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戦いが終わり、プレイヤーたちは騎士とともに城に戻る。人間魔物問わず、本来は死体の処理も必要になるが、今のところ重要なのは城に戻り殲滅の報告をすることである。そもそも、殲滅した彼らが死体を処理する必要もなく、そういった仕事は残っている騎士たちが行うことになるだろう。
城ではすでに個室で各自の部屋が用意されていた。殲滅の光景と戦果は城からも見えるため、王たちも報告を聞かずともその状況を知ることは出来た。故に先に異世界召喚者であるプレイヤーたちの休憩の準備をしたのである。実際、彼等は本当の意味での戦闘を初めて行ったため、体力的な疲労は少なくとも精神的な疲労は大きいだろう。
プレイヤーたちもこの世界に来たばかりでお金も持たず、宿をとるというわけにもいかない。召喚の関係もあり、王城に残るのはまったく悪い選択ではない。その王側から申し出を受け入れ、用意された部屋で休むことが決まった。また、翌日に戦勝の宴を開く、ということでそれに参加するようにも言われている。これには、魔物を倒した戦果の表明と、それを成した異世界召喚者たちの紹介、また王が彼らに対する支援をすることを参加する者へと伝えることがあるとプレイヤーたちに先に伝えた。また、魔王を討ち果たすための闘いに向かうことも伝え、彼らを支援することを、自主的なもので求めることも。
これにはプレイヤーたちも驚きと困惑があったが、彼らとしても魔王を倒す必要はあり、単純に彼らだけで魔王討伐に迎えるとも思えなかったため、受け入れざるを得なかった。ただ、そういったパーティーへの参加は彼らが行ったことはないので、その時に不手際があっても許容してもらえるように頼んだが。
「大変なことになったね」
「……あの内容の意図」
「あっちも単純にこっちを害するわけにもいかないでしょ。もともとあっちの不手際での異世界召喚でしょ?」
ブレイブ言葉の意味をパティは一瞬で把握し答える。ブレイブはなんとなくではあるが、王の言葉の意図を理解している。こちらを称え、王が支援することで手を出さないことの表明。特にブレイブとアルフレッドは分かりやすくその戦闘力が絶大であり、もしプレイヤーたちが人間側の敵となるつもりであるならば真っ先に狙い打たなければならないだろう。しかし、王はそれをしないことを参加者に伝え、彼らが勝手なことをしないようにさせる。また、支援を求めプレイヤーたちに魔王を討たせることもさせる。最終的にプレイヤーを帰還させれば、実質的な魔王討伐の栄誉はこの国のものとなる。下手にプレイヤーを敵に回すよりもはるかにいい結果だ。
「仮に暗殺しようとしても、ブレイブには私がいるからね」
「パティがいれば安心ってわけじゃないだろ。それに他のみんなはどうするんだよ……」
「生き残れるのはフィルマちゃんくらいじゃない? あの子、気配に敏感だし」
もし仮に暗殺を実行されるのであれば、その相手の気配を察知できるフィルマ以外は難しいのでは、という単純な内容だ。実際にツキやシャインでは暗殺をされれば確実に気付かず死ぬことになるだろう。うまくいけばリュージやオルハイムなど前衛組は耐えるかもしれないが。ジャックは気配探知能力が不明なためよくわからない。
「……ところで、今二人きりだよな?」
「そうだけど……何、えっちぃことでもしたいの?」
「今シリアスやってるんだけど?」
くすくすとパティが笑いながら言う。そもそも、パティにその手の機能がついているのかについてはブレイブは知らないだろう。
「茶化さず、話してほしいんだけど。パティは、何を知ってる?」
「………………ここでは、まだ話したくない。でも、まあ、今話せることはここで話すね」
ブレイブとパティは真剣な顔で向かい合う。まだ話したくないが、話せることは話す、ということは恐らくだがかなりの秘密を抱えているのは間違いない。この場で話したくないと言うのは、誰かが聞いている可能性、聞こえる可能性を考慮してだろうか。パティの能力であれば、人の有無は判断できるはずだが。
「まず、この世界に来てできなくなったことについて」
「システムメニューを開けないこと以外には……」
「一つはスキル関連。スキルの作成はスキルメーカーのシステムによるものだから、この世界でスキルを作成することは出来ないよ。まあ、これは勝手にスキルを作られることがない利点にもつながるけど……」
「それ、滅茶苦茶厄介じゃない?」
ブレイブにとっては強大な魔法スキルの使用を考慮すれば、その場でレベルが一とはいえスキル作成ができるほうが都合がいい。その場に合わせたスキルを作れるのだから。しかし、それがこの世界ではできない。
「まあ、この世界の技能を技能として学べばちゃんと技能として会得できるよ。まあ、それはスキルではないけどね」
「それって単純に学んだだけじゃん……」
「誰だってちゃんと学べばできるよねってことだね。あと、スキルに関しては、スキルレベルが上がることはもうないよ。残念ながら……」
つまり、これまで使ってきたスキルはこれ以上強くなると言うことはないということだ。それに関してはブレイブは現状のスキルで十分と言えるのだが。
「……スキルの使用はできるみたいだけど」
「それは、スキルは今のブレイブが所有しているものだから、だね。スキルの作成はシステムでも、スキルの入手はそのプレイヤーになるから。つまり、プレイヤーたちがこの世界に持ち込んだものはそのまま持ち込めているけあど、システムからは切り離されている状況だね。それに関しては重要なことだから言っておくべきことだけど、経験値の入手も出来ないよ。あれはシステム寄りだし、何よりもこの世界は現実であり、ゲームじゃないから経験値なんていうものはないからね」
「まあそうなんだろうけど……あれ、それやばくない?」
「大丈夫。経験値ストックは使い切れないくらい溜まってるから。無駄に山で貯めたのと、ボスの分ね」
山のモンスターの強さもあって経験値はたまっており、ボスからも膨大な経験値を得ている。あの場には九人のプレイヤーがいたとはいえ、それでも膨大と言える経験値だ。
「経験値を得られないってことは、レベルもだめか」
「まあ、上がらないねー。スキルのレベルも上がらないし、作成も不可、レベルも上がらないってことはステータスの変化もないってことだね」
「体を鍛えた場合は?」
「それは無理。体に関しては、性質が固定されてる。もとがゲームのプレイヤーキャラだから……現実の人間のようになっているけど、実際の人間とはちょっと違う」
あくまでプレイヤーたちはプレイヤーキャラに精神が入っているような状態であり、そのプレイヤーキャラが召喚されたと言う状況だ。そして、彼等はそのプレイヤーキャラという性質に強く制限を受ける。
年を取らない、強くもなれない、人間として本来存在するそれらが失われている。
「あ、でも痛覚は普通にあるから。あれも、スキルメーカーだから痛覚がシャットされてただけだし」
「もともとあれ痛覚あるのか」
感覚的なものは普通の人間と同じ。そのあたり、どこまで人間として在って、どこまでプレイヤーキャラとしてあるのかが不明である。
「死んだらアウトだから、死なないのは絶対だからね」
「デスゲームか何か?」
「残念ながら現実ですので」
「はあ……自分たちに関しては、まあわかったけど。結局、パティは何を知ってるんだ?」
「…………うーん、一日、考えておいてほしいんだけど。ブレイブ、明日、城を出ていこう? 私は……話してもいいけど、ここでは話さないつもりだから」
「……理由は?」
突然のパティの提案にブレイブは困惑するものの、パティは意味のないことを言い出さない。ブレイブはその発言の理由を尋ねる。
「秘密。今すぐ返事する必要はないよ。明日の夜にでも返事してくれればいいから」
「……わかった」
ひとまず、今は保留にしてブレイブとパティは休むことにした。最もパティは眠る必要はないので、ベッドの側で座り込んでまるで本当の人形のように静止しているだけだったが。
翌日、一度プレイヤー同士で集まり話し合うことになった。理由としては、現状の認識の確認と今後について。まず、彼らは今自分たちは本当に異世界にいるのかについて話す。最も、これは戦闘に参加したプレイヤー、つまりは全員が満場一致で異世界と言う認識になっている。また、痛覚に関しても、ブレイブが言い出すまでもなくオルハイムとリュージに語られる。直接戦闘をして無傷と言うわけにもいられなかったためだる。それに合わせ、ブレイブがパティから聞いたスキルや経験値について、あるていど自分の憶測や推測として話した。実際にスキルが作れないことは全員試してその通りだと分かったため、システムから切り離されていると言うのは理解した。成長や技能取得に関しては話さなかった。パティの言とはいえ、確証とできるものがない。また、この世界にあまり長い間滞在しなければいいだけだ。
この会話の中で、牡丹のリアルとプレイヤーキャラのロールプレイ上による齟齬の問題と戦闘への恐怖から前線に出ないことを告げられる。プレイヤーたちは少し驚いた様子ではあったが、納得と理解を示す。実際に戦闘への恐怖と言うものはプレイヤーたちには存在している。それでも前に出ることができるのは強い精神性か、必要性に迫られなければ難しいだろう。
プレイヤーたちは先についての話をするものの、現状情報は少ない。他の国は、魔物の総数、魔王のいる場所は、世界の大きさ、大陸はどうなっているのか、色々である。最も、支援が約束されており、それで上方を貰えばいいのでそこまで気にする必要はないが。
そんな先の話をしていても仕方がなく、ひとまず今は今でやっていくしかない。情報を入手するまでは置いておこう、となったのだが。そもそもこの城で何かをやれるわけでもないのでゆっくり休みつつパーティーが始まるのを待った。




