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「魔術具を手に入れたのは別にいいが、これから何をする?」
「私は知らないよ?」
竜を倒すのには何をすればいいのか。セリアの力を使うにしても、どう使えばいいのか。
「私が教えるよ。セリアちゃん」
「パティ」
パティが実体化し、自分がセリアに必要なことを教えるようだ。
「セリア、先に外に行っていてくれ」
「うん、わかった」
セリアが外に出ていく。
「……パティ。話がある」
「うん。なーに?」
「お前はいったい何なんだ?」
パティという存在は使い魔として自分が作ったものだ。
しかし、パティは使い魔という範疇を超えた何らかの存在であるように見える。
様々な知識や付加した覚えのない能力。明らかに最初に想定された能力を超えたものだ。
「うーん……私はスィゼが作った使い魔だよ」
「使い魔というレベルは超えてるだろ。今まで見せてきた能力や知識を考えれば」
「……確かに私はちょっと特殊だけどね」
パティが机の上に座る。
「スィゼも椅子に座りなよ。ちょっとあれこれ離さなければならないかもしれないし」
「ああ……それで、パティ。お前はいったいどういう存在なんだ?」
「スィゼが作った使い魔だよ。それは本当のこと。ただ、本来作られるはずのものとは別物だけど」
「そうか……」
少なくとも使い魔であるのは事実だが、本来作られるはずだった使い魔ではないと言う。
「……俺がループしているのは知ってるよな?」
「うん。そもそも私を作ったのはそれが理由でしょ」
「ああ。ループは多分神様が転生させるときに何かしたのが理由だと思う。パティ、お前もそれに関係してるんじゃないか?」
「違うよ。私はそういうのからの施しじゃないよ」
「……じゃあ、何なんだ?」
「んー……あえて言うなら、補助輪かな?」
「補助輪?」
「そ。自転車に付けるような補助輪」
何故パティが自転車を知っているのだろう。今更だが、パティはいろいろと知らないはずのことを知っている。
「何のために必要なんだよ、補助輪なんて」
「いろいろあったでしょ? 世界鉱とか。これからもセリアちゃんに前人類の魔術について教えることになるし」
「……なんでパティはそんなにいろいろと知っているんだ?」
「あまり詳しくは言えないんだけど……あえて言うなら、色々な知識そのものに精神が直結しているというか……あれだよ、アカシックレコードとかそういうものから知識を引っ張ってこれるの」
「それは凄い話だな」
もはや与太話とか思えないような話だ。だが、言っていることは事実……かどうかはともかく、嘘ではないのだろう。
少なくともおおよそ真実に近い話ではあるのだろう。内容がはっきりとしておらず、曖昧に言っている。
はっきり嘘をつけばいいのにわざわざ曖昧に言うのにとどめるのはそれが嘘ではないからだと思う。
「……なんで今まで黙ってた? 怪しいところはいろいろ見せてきてたけど、その時に話せばよかったんじゃないか?」
「私はあくまで手助け的なものだし。あんまり自分から干渉するのはよくないんだよ、本当は」
「それは何故だ?」
「私が主体になるのはルール的にアウトなの。色々とあるんだよ、私たちのような存在には」
それ以上は言えないのか、言うつもりがないのか、机から降りて外に出ていこうとする。
何やらいろいろと秘密があるようだ。本当にパティはいったい何者なのだろう。
「一つだけ、最後に聞かせてくれ」
「何?」
「パティは……俺たちの味方なんだな?」
「そうだよ。私とスィゼには切っても切れない繋がりがあるからね。私はスィゼ達の味方。最後までね」
「そうか……ならいいんだ」
その言葉が真実であるかどうかはわからないが、自分はそれを信じることにする。
少なくとも今までいろいろと手助けしてくれていたのは事実だ。それらの行動からもパティは嘘をついていないと考えられる。
とりえあず、今はパティがセリアに教える様子を見よう。何ができるのかわからないと困る。
パティがセリアに教えたのは前人類、パティが言うには天使の魔力の使用と制御だ。
今までも使っていたが、セリアの使っていた能力は空間切断、多少方向性を変えても空間を介しての攻撃か空間そのものへの攻撃くらいだ。
何故セリアがそれらしか使えなかったのか。それは先祖返りというものが歪なものだからだ。
そもそも先祖返りが起きる理由などは不明で、突然変異に近いものだ。
そしてそれを得るのは前人類ではない普通の人間であり、それが力を使う場合前人類と同じように力を使えないのは当たり前のことだろう。
さらに言えば、セリアが力を使うために使っている触媒となっていたのは神鉄製の大鎌だ。
それがさらに攻撃的な能力に限定してしまう要因となっていた。
今回、パティはそれらを解決するため、世界鉱を用いた魔術具の制作を頼んだ。
本来魔術を使うのに魔術具みたいなものは必要ない。これらを使うのは特殊な力を使う先祖返り、もしくはなんらかの特殊な魔術を使う場合くらいだ。
なぜ魔術具で問題が解決されるのか。それは魔術具が力の制御装置だからだ。
問題は世界鉱の触媒としての性質だったが、パティによれば世界鉱は世界が生まれる前から存在しているエネルギーを帯びた鉱石であり、あらゆるエネルギー要素に対応できるとのことだ。
しかしそんなものを用意して結局パティは何をしたいのか。まず最初にパティはセリアに魔術の制御、本来の風属性の制御を教えた。
普通の風属性の魔術を使えるようになると、次にその根源的性質の空間支配に内容が移った。
これもすぐに使えるようになる。今までずっと攻撃的な形とは言え使用していたからだ。
そして、次が本題だった。空間支配、そして支配した空間内の世界の支配だ。
普通は空間を支配しても空間転移や空間の断絶など、空間自体を操作するようなことしかできない。
だが、前人類の魔力を使用した魔術であれば、それよりも上の領域、空間内の世界領域のシステムを塗り替えられるということらしい。
詳しくはわからないが、なぜその魔術を扱えるようにセリアに教えたのか、と聞くと前回の師匠との話を引き合いに出してきた。
すなわち、竜との空中戦ではなく、地上戦を行うようにする、ということだ。
つまり世界の規則、法則を改変し、竜が空を飛べないルールに書き換えてしまえば竜は自動的に墜落する、ということだ。
かなり無理やりな内容だが、セリアであればそれができるらしい。特に今のセリアはループでの精神に含む魔力の加算もあり、かなりの無茶ができるようだ。
それでも世界の改変は相当な内容になるため、1時間がせいぜいな上、飛べなくすることくらいが限度らしい。
ともかく、竜との地上戦となる。空中戦とは違う形になるが、少なくとも今までよりは圧倒的に戦いやすいだろう。
もしループしてしまうことになれば世界鉱を失うことになる。今回こそ、竜との決着をつけたい。