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「まず聞きたいんだけど、先入観とか全部取っ払って、スキルメーカーってどういうゲームだと思う」
「え」
教える、と言った直後にパティに質問されて戸惑うブレイブ。いきなり考える暇もない質問だったため、極めて簡単に答えてしまう。
「……VRMMO」
「いや、そうだけどさぁ……それ絶対ダメな回答だよ?」
「あう……じゃあ、スキルゲー? 他には……いや、スキル以外に何か特別目立ったところあったっけ……?」
スキルメーカーは名前の通り、スキル作成こそが一番の肝と言えるだろう。スキル作成にポイントは必要なく、あらゆるスキルを作成できると言うシステムだ。もちろんゲームである以上、制限や限界が存在するのだが、それでも多種多様なスキルをスキルポイントと言う形の制限なく得られる。
「そうだね、スキルは重要なところだね。名前もだし。普通のゲームなら、スキルポイントとかで制限してゲーム性を作ってるところだよ。まあ、スキルメーカーだとステータスとかに影響するんだけど。でも、なんでこんな面倒なシステムかな? 普通、ゲームってたくさんの人に売れたほうがいいし、それならわかりやすくて大衆向け、ライトゲーマー向けの方がいいよね」
「まあ、そうだろうけど……」
「でも、スキルメーカーは大衆向けとは言い難いよね。売り出しの時から、情報制限やテスターが存在しなかったり。ゲームを作る段階でテストって重要でしょ。そんなこともせずにいきなりゲームとして売り出す。ゲームとしてはチュートリアルもないしシステム説明もない。公式のホームページですら情報がほとんどない。ゲーム内容の画面を移しただけ。普通なら、こんなどう考えても地雷っぽいゲームには手を出さないんじゃないかな」
パティは自分の存在していたゲームのことを散々にこき下ろしている。ゲームプレイヤーならばまだわからなくもないが、ゲーム内に存在しているはずのNPCがそうこき下ろすのは問題があるのではないだろうか。最も、彼女の発言においての問題点はそこではない。彼女は、ゲーム外での視点を語っている。それこそ、ゲームが始まる前のことも。
「そもそも、ゲームを買ったプレイヤー全てにこのゲームができるシステムがついた、他のゲームももちろんできるヘッドセットをプレゼント。お金がいくらあればできるって話だよ?」
「あの、パティ? 聞いている限り、明らかにゲーム外の内容も含んでるんだけど……」
「ゲーム外のことも重要でしょ。明らかに普通でない点を示すにはね」
「いや、そうじゃなくて。なんでパティがゲームの外のことを知ることができるんだ?」
ゲーム内掲示板に語られるようなことであれば同じゲーム内であるためまだ知ることができるかもしれないが、それ以外も知っている様子だ。パティはゲーム内のNPCであり、どうやってゲーム外の情報を知ることができるのか。ブレイブの私的にパティはにっこりと笑顔を浮かべる。
「スキルメーカーの底、深淵は深いんだよ?」
「………………」
「ま、いっか。ゲームのおかしさに関しては、他にもVRとして、感覚的に実感しているのに、どうしても現実感を感じられない、リアルに戻ってあれはVRだ、現実ではないとしっかり感じることができる。VRは一応リアルに近い物として感じられるはずなのに、スキルメーカーはそれだけはしっかりと楔のように精神に打ちこまれる。それは単にリアルに戻ったときだけじゃなく、多くのNPCは昔のゲームのように反応が無機物的、人工無能だよね。それには理由があるんだよ。スキルメーカーは、リアルではなくゲームである……というのを完全明確にしている、する必要があるの」
「……なんで?」
「あれは、一種の現実だから」
ブレイブはパティの言っていることが理解できない。ゲームであることを明確にしているのに、スキルメーカーは現実であると言うパティを。そんなブレイブの反応を気にすることなく、パティは話を続ける。
「スキルメーカーは、一つのゲームだけど、同時に箱庭的な超小規模世界なんだよ。NPCも一部のみが高性能AIの動きをするのは、本当の意味で生きている存在だから。幾ら凄い存在でも、そうぽんぽん生きている人を作るのは大変だもん。それなら昨今の高性能AIでも入れろって話だけど、そうすると混在しちゃって面倒だしね」
「パティもそういう存在だったり?」
「私は別。スキルメーカーに組み込まれた、ブラックボックス側の存在。スキルメーカーは、気配とか、明らかにおかしい現実的なものがある。スキルのレベルの上がり方も、現実の才能を取り込んで組み込まれてるし。実は専用のヘッドセットを贈る理由は、ヘッドセットを介して遺伝子情報を探るためなんだよね。だから他人のプレイヤーで遊ぶことは出来なかったりするよ。スキルメーカーに生まれたプレイヤーキャラは、外に存在する人間によってスキルを作られ、徐々に器を上げていく。プレイヤーキャラクターは、そのキャラクターを操作する人間の精神を受け入れ、小世界スキルメーカーの中に存在する一住人となっていく。そうして、ある時、世界のブラックボックスが起動する。それは、異世界に繋がる魔法陣」
朗々と言葉を詠み上げていくパティ。ブレイブはその雰囲気にのまれてただ聞き入れるしかなかった。パティの語る真実は、スキルメーカーをゲームではなく、別の現実、仮想現実でない本当の別世界の現実として変革させていく。それ自体はもともとスキルメーカーが有していたものでしかない。スキルメーカーはゲームでありながら、一つの現実世界として存在していた。
「そして、プレイヤーはその魔法陣の軌道のための鍵を破壊し、異世界の呼び出しとつながり異世界に呼ばれるのでした」
「…………スキルメーカーは、最初から異世界に繋がるためのもの?」
「そう。この世界の異世界召喚に、プレイヤーたちを送り出すための物。そのためにわざわざブラックボックスまで組み込んで、召喚に適する器を用意し、それを満たすプレイヤーが必要だった。実に面倒くさい召喚成立方法だね」
ブレイブは思わずため息をつく。まさか自分たちがこの世界に呼ばれたのは偶然ではなく、意図的なものであったとは思わなかっただろう。
「でも、なんでそんなことを? パティの言う通り、面倒なことだよな」
「うーん、まあ、それは後で。この世界に呼ばれたプレイヤーだけど、これがまたねー」
「……何か嫌な予感がするんだけど」
パティの話の切り方に嫌な雰囲気を感じるブレイブ。しかし、ブレイブが嫌な予感がするからと言って話さないわけにもいかない。黙っている方がよくないことなのだから。
「この世界に呼ばれたプレイヤーは、元の世界に戻ったら消滅します」
「……え、なんで?」
「それは、あなた方が元のプレイヤーの精神のコピーだからです。世界は同じ存在を許容しない、なんて言われるけどそんなことはないよ。コピーでも存在的に同じわけじゃないしね。でも、そもそも、ブレイブたちは元々はタダの電子データ。あの世界は別世界、小世界的な箱庭だけど、そのシステム自体はVRのシステムを流用した電子空間。その中に存在するブレイブたちは本来電子データであり、この世界に来るときにその器の肉体を召喚により成立させたにすぎない。その肉体を送還により消失させ、電子データとして元の世界に戻っても、あなたたちに居場所はない。多分元の世界ではあなたのデータは失われ、それをすでに復元させているから。そもそも、電子精神体として存在するあなたたちは世界的には違和感バリバリのいてほしくない、いられたら困る存在。故に、世界に消去される。せめて肉体があればまだマシだけど、電子精神体ではどうしようもない。抵抗できずに消える、死ぬよ」
今の自分が元の自分のコピーと言われ、精神的に小さくないショックをブレイブは受けている。しかし、精神、自分と言う存在に対しはっきりとした結論を持っているブレイブは、ショックを受けた物の、すぐに立ち直った。
「つまり、魔王を倒して異世界送還したら死ぬ……ってこと?」
「そ。だから、ただ魔王を倒すだけじゃだめだよ」
ブレイブに城を出ろ、と言った最大の理由である。残ってこのことを説明すればいいと思わなくもないが、果たしてそれを信じられるのか、仲間内で分裂するのではないか、この知識を持つパティに対して不信を持つ可能性、さまざまなその場で起きる混乱と問題を考慮した上で、ブレイブだけが出たほうがいいとパティが判断した結果である。人の目につかないうちに出たほうが出立しやすいし、下手に残って話し合いの時に自分は城を出ます、と言うよりも仲間内の雰囲気が悪くなりにくいだろう。同調者を出す可能性もあった。
「……じゃあ、魔王を倒さないと言うわけには」
「いかないよー。残念ながらね」
「まあ、そうだろうね」
魔王自体は倒してもいいだろう。どちらかと言うと、送還を使わせないことの方が重要なはずだ。しかし、パティはさらなる問題のことを話す。
「魔王を倒さなければ、ここの糞馬鹿神様が動くだろうし。そうすれば、ブレイブたちは消され、世界は一端リセットされて、また同じようなことが起きるだけだから……今までのように」
「今までの……ように?」
「そう。この世界はね、異世界召喚術式により、別世界に用意された、召喚術式に対応するゲームの箱庭世界から人を呼び出し、魔王を倒す。そんなことを繰り返してるの。今回の召喚も、その一環なんだよ」
パティが、この世界の真実、最大級の世界における問題をぶちまけた。




