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「"じゃあ、ノーヴェスに到着すればそっちに連絡をすればいいかな?"」
"それで構わない。しかし、フィルマ君もいつの間に……"
ブレイブはスキルメーカーではペディアと呼ばれる街、この世界ではチュメレーンと呼ばれる国に到着し、オルハイムに念話で連絡を取る。フィルマと話していた、三方面からの攻撃に関しての話を取り付けるためだ。
最初ブレイブから連絡した時にオルハイムは驚いていた。連絡を取ること自体はそこまで変な話ではないが、そのうえで二方面からの攻撃予定のところに三方面の話を持ち込まれればそうなるだろう。
"しかし、実際一人で大丈夫か?"
「"一応使い魔もいるし、一人ではないけど"」
"まあ、確かに本当の意味で一人ではないかもしれないね。しかし、本当に君があのコッチーニの奪還を行ったのか?"
「"まあ、そうなるね"」
すでにフィルマからブレイブの超強力な魔法に関しての話は語られている。そもそも、天使戦の時点で神雷の槍という形で見せているのだから他の似たような威力の魔法も同じ使い手によるものと考えるのは難しい話ではない。
"話で聞いただけだから本当かどうか、と思っていたんだけど……そうか、本当の話なのか……"
「"まあ、秘密にしなければならない理由もあるから"」
"そうだね。あれだけのスキルを使えれば引く手数多、面倒なことになっただろうね"
最も、ブレイブのスキルの威力を考慮するならばあまり使い勝手は良くなかっただろう。他にもいろいろなスキルはあれども、あれだけ強力なスキルは味方にも損害を及ぼす可能性の方が高い。そもそも、ブレイブ地震がソロで動いているプレイヤーであり、そのスキルもソロで動くことを基本としたスキルだ。飽和攻撃のファイアーボールの壁を考えればわかるだろう。あのスキルはその都合上、見方が相手と戦っていない状況でないと扱いにくい。スキルメーカーはPK可能なゲームであり、当然フレンドリーファイアーがある。全体攻撃なんてものを使えば見方を巻き込んでもおかしくはない。魔法使いが使いにくいのは広範囲の攻撃を使うと味方を巻き込む危険もあるからだろう。
「"でも、威力が高いから使いにくいけど"」
"何事も使いようだ。戦闘以外に用いるのもありだろう。まあ、ゲームの話はいいかな"
「"そうだな。とりあえず、ノーヴェスに着いたら連絡して、進攻タイミングを合わせるってことでいいか?"
"……基本はそれでいい。ただ、ノーヴェス東の坑道がまだ使えるのかは不明だ。もしかしたら途中の道や出口が崩れている可能性はある"
魔物の住処となっている坑道が今も正常に行動として扱えるのかは不明だ。そもそも、坑道を突破しなければならない以上、戦闘が行われるのは確実だ。その先頭の過程で崩落する危険はある。
"もし、崩落していれば、内部で戦闘がおきて崩落すれば、三方面からの進攻は出来ない"
「"その点に関しては安心してほしい……と言っても無理か。こっちのスキルで解決できる、と言ったら?"」
"本当にそうであるならば、いいんだけど……俺は君のスキルを知らないからな"
たとえ実力がある、能力があるのは判明していても、明確にその実力や能力を確認しているわけではない。
「"ならどうする?"」
"一応、君が攻めることができず二方面の攻撃になる可能性、増援の危険も覚悟しておく。そういうことになるね"
「"まあ、そんなところでいいんじゃないかな。俺もどうなるかはわからないし"」
"……信用しないって言ってるのにいいのか?"
「"簡単に信用できる間柄ってわけでもないし"」
会って数日しか共にいた時間はない。リュージ達ほどの付き合いがあれば話は違ってくるが、天使戦に挑むにあたって初めて組んだ仲間である。早々に信用できるかというと難しい。いや、信用は出来ても、信頼は出来ないだろう。
"そう言われるとどうにも"
「"いやもともとそっちから言ったことじゃない?"」
"確かにね"
軽い感じで話す二人。別に信頼できないというわけではないが、結局共にいた時間が短すぎて相手のことを知らなすぎるのが問題なのだろう。
"ひとまず、ノーヴェスに行かないと話は進まない"
「"わかった。向こうについたら連絡するよ"」
"君がノーヴェスについてから進攻時期を決める。連絡よろしく"
さう最後にオルハイムがいい、連絡が途切れる。
「……ひとまずノーヴェスにいかないと、だな」
現時点でブレイブのいる場所はチュメレーン、ノーヴェスは北西方向に位置する。やはりスキルメーカーとほぼ同じ配置であるため、移動自体はそこまで時間のかかるものではない。
「道中に関所みたいのがあるとかは?」
「あるかもしれないけどぶっちゃけスキルメーカーと違ってわざわざイベントこなす必要ないよ? 仮に止められても、上を抜けるなり海上を進むなり、山方面から抜けていくなりできるし。まあ、海上は行かせないけど」
「海に恨みでもあるの……」
パティはしつこいくらいに海上を進むのだけは断固拒否している。別段明確な理由があるわけでもないが、大地に足をつけて移動するという安全性の問題なのだろう。危険という観点ではどこでも大して変わりはないが。
「安全第一」
「はいはい」
一度チュメレーンに泊まり、北西を目指す。流石にこの辺りの魔物の状況も他とは変わりがなく、特に問題なくノーヴェスに到達した。
しかし、ノーヴェスに到達したはいいが、それからが大変であった。まず、現在ノーヴェスはアルディスと状況が大差ないということである。一応アルディスとは違い、行動を通らなければ攻めれない以上、単純に攻められているわけではない。だが坑道は魔物でいっぱいな状況であり、魔物のバランスが崩れればそれは行動の外に出る。常に魔物が出てくる危険のある坑道は一応監視されているものの、危険自体は残っている。それゆえに、ノーヴェスは警戒状態だ。そんな状況で旅人が簡単に国に入れるわけではない。他国の国民である証明などの自分の身分の証明が必要などの問題があったりした。
結論として、ブレイブのとった行動は正式に入国するのではなく、どこか適当な場所からの侵入である。入った後は特に問題がなかった。入る部分のみが厳しく、それ以外に関しては緩い。警戒が甘いと言わざるを得ないだろう。
また、入出は適当な場所から移動できるが、それ以上に坑道への侵入の方が問題となった。何故なら、坑道には魔物が出てくることを危惧した監視が存在するからである。出てくる対象が分かるのであれば、入る対象もわかるということだ。侵入自体は無理やり突破すればいいのだが、下準備などで侵入できないのは問題だろう。
「どうする?」
「うーん……スキルメーカーで状態異常系はあまり発展させてないもんね。とりあえず、麻痺させていくしかないと思うけど……」
その場合の問題は麻痺した監視員の安全だ。また、もし脱出するときに麻痺が回復していれば外に出てきたことがばれる点も問題である。
「この世界で魔法スキルは……」
「開発できないよ、残念ながら。この世界の魔法で習えば使えるだろうけど……そんな人もいないしねえ」
現状の問題は、ブレイブが他者との協力を取り付けることが難しい点である。単に街中で人を頼る、くらいならばお金なり脅しなり、その能力を生かした手助けでなんとでもなるが、国家がかかわる内容であれば難しい。リュージ達はアルディスが背後にあるので問題はないが、ブレイブは勝手にでてきた立場であるためそういうわけにはいかないだろう。
「最悪山登りかなあ……」
「流石に無理無理。うーん……無理やり通るのもありかなあ? 別にどこの所属ってわけでもないし、争いになっても問題ないでしょ」
「暴論な」
かなり乱暴な手段だ。一度使えばそれだけで次の警戒度が上がるのは間違いない。活きで使えば帰りの時点で危険度が高くなるし、帰りも同じことをすれば警戒はより上がる。一度しか使えない手だと思った方がいい。
「それをするにしても、事前確認は無理かな……」
「よし、なら私が一肌脱ぐよ!」
「色仕掛け?」
「下手な冗談は面白くないよ。私だけなら、侵入は難しくないはず。何せこの体だからね! ただ、やっぱり入るとこを見られると厄介だし、うまくそっちで警戒を引き付けてほしいけど」
「自分の安全は?」
洞窟内は魔物でいっぱいである以上、パティが襲われる危険もある。それに関してだ。
「私は死んでもブレイブの下に戻れるよ。その点私は普通のプレイヤーたちとは違います。バリアも使えるし、攻撃手段もあるし、麻痺みたいな小技も使えるからね」
「……頼んでいいのか?」
「もちろん。私はブレイブの役に立つのが仕事だもの」
そういう存在である、というのは以前からわかっていた者の、それでもブレイブとしては複雑な心境だ。しかし、現在はパティに頼るしかない。
「じゃあ、頼む」
「任されました!」