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異空界への回廊、新ダンジョンかと言われたが、久々に運営側から告知があった。ブレイブは情報収集の一環として行っていないが、スキルメーカーの運営のトップページに存在するお知らせに記載されていたようだ。この情報はリュージからブレイブに伝えられた。
異空界への回廊は新規エリアを開拓するのにクリアする必要があるダンジョンであり、イベントダンジョンと言うことからも、一回しか攻略できない。つまり、誰かがクリアしたらそれで終わりのダンジョンである。何故そんなダンジョンを用意したのかという文句があったが、その代わりと言うのか、このイベントダンジョンが超高難易度、と銘打たれているらしい。実際、コッチーニ防衛戦でも活躍した十数名のチームがダンジョンに入り、ボス前に到達したのがたった一人という状況である。さらに言えば、そこでボスに入って十秒も持たなかったらしい。
彼らがそうなった最大の原因は、彼らがチームであったからこそ有数の強さを誇っていた、と言うことが理由である。異空界への回廊は、入り口から入ると強制的に一人になる。その一人でダンジョンを攻略しなければならない。つまりは、ソロでボス前まで行かなければいけないのだ。この実力が高くなければボスまで行くことは不可能である。
そして、ボスの強さに関しても、その一人残ったプレイヤーが、コッチーニ防衛戦のボスよりもはるかに強いとだけ伝えられた。彼らは先走ったと言うことで非難はされたものの、情報を提供してくれたことは多くのプレイヤーにとってありがたかっただろう。そして、多くのプレイヤーのこのダンジョンへの攻略の意思を挫いた。ソロで戦えるほど強力なプレイヤー、となるとスキルメーカー内でそこまで多くはない。一応、道中の強さはそこまできついものではないらしいが、上位者の言葉である。安易に信じてはいけない。
ブレイブであれば、一人で攻略できるだろう。恐らくは。しかし、ブレイブはあまり勝手なことをするわけにもいかなかった。今回、クリアプレイヤーの情報は共有されるらしい。これは、勝手に攻略した場合確実に非難される、ということを意味する。イベントダンジョンと言うスキルメーカーにおいて数少ないイベントを一人で楽しむのだから、当然である。もちろん、勝手に攻略に向かうプレイヤーはいるだろう。しかし、彼らだけではクリアは難しい。仮にも超難易度と銘打たれたダンジョンである。実際、先走って勝手に攻略したプレイヤーがおのおの情報を残している。その中には、結構な有名なプレイヤーも少なくない。
ブレイブはこのダンジョンの攻略について、リュージと相談した。一人で攻略するわけにはいかないし、リュージ達とだけ、でも流石に少数すぎる。かといって、他のプレイヤーと一緒に、と言うのも普通は難しい。
そこででてきた提案、というよりは、掲示板に乗っていたあるレスがその解決策として挙げられた。プレイヤー集合、集まって全員で攻略するという呼びかけである。当然と言えば当然だが、多くのチームが攻略に参加してもいまだクリアできていない。勝手な行動とはいえ、そこからもたらされた情報では、少なくとも道中を攻略できるプレイヤーでなければ話にならず、道中を攻略してもボスが強力に過ぎる、と言うことが分かっている。故に、全プレイヤーを集める気持ち、参加プレイヤーの絶対数を多くしなければならない。ボス前に行けるプレイヤーの数を一人でも増やす、ボスの攻略に参加できるプレイヤーを一人でも増やすために。
もちろん、そのレスに対して色々と多くのプレイヤーが本当にそれが実現できるのか、攻略時の分配の問題が挙げられている。当たり前と言えば当たり前の話である。しかし、今回、イベントを攻略しないと新要素、新規エリアが出てこないと言うことである。そのことを指摘されると、黙ってしまう。問題はある、しかし、先ず攻略しなければ意味はない。そういう話になった。
と、言うことで、そのダンジョン攻略をするつもりのあるプレイヤーを集める招集のレスに参加したプレイヤーたちが今マッフェロイ西の異空界への回廊の前に集まっている。その中には、もちろんブレイブの姿がある。
「結構参加してるなあ……」
「流石にね。ここは多分、そうとうきついみたいだし」
「……そのあたりはわかるのか?」
「管轄外。情報外。でも、少しだけ知ってる。ここが大きな転換点」
パティの言う言葉は真実である。つまりは、このダンジョン、このイベントは結構なスキルメーカーにとって大きな出来事と言うことなのだろう。運営側の事情を知っているだけに、このイベントが運営が起こしたことでないことは理解ししている。
「大変だなあ……」
「大変だねえ……」
運営側の苦労を思って言葉が重なる二人。パティは自身がその運営の苦労の一端であることを自覚するべきだと思うのだが。
「先輩、ここにいたんですか」
「あ、フィルマ。リュージ達もやっぱり参加するよな」
「当たり前です。この機会に兄さんが参加しないわけもないです。そもそも、先輩は兄さんが誘ったと聞きましたけど?」
このプレイヤーが集まる話はリュージから聞かされていた話だ。当然、リュージ達が参加しないはずもない。
「あ、うん、そうだっけ」
「ここ最近はどうしてたんですか? 少し前に三ダンジョンの攻略を終えた、とは聞きましたけど」
「あー……スキルレベル上げかな」
「あとレベル上げもね」
山岳でひたすらモンスター相手に魔法スキルである。おかげで、レベルも上がっている。他のプレイヤーと比べて半分の速度だが、それでも他のプレイヤーに追いつけるレベルには経験値を稼いでいる。その分、消費した経験値もそこそこ高い。最も、ちゃんと経験値の回収は出来ている。
魔法スキルをひたすら使い続けた結果、魔力が高い。代わりにHPや力はそこまで高くはない。普通のスキル、身体能力への影響あるスキルの取得率が低いせいである。とは言っても、本人的には問題ないようだ。ブレイブのプレイ方針は魔法使いプレイ、魔法使い系のロールである。身体能力の低さはキャラ付けとしては望むところである。
「……いったいどこで?」
「それは……」
「秘密ですー!」
「……あなたには聞いてないですよ?」
ばちっ、と視線がかち合い、火花が散ったような気がする。フィルマとパティは微妙に相性が良くないらしい。仲が悪いわけではないようだが。
ブレイブはとりあえず、話の先をずらすことにした。このダンジョンについての話や参加するプレイヤーに関してである。具体的に誰が参加する、と言うことは判明したわけではないが、著名なプレイヤー、有名なプレイヤーの参加情報は出回っている。例えば"破城槌"は今回参加するようだ。単体戦力が高い全体殲滅能力のあるプレイヤーの参加は大きいだろう。
「いつの間にか私も有名プレイヤー扱いだったんですけどね……」
「そりゃあ……」
「当たり前だって、"竜墜とし"さん」
「……私はあまりその名前は好きじゃないんですけど?」
パティの言った二つ名を聞いて微かに眉を上げる。どうやらフィルマは二つ名の呼び方が気に入らない、好みではないようだ。成果をそのまま二つ名にされたことが気に入らないようだ。技術、能力、まだ剣に関してのことで二つ名になったのならば許容したかもしれないが、単に竜を墜としただけの名前が嫌であるらしい。
「せめて"剣聖"とか……」
「そう呼ばれたいの?」
「……そもそも、不特定多数に二つ名で呼ばれるのが気に入りません」
パティの指摘に対しフィルマはそう答える。単に知らない人に呼ばれるのがどうも好きではないらしい。二つ名の内容云々ではなく、本当の理由はそこだろう。確かにいきなり有名になって二つ名でさもお前について知っているぞ、みたいに思われるのは本人にとってどうか。特に別に有名になりたいとも思っていないプレイヤーならば。最も、二つ名をつけられること自体を拒否することは難しいだろう。本人が嫌がっても、多数に色々と呼ばれてしまうのはしかたがない。オンラインゲームは一人でプレイするゲームではないゆえに。
「まあ、そのあたりはしかたないんじゃないかな?」
「先輩も、二つ名持ちですよ? わかってます?」
「へっ?」
寝耳に水、と言ったような驚いた表情を見せるブレイブ。ブレイブはあまり興味がないので、その手の話題のスレを見ないので知らない。
「ちなみに、二つ名は"マジカルデストロイヤー"だっけ?」
「それは早いうちに却下されてます。"炎幕の殲滅者"とか、"獄炎の魔術師"とか、仰々しい呼び名の方が候補ですね」
「いつの間に!? ていうか、なんでパティは話についていけてるんだ……」
「だって私も掲示板見れるし」
スキルメーカー内であれば、一部のNPCは掲示板をみることができる。運営側も書き込みの操作をしたりしているくらいだ。あれは一応人が捜査しているが、運営NPCも掲示板の確認はできるし、場合によってはその情報からNPCの配置を弄ったりとすることもある。プレイヤーの動向は注目の内容なのである。
運営NPCはわかるが、パティは何故見れるのか……はもう今更である。パティはそういうNPCである、と思うしかない。
「まあ、先輩はソロ専門ですし、あまり表に出てこないので、知名度に対して認知度は低いです」
「そうなんだ……」
そもそも、ブレイブの活動はソロというのもあるが、人には見られにくい場所で活動しているせいもあるだろう。アルイヌイットの東の坑道での行いは廃坑、封鎖状態と言うこともあってプレイヤーは侵入しておらず、フマーレストの沖はまだダンジョン攻略が活発になる前にクリア、エムラント山林ではリュージ達と協力してのボス戦があったが、そもそもボス戦のことは喧伝されていない。コッチーニの南のダンジョンは、そもそもリュージ達が言ったことで初めて知られたダンジョンである。そういった諸々の行動を見る限りでは、ブレイブの実力を正確に知っているプレイヤーはほぼ存在せず、リュージ達やアメリアがほぼ能力を理解しており、ある程度ブレイブの実力に知識があるとすれば、"破城槌"のアルフレッドや、マリオットとオラクルたち、あとはクラーケン討伐の時一緒だったプレイヤーくらいか。表に出なさ過ぎて、ほぼ初めてコッチーニの防衛戦で名が売れたプレイヤーで謎が多いプレイヤーとして見られていることだろう。
「多くのプレイヤーが探してますから、注意してください」
「ええ……でも何で?」
「広域殲滅能力を欲しがらないプレイヤーの方が少ないでしょ?」
パティの言う通り、ソロプレイヤーのブレイブを欲しがるプレイヤーは少なくないだろう。
「……とりあえず、私達と行動しますか? 一人だと勧誘されるかもしれませんし」
「そうしようか……」
短い時間になるが、流石に人の多いこの場所で勧誘合戦をされてはたまらないだろう。ブレイブはダンジョンに入るまでリュージ達と一緒に行動することにした。




