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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
skill maker r
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97

 海上を走る船。大きいものではないが帆船であるそれは本来の風の流れとは違う方向へと進んでいる。そのカラクリは風を生み出す魔道具だ。通常の世界とは違い、魔道具のような特殊な道具が存在するこの世界では完全に自然の風に頼らず船を進めることも可能である。

 その船は現在ルブジェナの沖に存在する島へと向かっている。乗っているのは一人の船員とブレイブとパティだ。


「本当に金払ってくれるんだよな!?」

「前金で半分出しただろ」

「大人しく進めなよ」

「ちくしょーっ!」


 船員は半分泣きながら船を進めている。いったい彼に何があったのだろうか。







 ブレイブはルブジェナに入る前に、動物を幾らか狩りルブジェナに持ち込み売り払っている。ルブジェナでは基本的に海の幸が基本的な食事だが、もちろん海の幸以外の者も食べる。どちらかというと現在では平野で狩れるような獲物の方が持ち込まれると嬉しいらしい。持ち込んだところで話を聞いた所、現在海産物はあまりとれない状況となっているらしい。

 そういう話を聞いてもブレイブにはあまり関係なく、宿で一度休み、翌日予定通りにルブジェナの沖に存在すると思われる島に行く船を探した。

 しかし、そうそう都合よく話が進まない。港で話を聞き、色々な船の持ち主に相談したが、沖に存在する島に船を出す人間はいないらしい。そもそも、沖に存在する島に迷宮があり、魔物が多く存在しているのにわざわざ船を出して人を送るなんてことはしない。送ったところで魔物をまともに退治できるわけでもないし、退治することに意味が存在しない以上、船を出すはずもない。また、現在沖の方に巨大なクラーケンが出現しているらしく、沖の方に出る場合は命がけになるため、それもあって船を出すわけにはいかない、というわけらしい。

 そういう話だが、だからと言ってブレイブもはいそうですか、と頷いて帰るわけにもいかないのである。空を飛べばいいのでは、と思いパティに提案する者のそれはだめだと今まで通りさんざん言われている。そのため、船を出せる人間を探すのを頑張っていた。

 そうして話を持ち掛け船主の中に、お金を払えば連れて行ってやる、といった人間がいたので前金で言い値の半分を出したところ、目を白黒させ本物か、本当に金を払うのか、と戸惑っていた。彼の言った代金の額が結構な値段であったため出すとは思わなかったのと、行ってしまったため本当に船を出さなければいけないのかという二つの理由からである。

 流石にブレイブも、全く見つからない状況に辟易しており、パティの悪い誘いもあって魔法を使用して脅した。もちろんお金を払うのも当然行うが、出さなければ船を潰すと脅した。その時船主は初めてブレイブが魔術師であることを知り、そして脅されたことを理解した。というか、目の前に炎の弾の壁を張られてしまったら流石に屈するしかなかった。

 そして現在、彼らは船の上に乗り海上を進んでいるのである。スキルメーカーのようにあっさりつけるような距離に島は存在せず、かなり遠くにあるようで結構な時間が経過している。


「そういえば、何で海の上を飛んでいったらだめなんだ?」

「危険だから」


 今まで散々口を酸っぱくして海上を飛ぶなと言ってきた理由がそう一言で説明された。しかし、ブレイブとしては当然その内容に納得がいかない。水上歩行スキルもあるし、空中でも攻撃などが可能。それなのに、海上飛行を止める理由は危険だからというのはどうなのだろうか。


「でも、空中飛行や水上歩行もあるのに」

「ブレイブ、スキルを信用しすぎじゃない? もし空中でMPが尽きたら? スキルが正常に働かなかったら? 水上歩行は足から着地しないとだめだけど、水に沈んでブレイブはスキルが使える?」

「…………」

「別にスキルに頼るのはかまわないけど、絶対の保証はないんだよ? ここの糞みたいな神様だっているし、何かが起きる可能性だってある。できるだけ、安全を考えるのは当然なんだよ」


 スキルはスキルメーカーで得た物だがそもそもなぜこの世界でも使用できるのかは大いに謎である。神様のような超常が絡んでいるのだから根本的に謎が多くて当たり前なのだが、現状はそのシステムで作られたものに頼らざるを得ないのが現状である。そして、それが常に使い続けられるようなものであるとは限らない。


「……まあ、そうかもしれないけど」

「だから、船に乗っておく必要があるんだよ。それなら魔法が使えなくなっても大丈夫でしょ」

「いや、それはそれで問題多くない?」


 仮に今ブレイブがスキルを失ってしまえば、ボスの撃破も不可能になるし、その後の神殺しも不可能だ。最も、そういう風にならないように調整はされている。でなければわざわざそういった用意をして神殺しを成立させようなどどは考えない。そのあたりをパティは説明する気はないが知っている。最も、パティの言った通り、何らかの横やりがないとは限らないし、何か事故みたいな時が起きてしまう可能性だってあり得なくもないだろう。できるだけ、安全を確保して行動しろということである。


「ま、安全に行こうよ。急ぐ必要は……あんまりないし」


 一応、時間の余裕はある。パティは現状のことを知らないが、簡単に魔王を討つまで行くことはないと確信している。二人、突拍子もないことをやって魔王を殺しかねないのもいるが、そのうちの片方はそれほど危険視しなくてもよく、もう片方はブレイブたちのことをよく理解しており、無理に信仰させようとしないである程度抑えてくれるだろう。


「…………」

「…………」

「おい、島が見えてきたぞ」


 二人が無言なところに空気を読まずに船員……この船の船主が声をかける。自分の船は自分で動かすものだし、急遽出す予定でもない船を動かすということで他の船員を集める余裕もなかったようである。一人でも動かせるのだから必須ではないが、やはり人数はいたほうが安全だ。

 ブレイブとパティは船主の視線の方向に目を動かしその先に存在する島を見つける。


「やっとか……」

「海上は距離感分かりにくいよねー……ん?」


 パティが何かに気づく。ブレイブも何かが近づいてきたかと思い、周囲を見渡すが特に何も見えない。しかし、ここは海の上だ。


「っ!? 奴だ!」


 海が盛り上がる。その海面の盛り上がりの中から、巨大な烏賊が出現した。その大きさは海面に出ているだけで五階建てのビルに匹敵するほどの巨大さだ。クラーケン、それもスキルメーカーでブレイブが戦った相手とは全く違う超大な存在である。


「に、逃げよう!」

「今日は焼き烏賊かな?」

「でかい烏賊ってアンモニアで臭いらしいけど、味もダメそうな気がするな」

「おい、呑気に話してないで逃げよう!」


 巨大クラーケンの出現に船主は慌てるが、それに対してブレイブとパティは呑気にいかが食べれるかを話し合っている。そもそも船主は逃げようと言っているのだが、クラーケンから逃げられるくらいならば船を沖に出さないということはない。クラーケンが出現すれば逃げることができないから船を出さないのである。


「ところで、火で焼き殺すのでいい?」

「水上だからあまり海に落ちると生態系の不安があるけど……まあ、あのサイズなら大丈夫じゃない? 一応、範囲は絞って狙いを一か所に」

「はいはい。ファイアーランス」


 船の上、空中に無数の炎の槍が展開される。飽和弾幕はブレイブの主に使うほとんどの魔法で使用できる攻撃方法だ。一度撃ったきりではなく、一度撃った分を補充した上での連続攻撃であり、狙いをつけない場合や狙いをつけ、ほぼ一か所、一範囲を攻撃することが可能である。今回の場合は、巨大クラーケン一体を対象に狙いをつけた形だ。

 その脅威は、頭上に展開されているだけでも下の船にいる船主やブレイブたちが熱量を感じるくらいである。それだけの熱量を持った無数の炎の槍が、クラーケンを死ぬまで襲い続けるのである。


「じゃ、焼き烏賊一つ」


 無情にも、炎の槍がクラーケンに降り注いだ。








 巨大クラーケンを討ち取り、先に進もうとしたが、船主はクラーケンの所まで行くらしい。と言うのも、巨大クラーケンが倒されれば沖までまた船を出すことができる。もちろん海の脅威はこのクラーケンだけではないが、そういった脅威に対応できるように各々で対処方法を確立している。現状沖に出れない原因がこの巨大クラーケンなのだからそれが倒されれば町中が歓喜の声に満ちるだろう。今までわざわざ平野での狩りを増やさん蹴ればならないくらいだった程、海産物の獲得量が落ち込んでいたのだ。


「っつーわけで、これをどうにか持っていきたいんだが……」


 巨大クラーケンのところまで来たのはいいのだが、これを持ち帰る方法が存在しない。死体の一部だけでも持って帰り、それを証拠とするのはいいが、それすらもまともな切断道具もない状況であるため難しい。


「……うーん」

「持って帰ってもいいかもだけど……でもなー」


 現状、持ち帰る手段がないわけでもない。


「これを倒したのが私達だって黙っててくれるなら持ち帰るの手伝ってもいいよー?」

「え、いや、ちょっとまってパティ」

「だってこうしないと先に進まないし」

「本当か!? 本当だな!?」


 ひゃっほう、と喜びの声を上げる船主。さすがにこの状況ではやらないとはいいづらい。パティが勝手に言った発言ではあるが、確かに船主がこの状態では島まで行くのは難しい。脅すことも自分が船に乗っている状態では難しいだろう。もともと船を壊すつもりも船主を殺したりする気もないのだから。


「はあ……」


 ブレイブは収納アイテムの空き一つを使い、烏賊の死体を仕舞いこむ。目の前で巨大なクラーケンの死体が消えたことに船主はたいそう驚いた様子を見せた。


「魔法使いってすごいんだな……」


 なお、現状これほどのことができるのはブレイブのみである。アイテムによるものであるため、他の魔法使いが同じことができるはずもない。

 そうして船はルブジェナの沖にたどり着いた。ブレイブとしてはここの迷宮に挑んでからが本番である。


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