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「…………あれ?」
いつも通り、ブレイブがスキルメーカーにログインする。最近はずっとこちら側、廃墟で起きているのだが。雰囲気がいつもと違うことに気づく。
「おはよー、ブレイブ」
「おはよう…………おはよう? いや、挨拶時間に関してはいいや。パティ、なんか普段と雰囲気違うんだけど、わかる?」
「外に出て、土塔のダンジョンの方見たほうがよくわかるよ」
ブレイブがパティとともに廃墟の外に出る。いつもなら、少しは見かけるようなモンスターたちの気配、それをブレイブは感じることができない。まるで、この近辺からモンスターがいなくなったかのような……ような、というよりは、いなくなった状態である。
「……モンスターがいないけど、誰かが倒したとか?」
「ここまで来てるプレイヤーは他にいないよ。ダンジョン見える位置に行こ」
「ああ、うん」
状況に戸惑いながらも、いつも土塔のダンジョンに向かう道筋に行く。見るだけならば高い所から見ればいいのだが、普段なぞっている道筋をつい通ってしまっていた。別にそれ自体に何か問題があるわけでもないため、パティからも何も言わない。
そして、土塔が見える。ブレイブが見たのは土塔のはずだが、土塔以外の別のものもたくさん見えている。
「え……あれ、なに? 滅茶苦茶モンスターが集まってるんだけど」
土塔のダンジョン、その下に周辺のモンスターが集まっていた。ブレイブのいた場所の近辺、また、今ブレイブが通ってきた道、そう言った場所からモンスターが気配を消すほど、全くいなくなり土塔の下に集まっている。それはこの近辺だけでなく、土塔周辺の砂地のモンスター、土塔の向こうの方にある森林にいるだろうたくさんのモンスター、さらには、湿地帯周辺のモンスターも数多く集まっている。
「これどういうこと?」
「うーん、はっきりとは言えないけど、イベントだね」
「……イベント?」
単にモンスターが集まった、と言うだけではイベントとは言えないだろう。しかし、見えるのはモンスターだけではない。パティが土塔の上を指さす。
「……ああ、なるほど」
そこにいたのは竜だ。ブレイブはその存在についての知識はあるが、実際に見たことはない。だが、知識だけで知っていればそれが何かはわかる。コッチーニに侵攻し、街を襲った竜である。
「って、これだけモンスターが集まってるってことは、また襲撃イベント?」
「かもね。まだモンスターが集まってるだけで、イベントが始まったりはしないと思うけど……明確に、イベントが起きるなら、運営がサイトあたりで襲撃日の告知をしてるんじゃないかな。その手の情報はしっかりと開示されるし」
「……詳しいのな」
パティの発言内容に対し、色々とブレイブも思う所はあるが、もう散々経験してきたことであり、今更のことだ。もうほぼ気にしてはいない。ただ、重要なことは、運営がイベントを告知する可能性がある、と言うことだ。
「……掲示板とかには情報でてないかな」
「告知されてれば、言われてるでしょ。もしかしたら運営側が書き込んでいるかもしれないし」
「運営側の書き込みってあるんだ」
「プレイヤーに偽装してるからはっきりわからないと思うけど」
「ええー……それいいの?」
基本的に、プレイヤーに成りすまして運営側がプレイヤーに必要な情報を教えることは、スキルメーカーでは多々あることだったりする。スキルメーカーはプレイヤーに対してかなり不親切な仕様だが、その不親切な仕様を運営なりに改変しないで済ませられるようにしているようだ。それならばそもそもシステムを改変すればいいのだが、それをしない理由があるのあのだろう。
運営側の事情はさておき、ブレイブは掲示板を確認する。しかし、現在のところ告知に関しての書き込みはない。少なくとも、まだモンスターが集まっているだけで、明確に襲撃イベントが起きる時がいつかは決まっていないようだ。
「残念ながらないなあ……」
「まあ、いつか報告あるでしょ」
「あれ、ぶちこんでいい?」
「イベント潰すと恨まれるよ? プレイヤーに」
始まってもいないイベントなのだから、誰も知らないはずだ。故に、ブレイブがイベントが起きることをぶち壊しても、誰も文句を言うことは出来ないだろう。もし文句を言うことができるとするのならば、襲撃イベントが起きることを通知する運営側だろう。
「だめ?」
「ダメ。どうせやるなら、イベントでやったほうがいいよ」
「……それもそうかな」
今やろうと、イベントでやろうと大差はないだろう。プレイヤー側にはスキル使用者が分かるわけではない。大衆に紛れて隠れて殲滅するためのスキルを使えばばれない。恐らく。イベントであればMVP報酬のようなものがあるかもしれないし、そちらの方がいいと言うのは可能性としては低くはないだろう。
しかし、ブレイブが今なにもできないとすると、ある問題が存在する。
「……でも、これじゃダンジョン攻略できないよなあ」
「しかたないねー。諦めよう、今は。というか、イベント後ならモンスター一掃されてて楽になるかもよ?」
「それはありがたいんだけど……」
苦労はするが、今すぐの攻略を行うか、後にはなるが、かなり楽になった道中を進むか、ブレイブにはどちらの方がいいかわからなかった。
"ブレイブ!"
「ん……? "えっと、誰……って、リュージ"」
"ああ、俺だぜ!"
ブレイブはコッチーニまで戻ってきたはいいのだが、ブレイブとしても明確な目的が存在していない現状、暇つぶしを兼ねてテイルロマジアに向かうか、それとも適当にエムラント山林でも攻略するか、アーテッドまで戻ってエメンリアにでも行くか、など、色々とこの先どうするかを考えていた。そんな矢先、リュージからの連絡が来る。
「"久しぶり……と言うのも変か。ちょっと前も話したし、リアルでも話してるし"」
"そうだな"
「"ところで、何の用? 最北にあるダンジョンの攻略の手伝いなら、以前と同じで断るけど"」
"それもそれで一緒にやりたいが、今回は別件だ"
以前も念話で誘われたのだが、土塔のダンジョンに向かう事、すでにリュージ達でいくらか攻略していたこと、最北まで行くのにそこそこ時間がかかることなど、諸々の理由で断っていた。今回はどうやら別の話のようだが。
"サイト、見たか?"
「"サイト? えっと…………もしかして、運営の?"」
"ああ、そうだぜ。運営サイトで告知されてた内容があってだな"
そこまでリュージが言った時点で、ブレイブはある程度その内容に推測が着いた。少し前、土塔のダンジョンの前で見た、モンスターの群れ、それを見ながらパティと話していた内容を。つまりは、コッチーニへの再びのモンスターの侵攻、その日付の告知である。
"以前、ブレイブは参加してなかったコッチーニ防衛戦、コッチーニにモンスターが襲撃する日付が出てるんだよ! あ、ブレイブはコッチーニが復活してること知ってたっけっか?"
「"流石に知ってるよ。日付の告知……っていうか、コッチーニの防衛戦をまたやる、ってことか"」
"そうそう。以前はブレイブ参加しなかったし、今回はするよな!?"
「"ああ、うん、するする。だから落ち着け"」
念話での連絡だが、電話のような感じであるため、リュージが意外とうるさくブレイブが困っている。それだけリュージにとってはブレイブが参加することが重要なのだろう。ダンジョンを一緒に攻略できない、という点に不満があったのもあるが、ブレイブが前回イベントに参加できなかった、と言うのがリュージ的には気に入らない所もあるのだろう。数少ない、スキルメーカーにおけるイベントだ。それを遊べないのはゲーム的に面白くない。少なくともリュージはそう考え、ブレイブが参加していないと言うことが悔しかった。
"絶対参加しろよ! ブレイブは強いんだからな!"
「"あんまり最近会ってないのに人の強さが分かる者かなあ……"」
"わかるさ。だってブレイブだからな!"
妙な信頼である。最も、その信頼通り、ブレイブは実際に強いのは事実ではある。ただ、隠しているのでどこまで発揮するかはわからないが。
「"それで、そっちは今どこなのさ?"」
"アーテッドまで戻ってきたぞ。そっちは?"
「"コッチーニにいるよ。たまたま近くで用事をしていたんだけど、それが中断されちゃってさ"」
"ならちょうどいいじゃんか! 時間に関してはサイトに載ってるし、掲示板にも情報があるから、ちゃんと確認しとけよ"
「"わかってる"」
そこまで話した後、別れの挨拶をして念話を終える。
「誰と会話してたの?」
「ああ、リュージと……あ、そういえばパティはあったことがなかったっけ」
今のところ、パティがあったブレイブと知り合いのプレイヤーはアメリアとフィルマのみである。つまり、パティはリュージについて知らない。リュージもパティについては知らない可能性もある。もしかしたらフィルマから聞いている可能性もあるが。
「ないよー。えっと、ブレイブの知り合いのプレイヤーはフィルマちゃんとー、リュージさんとー……」
「会っているのならアメリア、会ってないのならツキ、ああ、あの二人もかな。マリオットとオラクル」
あの二人からはブレイブに対し連絡がない。一応連絡先はあるのだが、そもそも関わる機会が薄いせいだろう。恐らく向こうも忘れているのかもしれない。ブレイブからも、これと言って連絡するようなこともないため、特に機会がないままとなっている。
「次のコッチーニ防衛の時に会えるかな?」
「まあ、リュージ達には必然的に合うでしょ」
パティはブレイブの知り合いに会うことができる、と言うことで微妙にワクワクと楽しみにしているようだ。何がそんなに楽しみなのか、ブレイブにはわからなかったが。




