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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
skill maker r
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「異世界だと……?」

「そんなことありえるはずが……」


 当然のことだが、いきなり異世界召喚と言われてもそれを信じるはずはない。特にVRゲームでは、その世界を異世界として扱っている作品も多く、仮想空間上の設定的な意味合いで異世界、異世界に呼ばれると言う表現を使うことは少なくない。

 しかし、彼らが今までプレイしていたゲームはスキルメーカーだ。わざわざ住人の反応を昔のAIの存在しないNPCのような一定の会話しかできないようにしたり、プレイヤーやゲームなどのメタ的な言葉をゲーム内の住人が使うほど、この作品はゲームであると言う表現が強い。そんな作品が、一部分だけとはいえ異世界と発言するNPCを作るだろうか?

 いや、そもそもここに呼ばれた彼らは、老人の言ったことを信じていないと言うわけではない。スキルメーカーにおいて、痛覚はほぼ遮断されており、怪我などをしてもほぼ傷みはない。触覚的に、それらが起きたことを感じ取れるだけだ。それゆえに、スキルメーカーの触覚反応は現実世界の物と比べ違和感がある。それ以外にも、スキルメーカーは現実に近い感覚でありながら、VR世界にいると言う感覚を強く出している。今、彼らはそれを感じていない。


「……出ないな」


 口の中で、他のプレイヤーたちに聞こえないようにブレイブが呟く。いったい何が出ないのか。彼は出ない、とつぶやく前にステータス画面を隠れて出していた。ステータス画面はスキルで出すものであり、もともとスキルメーカー側のシステム要素ではない。つまり、この世界ではスキルが発動できると言うことである。しかし、ステータス画面が出せているのであれば、一体何が出ないのか?

 ブレイブは今この状況がゲームとして正しいのかどうかの確信がない。本当に異世界召喚であったら厄介だ、と思っている。そんなものを信じることがおかしいのだが、ブレイブに幾らかの、ゲームに対する違和感が存在する。パーティキュラー、助言妖精、運営側から教えてもらった話、色々な情報を考慮すると、こんな異常な出来事があってもおかしくない。それを確認するため、運営側に連絡を取ろうとした。

 しかし、システムメニューは出ない。システムメニューはスキルメーカーのシステム側のメニューである。それはVR寄りのシステムであり、ゲームそのものよりも機械的だ。それが出ないと言うことはここがVRのシステム上にないということである。


「本当に異世界に来ちゃったね」

「……みたいだな」


 前方では未だにプレイヤーたちの混乱が続いている。老人に対して問い詰めようとしたり、その後ろにいる姫に対して近づこうとしたり、プレイヤーの状態は荒れている。それをリュージが抑えている。こういう時は指揮官、まとめ役であるオルハイムが納めるべきだが、オルハイム自身も混乱している。この辺りの意識の差は、リュージの持つ純粋さ、真っ直ぐな心根故だろう。彼には護るべき妹たちも一緒なのだから混乱できないというのもあるだろう。


「先輩」

「どうしたの、フィルマ?」

「ブレイブ」

「パティも……って、まさか!?」


 思わずと言った感じにブレイブが声を上げる。その声の唐突さに、前の方で混乱していたプレイヤーや、そのプレイヤーに絡まれていた老人、その後ろの姫がブレイブの方に視線を向けた。


「ブレイブどうした?」


 流石に今までの状況でいきなり他のプレイヤーが問いかけることは難しく、一番仲の良いプレイヤーであるリュージがブレイブに尋ねた。


「……恐らくだけど、モンスターが来てる」

「何?」


 フィルマとパティの気配感知によるもの、というと分かりにくい説明になるが、スキルでモンスターの位置を探れることを伝える。リュージは一応知っていたため納得し、他のプレイヤーもその発言を聞いて一応の納得を見せる。最も、彼はまだこの世界でスキルを使えると言うことの自覚はなく、この世界がスキルメーカーの世界でないと言う確信もないのだが。

 そして、その発言の内容に一番驚いたのは姫であった。


「それは本当ですか!?」

「俺よりも、フィルマかパティに訊ねたほうが……」


 尋ねられても、ブレイブはあくまで二人から教えてもらった立場でしかない。その詳しい内容についてはそのモンスターが状況を感知した二人の方が詳しいだろう。


「私の気配感知では、ここから北西の方角からのモンスターの群れがこちらに移動してくるのが分かります」

「うん、魔物の群れだね。規模は……三百くらい? 正確な数はちょっとわかんないなー」


 姫の顔が青ざめる。魔物と言うのは通常の人間よりもはるかに強い。一体を倒すのに、人間一人とはいかない。それも群れとなれば、一対一と同じにはならないだろう。モンスターの数が百ほどであれば、まだこちら側の被害が少なく倒しきることは出来るが、三百ともなると単純に被害が三倍とはならず、半分ほどが脱落するとみていいだろう。兵士の半数が脱落すればかなり厳しい……いや、絶望的な状況と言っていいだろう。


「そんな……どうすれば……」

「落ち着きなされよ、姫様。ひとまず、ここから一度出て状況を確認するべきでございまする。彼らの言を信じないわけではありませぬが、少なくとも確認できぬ限りは手を打つこともできぬ状況ですぞ」

「そ、そうですね……勇者様方のことも皆に伝えなければなりませんし……お父様にも、彼らを会わせなければならないでしょう」


 今回のことは姫の独断ではない。王族である彼女が動いている案件である以上、国家がかかわっているのは間違いないだろう。


「あの、すみませんが、私についてきてもらえないでしょうか……あなた方も、この世界のことはわからないはずです」

「色々と急なことになりますが、この老体も頭を下げお願い申し上げる」


 プレイヤーたちは混乱状態だが、ここにきてようやくシステムメニューが使えないことを理解したプレイヤーがブレイブ以外からもでた。その情報は伝染し、自分たちが運営に対する連絡を取れない状況にある、本当に異世界かどうかはともかくとしても自分たちを助ける存在がいないことを理解した。自分たちのことは自分たちでどうにかしなければならなくなったのである。

 それを理解し、プレイヤーたちは仕方ないと姫と老人についていくことを選んだ。








「そなたたちが異世界から召喚された者たちか」


 謁見の間、広く豪華な様相、華美に作られた金属彫刻のある玉座や、時代的に中世を思わせるようなフルプレートの甲冑飾り、それの持つどう見ても本物と思わしき長剣、採光とシャンデリアで光の加減を調節し、最も綺麗に見せるように作られている部屋と、その部屋に存在する椅子に座る、髭を蓄え、威厳ある眼光と雰囲気を漂わせる王。現実では経験できないような、VR世界でもなかなか得られないだろう、本物の雰囲気というものをプレイヤーたちは感じていただろう。


「まさか本当に成功するとは思わなかったが……成功したことを受け止めるしかあるまい」


 王の様子を見る限りでは、姫のように手放しで喜ぶ、嬉しいと言う感情は見られない。厄介なことをしてくれた、という雰囲気の方が強いだろう。実際、彼らの行ったことは、厄介、難しい問題であるのは事実だ。


「我が名はログレウルム・アルクレント・アルディード。この国、アルディスの国王である。其方等をこの世界に召喚しこの場に連れてきたのはヘルヴィレナ・アルクレント・アルディード、我が娘だ」

「あ……ごめんなさい、名乗るのを忘れていました。ヘルヴィレナ・アルクレント・アルディードです」

「全く、名乗るのも忘れていたのか……まあ、よい。まず最初に、其方らには我の方から謝罪しよう」


 そう言って、王は頭を下げる。それで戸惑ったのはプレイヤーたちであり、周りにいる人間の方だ。


「お父様!?」

「王、国主たるもの頭を下げるべきでは……」

「我々は彼らに対し誠意を示す必要がある。この謝罪はその一つだ。ヘルヴィレナ、其方がいきなり別の国に召喚されたならば、どう思う?」

「え……?」


 王は姫に対しいきなり問いかける。考えたこともない、と言った様子の姫だったが、すぐに王に対し答えを返す。


「その、戸惑うと思います。何故いきなり呼び出されたのかわかりませんし……帰るのも、連絡を取るにはどうしたらいいか……隣国ならばまだ知り合いはいるかもしれませんが」

「それが彼らが今思っていることだと、お前は思わないのか?」


 姫は衝撃を受け、そして青ざめる。自分のしたことが、今言ったことと同等、いやそれ以上であることを理解したからだ。世界を超え、呼ばれた彼らは、元の国、世界に自分で戻ることも、知り合いと連絡をつけることもできない。


「それを、異世界召喚について学んだものの多くは知っている。だからこそ、異世界召喚はめったなことでは行われないし、使うのであれば相応の対応が必要になる。我が行いも必要なことなのだ」


 それをその対象であるプレイヤーたちの目の前でぶっちゃけるのはどうかとも思うが、プレイヤーたちもその内容について理解し、王がそのことを深く受け止めそれ相応の対処、対応をしてくれるとなれば、彼らとしても安心できる話だ。

 最も、実態は微妙に違う。王が異世界召喚者たちに対し誠意を見せるのは、彼らが敵とならないようにするためだ。彼らのうちの、仮にブレイブを敵に回した場合、何をしてくるかと考えればその意味合いも理解できるだろう。異世界召喚者は扱いが難しい。自分たちの望む条件に合致するとも限らず、合致したからと言って自分たちの思い通りに動いてくれるとも限らない。対応には慎重さや謙虚さが求められる。むしろそちらの方が異世界召喚が行われない最大の理由ともいえる。

 そんな話を彼らがしている所に、彼らの言う異世界召喚者、プレイヤーたちの一人が手を上げる。それに王は目ざとく気づき、声をかける。


「何か言いたいことでもあるのか? 召喚者よ」

「話を中断させて申し訳ないとは思いますが、言わせてもらいます」


 ブレイブである。流石に王の立場にある人間の話、会話を遮るのは中々に怖い体験だったようだが、手を上げないわけにはいかなかった。


「北西からの、モンスターの来訪。それに関してです」

「……何?」


 ブレイブの発言、それはこちらに来ると思われるモンスターに対する対処である。

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