61
アメリアが街の外に出ようとしたところで、一人のプレイヤーに捕まる。
「アメリアさん、こんばんは」
「うおっ!? フィ、フィルマさん? 脅かさないで欲しいッスよ……」
フィルマである。どうやら、アメリアを見かけて……かは不明だが、アメリアに影から声をかけたようだ。
「ところで、何か用ッスか?」
「聞く必要もないでしょう? 何度か利用してますけど。アイアンロンドでできてないと言われたので、今回取りに来ただけです」
「ああ……そういえばそんなこともあったッスね」
フィルマの使う武器は刀である。いつの間にか所持していたが、それはアメリアに頼んで作ってもらっていた者である。最初にフィルマとアメリアがあったのは以前のコッチーニの防衛戦の時である。地味にそれから何度か付き合いもあり、フィルマの武器はすでに刀になっているのである。
「えっと……まあ、できてるッスよ。ちょっと出すッスね」
ごそごそと持っている武器群を漁り、その中の一つをフィルマに差し出す。
「これっス」
「ありがとうございます」
刀を受け取り、代わりにその分の代金を払う。代金はいつも同じ額、一括払いである。フィルマは武器を受け取った後、街の中で軽く素振りをしている。まだ防衛戦が始まっていないが、人もほとんどいないし危なくはないだろう。そもそも、街の外が近いのもあり、そこまで問題にもならないだろう。最も、街の中で振るうなと近くにプレイヤーがいたらいわれる可能性はあるが。
「……フィルマさん、ちょっと気になってたこと言っていいッスか?」
「なんですか?」
素振りをして、武器の様子、使い心地を確認しているフィルマにアメリアから話しかける。アメリアは、以前から気になっていることがあった。普段は露店というか、アメリアがいる場所にフィルマが来て刀を渡すため、どうにも聞きにくいが、今回は移動中、すぐにその場から去ると言うこともあり、聞いてもすぐに逃げられると言う思いがあったから訊ねる機会としてはいいと言うことで訊ねたのだろう。
「最初はあまり気にしなかった……というか、違和感と言うか、そういのが無くて気が付かなかったッスけど。どこであたしの名前を知ったッスか?」
「…………………………」
フィルマは無言で素振りを続けている。何も言わない、と言うのは特にいうことがないと言う意味ではない。何も言えない、何か言ったらぼろを出す、と言うことである。つまりは、何か裏がある、隠し事があると自分から言っているようなものなのだ。
「名前表示スキルあるじゃないですか。それです」
「その表示にも限界があるッスよ。基本的に、名前を出したくないプレイヤーには無効ッス。看破系のスキルもあるッスけど、隠蔽スキルもあるッス。あ、あたしは隠蔽スキル持ってるんで、名前の表示は基本的にされないッスよ」
ちなみに、何故アメリアがわざわざ名前を隠すスキルを持っているのかと言うと、名前で覚えられるのではなく、武器とその銘で制作者を覚えられたい、という思いがあるからである。実に面倒くさい趣味をしていると思わざるを得ない。しかし、その趣味のせいで今回フィルマがアメリアの名前を知っていたことがばれたという展開となっている。
はあ、とフィルマが軽くため息をつく。別段どうでもいいような、気にするようなことでもない内容で地味に面倒なことになっているからだ。名前くらい知っていた所で問題ないだろう、というのがフィルマの心の中での意見だ。言わないけれど。
「…………秘密です」
「秘密って……!?」
ぞくり、とアメリアの背筋に悪寒が走る。悪寒、というには奇妙な空気、いや、雰囲気だ。アメリアはフィルマの表情を見る。普段と変わらない、軽い笑顔に近い表情だ。だが、同時にそれは無表情に見える。いや、問題は表情ではない。噴出した雰囲気、気配、いわゆる殺気に近いそれがアメリアに向けられている。
「……あ、あの」
「何ですか?」
「……何でもないッス」
言葉一つ、聞くだけで押し出されるような気配がビンビンにアメリアに向けられる。攻撃的ではあるものの、敵意や悪意の類はないのが救いだ。多分、籠っている感情は、てめー黙ってろ、というものだろう。
ちなみにこの気配はフィルマのスキルとかそういうものではない。スキルメーカーにはスキル以外にも、色々と存在し、謎が多いのである。
「わかったッス、聞かないッスから、これ押さえてくれないッスか?」
「……ええ、そうします。もう聞かないでくださいね?」
「うう……もうこんな怖い想いしたくないッスし、わかったッスよ……」
下手をすれば腰を抜かしたり、漏らしていたかもしれない。そんなものをもう一度浴びたいとは思わないだろう。
「今の、何ッスか? スキルか何かッスか?」
「違います。私にもよくわからないものですけど……」
スキルメーカーの検証班でも、幾らか検証されている項目だが、スキルメーカーにはステータスやスキルに縛られない、何らかのものが存在している。スキルの上昇の仕方がいい例だろう。そういった、個人差であったり、今フィルマの使った、気、気配、雰囲気だったりと、色々と存在する。
「まあ、いいッス。あたしはもう行くんで」
「はい。お疲れ様です」
アメリアはフィルマと別れ、アーテッドに向かう。一応、負けた場合はコッチーニでログアウトしていてもアーテッド復活だが、流石にそれを考えるのは問題だろう。それに、今回はブレイブも存在する。アメリアはブレイブの持つスキル、コッチーニを焦土にした魔法スキルとそれを使うのに必要なスキルの存在を知っている。故に、コッチーニが再び落ちることはないと半ば確信している。なので、面倒だがアーテッドまで行ってログアウトしなければならない。
「流石にアイアンロンドまで戻るのきついッスよ……」
アイアンロンドまで護衛を雇えばいいのだが、流石に高いので頑張って逃げ延びないといけない。意外にきつい帰り道であった。
「先輩、こんばんは」
「こんばんは、フィルマ」
「ばんはー!」
アメリアと別れたのち、フィルマがブレイブと会う。そもそも、フィルマの目的はブレイブとの合流である。そもそも合流するのならば念話で話せばいいのだが。
「……あれ、リュージ達は一緒じゃないんだ?」
「はい。兄さんと姉さんは別の場所にいます。私だけ、少し用事があったので」
そう言ってフィルマはブレイブに刀を見せる。流石にさやから抜いて向けるみたいなことはせず、鞘に入った状態でだが。
「武器の新調?」
「あくまでおまけみたいなものですけどね。先輩を探すのがメインです」
「ええー。普通は武器の方がメインじゃないかな」
「いえ。新調自体は今すぐする必要もなかったので。いいタイミングだからしただけですよ」
実際、ブレイブがアメリアと会っており、近くにいたから先にアメリアの下へ向かい、以前から頼んでいた武器を要求したのである。アイアンロンドで会った時に渡していればわざわざアメリアの下へと行かなかっただろう……アメリアは追及しなかったが、そもそもアメリアがアイアンロンドで修行していることをフィルマはいつ知ったのだろうか。拠点はテイルロマジアだったのだから、知る機会はなかったはずなのに。
「とりあえず、兄さんたちと合流しましょう」
「そうだね。いつ防衛戦が始まるかわからないし、その前に会っておかないと」
「紹介お願いねー」
フィルマとは会っていたが、パティはまだリュージとツキには会っていないはず……である。フィルマは何処にリュージとツキがいるのが分かるのか、迷いなく歩いている。まあ、別の場所にいる、ということなので待っている状態なのだろう。妹だけを探しに行かせるのはどうかと思う所だが、どちらかと言うとフィルマから言い出したことなのだと思われる。
移動中、ブレイブがきょろきょろと、周囲の建物を見やっている。
「どうしました?」
「いや、良さそうな建物がないかなと……」
「良さそう……と言うと、どんな建物ですか?」
「んー、戦場が見える高い建物、人に見られにくい所が良いかな」
主に、スキルの使用をばれないようにするためだ。人ごみの中で、でもいいが、正確な座標が分かりにくい場所だとスキルを使う場合の精密な攻撃ができない。一応パティもいるのでそこまで心配はないかもしれないが、やはり自分の目で見て発動するのが一番いい。
「私でも探しておきます。でも、入れるかどうかは不明ですけど……」
「大丈夫、跳躍あるしね」
「ああ、なるほど」
建物外から入ればいい、と言うことだ。跳躍以外にも、少しだけ浮く程度の魔法スキルはあるし、少しだけ空中浮遊できる魔法スキルだってある。スキル作成はしていないが、壁歩きみたいなスキルを作れば問題ない。透明化、なども建物内に侵入するには使えるだろうし、破壊しても問題はない。いや、問題はあるが、緊急的な措置として扱われるだろう。後で修復費用を請求されるだろうけれど。
そうして、道に迷うことなく、必要な曲がり角ではしっかりと曲がり、ブレイブの要求に会いそうな建物を三人で探しながら、リュージ達の下にブレイブたちはたどり着いた。




