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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
skill maker r
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「なあ、本当に名乗り出る気はないのか?」

「面倒だし、他にやることもあるし、単についでだっただけだから別に」


 巨大クラーケンを出す前に船主に討伐したことを名乗り出る気はないのか、と尋ねられるがブレイブはそれに対し興味のない様子である。


「もったいねえな……」

「ま、そっちにとっては誰かが退治してくれてありがとう、みたいな感じでいいんじゃないかな?」

「そうそう。英雄は己の偉業を誇らず。民衆が讃えるのみってね」

「はあ……ま、そういうならそうするけどよ」


 仕方ない、といった感じで船主はその言葉を受け入れる。

 その日、港に巨大クラーケンが運び込まれた。ある船主が船に縛り牽引してきたのである。その船主は旅の魔法使いがクラーケンを討伐したのを目撃し、その魔法使いに言われ討伐の証拠としてクラーケンの死体を持ってきた、と話している。信じがたい話ではあるが、実際に討伐された巨大クラーケンが運び込まれた以上その言葉を嘘だと断じることもできない。それ以上に、巨大クラーケンが討伐されたということは今まで襲われる危険があったから控えていた沖に出ての漁を再開できる、現在の漁獲量が減ってしまった現状が解決されるということである。船乗りたちは歓喜の叫びをあげ、その夜はお祭り騒ぎとなった。

 お祭り騒ぎの結果、次の日は船乗りたち全員が沖まで出て漁をする必要になった。大騒ぎして食べまくったためである。








 ブレイブたちはルブジェナを出て北へと向かっている。


「ブルマーグまで戻るか?」

「うーん……どうだろう。直で北に行ってもいいけど……」


 いったんブルマーグまで戻るか、それとも北、スキルメーカーではペディアと呼ばれていた街まで向かうか、その相談中だ。一応ある程度食料はあるが、それても直で北まで向かうのは微妙に心許ないと言ったところだろう。急いで向かえばギリギリ到達できそうなところではある。そこまで急ぐべきか、それとも少しのんびりとしてブルマーグに行くか。別段急ぎでもないがなるべく方針だけは早めに決めておいた方がいい。その方が今後のための行動もしやすい。

 なお、彼らはノーヴェス東の坑道から北エリアに侵入するつもりであるらしい。北エリアの侵入口はスキルメーカーと同じ三つ存在するが、ブレイブの知っているルートは山道のニアーズレイを経由するルートと坑道のアイアンロンドを経由するルートだ。隠し道を通るテイルロマジアのルートはブレイブは通ったことがないのでわからないのである。もちろん、ルートの存在を知っている以上探せば見つけられる可能性は高いが、そのあたりはどんなものかわからない新規ルートの開拓よりはある程度知っている少し遠くで面倒ながらも既存ルートを通ったほうがいいという安定志向のためだ。


「ひとまず、分かれ道まで向かってから考えようよ。道中に何があるかもわからないし」

「ある程度意思決定しておいた方がいいと思うんだけどなあ……」


 パティの意見は道中何があるかわからないのだから今決めておいたところで意味はないということだが、何があるかわからないのだから先に方針を決めておこうというブレイブとは違う方向性である。まあ、ブレイブ自身先に決めてもその時その時ですぐに意見が変わる可能性があるのはわからないでもない。


「急いでもしかたないよー?」

「いや、それはわかってるけど」

「楔を三体倒すの一人でやるんだからって、焦って挑んでたら足元掬われるかもよ? 準備はしっかりとしないと」


 急いで行ってもしかたがないとパティはブレイブに説く。土塔ではそうでもないが、島の迷宮で経験したことを考えろ、と。


「……何かあったっけ?」

「罠対策。光源の事前確保。この世界はゲームじゃないから、相応の影響はこちらにも向こうにもあるんだよ」


 島では洞窟ゆえの暗闇だった。幸いなことにパティの魔法による灯りの確保ができたからこそ平気だったが、なかった場合は光源の確保が面倒だっただろう。一応島であるのでどうとでもなったはずだが。

 これはあくまで洞窟タイプの暗闇程度だったからそれでよかった。その前の土塔の迷宮はもともと塔という人工物を題材とした迷宮ゆえに安全であった。しかし、次に向かう迷宮はどうだろうか。最後に残った迷宮は最北の迷宮、そこは雪と氷に覆われた凍土の迷宮。北方ダンジョンでも似たような感じではあるが、スキルメーカーはゲームであり、凍傷のような状態異常にはならないし、気温の低さによる害みたいなものはほとんどない。仮にあっても簡単な対策で行けるようにされているだろう。

 しかし、この世界では現実だ。水に濡れれば体を冷やすし、火に触れれば火傷をする。怪我を追えばその分痛みで動きが鈍くなるし、気温が下がれば呼吸を通じ内から冷たくなる。そんなゲームではありえない現実が障害となって襲ってくる。あまりそういった問題を経験しなかったブレイブとしては実感は薄いだろう。


「だから、対策必須。私は要らないけどブレイブには必要じゃない?」

「あー……北エリア、最北の北方ダンジョン内部は必須かな」

「最北の迷宮だもんねー」


 とりあえず事前に準備するにしても、移動中である現在はあまり関係がない。寒さ自体はブレイブの魔法を考慮すれば完全に対応できないわけでもないが、やはり上に着こめるものくらいは持っていたほうがいいだろう。そんな程度には考えている感じだ。

 ひとまず北へ向かう、分かれ道のところまで向かう、そんなふうに移動していく。その移動中、パティがぴくりと何かに反応した。


「パティ?」

「ん、大丈夫。ブレイブあっちに行ってくれない」

「なんで?」

「別に行かなくてもいいけど……どうせあっちからくるんだし、手間は省いた方がいいだろうからね」


 パティの台詞の意味はわからなかったが、ブレイブとしてはパティの要求は断らない方がいいのがわかっているので指示通りパティの示した方に向かう。そのまま進んでいると、ブレイブめがけて向かってくる影が遠くに見えた。


「……あれ、フィルマ?」

「うん、フィルマちゃんだよー。こっちこっちー」


 パティが手を振っているが、距離が距離である。見えるわけがないだろう。フィルマとパティは相手の位置をわかっているので見えるかどうかはまり関係ないのだが。


「お久しぶりです、先輩」

「あ、うん、久しぶり」

「お久ー」


 久しぶりの知り合いとの再会ということでブレイブとしては少しうれしい。パティがいるとはいえずっと単独行動はそこそこ寂しいものだ。しかし、何故フィルマがここにいるのかは大いに疑問であるはずだ。気配探知でパティを見つけたとはいえ、それで向かってくるのはどうだろう。結構な距離があったのにわざわざ近づいてきたのだから。


「ところで何か用かな?」

「……いえ、近くにいたので少しどうしているのかと思いまして」


 アルディスを出ていったあと連絡の一つもない状態だ。普通に考えれば心配されていても仕方がない状況である。


「大丈夫……ですよね、先輩ですから」

「信頼されていると思うべきか……ところで、フィルマは何故ここに? アルディスにいたんじゃないのか?」

「現在、アルディスにはオルハイムさん、ジャックさん、シャインさんが残っています。私を含めた残りの五人はブルマーグに滞在し、ブルマーグの兵を借りることができないかの交渉中です」

「兵を借りる…………?」


 ブレイブが二柱の楔を倒している間に結構な情勢の変化が起きているようだ。フィルマは現状に至るまでの過程をブレイブに説明する。中継地を奪還後、アルディスでは北エリアへと攻め込む用意をしているが、二か所の村からの支援がある状況では厳しいものがある。そこで、隠し道を経由しテイルロマジアの位置に存在する集落を陥落させ、その後北へ向かいアイアンロンドの位置の集落からの増援を食い止める、という案となっている。いくらプレイヤーたちの戦力があっても簡単ではないが、現状一番いいと思われる選択肢がそれだ。最も、本当にプレイヤーたちだけでは心もとないということで、兵を借りれないかという話になっているらしい。


「なるほど……」

「……先輩、お願いがあります」

「何?」

「アルイヌイット、ノーヴェス側からアイアンロンドの位置の集落への攻撃、それをしてくれませんか……?」


 かなりの無茶ぶりだ。いや、ブレイブ自身は北エリアへと向かうつもりであり、もともとノーヴェス側から進むつもりではあったのだが。


「三方向から攻め込めば、増援を気にする必要はない、か」

「はい。先輩だけを向かわせるというのは私もどうかと思いますが……先輩にそれだけのスキルがあるのは知っています」

「……まあ、そうだけど」

「もう、何渋ってるの? 別にいいじゃん、予定通り北に行くのに通るついでに一集落滅ぼすだけでしょ」


 物騒なパティの台詞だが、実際にそういう感じになるのはブレイブのスキルの強力さゆえだ。半ば戦争のような状況なのだからあまり配慮する必要性もないだろう。ブレイブ自身の意思に関しては別かもしれないが。


「はあ……」

「結局魔王を倒すなら魔族全滅でも大した差はないよ。そもそも……っと、まあそのことはいいか」


 魔王を倒しても、倒さなくても、世界はリセットされる。そうであるのならばここで全滅させようがさせまいが根本的に意味がない。


「ま、しかたないか。パティの言う通り、もともと行くつもりだったし」

「……やってくれますか?」

「うん、まあ行きがけの駄賃としてね」

「それなら、一度オルハイムさんに念話をお願いします。えっと……できますよね?」


 一応現在この世界にいるプレイヤー同士での念話は可能だ。最も、あまり彼らは念話の活用をしていない。もともと他人同士で一時的な付き合いとしてだったらめか、念話で連絡を取り合うという発想があまりないためだ。これがもっと仲間同士だったならば話は違ったかもしれないが。それでもオルハイムは指揮官、リーダー的な立ち位置のためか、多少念話を利用しているようだが。


「大丈夫」

「そうですか……先輩に無理を言って申し訳ないです」

「フィルマは気にしなくていいよ。そっちも、無理はしないように」

「はい。それでは私はそろそろ戻ります」

「リュージによろしく言っておいて」

「はい」


 そう言ってフィルマは来た時と同じように跳躍とブロックを利用し空中を駆けていく。


「……あれの活用あっちの方が上じゃない?」

「ブレイブの身体能力とフィルマちゃんの身体能力を比べては行けません。前衛組と魔法使いの差です」


 現実は厳しい。


「……あれ、それ何?」

「お土産。さ、北に向かおう。ブルマーグに行って食料とかの確保必要なくなったからね」


 フィルマの持ってきたお土産は北へ向かうのに必要な食糧や水などであった。それを聞いてブレイブとしては微妙に釈然としない思いを抱きつつも、フィルマの言った通り三方面から攻め入るのであれば、ある程度早めにノーヴェスまで到達したほうがいいと北へ向かうことにした。


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