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「ところで、いつダンジョンに入るんだ?」
リュージ達と合流し、会話している所にふと思いついたかのようにブレイブが訊ねる。ブレイブはこの集合自体は知っていても、その詳しい内容は知らない。いつプレイヤーたちがダンジョンに突入し、合流するのか。そもそも、道中の攻略にかかる時間が個人によって違うだろうと言うことも想定しなければならないし、プレイ時間の問題だってあるだろう。
「そろそろ挨拶するプレイヤーが来ると思うから、それで順番に、だな」
「順番かあ……」
「プレイヤー多いからどう入るんだろうね」
集まったプレイヤーの数はかなり多い。コッチーニの防衛戦ほどではないが。当たり前だが、高レベルでなければ突破できない以上、低レベルのプレイヤーが集まる意味はない。事前情報として、ダンジョンのボスまでの道中はソロで挑まなければいけないのだから。
「入った時点で勝手に一人になるみたいですから、まとめて入っても問題ないみたいです。ただ、チームごと、でしょうね。一度に入るのは入り口の大きさ的には……」
「まあ、そんなところだよな」
見る限り、一度に大勢の人物が入ることができるようには見えない。多くても十人くらいが一度に、と行った所だろう。
「お、来たぞ」
「やっとだー」
一人のプレイヤーが、ダンジョンの前に立つ。ブレイブもそのプレイヤーには見覚えがある。コッチーニ防衛戦において、味方の指揮役を担っていたプレイヤーだ。最も、ブレイブはそのプレイヤーについて詳しくは知らない。ただ、能力の高さ、強さは十分あると理解している。
そうして、プレイヤーの挨拶が始まった。集まってくれてありがとう、という謝辞から、今回のダンジョン投入の目的と意味、最終的に何を目的としているのか。もちろん当たり前だが、今回の目的はダンジョンの最奥まで到達し、ボスを撃破することである。もちろん、それに対しボスを撃破したときどう報酬が回るのか、みたいな話も出るが、それはボスを倒した時に残っていたプレイヤーで考える、と言う答えだった。実際、ボス前に到達できないプレイヤーがどういったところで意味はないのだから仕方ないが、それはそれで不満も出るだろう。それに対する答えは、今決めないことに反対なものは参加しなくてもいい、と言う辛辣なものだ。
実際、それで何人かは帰ったが、ここに着たプレイヤーの多くは帰らなかった。これだけのプレイヤーが参加することは以後ほとんどないとみてもいいし、もし攻略するつもりがあるのなら複数の上位プレイヤーが必要となる。そもそも、ここに上位のプレイヤーが多数集まっている以上、今回攻略される可能性を考えるべきだ。それを考慮した上で参加しないと言うのならばしかたないが。
そうして残ったプレイヤーで、順々にダンジョンの中に入る。
「それじゃあ、頑張ろうぜ」
「みんな、生き残ってボスに挑もうね!」
「道中、頑張って下さい、先輩、姉さん、兄さん」
「ボス、絶対倒すぞー」
そう、四人で丸く囲まって気合を入れる。そして、次に呼ばれてダンジョンへと入った。
「本当にみんないなくなったな」
「そうだねー」
ブレイブ達がダンジョンに入り、一瞬目の前が暗くなったかと思うと、遺跡のような薄暗いダンジョンの中にいた。リュージ達はすでに周囲にはいない。入ってきた方向を見ると、入り口が塞がれている。少なくとも死ぬか、ダンジョンをクリアしない限りは戻れない、と言うことなのだろう。
「……っていうか、パティはいるんだな」
「当たり前でしょ? 私は一応扱いはNPCだけど、使い魔だよ? 逆? 使い魔だけど、NPC? いや、どっちもでいいや。とりあえず、私は使い魔、ブレイブのスキル。スキルが勝手にどっかに飛ばされたら困るし、一人でダンジョン攻略もできるわけないでしょ?」
「いや、そうだろうけどさあ……」
パティと言う存在の扱いについてはいろいろわからない点が多く、もしかしたらブレイブたちプレイヤーのようにダンジョン攻略をやらされる可能性はあるのでは、とも考えただろう。実際にそこそこのプレイヤーレベルの戦闘力はある。しかし、ダンジョン攻略をやらされて場合、流石に無理だ。途中で死んで、一定時間をおいてブレイブに再召喚されるだろう。
「……ところで、マップは」
「機能しないっぽいね……スキル使ってみてるけど、ダメ」
「やっぱそうか」
マップ機能がこのダンジョンでは機能していない。少なくとも、自力で探索して頑張れと言うことだ。多くのプレイヤーはマップ機能を頼っている所があるため、中々つらい所があるだろう。
「でも、そんなに広くはないかな。多分」
「……感知は出来るんだな」
「うん。そのモンスター配置を考えれば……というか、マップもうっすらとわかるんだよね」
パティの感知は魔力の感知である。うっすらとモンスターの発する魔力を感知するのだが、その魔力は壁のようなものを貫通することはない。空気中に散った魔力の感知をする、となると空気のあるところしか感知ができない、つまりは魔力の感知できない所が壁などの通行不可能な場所、感知できるところが通行できる場所と判断できる。チートレベルで便利なスキルだ。マップ作成から敵の感知、攻撃の察知から諸々できる。
「本当に、パティ便利だなあ……」
「そりゃそうだよ……っと、私はそれくらいできて当たり前! 崇めたらいいと思うよ!」
本当に崇めるかはともかく、ブレイブはパティに感謝を言う。そして、おおよそ推定できる行先の案内を頼む。モンスターの配置や、行き止まりの有無などである程度どちらに行けばいいかわかる。今回はボスが目的である以上、道中にある敵はなるべく無視していくつもりのようだ。
「宝箱とかは?」
「流石になあ……よくよく考えてみると、プレイヤー数のダンジョンがあるってことだよね、これ」
各プレイヤーが、一人で攻略できるダンジョンへと飛ばされる。あの場にいたプレイヤーの総数は百を超えている。百を超えるダンジョンが最初から存在している、と考えるのは少し変だ。それぞれに合わせたランダム生成と考える方が自然だろう。つまり、宝箱やその中身もランダム生成によるものだ。一応、ダンジョンの核に合わせたアイテムが配置されるが、結局のところ一品物はないとみてもいい。だいたい、今までのダンジョンに宝箱なんてあったか、という話である。ないとは言わないが、明確にそういう迷宮の宝箱的なものではなかった。だいたい、良いアイテムが入っていると言うこともなかった。基本的にダンジョンボスを倒して得られるものは宝箱ではなく特殊なドロップアイテムや素材である。
「ランダム生成ってことは、あまりレアなもの入ってない」
「そう考えられる……といえば、そうかもね。とる気がないなら、無視できるルートに行くよ。敵の一番少ないルートでいいね?」
「ああ。山岳地帯より強いのは?」
「いないねー。そもそも、あそこのモンスターって戦うことを想定されてないんだよ?」
そんなところで長期間戦い続けたブレイブが異常なのである。
さて、ルートも決まり、ブレイブはダンジョンの先へと進む。ダンジョンは入り口付近は若干古めかしく、苔むした、それこそ滅びた遺跡をダンジョンにしました、といった雰囲気だが、先に進むごとに、徐々に白く汚れのない綺麗な場所になっていき、さらには今もまだ健在、建築されたばかり、という雰囲気になっていく。恐らくは、最奥の場所はまだ機能している、遺跡となる前の……そのまま、造られた時のまま、ということだろう。
道中に出てくるモンスターは天使のように見えるモンスターだ。しかし、その立ち振る舞いからは生気を感じず、生命体と言うよりは人形やホムンクルスのような疑似生命に近い物とブレイブは感じた。実際にブレイブの火魔法でダメージを受けても怯みもせずに攻撃を仕掛けてくるくらいである。雷魔法も、一瞬動きが停止するが、その一瞬が過ぎればそのままとろうとしていた行動をとるくらいだ。
そして、敵の強さは先に進めば進むほど強くなる。ダンジョンの構造が先に進むほど元の輝きを持っていることから考え、時間的に維持されているか、現在も機能維持がなされているため、その周辺にいる天使は強い、ということなのだろう。
「パティの案内が無くても、ある程度は楽に進めるんだろうな、これ」
「そうだね。ダンジョンの奥に行くほど、新品……当時の物のまま、なんだろうね」
そういう傾向から考えると、最奥は遺跡が遺跡になる前の機能をそのまま有している、とみていいだろう。それがどういう者かは不明だが、ダンジョンのボスと言うことなのだから、相当なものであるとみれる。
「でも、ここランダム生成だよね?」
「恐らく、でしょ? まあ、私もランダム生成だと思うよ。運営がわかりやすい設定フレーバーを組みこんだだけで。だいたい、地図機能も使えない状態にされているのにヒント無しはつらいでしょ」
「まあ、そうだろうけど」
地図が無くてもわかるシステムが存在しなければ、迷路が生成された場合、どうしようもなくつらい。そもそも死に戻り以外に戻る手段がないのだから、ログアウトしなければならなくなるか、そうでなくとも限界まで閉じ込められかねない。流石にそれは酷い。なので、わかりやすくしているのだろう。最も、それが分からないプレイヤーもいる可能性はあるが。
わかりやすい構造と、それほど強く感じなかったモンスター、パティの遭遇数の低いルート案内により、ブレイブはあっさりと攻略した。ブレイブだけを見ると簡単に見えるが、ブレイブはプレイヤーでもトップレベルである。少なくとも攻撃力だけを見れば。感知能力のあるパティの存在もあれば、殺られる前に殺るを実践できる。故に楽に攻略できても変ではない。