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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
skill maker
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76

「ふう、跳躍あってもここまで登るの大変だなあ……」

「高い、というか下が見えないね。どこまで登ってきたのー?」


 パティがくすくすと笑って言う。ブレイブは下を見るが、下の景色は碌に見ることができない。かなりの高所まで登ってきた形だ。逃げたわけではない。高い所からであれば、妨害のしようがないと言う判断だ。たとえ翼で光弾を撃ってもここまで届くかどうか、そもそも届く前に魔法を撃ちだせるだろう。また、途中に障害物がないのも理由だ。

 しかし、あまりに高所すぎると逆に狙いをつけづらいのではないか、と考えられるだろう。しかし、ブレイブにはパティがいる。パティの魔力による探知と感覚の共有により、プレイヤーやボス、全ての存在の現在位置を把握することができる。


「で、どんなのがいいかな?」

「針の穴を通すような感じ。槍だね。雷の槍」

「……いい技だったなあ、あれ」


 夜市のスキルをブレイブは思い出している。神威の槍、その言葉とともに撃ちだされた光の槍。それは、ブレイブの望む、一直線に貫くイメージと合致している。


「あのスキル、使うと問題が多すぎて使いづらいけどね。止めになら使ってもいいかもだけど」


 両腕でないと使えず、使えば両腕を消し飛ばす。勝てばいいが、そのまま戦闘が続けば足手まといになるだろう。流石にそれと同じスキルにはできない。そもそも作れないし、作る必要がない。作るのは魔法だ。そして、それは今まで使ったことのある、強大な二つの魔法と同じ、消費ばかり大きい魔法。その消費の分だけ、強力無比な魔法を。


「トールハンマー?」

「槍じゃないよ、それ? 槍よりも……雷、雷を槍のようにした感じ? 雷自体、天から地面に落ちる柱のように見えるし、槍のイメージは合いやすいかな」


 スキルが作られる。直下に落ちる、光速の雷の槍。細く鋭い槍のような形状の雷。


「パクリはよくないんじゃない?」

「リスペクトと言いなさい」


 手をかざす。その手の前に、光、雷が終息した針のような雷が作られる。


「神雷の槍よ」


 雷でできた神鳴りが、地上に存在する天使にめがけ、飛んでいった。








 地上に存在する天使は、不穏な気配を感じたのか頭上を見上げようとした、次の瞬間に腕と足の身を残し消し飛んでいた。もし、その傍にフィルマ達が入れば巻き込まれ同じように消し飛んでいただろう。幸いなことに、それとも意図的だったのか、フィルマ達は一時退いていた。


「なんだっ!?」

「何が起きた!?」


 アルフレッドと牡丹はフィルマが一度退くことを誘い、それに乗って一時的に引いていた。三人同時に仕掛けるのが良いとはフィルマの談だが、退いたことで翼による攻撃が厳しくなり、よりやりづらくなった形だった。そのため、近づくことができずにいたが、そこにこの天使の消し飛び様である。


「離れていてよかったですね。空から何か降ってきたみたいです」

「はあ……?」

「何か降ってくるのが見えたか?」


 フィルマは少なくとも、何が起きたのかを理解しているようだ。しかし、牡丹とアルフレッドは状況が理解できず、混乱状態である。天使はまだ命が一つ残っている状態だが、流石に体全体が消し飛んだとなるとすぐに復帰は出来ない。


「アルフレッドさん、これを!」

「ジャック? それは何だ? ポーション?」


 今は余裕があるとジャックが判断したのか、アルフレッドの側まで影を伝い移動していた。アルフレッドは差し出されたものを見て戸惑う。


「ジジイが死ぬときの選別ってことで渡してきやがったMPポーションだ。それで回復して、あいつにとどめを」

「……重い話だな」


 一度オルハイムの指示でMPポーションの所持を尋ねられた時には答えていなかった。つまりは隠し持っていたわけである。彼のスキルの都合上、MP回復アイテムを持っているのは変ではない。そして、あの技は一回きりしか使えないような技であり、回復も消費していることを考慮しての一回分だけだ。幸い、今回はMPを消耗するようなことはほぼなかったため、使用しなかったのである。それを最後の選別としてジャックに渡したのだ。

 アルフレッドが重い話と言ったが、別に死に戻りするだけなのでそこまでではない。ただ、その期待はかなり重い。遺言のようなものだ。繰り返し言うが、本当に死んでいるわけではなく単なる死に戻りである。しかし、その期待をするのもわからなくもないだろう。今回集まったプレイヤーで道中を抜けてきたプレイヤー、そしてそれらが個々で天使に挑んでも、六回殺すことは難しいだろう。今回で倒すしかないと考えても変ではない。これだけ戦力が集まることが後々あるかというと、わからないのである。

 アルフレッドはポーションを飲み、MPを回復する。後二回は少なくとも破城槌を使える。


「ジャックは退いていたらどうだい?」

「……まあ、俺は役に立たねえし」


 そう言ってジャックは後衛のところに戻る。囮くらいにはなるかも、と考えられるが、そもそもジャックを天使は危険視していない。囮にはならないだろう。


「復活します!」

「ようやくかい。アルフレッド、血路は開く。絶対にぶち込みな」

「誰に物を言っている? あたりまえだ」


 天使の肉体が再構成される。失った腕に肉がくっつくような形ではなく、完全な復帰だ。ただし、そのせいか天使の肉体は前よりもかなりスマートになっていた。また、天使の翼が巨大化している。最後の一つの命、それゆえの最終形態と言うことだろう。

 翼は上空を向き、其方に向けて撃ちだされる。


「っ! 行きます!」

「あ、ちょっと待ちな!」


 フィルマが天使へと駆けだし、そのあとを牡丹が追う。それに追従し、アルフレッドが動き出す。

 フィルマが斬りこみ、牡丹が攻撃を仕掛ける。その天使相手の戦闘でできた隙を、アルフレッドが破城槌で撃ち抜く、そういう予定だったが、天使の様相の変化はかなり大きな影響となっていた。

 一つはその防御力の増加。フィルマの斬撃は有効打ではあっても、致命打にはなり得ない状況になり、牡丹は傷をつけられない。フィルマは傷を、牡丹はその力で攻撃を弾く、それくらいしかできない状況である。その状況であっても、アルフレッドの破城槌は有効だろう。しかし、防御力の増大は同時に攻撃力の増大でもある。


「くっ!」

「攻撃が痛くなってるね! 厄介な!」


 牡丹はまだ筋肉の鎧が有効だが、フィルマは攻撃が致命的な一撃となるだろう。刀で逸らすにも限度はある。故に、深くまで切り込むことは出来ない。それは隙を作るには、弱い状況だ。

 翼は空を向いたままだ。向きを変えつつ、空に向かって撃ちだされている。狙いはブレイブだ。ただ、あくまでブレイブに攻撃をさせないことが最大の目的と言えるだろう。流石に今の天使もあのブレイブの一撃を受ければきれいに消し飛ぶ。ブレイブももう一度あの魔法を使うことは可能だが、消費が大きいための迷いと、それ以前に天使の光弾による攻撃に襲われ攻撃できない状況だ。翼の光弾は威力も速度も上がり、そのため頑張って避けるしかない状況だ。降りてくる前でよかったと言える。距離が近くなればすでに当たってしまっていた可能性はある。そして、この光弾が上を向いているからこそ、前衛組はまだ生き残っているともいえる。

 リュージは戦闘できないシャイン、ツキ、ジャックを守っている。前衛三人、空にいるブレイブ、後衛とその護り四人、彼らは動きを見せることができない状態だった。


「背中ががら空きだっ!!」


 一人、指揮官として存在していたが、戦況の苛烈さからその役目を果たせず、ほぼ忘れ去られていた一人を除いて。彼、オルハイムは天使にとって、脅威にならない相手だった。オルハイムはあくまで指揮官として、指示薬としての優秀さ、それと攻防の優秀さゆえの、バランスのいい戦闘力、はっきり言えば、リュージや双子と同じくらいの強さである。しかし、例えある程度強い、といっても指揮官として有能なだけでリーダーになれるものだろうか。いや、むしろ、指揮官になったとしてそのままの強さでいられるだろうか。彼の立場は知能のある敵相手であれば、首級、狙われやすい立場である。ならば、相応に戦える力が必要だ。一時的であったとしても。

 オルハイムは両手に剣を持っている。本来のスタイルは剣一本なのだが、本気……一時的な強化状態では二本の剣を持つ。全ての力を収束し、その二本の剣に載せる、瞬間強化スキルだ。その日本の剣をクロスさせての斬撃。それは天使の背中に傷をつける。

 その攻撃に、天使は反応した。しかし、真後ろでは流石に攻撃しようがない。しかし、その意識を後ろに向けることで、前への攻撃がおろそかになった。そのすきを前衛組は見逃さない。


「瞬撃!」

「うるあああああああああっ!!」


 フィルマの振るう刀で繰り出された強打の剣戟と、牡丹の斧槌で力任せに振るわれた強撃が天使の腕を跳ね上げ、万歳の状態にする。そして、その隙をアルフレッドは逃さない。翼が上空に存在するブレイブを狙わず、下へと向きを戻そうとするが、間に合わない。天使の懐に、アルフレッドが入り込んだ。


「破城槌!!」


 天使の腹に三度目の風穴が開いた。


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