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「凄いことなってるなあ」
直斗はスキルメーカーの掲示板を確認している。ゲーム内ではなく、外部のものだ。その内容は、前日に行われたコッチーニ防衛戦の物について、だ。コッチーニの防衛は前回は達成されず、敗北の結果に終わった。今回、掲示板でかなりの勢いで話されるのは、イベントを勝利で終わらせることができたからだ。ただでさえイベントが少ないスキルメーカーだからこそ、イベント時の盛り上がりは普段とは違うだろう。
最も、その中で話題として一番大きいのは、やはり第一陣の大剣と雷だ。それ以前にコッチーニに降ってきた町全体を焦土にした火の玉を連想するような、強力で破壊的な一撃だったことが大きいだろう。一体それをだれが使ったのか、そもそもスキルなのか、スキルならば、あれほどの一撃をどうやってスキルとして使用するのか、運営の手ではないのか、NPCが使ったものではないのか、と色々と話が大きい。
他には、ボスである竜を地に墜としたプレイヤーについて、美空に関しての話であったり、直斗に関しても、優秀な魔法使いプレイヤーとして話題に上がっている。また、直斗は確認していないが、やはり今回もそれなりに活躍した"破城槌"であったり、人形使い……マリオットであったり、地味にりゅーじについての話もあったりした。以外に知り合いが多いという世界の狭さだ。ブレイブたちはスキルメーカーの初期からのプレイヤー故、しかたないかもしれない。
そんなふうに、外部掲示板でスキルメーカーのイベントの盛況を確認し、直斗はブレイブとしてログインするのであった。
ログインし、宿の外に出るブレイブ。そんなブレイブに、いきなり話しかけてくる存在がいた。
「どうもー。ブレイブさんですか?」
「……そうだけど」
赤い帽子に赤い服、どこか堅苦し雰囲気のある服装、下は足元まで伸びたズボン。そして、帽子と肩から下げている鞄には郵便マークが描かれている。
「私、ポストマンと申すものです」
「……郵便局員?」
「郵便局はありませんが、手紙の配達を請け負っているのは事実ですね。もし、用事があればギルドでお手紙の配達を頼めばよろしいですよ」
念話スキルで会話ができる以上、あまり意味のないものと感じられるプレイヤーの方が多いだろう。実のところ、宛先さえしっかりとしていれば、どのプレイヤー相手でも手紙を送ることができると言うメリットはある。相応にお金はかかるが。念話スキルとは別の利点があるが、それにほとんどのプレイヤーは気付いていない。
「ああ、それは置いておくとして……」
ごそごそとポストマンが鞄を漁る。ブレイブの視点から鞄が見えるが、その中には手紙一つしかない。つまり、ブレイブあての手紙しかないのだが、ポストマンはごそごそと中を漁り探している。実のところ、これは他にもあるように見せかけているだけ、だ。意味があるかは知らないが。
「これ、お手紙です。サインとかはいりませんので、お受け取り下さい」
「……手紙?」
ブレイブには手紙を送ってくるようなプレイヤーに心当たりはない。そもそも、郵便と言うシステム自体を多くのプレイヤーは知らず、知っているプレイヤーもわざわざ利用しようとは思わないだろう。ブレイブ自身、そこまで有名と言うほどでもない。
しかし、先日のコッチーニの防衛戦で活躍した人物の一人として地味に名前が挙がっており、それゆえに連絡を取ってこようとするプレイヤーがいないとも限らない。そういう点では、ありえなくもないだろう。その場合は面倒ごとに巻き込まれそうではあるが。
「お受け取り、確認しました。中身を読んでくださいね、重要なものですので。宛先を確認すればわかると思いますので。それでは!」
そう言ってポストマンは去っていった。意外と走るのが速い。
「……いったいなんなんだ」
「何でもいいでしょ? それより、手紙の確認しなくていいの?」
「ああ……まあ、一応確認しようか」
少なくとも知り合いでないことが確定しているため、面倒ごとの回避のためにこのまま捨てたほうがいいのでは、と思ったが、ポストマンも確認しろ、みたいなことも言っていたため、ブレイブは差出人を確認する。
「……運営!?」
その差出人は、スキルメーカーの運営だった。少なくとも、わざわざ運営側の人間が手紙を出すものか、と思ってしまう。当たり前だろう。運営側は、ブレイブを正当な理由でBANすることができるし、わざわざこんな手段で連絡を取る必要性はない。その気になれば、ブレイブを無理やり連れていくことだってできるだろう。運営とはそれくらいの権限を持っているものだ。
「うわー、運営側? とんでもないね」
「いや、とんでもないってどころじゃ……」
「ひとまず、ここじゃなくて他所で中身を確認しよう? 他の人に見られたらあれだし」
あまり人がいないとはいえ、全くいないわけではない。ブレイブの何かに問題があるとかの内容が書かれていたとしたら、それをみられて広められる可能性があるとなると確かに問題だ。人に届けられた手紙をのぞき見する方が最低だが。
ともかく、そんなふうに何か問題が起きないように、他の誰かに知られないように確認したほうがいいだろう、と言うことで、一人になれる場所を探す。パティがいる以上、誰かが接近して来ればわかるのだから、そこまで探すのは難しくない。
「えっと……」
手紙を確認する。封筒から取り出し、中を読むと、そこに書かれていたのは、招待に関する案内だ。ただし、その招待状はブレイブの身に出した者であり、一人で来ることが支持されている。あくまでプレイヤー一人、なので、NPCであるパティは問題がない。
具体的には、マッフェロイから北東、エムラント山林を出たところから真北だ。そこまで来てほしい、ということである。招待状なのに、そんな何もない場所に来いというのは奇妙に感じられたが、運営からの連絡と言うことで行くしかない。
「はあ……でもなんで運営側に……」
「心当たりは……まあ、なくはないよね」
じろり、とブレイブの視線はパティの方に向く。その視線に対し、パティは目を背ける。心当たりには、パティ自身も含んでいる。具体的に、大きく二つ。パティと経験値エネルギー化スキルだ。特に経験値エネルギー化のスキルはゲームバランス崩壊の危険すらあるくらいだ。また、パティ自身も、知りすぎているきらいがある。そのことについて、運営側から何か言われるのではないか、ということがあり得るだろう。
「とりあえず指定された場所に行くか……」
「すっぽかすわけにもいかないもんねー。それにしても……あそこかあ」
パティは何か知っている様子だ。ブレイブは向かうより先に何を知っているか聞こうと思って視線を向けるが、その視線に対しパティは指を重ねバツ印を作る。言わない、と言う意思表示のようだ。地味に色々と秘密主義のある面倒な使い魔である。
「お、キタで! あんさんがブレイブはんやな?」
「……妖精?」
ブレイブが指定されていた場所に訪れると、妖精に遭遇した。関西弁……少なくとも、それっぽく聞こえる言葉遣いをしている、変な要請だ。しかも、ダボ付いた服を着ている。ぶっくりと体が大きく見える。
「そーや、わては妖精やで! そやなー確かーえーっと……」
「助言妖精でしょ。何やってるの、こんなところで」
「ちゃうわっ! ここでのわては助言妖精ちゃうねん! 今は案内妖精や……って、パティはんやないかっ!?」
どうやら妖精は案内妖精と言う存在であるらしい。少なくとも自称では。しかし、パティが言うには助言妖精と言う存在らしい。そのあたり、パティの知っているそれと同じなのかは不明だ。案内妖精の反応からすると、少なくともパティとは知り合いのようだが。
「あんたプレイヤーのところにおったんかいな。ずーっとおらんくなったから、どうしたもんかと思っとったわ」
「別にいいでしょ。それより、そっちの役割を果したら?」
「そやな。えーっと、ブレイブはん? これからちょーっと、わてらの住む、NPCの居住空間に案内することになるんやけど、この場所については秘密な? 一応、ここ普通の人が来る所ちゃうから」
「あ、うん、わかった」
パティが会話していると言うことで、地味にブレイブが驚いてその内容についていけていない。
「別に秘密にする必要ないけどね。特殊な条件がないといけないし。招待状とか」
「それでもや。だいたい、パティはんがいるなら無理やり来ようと思えば来れるんちゃうか?」
「私もそこまでの権限はないよ? 助言……いや、案内妖精なら、できるだろうけど」
「……パティ、知り合いなんだ」
パティの反応が、どうにも仲が良いような、悪いような、喧嘩友達みたいな風な話し相手のように感じられ、少しだけパティと言う存在が遠く感じたブレイブであった。実際、ブレイブはパティのことについてそこまで詳しくは知らない。それはブレイブ自身がパティについて追及しなかったためでもある。もちろん、パティ自身がブレイブに言わない、秘密にしている、聞かないで、と示しているせいでもあるが。
「んー……まあね。私も、NPCの住む場所にいたから」
「へえ……」
「あ、そうそう。運営の人に会いに行くんでしょ? 私は別に呼ばれているわけじゃないし、向こうに着いたら知り合いに会いに行くから」
「……うん、わかったよ」
ブレイブは向こうではパティと別れるようだ。それを、ブレイブは少し寂しく感じるが、ずっとブレイブと一緒で知り合いと会うことがなかったのだから仕方ないとブレイブは考えている。
「なんや、パティはん随分しおらしいなあ。いつもと全然ちゃうな」
「黙ってようか? それとも、口を潰されたい?」
「怖いのは変わらんなあ……ああ、首に手をやらんでや! 折れる、折れるからっ!」
「折っても死なないでしょ? あ、それとも息できなくなるのがお好み?」
「……! ……!」
「……パティ、それじゃあ喋れないだろうから、やめてあげたら」
「はいはーい」
「……すんまへん、助かりましたわ」
地味にパティの怖い面が垣間見える。普段とは違うパティが見られるある意味貴重な機会だった。




