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「!」
セリアが竜の復活に反応する。
「竜か」
「うん。今までと同じ、北だね」
「復活する場所は変わったりしないからな」
竜が復活した。竜の行動は今回までの数回だけでしか判断できないが、全く変わっていない。
ならばすぐに竜はここまでくるだろう。
「すぐに準備して向かうぞ。魔術の準備も必要だからな」
「うん。時間かかるからね」
セリアの使う魔術は空間切断なんかは全然早いのだが、本人の気質か、使う魔力量の問題か、改変はどうしても発動まで時間がかかる。
先に行って準備していないと発動前に吹き飛ばされてしまう。竜の行動が変わらないのはとてもありがたい。
竜が上空に来た。すでにセリアの魔術は発動待機状態だ。
「セリア! 魔術の発動を!」
「えいやっ!」
セリアが空間支配、空間法則の改変の魔術を使用する。圧倒的な量の魔力が周辺一帯、空高くを覆いつくすほどに放射される。
明らかに空気が変わる。魔力の及ぶ範囲が今のセリアの改変が可能な領域だ。その中に竜のいる場所も含む。
この魔術により行われる改変は竜の飛行能力の使用禁止。それ以外の改変な必要ない。
それだけでもこれほどまでの魔力量が必要だ。セリア自身の素質の問題もあるが、普通の人間ではどうあがいても不可能な領域だ。
竜が落下する。幸いなこと、竜が現れたため人が逃げだしていたため、竜の真下に人の姿はない。
落下範囲に存在する建物内にもしかしたら人がいる可能性はあるが、もしいるならあきらめるしかない。落下する竜への手出しは難しいだろう。
「セリア、行くぞ!」
「うんっ!」
有効範囲をかなり広げ、竜の落下の影響を受けないようにしていたため竜との間には結構な距離がある。
竜の下に急いで駆けだす。今は竜の体勢はそれほど良くない。攻撃するには絶好なはずだ。
しかし、竜もおとなしく攻撃されるまで待ってくれるものではない。竜は自分を落とした原因を探っているようだ。
身体能力の差もあり、セリアのほうが自分より早く竜の前までたどり着く。
竜は明らかに自分を落とした相手がセリアであることを認識しているようだ。その姿を見て大きく咆える。
「やばっ!」
竜の口に光が見える。あれは竜のブレスを討つ前兆だ。セリアの動き初めとは逆に動く。
今まで自分がいた場所付近にブレスが通り過ぎる。流石にした向きならばともかく、前方直線だと危ない。
ブレスはそのまま横に移動したセリアを追いかける。だが流石に当たらない。
竜がセリアを狙っている間に腹のあたりまでたどり着く。
「さて、斬れるかなっ!」
今回貰った三種の金属合金の剣を竜に振るう。今までとは明らかに違う手ごたえを感じ、大きく腹を切り裂いた。
竜が大きく咆哮する。流石に看過できるようなダメージではない。大きく暴れ始めた。
「っ!」
何とか暴れ始めた竜から離れる。巻き込まれなかったが、暴れることで飛んできた幾つかの瓦礫に当たりそうになる。
その間に竜はセリアから視線を外し、こちらを向く。その動きが見えたので自分は竜の視線の範囲から外れた。
竜がこちらを向いたことでセリアが自由になる。セリアがその機会に竜の背に飛び乗る。
空間切断を大鎌に纏わせ、大きく背中を切り裂く。魔術を使用している攻撃は連続攻撃を出しにくいらしく、大きな一撃だけだ。
自分が攻撃したとき以上に竜が大きく咆哮を上げる。翼を大きく動かし背中にいるセリアを弾こうとした。
セリアはその動きを察知し、すぐ翼の届く範囲から離れ、もう一度空間切断を大鎌に纏わせる。
そして次は翼を大きく切り裂いた。竜が大きく咆哮をあげ、同時に自身の尾を背中のセリアに向けたたきつける。
「うぐっ!?」
セリアは直撃は何とか避けたが、風圧と衝撃はまとも受けた。そのまま背中から弾き飛ばされる。
「セリア! 大丈夫か!」
「っ…………まだなんとか」
セリアを受け止め、その状態を確認する。まだ戦えはするようだ。
ただ、持っていた神鉄製の大鎌は先ほどの攻撃で取り落としたため持っていない。
「使ってないほうの剣貸して」
「使えるのか?」
「何とかしてみる」
セリアに言われて魔銀の合金の剣を渡す。流石にセリアでもこれを使って竜に傷を負わせるのは難しいはずだ。
剣を受け取りすぐに戦闘に復帰する。ただ、先ほどよりも若干動きが鈍いように見える。無視できるほどのダメージではないようだ。
すぐにセリアの使っている大鎌を探し、回収に向かう。その間にセリアも竜に攻撃するが、ダメージはないように見える。
その攻撃事態はダメージが通っていないが、セリアを鬱陶しく感じるのか、セリアに対し竜が攻撃をする。
腕を振るうったり尻尾をふるったりの攻撃をしかけつつ、正面に来た時ブレスを撃ちだしている。
大鎌を回収した。だが、セリアとは反対の方向だ。
「セリアっ!」
回り込むのは難しいのでセリアに向けて大鎌を投げる。くるくると回転して宙を飛んでいく。
その声にセリアは反応し、自分の武器が飛んでくる様を目に留めた。そしてすぐに持っていた剣を竜に投げつけ、大鎌を取りに跳ぶ。
投げた剣は顔面を狙ったもので、怯ませる意図があったのだと思う。しかし、相手は逆にそれを目安にセリアの位置を見つけた。
空中に飛び出したセリアを竜の顔が追う。口にはブレスに光。口を止めないと!
「っ!」
咄嗟にセリアと同じく剣を投げる。瞬間的に魔術を構築、魔力量で無理やり発動させる。
発動させる魔術は矢弾、飛行魔術を利用したものを高速で飛ばす魔術。咄嗟で無理やりだが残っている魔力量の大半を籠めて飛ばす。
飛ばした剣は竜の顎を貫くほどの威力を出し、そのまま竜の口を閉ざしたまま押さえつける。
長さ的には貫通していないようだが、飛行魔術の力が残っているためか、そのまま口を開けることをできなくしている。
それどころか頭を上のほうに向けたままの状態にしている。その間にセリアが大鎌を受け取る。
そして、抑えられた竜の状態を見て咄嗟に魔力量でごり押しし空間を固定し、その固定した空間を蹴って竜の首に向かった。
空間切断の魔術を大鎌に宿らせ、さらけ出したまま固定された竜の首を切り裂いた。
竜の首が残った剣の勢いのまま飛び上がり、駆けられた飛行魔力が切れて落ちた。
「……やった……のか?」
よく創作においてフラグと呼ばれる台詞がついつい口に出そうになり、咄嗟にニュアンスを変えた。
流石に首を斬られて生きているとは思えない。しかし、相手は神が生み出したという存在だ。最大限注意を払うべきだ。
しかし、竜に動きは見られない。落ちた首も、残った体も動きが止まっている。首からは血が溢れている。
しばらく様子を確認したが、動かない。どうやら本当に死んだとみていいようだ。首から流れ達が相当な量に達し、いまでは流れる血も少なくなっている。
「スィゼ! 勝ったよ!」
「ああ……セリア、よくやったな!」
竜にとどめを刺したのはセリアだ。戦闘でも一番活躍したのはセリアだ。竜との闘いでの勝利の功績はセリアのものだろう。
とりあえず、今はこの勝利に浸ろう。この後いろいろと事後処理や後片付けなどいろいろあるだろうけど。
そうだ、その前に剣を回収しよう。今は竜の顎に刺さっている誰かにもっていかれたらたまらない。