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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
skill maker
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60

 コッチーニ防衛戦、二回目の当日、ブレイブはログインし、街を見回る。


「人多いなあ……」

「ほんとだねー」


 普段よりも明らかに人の数が多い。普段見かけない数のプレイヤーが街に満ちている。前回失敗したと言うこともあり、今回リベンジに参加しているプレイヤーや、前回参加できずに悔しい思いをしたプレイヤー、イベント好きなプレイヤーなど、様々なプレイヤーが集まっている。スキルメーカーはそもそもイベントみたいなものを開催することがほとんどなく、前回のコッチーニの防衛戦が唯一だ。二回目も同様なイベントだが、それでも数少ないイベントと言うことで人が集まっているのである。

 ブレイブにとっては普段経験しない人の集まりであるため、馴れないこともあって息苦しい感じがしているようだ。なので、人のいない方向へと逃げる。ついでに、街で使えそうな場所を確認する。人気のあまりない場所を。


「っと、路地裏か」


 スラム街のような場所はない。路地裏はタダの路地裏でしかない。しかし、イベントと言う機会もあり、幾らか露店もやっている。大通りのような人のいるところでやったほうがいいが、その空気に馴染めない物、出遅れて場所をとられているプレイヤーなどがこんな場所で露店を設営しているのである。


「……また露店やってるのか」

「あ、ブレイブさん。こんばんはッス」


 路地裏を歩いていると、ブレイブはアメリアと出会った。アメリアの露店は、かなり充実したラインナップとなっており、その作成されている武器も店舗のものと遜色のない……むしろ、こちらの方が出来自体は良いようにも見える。特殊能力の付与した武器も置いてあり、その分値段は高いが、魔道具屋みたいな特殊な場所にしかない特殊能力持ちの武器を入手できるいい機会だろう。


「これ、普通に出せばすぐ売り切れるんじゃない?」

「そうッスね。でも、あたしの趣味じゃないッス」


 アメリアとしては、武器をちゃんと使ってくれるのならば売ること自体は吝かでもないが、積極的に売りたいと言うわけでもない。なので、こういう路地裏だったり、あまり人の来ない場所に店を構えるのである。


「露店自体、物を使える人に渡すツールみたいなものと思ってるッス。なんというか、武器を選ぶんじゃなくて、武器が選ぶと言うか、武器に選ばれると言うか……こう、雰囲気みたいのが重要ッスよ」

「そういうこだわりはよくわかんないなあ……」


 ようは、アメリアのフィーリングが重要だと言うことだろう。最も、欲しいと言われれば普通に売るのだが。どこで店を出そうと、それを手に入れる人は必ず訪れる、そんな感じに考えているのである。いわゆる運命という奴だろう。そして、運命はすぐそこに存在した。


「そこの麗しき女性よっ! 私にその武器を売ってくれないか!」


 路地の向こうから、この店の武器が見えたのだろう。たたた、と軽快に一人の男性プレイヤーが走ってきた。ブレイブには聞き覚えのある声のプレイヤーだった。


「おお、そこにいるのは……ブレイブ! 久しぶりだな!」

「……久しぶり、マリオット。機会が無くて連絡してなかったけど、元気だった?」

「うむ。私がそうそう落ち込むこともない。聞くまでもなかろう」

「そんなこと言って、前の時はかなり落ち込んでいたと思うけど?」

「妹よ!? それは秘密にしてもらえないか!?」


 いつの間にか追いついたのか、マリオットの後ろにオラクルがいた。


「お久しぶりです、ブレイブさん」

「久しぶり、オラクル。前回って……前の防衛戦の?」

「はい。前の時も、それなりに頑張ったんですけど……残念ながら」


 前回の防衛戦において、前線にあらわれた人形がすべてマリオットの手によるものである。あの人形によるモンスターの進軍を抑えるのは成果としては十分なものだが、攻撃力、防御力、維持力、すべてにおいて足りていなかった。マリオットはそれを自覚し、スキルの強化から補助となるスキル、それ以外にも、人形の事前政策と維持方法の作成など、色々と考えている。


「確かに前回はダメだった。しかし、今回は簡単には終わらせん。そのためにも、武器も必要なのだ」


 そう言って、アメリアの店を見る。


「武器を貰おう。全部だ!」

「別にいいッスけど……お金足りるッスか?」


 今の今まで完全に忘れ去られていたか、と思うような状況だったが、アメリアにとっては割とどうでもいい状況だったと言える。疎外感は感じていただろうけれど。

 それはともかく、現在重要なのはそこではないだろう。マリオットの言いだした、武器の全購入が可能かどうかだ。


「……お兄ちゃん、全部は無理だからね。と言うか、値札は見たの?」

「見ているわけがなかろう。だがな、妹よ……この店の品物はいいものだ。それを買わずしてどうする?」

「褒めてくれるのは嬉しいッスけど……安くはならないッスよ?」


 アメリアの作った武器を評価されるのはアメリアとしては嬉しい限りではあったが、かといって値下げするわけもない。マリオットにはそんなつもりは毛ほどもなかったが。そう取られてもおかしくはないタイミングでの褒め言葉である。


「む、そういう意図はないのだが」

「マリオット。ちゃんと値札を見てから行った方がいいぞ」

「ブレイブ……そこまで言うのならば見てもよいが……」


 そう言ってマリオットが値札を見る。そして、その値段に仰天する。


「た、高い!?」

「……これ、特殊能力が付与されている武器? まさかもう作れる生産職の人がいるの?」


 オラクルはしっかり武器を見て気づいたようだ。生産職でも、特殊能力を付与した店売りに匹敵する武器はまだ作られていない。鍛冶技術のスキルレベルの問題もあるが、それらは魔道具系であり、テイルロマジアあたりで知識を学ぶ必要性もある。独力でたどり着くのも不可能ではないが、よほどの鍛冶技術とセンスがなければ不可能だろう。


「秘密ッスよ?」

「うむ、わかっている。しかし……流石に特殊能力を付与した武器は買えんな」


 特殊能力を持つ武器の値段は普通の武器よりも値段が跳ね上がる。倍以上だ。流石にそれらを購入していくのは不可能だろう。


「えっと、アメリア。普通の武器はないの? 在庫」

「……そうッスね。いい機会になるッス。蔵出しするッスよ」


 そう言って店の後ろにおいてある箱からいくらかの武器を出す。それらを見て、マリオットはアメリアに値段を尋ねる。相応な値段ではあるが、特殊能力持ちの武器を買うよりははるかに安い。考えた末に、マリオットは買うものを決めアメリアと値段交渉に入る。


「……あれ、いいの?」

「まあ、問題はないです。もともと、買うこと自体は予定していましたし。ここの武器他よりも全然安いですから」


 アメリアの武器の値段は、特殊能力がある武器ですら、他の店よりもはるかに安い。あくまで趣味の露店販売だからだろう。それならば買っていくプレイヤーが多いのではないか、と思われるのだが、それをうまく隠しているのが店舗である。特殊能力が付与されており、アイテムの見掛けを改変するものだ。物を見抜く、真実を見る能力が低いプレイヤーには者が分かりづらくなる、ドワーフ製の露店店舗だ。ちなみにマリオットは雰囲気と直感で気づいた。とんでもない話である。


「でも、何で武器なんか? 確か人形使いでしょ」

「だからです。人形だけだと限界感じたみたいで……」


 安易だが、武器や防具を装備させる、と言うことだ。そんなことをオラクルと話していると、マリオットの値段交渉が終わったようだ。様子はあまり芳しくない。アメリアは元々趣味でやっているので、ほとんど値段を下げないからである。それでも、予定通り購入することに決定したようだ。


「いい買い物ではあったが……懐が」

「はいはい、また稼げばいいでしょ。それじゃあ、ブレイブさん、防衛戦頑張りましょう」

「うん。そっちも頑張ってね」


 そうしてオラクルとマリオットと別れる。ブレイブにはマリオットの背中に哀愁が感じられた。


「……さて、そろそろあたしも行くッスよ」

「あれ、誰かと待ち合わせとか?」

「違うッス。街を出るッスよ」

「えっ? これから防衛線なのに……って言っても、そっか。アメリアじゃあ、きついか」


 何度かの護衛経験から、アメリアの戦闘能力の低さを知っているブレイブは、アメリアが防衛戦に参加したところで出番はない、むしろ足手まといにしかならないことを正確に理解する。


「そうッス。話が速くて助かるッス」

「ならなんでこんなところに……」

「そりゃあ、売れるからッスよ」

「積極的に売るつもりないんじゃないの!?」


 今までの店舗対応からして、明らかに積極的のもの売りたいわけでもないのに、こういう需要のある機械に売ろうとする姿勢はブレイブには矛盾しているように感じられる。しかし、アメリアとしては、売り上げを得る目的ではなく、売る機会を増やす、売れる機会を増やすことの方が重要なのである。そういう意味では、人の集まるイベント時は彼女には大きなチャンスである。


「その辺は、あたしにしかわからないことッス。ブレイブさんも、作る側に立てば分かるかもっスよ?」


 ふふふ、と意味深に笑い、アメリアは店舗を片付け去っていく。


「……なんというか、わかんないなあ」


 そこそこ付き合いは長いが、アメリアの目的、目標がいまいちわからないブレイブである。


「職人になればわかるよ。いつかね」

「そういうパティはわかるの?」

「全然」

「………………」


 実に信頼性のない、軽いノリの言葉で締めくくられたのであった。


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