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「それじゃ、私これと一緒にいくからー」
「あの、わて案内が……」
「はい、地図。多分この場所だから」
そう言ってパティがブレイブにおおよその道が書かれた地図を渡される。パティの手書きのようだが、かなり綺麗な直線だ。定規もないのによく書けるものだとブレイブは感心する。いや、それよりも重要なことは、相手の場所がしっかり描かれていることだろう。
「……確かにその場所でおーとりますけど」
「ならいいじゃん、ほら、行くよ!」
「あー、誰か助けて―」
そう言ってパティが案内妖精を引っ張っていく。同じくらいのサイズなため、実に奇妙な光景だ。
「……いつもと違うなあ」
パティの雰囲気が、いつもののんびりしてちゃらちゃらした感じとは違う、少し真面目な雰囲気を纏っていた。珍しいことに。それは、普段のパティが全く見せることのない空気、顔だった。それだけ、ここに来ることはパティにとって何かの意味があると言うことなのだろう。
「……まあ、パティのことはいいか。こういう時くらい、いろいろ楽しんでくるといいよ」
パティの消えていった方にそんな独り言を残し、ブレイブは示された場所に、書かれた道を通り向かう。この場所はNPCの住むところらしいが、他のNPCを見ない。そもそも、エクストラAIのNPCやプレイヤーAIのNPCは普段から各街の方に行っており、ここを拠点とするNPCはそこまで数が多くないと言うのもある。中には、パティや案内妖精のような、特殊性の高いNPCもいるが、そういうNPCは珍しい方である。
特にNPCを見かけず、指示された場所に到達する。その場所には一人の男性がいた。
「ああ、あなたがブレイブさん……でいいはずですよね? あれ、案内妖精に案内を頼んだはずなのですが……」
「あー……すみません、パティが連れて行ってしまって……」
「あなたの使い魔であるらしい、パーティキュラーが、ですか……そうですか……」
男性は難しい顔で何か考えているようだ。パティが案内妖精を連れて行った、その事実が何か重要なことを秘めているのかもしれない、とブレイブに思わせる程度には難しい表情をしている。
「えっと……」
「すみません、挨拶がまだでしたね。私は…………運営の人間、GMと言えば多くの場合わかりやすいでしょう。あ、プレイヤーネームはマツダです」
「ま、マツダさんですか……」
「ええ。まあ、本名ではないので気にしないでください」
「はあ…………」
ブレイブは微妙な反応しかできない。名前もそうだが、相手が運営側の人間であるためだ。どう反応していいのかわからないのだろう。
「しかし……そうですか、パーティキュラーがいないのですね」
「あ……もしかしていないとだめでしたか?」
「いえ……むしろ、都合がいいかもしれません」
マツダはそう、小さく言う。その言葉はブレイブにも聞こえている。パティがいないことが都合がいい、とうことはどういうことなのか。そもそもパティの素性に関しては、ブレイブはそこまで詳しく知らない。運営側はその手の事情にくっわしい可能性がある、それゆえに、パティがいない方がブレイブとの会話に都合がいい、ということなのだろう。もしかしたら、運営側がブレイブに話したいことはパティに関連したことの可能性もあるだろう。
「……ここで話すのも、よろしくはないでしょう。そこの建物の中に入りましょうか」
「あ、はい」
立ち話も何だと言うことで、マツダはすぐ側にある建物にブレイブを案内する。日本の和風建築の家屋だ。ガラガラと、引き戸を開け、中に入っていく。他の誰かの靴はなく、人は住んでいないのか、それとも今はいないだけか、少なくともマツダが気にせず入れるのだから、恐らくは誰もいないか、もしかしたら運営側の管理している家なのかもしれない。
「これで、周囲の目を気にせずに話せますね」
「……特に人はいないようでしたけど」
案内された今、机を挟んでマツダとブレイブは早退している。お茶の入った湯呑も用意されている。ちなみに、これは誰かが入れた物ではなく、マツダが空中で何かを操作して出したものだ。運営特権の特殊操作である。
「……まあ、あなたは気付いていないみたいですが、人の目が色々なところにあるのですよ」
ブレイブはまったく気づいていないが、マツダは運営側と言うことで、使われているスキルや本人の気づいていないかかっている状態異常などが分かっている。ブレイブは、常に誰かに見られている。少なくとも、スキルメーカーにログインしている間は。そして、ブレイブはそれに気づいていないようだ。
マツダは特に何かを言うつもりはない。その問題はプレイヤー側の問題だ。現状、ハラスメント的な問題も起きておらず、本当に監視だけなので、一応ギリギリ見逃されている。恐らくは、スキルレベルで言うと七か八はあるだろう監視スキルだ。少なくとも、開始当初から使っている可能性が高い。単にブレイブが少し前のコッチーニ防衛戦で活躍したから見ていたのか、理由は不明である。
「……ところで、俺が呼び出された理由は何ですか?」
「ああ、そうでした。こちらがあなたを呼び出したのでしたね」
色々とあったので半ば忘れていたが、ブレイブは運営側に呼び出された立場である。タイミングを考えると、コッチーニ防衛戦でのやり過ぎが原因なのか、とブレイブは考えているが、理由を聞かないとはっきりしない。
「そうですね……まず、あなたを呼び出した理由ですが、複数存在します」
「…………」
複数、とはいう者の、四つはないだろう。二つか三つ、と行った所だ。少なくともブレイブにはそれくらいの心当たりがある。
「まず、一つ目ですが……あなたのスキルに関して、ですね」
「やっぱり……」
「ああ、別に、禁止にしようとか、そういうものではないです。ただ……あの攻撃力は、ゲーム的に問題が大きすぎます。例えば、ダンジョン攻略、ダンジョンごとボスを討伐できるでしょう? 流石に、それは問題が大きいので……使用禁止、とは言いませんが、少なくとも他のプレイヤーと一緒にいるときに使うのは控えてほしいのですよ」
「はあ。それは、まあ、いいです…………けど……」
友人であるリュージと一緒にいるときもセーブする必要があるのか、と考えてしまうが、そもそもブレイブは自分の特殊性の高いスキルに関してはリュージにも終えしえていないので、使用しないこと自体には何の問題もない。
「でも、何故そんなことを?」
「ダンジョン攻略があるイベントの必要条件にあげられることもあるようなので……いえ、そういう条件のイベントもあるかもしれない、程度ですが」
「…………運営側がイベントを決めているのでは?」
そうブレイブが指摘すると、マツダの目が泳ぐ。運営側にもかなり色々な事情がある。マツダは、それを話していいかどうかを少し考え……折れる。
「……この話、オフレコでお願いします」
「はあ」
「私たちは運営ですが……このゲーム、スキルメーカーの作成を行ってはいないんです。このゲームを委託され、運営しているだけなんですよ」
「……そうですか。でも、運営しているのなら、イベントとかも運営側が行うのでは?」
「そうではないんです……私達が行えるのは、せいぜい問題を起こしたプレイヤーへの対処くらいです。ゲームの内容に、直接関与できないのです」
そう言って、マツダは内部の実情について語り出す。そもそも、スキルメーカーはマツダ達運営の会社が、倒産寸前の状態の時に話を持ち掛けられ、送られてきたものであるらしい。倒産寸前の会社の状況を立て直す、そのために、どんなものかもわからないが、藁をもすがるような思いで飛びついたらしい。
その後、スキルメーカーをだすまではとんでもなく忙しかったようだが、なんとか出すことができたようだ。そもそも、スキルメーカーの情報について乏しかったのは、運営側も詳しくないようを知らないため、であったらしい。ちなみにホームページはゲームを送ってきた人物の用意したものであるらしい。
そして、ゲームが始まり、運営されるのだが、そもそも運営側でできるのはプレイヤー関連が主だった。しかし、実際には、ユニークスキルの設定であったり、イベント管理だったり、ゲーム内でおきた、オブジェクトの修復であったりと、いろいろとおこなわれている。それには、このゲームの外の運営、人間の運営ではない、ゲーム内に存在する運営がかかわっているらしい。運営NPCと呼ばれる彼らは、運営側がログインしたときに入れる特殊な空間にしか存在せず、プレイヤーが合うことはない。そして、ゲーム内における、ほとんど必要なことは彼らやっているのだと言う。会社側が行うのは、サーバーとか、大体は物理的、ネットワーク的なもので、ゲーム内でやれることは本当に少ないらしい。
「それ、俺に話してもよかったんですか?」
会社内部の真実である。少なくとも、一プレイヤーに暴露してもいいものではないだろう。
「……確かに、普通なら問題となったでしょう。しかし、あなただけは例外です」
「それは…………」
「あなたを呼び出した、二つ目の理由。これが、呼び出した理由としては一番大きいものですが……パーティキュラーに関してです」
運営側がブレイブを呼び出した最大の理由。それは、パティに関しての話であった。