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結局竜には勝てなかった。そして最初の日に戻ってくる。
『うわー。こんな景色最後に見たのいつだったかなー』
「セリアはそもそもどういう生まれなんだ?」
特に問題なく、セリアが一緒だった。ただ、精神体だからか、こちらによく話しかけてくる。
正直五月蠅いと感じる部分もあるが、普段セリアとは戦闘を主にコミュニケーションをとっている状態だった。
そういう点では、精神だけの状態である今のセリアと話すのがある意味普通のコミュニケーションをとっていることになるのかもしれない。
『私は……普通の家だったかな? だいたい5歳か6歳くらいの時に王宮に連れてかれたし』
「そうなのか」
あまりこういうセリアの事情は聞いたことはなかった。色々あったようだ。
『うん。あんまり昔のことは興味なくて覚えてないけど。家族の顔もほとんど覚えてないかな。昔は一人で寂しかったみたい』
「昔はって……今は?」
『別に。慣れちゃったというか、どうでもよくなったというか……あ、今はスィゼと一緒だしね。もう私はそれだけでいいよ』
「……そうか」
『ところでこれからどうするの?』
「まずは街まで行ってギルドに登録。それ以後はいろいろ戦争に対しての準備。とりあえず、まずはセリアを倒すまでかな」
『私を倒す……かぁ。あ、でも今ならスィゼの行動をスィゼの視点から見れるんだよね。それは参考になるかも』
こんな状態でも闘いに関して考えるのか、と思ってしまう。だけど、ある意味セリアらしいとも思う。
『あ! あれ魔物?』
闘いに関して考えてていいから少し静かにしてほしい、と思う。切実に。
セリアに勝ち、このループでのセリアに精神体のセリアを入れる。
「何か問題はあるか?」
「特にないよ。むしろ、強くなった気がするかな?」
強くなった? ただ精神を入れただけだ。だが、自分のループの状況で考えるならば、魔力が増える可能性はあるかもしれない。
「俺もループしているうちに魔力が増えていたから、セリアも魔力が増える可能性がある……のか? パティ」
「よっ。別に聞いてもいいけど、一々実体化しないと二人に説明できないんだよ?」
「ああ……今までの形だと俺しか聞けないのか」
「別に私は説明されなくてもいいけど」
「いいから聞きなさい」
「そうそう。別に頭に入れなくてもいいから私の話を聞けー! と言っても、まあ、あまり話す内容はないけどね。そもそも魔力は精神、肉体、魂で保持されてる力だから。明確に同じだけ分かれているわけじゃないけど、精神体も魔力を持っているから、それをもともとの自分と融合すれば魔力量は増えて当然だよね」
「保持魔力が増えるのはわかるけど、最大量も増えるのか?」
「魔力が増えるのと同時に精神も増えるからね。桶で例えると魔力だけ増えると水だけが増えることになって溢れるけど、精神も一緒に増えると枠部分が増えることになるから、溢れない。この外枠が最大の魔力量」
いまいちたとえが分かりづらいと思うが、一応わかる。
「まあ、原理に関しては説明しても面倒だし、ループをして自分と融合すれば魔力が増える! でいいと思うよ」
「うん。それくらい単純に言ってくれたらわかりやすくていいね」
セリアはもう少し考える方向に頭を使ってほしい。若干脳筋ぎみではないだろうか。
セリアと竜を倒すための特訓をする。今のセリアは前回特訓し、ある程度技術はついている状態だ。
肉体が前回の最後の状態と違うし、1年近く精神体だったため、今はできるだけ馴染む方向で練習している。
しかし、やはり飛行して竜と戦うというのは難しい。現在は練習しているが、飛行だけならともかく戦闘も入ると厳しい。
「やっぱり厳しいな」
つい弱音が出る。やはり竜との戦いを行う上で対策の取りようがない状況だ。
「お前さん、何をやっておるんじゃ?」
「!!」
どうやら誰か来ていたようだ。竜との戦闘についてばかり考えて人に気付かなかった。
声の方向を向く。……師匠だ。
「……あなたは?」
「ふむ。そうじゃな、挨拶をしておらんの。儂はメハルバ・ケルネオス。この国の多くの魔術師達の師よ」
「あなたが」
知っている。自分の師匠だった人でもある。ただ、今回は…しばらくずっとだが、この人と関わってはいない。
ループの問題の一つだ。それまでの人間関係がリセットされてしまう。たとえどれだけ恩を受けても、与えても、次のループには関係がない。
だから、普通知っている程度の情報で接するしかない。
「俺は」
「知っておる。先の戦争での最大の貢献者じゃろう? 確か……スィゼと言ったか」
「はい、そうです」
名前を呼ばれたのは初めてだ。いつも弟子の時はお前さんかお前と呼ばれていた。
「うむ。それで、お前さんは何をやっておる? いつもお前さんが宙を飛んで何かやっている、と聞いてな」
「見られていたか……」
何と説明すればいいだろう。
「……近々、竜が復活するのを知っていますか?」
「…………知らんな。その情報はどこで?」
「教えられません。ただ、確実にその時が来る、というのはわかっています」
「信じられん話じゃ。しかし……お前さんがやっているのは対竜の訓練か」
「そうです」
ふむ、と師匠が空を見上げて考える。
「お前さんは魔術の属性の根源的性質を知っておるか?」
「はい」
「その中で、風属性の性質は空間の支配じゃ。それはわかっておろう」
「はい」
「……儂の作った魔術でも、風属性でできるのはせいぜいが空間の隔離くらいまでじゃ。そして、儂ら普通の魔術師ではせいぜいが空間を自由に操作できるくらいの魔術までしか使えん」
師匠が普通の魔術師であるとは思わないが、魔力量のことを考えるのであれば、白までは普通の魔術師の範疇と言える。
伝説的な青や黒の魔術師は現在存在していない。いや、ある一人だけは例外だ。
「じゃが……儂らの使う魔術、それらよりもより根源的。世界の始まる前、世界の外側に近しい魔術。それらであれば話が変わってくる。より上の性質を持つ。火属性であれば、世界を形作るのに使われた世界そのものになるエネルギー、水属性であれば、生命の起源性質。土属性であれば、物質の完全掌握。風属性であれば、世界法則の支配。光と闇は魂への関与などじゃな」
「……それは」
「わざわざ自分も竜と同じように飛んで戦う必要はない。落とせばいいのじゃ」
「できれば苦労しません。竜は普通の方法で飛ばないようです」
「飛び方は関係ない。飛行できない場所にすればいいのじゃ。例えば、大量の土砂で無理やり引きずりおろす、とかかのう」
なかなか突飛な発想だ。だが、その方法は問題がある。
「それを実行できるとは思えませんけどね」
「そうじゃな。あくまで例えじゃ。じゃが、お前さんには心当たりがあるじゃろう?」
恐らく、師匠の言っているのはセリアのことだ。セリアは先祖返りだ。師匠はそれに気付いた。
「これをやろう。もしかしたら何かの役に立つかもしれん」
手のひら大の石をもらう。
「これは?」
「わからん。ただ、普通のものではないのはわかる。できる限り調べてみたが、わからないことがわかっただけじゃったよ」
そんな石をもらってもある意味困る。今もらっても使い道がないというか。
「何かの足しにはなるじゃろう。お前さんは何か普通でないようじゃからな」
「!」
今まで何度か師匠の弟子になったとき、色々と使っている魔術や知っていることに対して聞かれたことはない。
今回も同じように特に何かを聞いてくるわけでもなかった。だが、おそらく気づかれてはいるのだろう。
色々と何か秘密を抱えていることに。それだけ、師匠は能力と知性、経験がある。
「じゃあの」
師匠はそう言って去っていった。
「…………」
「スィゼ」
「パティ?」
いつの間にかパティが実体化している。
「それ渡して。今は使えないから」
「え? これか?」
「そう。渡して」
師匠からの貰い物である石を要求してくる。確かに持っていても何かに使えるわけじゃなさそうだが。
とりあえず渡してみる。渡した途端、パティが大口を開けて石を飲み込む。
「パティ!?」
「あの爺さん、なかなか喰えない相手よね。まさかこんなもの持ってるとは思わなかったけど。正直、私があんまりこういうことするべきじゃないんだけど……」
「パティ……?」
「あ、ごめん。こっちのこと」
そういってパティが実体化を解除する。
以前からもそうだったが、やはりパティは異常だ。害はないみたいだが、やはり何かある。
自分で作った使い魔のはずだが……神か何かが関与しているのだろうか。ループみたいに。
とりあえず、師匠の言っていたように空を飛ぶのではなく、相手を落とす方向に考えてみよう。
新しいことがあれば、挑戦してみるのは悪くない。死んでも次がある。