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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
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「っ! 動きが変わった!」


 魔物たちの動きが変化する。今までは正面にまともに突っ込んできていたのだが、それが徐々に戸惑うようになった。そして、突進ではなく横へと抜ける動きが出てくる。また、騎士相手に突進するだけでなく、連携をとった動きをとる魔物も出てきた。

 横に出た魔物はツキ、およびフィルマが排除しているが、そのせいで後方へと逃げる場合は対処できなくなっている。残りの数もかなり少なくなっているところにこの状況は少し厄介な状況だ。騎士たちも単純に魔物を相手できる状態から変わり、指示の変更、最悪撤退することを選ばなければならない状態だ。

 魔物たちの動きに変化が出たのはブレイブのせいである。いや、この場合はブレイブの行った行動の結果、と言うべきだろう。魔族は魔物たちの指揮官の役割を担っている。それは単に魔物に命令できると言うよりは、その存在により魔物たちの意思決定、行動保身を統一すると言う者であり、決して魔物と意思疎通を図り相談した結果ではない。つまりは魔族の存在が魔物の動きが単調になった理由なのである。魔族は馬鹿ではないが、魔物の力と人間の力の差を理解し、単に攻め滅ぼし蹂躙するだけでいいとしか考えていない。ただ突進させるだけなのはそういう理由からだ。

 これは魔物の生死を無視した内容となっている。だからこそ自身は百の魔物を残し後方で待機していたのだ。仮に二百いた魔物を全部討ち取られても、その魔物たちによる被害は甚大であり、そこに自分が百の魔物と攻め入ってもいいし、一度戻ってまた同じくらいの魔物を引き連れてもいい。一度では難しくとも、二度三度と続ければ容易に人間を滅ぼすことができただろう。

 ただ一つ、異世界召喚者と言う誤算がなければ、だが。


「悪いー! 遅れたー!」


 オルハイムたちの後ろからアルフレッドが叫ぶ。一緒に牡丹もついてきているが、彼女は少々緊張気味だ。城での会話から考えても、やはり戦闘に対しての恐怖があるのだろう。


「アルフレッド!」


 オルハイムは強大なスキル、目の前の魔物を打ち倒すのに有効的なスキルを持つアルフレッドが来たことに歓喜する。


「騎士隊、全員後方へ撤退! リュージも撤退だ! あと、横に抜けたモンスターを狩ってる彼女にも撤退の連絡を頼む!」

「別にいいが、何で退く!!」

「アルフレッド、破城槌だ! それだけでわかるだろう!」

「わかった!」


 大声での会話故に、少々文章としては弱いが、おおよその理解はできるだろう。アルフレッドの最大最強のスキル、その二つ名にもなっている殲滅スキル、それを魔物の群れに叩き込む。

 魔物たちの動きは騎士相手に硬直気味だからこそ、横へ抜ける動きが出る。もし騎士が退けばそれを追い、魔物は追ってきて、横に漏れ出ることはない。仮に漏れ出たとしても、少しくらい取りこぼしがあっても問題はない。対処可能だ。


「アルフレッド、このモンスターたちに叩き込んでくれ!」


 騎士、リュージ、オルハイムが退く。アルフレッドの存在を知り、後方のフィルマもブロックの魔法で上方へと退避した。横へ抜けるとそちらに魔物が折ってくる可能性考慮した結果である。

 アルフレッドが前に出てきた。既に剣を構えている。そんなアルフレッドめがけて魔物たちは近づいてくる。突進と言うほどではないが、列をなしている騎士たちと違いたった一人であれば脅威とは言えない。次々襲い掛かれば取り押さえその喉笛を噛み千切ることができる、そう試行してもおかしくはないだろう。


「破城槌!!」


 アルフレッドが魔物の群れに剣を突く。城を護る城門、それを一撃で破壊できる爆発的な剣突が魔物を襲う。まず、アルフレッドの目の前に存在する魔物がその攻撃による血霧となり、その血霧も一瞬のうちに攻撃の流れに巻き込まれ消滅する。延長線上にいた魔物はほぼその攻撃により粉砕されるかひしゃげ潰されて死亡、有効範囲の一番外側にいたとしても受けた部分周囲の肉が潰されその向こう側まで衝撃が貫き、虫の息となっているだろう。また、その延長線上の横側にいたとしても、その破壊の奔流に巻き込まれズタズタでボロボロな状態になっていた。

 アルフレッドの破城槌の一瞬の一撃が通過し、残った敵は僅か四体。その四体も、三体が虫の息、一体が重傷のありさまであり、程なくその命が絶たれた。







 今回の戦果は相手側の魔物およそ三百の殲滅となっただろう。あくまでおよそでしかないのは、正確な数を把握できないからだ。最後のアルフレッドの一撃で死体すら残らなかった魔物がそこそこいるためである。それに対し、騎士側の損失はおよそ百、これは現時点で復帰不可能な人間であり、死亡か完全に復帰不可能という数値だけを見ればその半数程と行った所だろう。魔物三百匹が相手であれば、その程度の損失で済んだ大戦果と言える。後の報告でこれを聞いた王は、その時どう思ったか。いや、それ以上に、彼らがその他戦いを見ている時どう思っただろうか。

 城の物見台から戦場の光景は確認できる。プレイヤーたちが戦場に赴いている間、彼らは異世界召喚者である彼らの戦力を確認していた。そして始まった戦いは、彼らの想像以上の物だっただろう。たった一人が百の魔物を炎の雨で蹂躙し、二百の魔物を抑えこみ、最後には一撃で残っていた敵を粉砕した。

 その戦果を見て、姫は喜んだ。自分の呼んだ召喚者たちが圧倒的な力を持つ勇者であったと、無邪気に喜んだのである。彼等がいれば、魔王を倒せる、世界に平和と安全をもたらすことができるのだと。少し勝手だが、彼女はそのためであれば、自分を代価としてもかまわないと思っている。それが償いになるのならばあ。

 そんな姫に対し、異世界召喚者の戦力を見ていた王は逆のことを思っていた。やはり、異世界召喚者は恐ろしい、と。彼らの力は魔物三百をたった九人で殲滅できる……いや、下手をすれば一人でできるだろう。少なくともブレイブの戦闘力を見ればそういう判断をしてもおかしくはない。そして、それだけの戦力を持つ彼らをどう扱えばいいのか。彼らを殺すわけにはいかない。魔王と言う存在に立ち向かうには相応の力が必要だ。彼らを脅すことはできない。彼らをどうにかできる力があるのならば、そもそも呼び出す必要がない。

 どうすればいいのか、彼らをどう扱えばいいのか。王は迷いに迷っている。ただ、一つだけ決まっていることは、自分は彼らを歓待し、彼らの敵意や戦意を自分たちに向けさせず、自分の収める国のことにかかわらせず、魔王を倒してもらい帰ってもらう。それまでどうにかして対処する。


「ファロットよ。彼らをどう思う?」


 宮仕えの魔術師であるファロットは、戦場の光景を見て驚き、畏怖を抱いていた。単純な戦力もそうだが、奥に見える魔術の攻撃に対する者の方が強い。彼もファイアーボールの魔術は使えるが、せいぜいが同時に二十発撃ちだすのがせいぜい、しかもそれで倒せて魔物一匹か二匹と行った所だろう。それに対し、ブレイブの魔術は継続と連続の百を超える火の雨だ。規模が桁違いだ。そんなものを見て、畏怖や恐怖を抱かない方がおかしい。ファロットは自分が世界一と言うつもりはないが、それでも上から十の指に入ってもおかしくないと自負できる程に魔術の腕はある。その魔術師ですら、十指全員そろってもかなわないだろう相手である。


「……強い、とても強い者たちだと思いまする。あれならば魔王を倒せてもおかしくはないでしょう」

「そうか…………厄介な」


 ファロットは王が言う、厄介の意味をこのとき正確に理解した。もし、彼らがこの国に対し敵意を抱けば? そうでなくとも、彼らが王に対しこの国をよこせと言って、自分たちは抵抗できるか? 一方的にやられるだけである。魔王を倒せる、と言うことはすなわち、彼らは魔王と同じだけの強さを持つと言うことである。自分たちは彼らの送還のための魔術を使えるが、もし彼らが送還に応じなければどうなるか、送還されることを諦めて人間の支配を始めたりしないか、そんなことは誰にもわからないのである。つまり、自分たちの安否は彼らの善意にかかっているのだと。

 もし、これが悪意ある人間ばかりが召喚されていればどうなったか。国が蹂躙されたか、王が殺され乗っ取られたか、少なくとも今回善意で襲ってきた魔物を殲滅したかどうかも不明だろう。


「……送還はその制約ゆえにできませぬ。王よ、どうするべきだと考えましょう」

「彼らには、こちらが彼等と仲良くしたいことを示さなければならないだろう。決して、彼らに害を与えることは許さぬ」


 幾ら強かろうと、彼らも人間だ。人質を使い言うことを聞かせる、薬を使い洗脳する、女性を送り快楽で取り込む、最悪の場合は暗殺するなど、いろいろとやりようがあるだろう。しかし、それらの悪意はばれてしまえば敵対認識にもなりかねない。絶対の安全はなく、成功するかどうかも不明なことを安易に行うことは出来ない。故に、害を与えず歓待する。悪意でなく、善意で異世界召喚者を迎える。悪い印象を与えなければ、いい印象を持たせることができれば、こちらに味方してくれる可能性は低くない、高いだろう。


「今夜は無理だが、明日か明後日かに彼らの歓迎の催しを開く。同時に、彼らと言う存在のお披露目も行う。この国にいる貴族は全員呼び出さなければな」

「……その場で彼らに手を出さないことを示す、ということでごさいますな」

「その通りだ……ファロット、お前はヘルヴィレナが勝手なことを言わないように注意せよ。あの娘は彼らに対し悪意をもつわけではないが、無遠慮に頼みごとをしないとも限らぬ」

「承りまする」

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