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「久しぶりだなブレイブ!」
「久しぶりも何も、学校で会ってるよね!?」
スキルメーカー内では久しぶり、ということである。いつものことだが。リアルでは仲が良いのに、なぜかゲーム内では一緒に遊ばない、プレイしない、そんな感じになっている。基本的にリュージが妹たちと団体行動をしているのが主な理由である。また、目的が一致していないのも大きいだろう。
「久しぶりです!」
「うん、ツキは本当に久しぶりかな」
三人の中では、ほぼリアルで会う機会がないツキはブレイブにとっては本当に久しぶりだ。
「こんばんは、および、初めましてー!」
「初めまして……あ、フィルマから聞いてるが、確かパティだったか?」
「そうだよー!」
「初めましてー、パティちゃん」
「ツキにリュージ、よろしくねー」
「……フィルマにはちゃん付けなのに」
二人には敬称の類はない。何故か、と微妙にブレイブの中では疑問である。
「フィーリングだよ。フィルマちゃんは……なんか感じるものがあるんだよ」
「ふーん……」
相変わらずパティにはわからない所が多い。ただ、何らかの一貫性はあるように感じられる。ブレイブたちは、今後のことを話し始める。具体的には、防衛戦をどうするかだ。
「ブレイブさんはどうするの?」
「基本的に、遠距離から魔法撃ちこむだけかな」
「私と同じかー」
魔法使いであるブレイブは主に遠距離攻撃主体となる。そもそも、近づいて戦えと言う方がおかしい。杖しかもっていないし、身体強化スキルを持っていない。そういう点では、ツキとやることはあまり変わらないだろう。
「でも、流石にいつも使ってるファイアーボールとかはあまり効かないんじゃないのか?」
「モンスターのレベルも上がってるし……今回は前と同じかな?」
「ずっとあの魔法しか使ってないわけじゃないから。色々と使えるから」
パティの指導により、雷や物理、様々な魔法が充実している。ただ、支援や防御などの魔法は全然育っていない。攻撃系の魔法スキルばかりである。
「……姉さんは兄さんと一緒ですよね。二人は前線に出ます?」
「ツキを守らなければならないしな。どうする?」
「うーん……後ろでもいいけど、前と同じじゃあつまらないし……兄さんずっと後ろだと退屈でしょ?」
「じゃあ、一緒に前に出るか!」
それでいいのか、とも思うが、ツキとリュージがそれでいいのならばいいのだろう。
「フィルマはー?」
「私は……先輩の守りにでも」
「え?」
流石に事前の相談も兆候も内容で思わず、と言った感じに驚いた声をブレイブが出す。
「遠距離からとはいえ、先輩も一人でいるわけにはいきませんよね? 飛行タイプのモンスターもいます。流石にヘイトを稼ぎ過ぎると危ないですよ?」
「いや、でも……」
パティがいる以上、そういった支援は必須ではない。そもそも、ブレイブは一人の方がいいのである。スキル的に。隠している例のスキルを知られないようにするために。
「別にいいじゃん。フィルマちゃんがいてくれれば、色々と楽だよ?」
「え? ちょっとパティ?」
「よし、ならフィルマはブレイブについてろ」
「そうだねー。こっちはこっちでなんとかするから」
「あの、お二人方?」
もはやブレイブが置いてけぼりでフィルマが着くことに決まってしまった。
「……フィルマはそれでいいの? 前に出ないと思うけど」
「私が行った所で、単独でしか戦えません。多対一でも全然大丈夫ですが、対した結果になりえないので……」
フィルマ自身の強さは相当だが、駆け抜けて傷つける方法でのヘイト稼ぎは今回のような場合にはあまり意味がない。そもそも、わざわざ相手の中に突っ込むのは自殺行為だ。数体どころか、数十、下手をすれば数百体の中を抜けるのは難しい。つまり、フィルマの戦闘手段と会わず、抜けてきた相手を倒すくらいしかできない。前回はそれでもまだよかったが、それはあくまで前半のまだ数がそこまで多くないうちである。数が増えれば増える程、乱戦になるほど、ヘイトの誘導効果は薄い。雑魚の切り捨てはそこそこ優秀なのだが。
そんなふうに、色々と話しているうちに、周辺のプレイヤーがどんどんざわざわと騒めく。波のように、ざわざわと話しているのが伝染して言っているようだ。
「来たね」
「来ましたね」
パティとフィルマが同時に発言する。
「……パティが感じたと言うことは、本当に来たんだろうけど、フィルマも気配の探知とかできるんだ?」
「スキルではないですけどね」
スキルでない気配探知は本当の意味で感覚的なものだが、パティクラスの感知能力は異常と言える。最も、実際にパティのものと同程度と言うわけでないだろう。単純に、パティが来たと発言できる感知範囲と、フィルマの感知できる最大範囲が同じだったというだけで、パティの方が感知範囲は大きい。
「どっちだ?」
「南です。前と同じ、湿地帯の方角」
「……まあ、そうだよね」
ブレイブは土塔でモンスターの集団を見ていた以上、モンスターが来る方角が分かっている。ただ、確実にそうだと言える確証と証拠がないのである。
「よし、南に向かうぞ」
「行くよ」
ツキとリュージがコッチーニの南の方へと向かう。それに倣ったわけではないが、他のプレイヤーも南へと向かっている。モンスターが向かってきた情報が出てきたのだろう。
「どうします?」
フィルマが尋ねる。本来であれば、フィルマもブレイブを南に行こうと誘うようなタイミングだが、そうしないのが彼女だ。何故なら、彼女はブレイブがまっすぐ敵の方に向かうとは思っていないからである。
「フィルマは南に行かないの? 敵を感知したんでしょ」
「先輩はいかないでしょう?」
「……いや、そうだけど」
フィルマはブレイブの反応にくすくすと笑う。
「兄さんたちと合流する前に、色々と確認していたでしょう? 見晴らしのいいい、人の来ない場所を。目的は大体わかります」
「まあ、わかるよねー、普通」
「…………ええー」
「いい場所があります。案内しますよ?」
そう言って、とん、と地面を蹴り跳躍する。そのまま、空中をもう一度蹴って屋根の上に上がる。最初の跳躍でも上がれなくもないだろうけれど、二回やった方が確実だ。それはブレイブの知らない跳躍だ。
「え? 今の何?」
「空中跳躍のスキルじゃないかなあ。でも、これ、コツとかいるやつだね。前提スキルも必要だし……詳しい条件はフィルマちゃんに聞いたら?」
「そういうスキル……というか、前提とかコツとかいるの?」
「跳躍スキルのレベル次第……だと思う。コツは流石に私にはわからないけど」
そんなふうにパティと話していると、上からフィルマがブレイブを呼ぶ声がする。少し長話になったようだ。ブレイブは同じようには飛べないので、途中で壁を利用した跳躍で屋根に上る。
「ごめん、さっきのスキルに関してちょっと話してて……」
「聞こえてました。空中跳躍のスキルについてですよね? 後で教えてあげます」
「ありがとう」
そのまま屋根の上を伝い、とある建物にある鐘を鳴らす塔がある建物に窓から入る。
「ここなら見晴らしもいいし、人もいません。プレイヤーは南に集中していますし、NPCはいませんから」
「うん……良く見える」
そのまま、モンスターが来るまで待機する…………といきたかったのだが。
「あの、フィルマ?」
「何ですか、先輩?」
「ちょっと、外に出ててほしいんだけど……」
都合上、ブレイブは自分が何かをしたところをあまり見られたくはないようである。そもそもからして、見られたからその全てがわかると言うわけでもないのだが、何かをしているところをみられれば、あの魔法スキルをブレイブが発動したことが分かってしまう。それを回避したいのだ。
最も、本気で回避したいのであれば、こんなところへの案内をフィルマに頼むことが間違いだ。隠れてしたところで、明らかにブレイブが怪しいのは間違いないのだから。
「よし……こんなものかな? パティ、座標は大丈夫?」
「うん、モンスターが多いからわかりやすいし。コッチーニの時は範囲がはっきりしてるからやりやすかったんだけどねー」
遠距離に起点を置いて発動する。直下に落下させるタイプの魔法では、どうしてもどこに魔法を発動させるかを決めなければいけない。そのため、パティを用いて敵のいる場所を把握したうえで、良い所に魔法を落とすため、モンスターの座標、魔法の発動機点の座標を正確にする。具体的にはパティの感知スキルと、それによる座標の位置の把握をパティと共有することで理解する。スキル利用だからできる無茶だが、まともにやろうとすると人間では処理能力が追い付かないだろう。かなりごまかしが必要になるような作業だ。
「あとはモンスターが来るのを待つだけか……」
「プレイヤーが出向いたらどうする?」
「巻き込まれてもらおう。流石にそういったプレイヤーを対象にしない設定とかやってらんないし」
モンスターの群れに突貫するプレイヤーは早々いないと思われるが、もしいたらかなり不幸なことになるだろう。




