、それを知っているのはリュージ達のみ、より正確にいえばリュージのみがその行動を見た当事者である。
「フィルマちゃんこんにちはー」
「こんにちは」
「……それはいいんだけど。なんでフィルマがここに? リュージ達と一緒なんじゃ」
「先輩に会いに来たんです」
「ええ……」
一言理由として言われると困る内容である。実際のところ、その内容には色々な意味合いがあるはずだ。本当にただ会いに来たなどというわけではない。
「……フィルマちゃん、ちょっといい?」
「何ですか?」
「フィルマちゃん、今までどこにいたの?」
「……え、どういこと?」
「なんで、フィルマちゃんは北から来たの?」
リュージ達の北エリアへの侵入経路は三方向において南側、テイルロマジア方面だ。もし通常通りに進攻し、合流しようとして動いたのなら、フィルマがブレイブの方へと向かう場合南側から向かってくるはずだ。しかし、実際にフィルマの来た方向は北側である。それも、ブレイブは魔王城よりも北寄りにいる。つまり、フィルマはそれよりも北の方向にいたことになる。
「何故、ですか……」
「それに、なんでフィルマはブレイブの位置が分かったの?」
「……それは確かに気になるかな」
フィルマは一直線にブレイブに向かっていた。ブレイブの向かっている方向にかかわらず、気配探知に引っかかる前から。フィルマとパティの探知能力の範囲はほぼ同等であり、探知に引っかかってからブレイブと合流しようとしていたとは少し考えづらい。
「そうですね……言ってもいいですが、その前に一ついいですか先輩?」
「……なに?」
「一つ頼みがあります。聞いていただけますか?」
「…………」
素直に肯定しづらい、内容を聞いてから……と言ブレイブは言いたかった。しかし、ブレイブは一つの答えを返す。
「いいよ」
「よかった」
世界が隔絶した。
「っ!?」
「これは……!」
ブレイブたちの四方にはまるで結界のような光の壁が張られている。四角形のエリア、隔絶された空間。しかし、この場はただ空間的に隔絶されたというだけではない。
「決闘スキル!? なんでこんなスキルを……!」
「決闘スキル?」
パティは発動されたスキルに関して理解しているが、ブレイブはまるでわかっていない。
「決闘スキルはスキルを使う人の意思と、その相手となる人の同意がなければ発動しないスキルです」
「ブレイブが肯定するから発動したんだよね」
「あ、そうなんだ……」
「そういう意図であの問いかけ、実にいやらしいよね?」
フィルマは笑顔を湛えているままだ。パティの問いに答える様子はない。
「決闘スキルは発動すれば解除する手段は一つしかありません。先輩が敗北するか、私が敗北するか。決闘スキルの発動状態での死亡はシステム的に死亡とはみなされず、決闘後にHP全開で復帰されます」
「それがこの世界でも適用されるとは限らないでしょ? そもそも、なんで使ったの?」
「決闘スキルはただ決闘を行うだけではなく、決闘を行う者同士で賭けを行う。一般的にそれは物を賭けることになります」
フィルマはパティを無視し決闘スキルについて解説を始める。その内容は、決闘スキルかでは死ぬことがなく、スキルを解除するには勝敗を明確にしなければならない。そして、その結果により賭けた物が互いの間を行き来する。しかし、それはスキルメーカー内での話だ。いや、前者に関してはシステム的に死亡に扱わないということで本当に死亡することがない。それはこの世界で一度フィルマ自身が野生動物相手に試していたため判明している事実である。問題はもう一つの方、すなわち賭けの内容だ。
「この世界では、システムの影響がありながら、同時にシステムの軛から外れてる……フィルマちゃん、何を賭けるつもり?」
パティはフィルマを睨みつけながら訊ねる。フィルマはそんなパティの視線ににこりと笑顔を深め答えた。
「私は私自身を、先輩には先輩自身をかけてもらいます。賭ける者は互いに等価でなければならない」
「っ!?」
「……え?」
パティとフィルマのやりとりについていけていないブレイブは間抜けな声を上げるのみだ。