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「……話聞く限り、かなり詰んでない?」
ブレイブの言う通り、パティの言うことが、すべて真実であるのならば、プレイヤーたちにはどうしようもないと言うことになるだろう。魔王を倒しても倒さずとも、結果的に死ぬか消滅するか。
「まあ詰んでるね、通常なら。でも、今回は全然違う。だって、ここで全部ぶっちゃけた神様にとって面倒でウザったい存在がいるでしょ」
「それを自分で言う?」
確かにそれらすべての真実をブレイブに語ったパティと言う存在がいれば、真実をブレイブがすれば、まだ別の選択肢をとることができる可能性はあるだろう。むしろブレイブのみならず、全ての人物に真実を告げた方がより良い結果になる可能性は高いのだが、内容が無いようである以上、異世界召喚以上に真実として受け入れられるかは不明だ。
そもそも、何故これらの情報パティが知っているのかという疑問があるはずだ。それらの情報はこの世界の神、もしくはその縁者でなければ知りえない情報だ。
「つまり、何か対応策があるってこと?」
「そうだよ」
「……なんで、パティはそれを知っている? そもそも、その情報を知っていることも謎なんだけど」
鋭い視線をパティに向け、ブレイブは問う。
「全て、教えてくれるんだよね」
「もちろん」
最初に言った通り、スキルメーカー、この世界について語ったパティ。残りの語るべきこと、それはパティ自身の事だろう。
「散々言っているけど、スキルメーカーにはブラックボックスがある。これには異世界召喚の術式があるんだけど、それ以外ももちろん色々と組みこまれているの。そもそも、何故わざわざゲームに異世界召喚の術式を刻みこんだのか、異世界召喚を許容してゲームと言う形で召喚者を作るのか。根本的には、この世界の歪さのせいなの」
「歪さ……それはどういうもの?」
「ブレイブが知ってる、スキルメーカーの世界地図があるでしょ? あれが、この世界の大陸、そしてその大陸しかこの世界に存在しない」
スキルメーカーにおける大陸は一つのみ。その中に六つの街があるが、それらはこの世界で国となっている。北側には三つの都市と魔王の城、これは魔族側の情勢だ。そして、大陸の大きさは流石にスキルメーカーよりも大きいが、街間、国と国の距離はかなり短い。
「流石にそのままの大きさではないけど……それでも世界としては超小規模だよ。ゲームなら、それでもいいかもしれないけど、正当な世界としてはおかしすぎる。本来世界として成立する分のリソースが完全に無駄になってる。それもこれも、全部この世界を管理しているならず者の糞馬鹿神様のせいなんだよ!」
「……ちょっとスケールがわかんない。というか、なんでパティが怒ってるの」
「あ、ごめん。私をブラックボックスに詰め込んだ人の感想のせい。えっと、つまりこの世界の神様は正しく世界を治めていない。管理するはずなのに、自分の都合のいいようにしている。異世界召喚もその一環。それを利用して、この世界の情勢について苛立ちを見せた神様は馬鹿を倒すための人材を送ることにしたの。それがゲームプレイヤーってこと」
「え、つまり神様の面倒な事情に巻き込まれたってこと?」
「そーいうことー。ま、神様にとって人間なんてそんなものだし」
「ええー……」
根本的にスケールというか、見ているものや立場が違うので仕方ないことではあるが、それに巻き込まれる側としてはたまったものではないだろう。
「で、そもそもどうやって対処しろと?」
「それを行うのに必要なのが、ブラックボックスに組み込まれた、プレイヤー支援の存在。残念ながら、結構色々と用意されていたのに、実質これたのは私だけっていう苦行だったりするけど。あ、でもフルで私の力を使えるならそこまででもないかな」
パティを含めた、ブラックボックスに組み込まれている存在。例えばパティと会話していた助言妖精はそのうちの一つだ。パティも、スキルメーカーの時から色々と知っている、ブレイブの支援をおこなうなど色々と行っている。それらはすべてこの世界に来ることに対する支援の一環でもあった。ブレイブ自身を手助けすると言う意思は本物だが、その後ろに隠れた色々な事情もあったのである。
「そもそも、私達を召喚できるのは特殊な存在でなければならない。そう、神を打倒できる存在でなければ」
「………………」
「ブレイブには、神を殺す資格……いや、ちょっと違うかな。神の後を継ぐことのできる条件がそろってる、っていうのが正しいね」
「後を継ぐ?」
「そ。神様はこの世界を管理しており、その神様を殺してしまえばこの世界は崩壊する。流石にそれは問題だよ。神様を殺すだけなら、それこそやりようはいくらでもあるんだけど、神様自身は今回動かないみたいだから、殺した後に馬鹿がやっていた役割を引き継げる人が必要なの。ブレイブは、それが可能な存在。だから私が召喚された……と、言うか、私が召喚できるからこそ、そういう存在であるともいえるんだけど……まあ、細かい話はいいよね」
ブレイブは頭を抱える。パティの話に追いついていけない。先ほどからどんどん話のスケールと言うか、内容が膨らんで大きくなりすぎている。この辺りで一片頭の整理が必要だろう。
「ごめん、ちょっと思考が追い付かない」
「よし、ここでかわいいパティちゃんがちょっと話をまとめようか」
自分で言うな、と言いたくはなるが、実際にパティはそこそこかわいい。最も、人間と言うよりは人形として見られるサイズでしかないので可愛くても女として可愛いと言うよりは、子供の可愛さ、人形の可愛さとしてしかみられないだろう。
それはさておいて、パティは話をまとめる。今まで面倒でぐだぐだと話していたが、簡潔に内容を告げる。
「スキルメーカーは、異世界召喚に必要なプレイヤーを育てる箱庭、この世界はそういった箱庭からプレイヤーを召喚し、魔王討伐を見て楽しむ神様の娯楽の世界。そして私は可愛くて従順なブレイブの使い魔」
「最後は余計だろ、それ」
「あはは」
はあ、とため息をついてブレイブは落ち着いた。パティの軽口、変な話の内容は気を紛らわせるためのものだ。ブレイブ自身かなり混乱気味であったが、最後の内容につい突っ込んでしまったことである程度普段の精神に戻った。
「……それで、結局パティの目的は? パティがどういう存在か、入ってくれているし、ある程度話してくれて入るけど、結局俺は何をすればいいんだ?」
ブレイブはパティに訊ねる。仮にこのまま、魔王を討伐すれば元の世界戻って消滅、放置していても神が殺しに来ると言うのだから、結局どちらを選んでもブレイブたちは終わりだ。しかし、パティの言葉を聞く限りは神を殺せ、ということなのだから、それ以外の何らかの手段があると言うことだ。それがいったい何なのか、明確にしてほしいとブレイブはパティに聞く。
「……ブレイブには、神を殺してその後釜についてもらう。もし、ブレイブがこの先生きたいのであれば、そうするしかない。他に方法はないけど……どうする?」
「それしかないなら、そうするしかない……聞き、勝ち、挑め。パティの言葉を聞き、神に挑み勝てってことか」
「助言妖精め……まあ、ブレイブがそれでいいならいっか。神様になったら、死ねないし、世界の管理とか大変だけどそれでいい?」
「俺だけの問題でもないだろ。リュージやフィルマ、他のプレイヤーの命もかかってる」
「ついでにこの世界の人々もね。プレイヤーが死ねば、次の召喚を行うのに世界をリセットしてまた魔王を用意するわけだから」
ずいぶん横暴で自分勝手な神様もいたものである。とりあえず、ブレイブは神と戦い、その後を継ぐ覚悟はできているようだ。自分が生きるため、共に戦った仲間を生かすため、この世界を救うため。
「神を倒すって言っても、そもそも神様に会わなければ意味はない。でも、神様は普段この世界上に存在せず、神様のいる特別な場所に住んでる。その状態じゃあ会うことは出来ない」
「魔王を放置して出てきたときを倒すとか?」
「残念ながら、神様直々にでてくるはずもないでしょ。こう、遠く離れた所からピンポイントでニュークリアして終わりだよ。殴り飛ばす気なら、直接相手のところに乗り込まないと。で、その方法が一つだけ、あるの」
ぴっ、と音を立ててパティは指を立てる。思わず、その指に視線が行く、誘い込むような動作と言葉の運びだ。
「三つの迷宮、そこにいる神様の仕込んだ世界に対する楔の撃滅。そうすることで、魔王を倒した後、神への道が開く」
この世界はスキルメーカーと同じ形の大陸である。つまり、その国の配置も同じであり、唯一違う所は魔王城が北エリアの四辻の中央に鎮座している所だ。逆に言えば、それ以外のものはすべて同じ配置に在ると言うことだ。廃坑、坑道、森と山道、隠し道に山脈、絶壁、島、橋、洞窟、そして……三つのダンジョンも。なお、最後に現れた異空界への回廊はブラックボックス側に仕込まれた異世界行きのプレイヤー選別用の別物のダンジョンである。
「それを、攻略しろと」
「そう。だから、城を出るしかなかった」
それ以外にもあるが、結局のところブレイブは城を出てダンジョンに向かうしかなかったのである。行動は早い方がいい。魔王を退治するのがいつになるのか、それが分からない以上、早めに迷宮に存在する楔を倒すべきなのだから。
「最初は、コッチーニの南……こっちでどういう名前の国か知らないけど、湿地帯の先の土塔の迷宮の攻略だね」
「……ちなみに、どのくらいかかる?」
「最低でも四日はかかるんじゃない? アーテッドから、湿地帯を超えてダンジョンに到達する時間がそのまま日数になる、と思った方がいいかも。具体的な縮尺は知らないけど」
四日、ひたすら移動し続ければならない。もしそうであるならば、相当な強行軍となるだろう。野宿の道具や食料の確保は必須である。大変なことになったな、とブレイブは半ばあきらめた風に考え、聞くことは聞いたとパティとの語らいを終わり、休むことにした。明日からは、面倒な道のりになるのだから。




