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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
skill maker r
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86

 ブレイブは城の人のいない所をパティの魔力探知で確認しつつ移動する。城を出る、と言ってもいつもの移動のようにブロックと跳躍を使うと目立つ。そもそも警戒線に引っかかる可能性もあるため、バレるような行動はとるつもりはなかった。ゆえに、人のいない所を探りつつ移動している。


「……ここからはブロック使わないとだめかな」

「監視は?」

「うまく死角を探すしか……あ」

「パティ?」


 パティが何かに気づいたように声を出す。


「先輩、こんばんは」

「っ!? フィルマ……?」


 陰になるところから現れたフィルマにブレイブは声をかけられる。パティの探知で人のいない所を通っていたのにいきなりフィルマが現れたと言うことでブレイブは驚いた。何故ここにいるのかという疑問と、リュージなど友人にも黙って出るつもりだったのにばれてしまったと言う悔しさ、そして誰もいない所から現れると言う出方をしたことに対する恐怖である。いや、恐怖と言うよりは驚きの感情の方が近いが。現れ方がちょっと怖い。


「フィルマちゃん、こんばんは」

「……パティ、気付いてたのか?」

「全然。気づいていたと言うか、今現れた気配だからね。とっても速いみたい」

「会場にいなかったので先輩を探しに来たんです。こんなところで何をしているんですか?」


 どうやらブレイブを探して追ってきたようだ。パティと同様にフィルマも気配を探ることができる。その気配探りでブレイブの位置を捕捉したのだろう。


「えっと……」

「ブレイブ、私が言うよ。フィルマちゃん、ブレイブは今日この城を出ていくの。理由は言わないけど、それはわかるよね?」

「……あなたには聞いてませんけど?」


 パティとフィルマの視線がぶつかり合う。不倶戴天と言うほどではないにせよ、フィルマのパティに対する敵対心は強い。パティはそれほどでもないのだが。


「……先輩が城の外に出たい、というのはわかりました。理由も聞きたいところですが……まあ、いいです」


 フィルマは一応その話を納得する。最も、かなり不満のある状態での納得のようだ。


「ですが、その格好で行くつもりですか?」

「あー……」


 ブレイブの今の格好はパーティーに出ると言うことで礼服だ。一応元々来ていた服は袋に入れてアイテムボックスのかばんに入れている。こういう時まとめているものは一つとして判定されるのはありがたいだろう。


「一応服はあるよ」

「ならその服は返した方がいいのでは? ここのものですし、勝手にでていく時にもっていくと問題になるかもしれません」


 フィルマの言う通り、来ている服を持っていかれるのは少々城側に問題として見られる可能性はあるだろう。最も、服が同行以前に勝手にでていくことの方が大問題だ。


「服は私が預かって返します。着替えましょう」

「……ああ、うん。わかったよ」


 流石に着替えているところは見ないとフィルマは後ろを向く。その間にブレイブは着替え、礼服を畳みまとめる。


「預かりますね。先輩が城の外に出ていくことはすぐにわかるでしょうし、その際私から先輩が出て行ったことを説明することになると思います。やはり、理由は教えてくれませんか?」

「それは……」


 ブレイブとしても、現時点で明確に理由があるわけではない。ただパティがそうしないと教えないと言っているのが最大の原因だろう。


「理由はダメだけど、どこに行くかは決まってるよ」

「え?」

「……どこですか?」

「南。この国の南。コッチーニの方に」


 ブレイブとフィルマは黙り込む。パティは明確にコッチーニ、と言っている。しかしこの世界がスキルメーカーと同じ地名を使っているわけではないはずだ。この国だって名前が違う。しかし、パティは明確にコッチーニと言っている。


「南はコッチーニなんですか?」

「違うよ。名前は知らないけど、でも場所はコッチーニだよ」

「…………」

「…………」


 ブレイブとフィルマはその言葉の意味を考える。南に存在すのはコッチーニと言う国とは限らない国かもしれないが、その国はコッチーニであると言うことだ。それはつまり、スキルメーカーのゲーム上における内容がそのままこの世界に適応されている可能性を意味している。


「……ひとまず、南に向かうと言うことでいいんですか?」

「まあ、そうなるかな」

「わかりました。もし、連絡がある場合は念話がありますから……必要なら、戻ってきてくれますか?」

「もちろん」


 フィルマはブレイブが出ていくことには賛成できない物の、それがブレイブの選択であるならば仕方ないと考えている。そもそも、逃げるのにしても止める必要性はないし、止める意味も薄いはずだ。最も、ブレイブが逃げるとは一切考えていないが。


「なら、行ってください。見張りは眠らせました」

「えっ」

「ここに来る途中で気絶させたみたいだよー」


 自分がここに来るためにだろうか。ブレイブとは違って人気のない道を通ってきたわけではないため、気絶させるしかなかったのだろう。ずいぶん過激な性格と言うか、やり方と言うか。

 ブレイブはフィルマに見送られ、城を出て行った。城を出て街の上をブロックと跳躍で渡る。城では流石に監視による人目があるが、街ではそれはかなり弱い。上空に気を払うほど夜の街にいる街の監視人は高性能ではない。


「で、どこに行けばいい?」

「さっきも言った通り、南で。でも、今は街の近くにしたほうがいいかな。ほら、この先いろんなところに行くつもりだから食事とかの塾の道具って必要じゃない?」

「いろんなところに行くって……」


 ブレイブの都合は考えていない発言である。城を出るところからそうだが、どうにもブレイブは使い魔であるパティに振り回されっぱなしだ。しかし、どちらにせよ町の近くで休むと言うのは悪い選択ではない。実際野宿用の道具なんて持っていないのだからしかたがないだろう。以前土塔の近くで休む際も野宿用の道具なんかは使用していない。スキルメーカーはゲームであり、そこまで現実的な要素を持たせてはいなかったからだ。


「まあ、それはしかたないけどさ」


 ブレイブは跳躍し、街の近く、人目のない休める場所を探す。パティが入れば誰か来ても起こしてもらえるし、最悪パティが対処できるため、休む上で重要なのは人にそこにいることを気付かれない場所だろう。魔物であればどうとでもなるので。


「……それで、パティ。なんで城の外に出なきゃならなかったんだ?」


 ブレイブにとって、今回の城からの脱出は他のプレイヤーの迷惑になることであるし、王族と言う大きな存在の庇護から外れることだ。そこまでして城を出ることにどのような意味があるのか。王族はプレイヤーたち、異世界召喚者を魔王さえ退治すれば大人しく元の世界に還すつもりだ。ブレイブでもその意図は何となく理解しており、パティもわからないはずはない。しかし、それでいてもパティは城の外に出ることをブレイブに選択させた。


「その前に、どうして私の言うことを聞いてくれたの? いろんなメリットを捨ててまで」


 パティの言う通り、ブレイブが何故パティの言うことを聞いたのか。その選択についても疑問があるだろう。パティとしてもブレイブが城を残ることを選択すれば、その選択に文句を言うつもりはなく大人しく使い魔として仕事をしていただけだ。


「一つは、パティは俺の害になることを基本的には言わない、俺のためになる、役に立つことしか言わないからかな。まあ、意図的でなければその限りじゃないだろうけど」


 パティは嘘をつかない。つかないと言うよりはつけないだが、たまに嘘になることを行ってしまうことはある。しかし、嘘をつけないというのはあくまで本人の意識によるものでしかない。結果的に嘘になる、害になるようなことになることもなくはない。


「それが理由? それだけ信用してもらえるのはちょっとうれしいかなー」

「あと、前に言われたことをちょっと思い出したのもあるかな」

「言われたこと………………あ、助言妖精のやつに言われたこと!?」


 以前、パティと会話していた助言妖精、その助言妖精と別れる時最後に言われた言葉である。それをパティの言葉を聞き、どうするかを考えている時に思い出したのである。お前の望むとおりに生きたいのであれば、聞き、勝ち、挑め。この内容の一部である、聞くべきだという助言を。


「あいつもお節介だなー。ま、助言妖精の言葉は助言、予言に近いアドバイスだから仕方ないかなー」

「……予言?」

「そ。あいつは助言する人の人生の助言をするの。大体は一番近い何かの選択についてだけどね。ブレイブ、全部覚えてる?」


 パティに言われてブレイブはその内容を思い出す。それを一言一句、何故か思い出すことがブレイブには出来る。まるで魂に刻まれているかのような奇妙さを感じる程度にはっきりと。


「確か……『永遠に終わるか、永遠に挑むか。聞くか聞かざるか。勝つか負けるか。全て、お前の選択次第。ただ、正しく、お前の望むとおりに生きたいのであれば、聞き、勝ち、挑め。それはお前だけでなく、お前を慕う者やお前と絆を作りし者を救うことになるだろう』だったかな」

「……はあ、ま、私を引いた時点でそうなるのは決定的だったんだろうけど」


 小さくため息をパティがつく。


「よろしい。ブレイブは、もう世界の深淵と真実とは無縁ではいられない。運命に引きずられている感はあるね。だから、全部、真実を、本当のことを、この先どうすればいいか、決定的なことを知ってもらうから」

「……やっと、全部話してくれるのか?」

「うん。私、スキルメーカー、この世界。全て、教えてあげる」


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