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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
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93

『いや、うぬらがなにものであってもかまわぬ。わがもとにきたるべきもの、すべてほろぼすべし』


 竜が天に向け吠える。広間に侵入したブレイブたちを敵と見なし、顔をそちらに向け口を開け、その中に炎を溜める。竜の炎はガス袋のような生物的な気候によって放たれるものではなく、周囲の熱量を集めその熱量により物を燃やし発生させるもの。炎、というよりは熱線の方が近い物である。それを集める速度や、集められる熱量など、そういった様々な条件により中の強さが判別できる。ほぼ瞬間的に熱を集めた竜は、相当に強力な竜と言えるだろう。


「バリア!」

「バリア!」


 パティの方が行動は早かった。竜という存在についての認識に関してはパティの方が詳しい知識を持っている。ブレイブも炎を溜める行動を理解はしたが、その危険性と速度に関しての認識は低い。ブレイブの張るバリアはパティに遅れたものとなっている。

 彼らが二人がかりでバリアを張るのは、その強度の問題である。パティとブレイブではブレイブのバリアの方が強力だ。スキルレベルは元々のレベルと使用頻度の関係でパティの方が高いのだが、もともとの強さの違いの問題である。また、基本的に一枚の壁を作るのではなく、複数の壁の発生だが、数が多い方が確実に防げるという点も理由の一つだろう。

 吐き出された熱線と、それにより周囲の塵、体内の可燃性の不要物質を燃やすことで発生した炎の炎熱線の攻撃はバリアによって阻まれる。その攻撃の強力さゆえに、強弱合わせ十枚ほどのバリアが破壊されるが、張られたバリアはそれよりも多くまだ健在である。


『ぬ。わがちからふせぐか。おもしろきものどもなり』


 倒せなかったことを確認した竜は先ほどとは違い、熱ではなく空気を集める。竜の吐息、ブレス、熱ではないただの空気によるブレス。それは竜としては最下層の竜が使うものだが、逆に言えば上位の竜は全ての竜が扱える。そして、それは簡単に扱えるものだ。ただ空気を集めて放つだけ。先ほどの熱線よりも楽に放つことができ、そして簡単なものであるがゆえに数も楽に用意ができる。

 吐息の弾丸は張られていたバリアに阻まれるが、何度も連発することで残ったバリアが破壊される。しかし、そのバリアの後ろにすでにブレイブは存在せず、横から回り込んでいた。


「ソードレイ! ファイアーボール! サンダーライン!」

 

 物理、炎、雷の魔法。相手の行動は強力でその攻撃速度も速いが、ブレイブを認識し、何をするかの思考まで移るには微妙に遅く、その行動に移るまでの隙をつき三発の魔法を放つ。耐性、有効性の確認を兼ねた三発。ブレイブの使用する魔法においてメインである火と雷、および次に強力な物理の魔法だ。

 竜は魔法の呪文とその発動に気づき、ブレイブの方を見るがその時にはすでに竜に対し魔法が着弾する。しかし、竜は気にした様子もない。竜の外皮、鱗は強力な防御だ。道中にいた亜竜とは話が違う。その肉体、筋肉もはるかに強力なものであるため、並の攻撃でダメージが通ることはない。


「あれやばくない!?」

「そりゃやばいって、ボス竜なんてやばくて当たり前でしょ!」

「バリア!」

「バリア!」


 再度竜からブレスが放たれる。呑気に会話をしている場合ではないと即バリアを張り防ぐ。もう少し遅ければブレスに巻き込まれ肉体が残らず吹き飛んだことだろう。


『よくふせぐ。しかし、うぬらにわれにかつてだてはあるものか』


 龍は一歩も動かずブレイブに対し一方的に攻撃できる。それに対し、ブレイブはバリアで防ぐことは出来るが、相手にダメージを与えられないのではブレイブの方が一方的に消耗することになるだろう。ブレスは遠方に向けての攻撃手段だが、近づけばその強固で強靭な肉体による物理攻撃が存在する。そもそも、魔法使いであるブレイブに近づく選択肢はないのだが、近遠ともに相手の方が圧倒的に強力だ。


「バリア!」

「バリア!」

「バリア!」

「バリア!」


 何重にもバリアを張り、防壁による攻撃を通さない壁を作る。竜もその壁についてある程度理解し、ブレスを吐き破壊していく。バリアによる防壁の展開は、一時的に攻撃を防ぎブレイブがパティと相談をするためのものである。移動して攪乱しようにも、なかなかに広くも狭いボス戦の広間、そもそも移動による攪乱など相手の攻撃手段、立ち位置からして不可能だ。


「これどうすればいいの!?」

「無理ゲーだって! 普通の手段じゃ無理!」


 普通の手段、つまりはまともに戦って勝てる相手ではない。竜とは元来一人で挑むような相手ではない。それこそ、強力無比な神話に出てくる英雄でもなければまともに戦って勝てるはずもないのである。本来、ブレイブ個人の実力では勝てるはずもない。

 ただ一つ、ブレイブのみが持ち得ている強力な攻撃手段を除けば。しかし、その手段を使うのは難しい。何故ならば、ここは土塔の中。上に穴は開いているものの、その穴は竜の上部に空いている。そこから逃げようとするのを竜が見逃すとは到底思えない。


「やっぱ魔法しかない?」

「だね。でも、あの時みたいなのはごめんだからね! ここだと死んだら終わりだから!」


 強力な魔法、街一つを焦土にするような魔法。そんな魔法を持ち得ているものの、こんな狭い範囲でそのような魔法を使えば自分巻込まれる。かつてフマーレストの沖の島に存在するダンジョンのボス部屋において使用した魔法はそのダンジョンのボス部屋を完全に崩壊させ、それによりブレイブは死に戻りしてしまった。ここで同じことをすれば今度は生き返ることは出来ない。


「じゃ、外に出るしかないか」

「どうやって? 扉は閉まってるし、あの竜の上からは出れないよ?」


 彼らの入ってきた扉はいつの間にか閉まっている。理由は不明だが、この場所は入ったら竜を倒さなければ出れないような仕組みが働いているようだ。ここは迷宮という場所であり、それゆえの独自のルールが存在しているためだ。

 

「ないなら作ればいいじゃないってね! レーザーカノン!」


 超高熱の光線がブレイブの後方の壁に撃ちだされる。かつて廃坑道を封鎖していた巨大で強固な特殊な封印の岩を一瞬で蒸発させるほどの強力な熱量をもつ光線である。それだけの攻撃であれば竜に対して使えばいいのではと思わなくもないが、竜は基本的に炎や熱に対し高い耐性を持ち、強固で強靭な肉体に対しどれだけ有効かは不明である。それを考慮したのかもしれない。

 放たれた光線は壁を容易に溶解し、人ひとりが抜け出すのに難しくない直線の穴を空ける。破壊ではなく、熱による溶解であるがゆえに破壊による穴の崩落が起きることもなく、綺麗な円形の抜け穴が作られた。


『ぬ。わがかみによりつくられしちからのさかい、それをはかいするとはいかなるちからか。うぬら、わがかみにあだなすちからをもつもの、ここでうつべし』


 竜が再び熱を集め、ブレイブに向け放つ。塵を燃やす手間を省けば、熱量のみを熱線として放つのに最初ほどの手間はかからない。その分有効範囲はそこまでではなく、また破壊力も低くなるが、それよりも急いでブレイブを討つことを優先したのだろう。しかし、張られたバリア群を突破するのは容易ではない。四度にわたり何重にも張られた壁は、先にいくらか風のブレスにより破壊されていても熱線を受け止めまだ残るほどに貼られていたのである。

 竜がそのバリアと熱線で戯れている間に、ブレイブは作り出した穴から外に出る。穴自体はあけたばかりだと熱いのではと思われるが、それらの熱を取り払う換気がパティにより行われ、また壁床天井に触れないように空中浮遊の魔法を使って移動して安全を図りブレイブたちは外に出る。土塔の最上階、その外。もちろん足場などはないが、空中浮遊の魔法により浮いているので危険はない。ブロックの魔法で足場を作り、ブレイブはその場に着地する。


「外に出たけど、どうする? 魔法使うにしても……」

「ここからだとまあ、狙えないし、槍は無理。今のも、威力的には物足りないかな?」


 光線の威力は相当だが、龍という存在相手ではどうだろうとブレイブは考えている。天使戦で使用した槍に関しては着弾威力は高くとも、壁を貫通するようなものではない。狙い撃ちで穴を通して攻撃するにも精度の問題がある。使うのは難しい。

 そうであるのならば、少なくとも今まで使ったことのある極大の魔法では太陽落とし、もしくは雷の二つの魔法だが。


「ちょうどいいし、掲示板にあったあのやり方を試すかな」

「あれ? うん、まあ、でも周囲が酷いことになりそうだね」


 土塔の上空に雷雲が生まれる。ごろごろと、雲の中で電撃が走り、雷が作られる。そして、その雲から、土塔に向け巨大な剣が落とされた。以前の魔法ではこの剣は三つ発生し落とされていたが、本来この剣は一つである。同時に三度の魔法発動をしていただけである。この剣は、雷の威力を増幅し拡散するのが本来の役割だが、その巨大さと剣という武器であることから当然だがその物理的破壊力も兄弟だ。

 土塔はその名の通り、土でできた塔である。もちろん、本当の意味で全部が土であるわけではないが、その構成物質は岩石などであることは間違いない。それが、天から落ちてきた巨大な金属の剣に撃ち抜かれ、無事でいられるだろうか。

 剣が土塔の最上階を撃ち貫き、そのまま土塔を破壊しながら落下していき、地面にその剣が打ち込まれた。その結果破壊された土塔はボロボロと崩れ落ちていく。当然だが最上階にいた竜、道中にまだ残っていた可能性のあるすべての魔物、それらが崩壊に巻き込まれ、岩石の下に生き埋めになる。まともな生物であれば、その重量により押し潰され死に至る。だが、その中で竜だけは違う。上に落ちてきた岩石により地に押さえつけられてはいるが、潰されることはなく、その程度の重さで身動きが取れなくなるはずもない。


『あのものども、わがすみかをすべてはかいするとは。ゆるすまじ。ころさねばわがきがおさまらぬ』


 天に向け、竜が吠える。それには怒りが含まれていた。自分の住みかを破壊され、散々な状態にさせられば怒るのも当然と言える。しかし、竜のその行動は悠長に過ぎるものであった。それもしかたないだろう。竜は、自分の側に突き刺さっている剣について全く知識がないのだから。

 天より雷が落ち、地に刺さった雷剣に落ちる。竜はそのことに気づいたものの、竜が思考し行動する前に、雷がその威力を増幅させ拡散し、側にいた竜を飲み込んだ。圧倒的に強靭で強力な防御を持つ竜も、無数の雷を束ねた雷の柱、それを増幅させた一撃を受け、無事でいられるはずもない。その雷は竜の肉体を、臓腑を、感覚器を、そして脳を電流によって焼き尽くし、竜はその身を地に横たえた。

 その状態でも、まだ竜は生きている。体のほぼすべてを焼き尽くされた状態でも、辛うじてまだ命は残った。しかしそれだけである。この状態から生き延びることは出来ない。竜は死へと向かう。


『…………われをほろぼすとは、みごとなり、わいしょうなるものよ』


 最後に自分を撃ち滅ぼしたブレイブに向け、称賛の言葉を残し竜は息絶えた。

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