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モンスターの第一陣はブレイブの攻撃魔法により、七割を削り、残った三割でも、ある程度分断された状態であったため、相手をするのに不都合はなく、余裕をもって倒すことが可能だった。故に、プレイヤー側の被害は、数人がダメージを負ったものの、死亡者なし、街中への侵入もなしで撃退することができた。
それはあまりにも早い全滅だったのか、次のモンスターが来るまでプレイヤーが少し暇になるくらいの時間が空いてしまった。
第二陣は飛行モンスターと地上を行くモンスターの混合だ。両者ともに、移動速度が速い。その代わり、単独の戦闘能力は低い。代わりに数がいるし、空を飛ぶと言う厄介な相手だ。飛行モンスターを相手にするには、地上で戦うことを主体とする多くのプレイヤーにとっては飛行モンスターが近づいてきたときしか攻撃手段がない。
「ファイアーボール」
ブレイブの発動する魔法が舞う。本来ならば、無数に展開し弾幕のように空を飛ぶモンスターを打ち落とせるのだが、気づかれていないとはいえただでさえ第一陣の殲滅をしたのに、さらにモンスターを横取りするのは良くないと言うのがブレイブの意思である。故に、数発程度を打ち出すのを何度か行う程度で、そこまで大量にモンスターを相手にしないようにしている。
もちろん、空にいるモンスターを攻撃すれば、攻撃してきたときに攻撃する場合とは違い、ヘイトを多く稼ぐ。故に向かってくるモンスターの数が増え、ファイアーボールを抜けていくモンスターも多い。
「ふっ!」
そういったモンスター相手にするのがフィルマの役割だ。彼女はブレイブの盾役、護衛役だ。盾とするには少々防御力が低く打たれ弱いが、攻撃力の高さにより向かってくるモンスターを斬りおとしてブレイブのところまで抜けていかないように対処している。たとえ倒せなくてもブレイブの側にはパティがいるため、過剰に守る必要はない。最も、フィルマは真っ二つにできない場合は翼狙いで空中を飛行して抜けていけないようにしている。一体たりとも抜かせるつもりはないと言うことだ。
「大分襲ってくるモンスターが減ってきましたね」
「かなり撃ち落としたし……こっちばかりじゃないしね」
第二陣のモンスターは第一陣の物よりも少ない。数がいると言ってもその程度だ。空を飛ぶモンスターばかりいるとそれはそれで困る。ブレイブたちのような、遠距離攻撃手段を持つプレイヤーは空を飛ぶモンスターを、他のプレイヤーは地上を征くモンスターを相手にしている。その差もあるが、両者の数も、比率的に差がある者でもない。全体的に数が減ってきた、というのが現在の状態だろう。
「パティ、どんな感じ?」
「確かに減ってるよ。うーん……まだ全滅はしてない、ね。空中の方は。でも、地上はもう倒しきれるかな」
こちらからも攻撃でき、護衛役などを考慮しても、空中のモンスターを効率的、優勢的に倒せるわけではない。それに対し、地上のモンスターは相手をしやすく、結果として空中のモンスターを撃滅する前に地上のモンスターが全滅に近い状態となっている。弓矢、魔法使いはどうしても矢弾が尽きることも考えられるのもある。さらに言えば、この後のことを考慮しないといけないだろう。
「……来た」
「来ましたね」
またパティとフィルマの言葉が被る。両者ともに、同じだけの気配探知能力なせいだが。どちらかと言うと、対抗意識の問題もあるのだろう。
「来たって……」
「第三陣です」
「ちょっと高いところに行って見たいけど……」
まだ空中のモンスターがいる。それらを放置して、高い所に向かうことは出来ない。途中で襲われることになるだろう。
「はあ……ばれ……てもいいか」
例の魔法スキル、経験値をエネルギーとして扱うスキルとは違い、多く使っている魔法スキルがばれたところで何ら問題はない。一応、魔法使いプレイヤーとして異常なほどに強いとは認識されるかもしれないが、極大の魔法スキルを扱えるはずもないというのはわかるだろう。流石に勘違いされるほどではない。
「ファイアーボール、ファイアーランス」
空中に火の玉と火の槍が無数に展開される。多くの魔法使いプレイヤーにとってはそれだけで驚くべきことだろう。実際には現在展開されている以上に展開できるが、それをわざわざ言う必要もない。そもそも、スキルレベルの関係で他のプレイヤーが想定するよりはMP消費は若干少ないのだが。
無数の火の玉と槍が空に飛んでいるモンスターを打ち落とす。無数の火の玉と槍が地上から迫り、逃げ場はない。かろうじて撃ち落とされなかったモンスターもわずかにいるが、それは本当にわずかだ。残っていたモンスターはほぼ全滅、第三陣が来る前に残りも倒しきれるだろう。
「よし、上に登ろう」
「先に行ってます」
フィルマが跳躍と空中跳躍を使い、高い所に上る。ブレイブもそれに倣い上る。
「……あー、結構やばいな」
「あのモンスター、初見ですが……なんですか?」
「亜竜。コッチーニの湿地帯の先にいたよ」
そこまで行ったプレイヤーはブレイブのみである。多くのプレイヤーは今回が初遭遇となるだろう。そして、その弱点の少なさ、有効手段の無さに苦心することになる。
「…………ボスも来たようですね」
「あれが……」
亜竜たちもそうだが、それ以上に目を引くものもいた。空を飛び、ゆっくりと近づいて生きている存在。以前のコッチーニ防衛戦の時のプレイヤーたちを最終的に全滅させた竜だ。
「ちなみにあれダンジョンのボスだからねー」
「……えっ」
土塔のダンジョンの最上階のボスである。あれそのものでなくとも、少なくとも本物の竜種がボスとなっている。ちなみに、土塔の上に空いている穴は竜が通ってこれるようにするためのものだ。
今回、ボスとしてきている以上、ここで倒すことも可能だ。その場合、ダンジョンには今回来た竜の子供が待ち受けることになる。その場合はかなり弱体化した状態なので、倒しやすくなるだろう。つまり今回のコッチーニ防衛戦は土塔のダンジョン攻略においてかなり有利にできるタイミングであったりする。
「……と言うか、あれ大丈夫なんだろうか」
ボスの出張、にしては、明らかに異常な強さを持つだろう竜。その相手をするには、プレイヤー側には荷が重いのでは、とブレイブは考えた。
亜竜たちは有効な攻撃手段はない。それでも、属性を持つ魔法攻撃のようなものではなく、通常の攻撃であればそこそこ通じる。しかし、例えばブレイブのファイアーボールのような、有効な攻撃手段だが威力が低い攻撃、というものが全く有効にならない相手であり、それゆえに相手としては難しい。多くの遠距離攻撃、魔法攻撃のプレイヤーが有効攻撃手段を持たず、近距離でも盗賊系や短剣使いみたいな、攻撃力が低いが数で押すタイプではどうしようもない。
結果的に、多くのプレイヤーが退かざるを得ず、直接戦うプレイヤーも数に圧されてしまう。プレイヤー側の劣勢となっている。
「ソードレイ!」
その中でも、少ないながら遠距離でも有効な攻撃手段を持つプレイヤーも少なからず存在する。強力なものであれば、弱化するものの属性攻撃も有効である以上、本当の意味で全く戦いに参加できないわけでもない。ブレイブは、属性攻撃でない魔法スキルを開発し、それを対亜竜用に使っていた。そのため、魔法使い系のプレイヤーでも前線に参加できる珍しいプレイヤーとなっている。
「バリア!」
パティは、相手モンスターを抑えるためにバリアを利用して参加している。攻撃することだけが戦闘ではない。相手の行動妨害も一つの手だ。
「数が多いなあ!」
「仕方ないですよ、流石に」
フィルマはそんな前線に出てきたブレイブに近づくモンスターの排除が主だ。直接戦闘よりは、刀を用いて敵を吹き飛ばす、救い上げるなどで遠ざけることを主とする。理由としては、倒すのに手間取るとブレイブの下までモンスターを通してしまうからである。
「……ですが、拙いですね」
「プレイヤーの数はそろってるんだけど……」
現在のプレイヤー数は、前線組がかなり減っている状況だ。亜竜は亜、とつくように、竜ほどの強さはない。しかし、亜がつくとはいえ、竜なのだ。相応に強い。その辺の、有象無象のモンスターよりもはるかに強い。属性の攻撃手段、低攻撃力の攻撃が通用しにくいと言うのもまた、対抗するのを難しくしている。一定以上のダメージソースがないと、ほとんどダメージにならないと言うのはかなり厄介だ。
「……なんとかすることはできるんだけど」
フィルマに聞こえないように呟く。ブレイブであれば、第一陣の時のように殲滅することは出来るだろう。ただ、第一陣と同じようにやるわけにもいかないし、流石に獲物を摂りすぎるのは良くないと言うのが第二陣の時と同じようにある。また、前線に出てきているというのもあって、隠れて行うこともできない。別に隠れなくてもばれることはないが、見られているとやはり使いにくいと感じてしまう。
どうしようか、とブレイブが迷っていると、フィルマがブレイブに話しかけてくる。
「先輩」
「……何、フィルマ?」
「竜を落とすのはどうでしょう? ボスが率いているのであれば、ボスを倒せば勝利できるのではないでしょうか?」
「……多分、そうだと思うけど」
ブレイブには正確なところはわからない。つい、ブレイブはパティに視線を移す。
「確かに倒せばいけるよ? でもどうするの?」
「先輩、ブロックと言う魔法で足場を作れますよね?」
「できるけど」
「私が跳躍と空中跳躍で空に昇りながら、竜の方へと向かいます。その私の着地点となる場所にブロックの魔法を使って足場を作ってください」
空中跳躍は空中にいる間一回のみしか使えない。一度着地しないともう一度使うことが出来ない。二段ジャンプのようにも見えるが、二段ジャンプはまた別のスキルとなっている。
「えっと……」
「それはできるけど、竜を倒せるの?」
「倒せるかは不明ですが……落とせばなんとかなりますよね」
以前は負けたが、以前よりもプレイヤー自体は強くなっている。前のようにはいかない。少なくとも相手の強さが上がっていない限りは行けるだろう。
「ブレイブ、やろうよ」
「……わかった」
「お願いします、先輩」
とん、と地面を蹴って、フィルマが高く跳ぶ。流石に行動が速い。
「感覚共有するよ! フィルマの現在位置の座標を追って、その落下位置の予測は私がするから、指定した場所に行ったらすぐに使って!」
「了解!」
急遽行うことになったが、ブレイブは何とか対応する。フィルマが跳躍と空中跳躍で空を駆け、ブレイブが足場としてブロックの魔法を使い、それに着地するとまた同じように跳躍と空中跳躍。それを繰り返し、竜へと近づく。その過程で、竜よりも高い位置までつく。
そして、跳躍を使わずに落下する。これにはブレイブ側も動きの緊急変化で対応できないが、ここまでくると足場を作る必要もなくなっている。あとは落下し、斬り飛ばすのみ。
「確か……こう、でしたね」
過去、フィルマは剣道を学んだが、その道場で少しだけ学んだ、特殊な剣術。それを思い出し、竜の背中、翼に向けて振るう。振るわれた刀は、あっさりと、竜の鱗も肉も無視して、翼を斬り飛ばした。
竜は翼を羽ばたかせ空を飛ぶわけではない。しかし、竜は翼を持つ。そして、翼を広げ空を飛ぶ。それは竜の持つ力、翼に込められた魔力で空を飛ぶ、という特殊能力のようなものだ。故に、翼を失った竜は空を制することができず、墜落した。
竜が墜落した後、プレイヤーたちはこぞって竜に群がる。雑魚を相手にしていても仕方がない、ということと、大ボスこそ倒すべき相手であり、色々とうまみがあると言うことだ。もちろん、雑魚を放置するわけにもいかないため、それらの相手もするが、結構な数が竜に向かう。もちろん、竜も一方的にやられるわけではないが、流石に巨体故の判定の広さと、攻撃範囲こそ広いが、近すぎると中々細かく攻撃できない点も重なり、何人かのプレイヤーを死亡させるが、圧倒的にダメージの方が多い。
結果として、竜の討伐は成功する。犠牲も被害も大きいが、ボスを倒したことで残ったモンスターが湿地帯の方へと退散、幾らかが北側のフィールドへと逃げていった。恐らくは、あの逃げたモンスターがフィールド上のユニークモンスターになる感じなのだろう。
コッチーニ防衛戦は、今回はプレイヤー側の勝利に終わった。




