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「お久しぶり……って程でもないッスけど、お久しぶりッス」
「ああ、うん、久しぶり」
実際そこまであっていないと言うほどでもない。少なくとも、ブレイブ的にはリュージ達とあっていない方が長いはずだ。しかし、こんにちは、こんばんはと普段の挨拶をしようと思わない程度には久しい。
「……こんな時、何を言えばいいかわからないッスね。まあ、とりあえず衝立ッスか? 頼まれていた者はいくつか作ったんで、まあ見ていくッスよ」
「それはいいけど……修行は?」
「恩人……友人が来るって言ったら快く、それならそっちの相手をしてやれってってことでお休みッス」
「なんか……悪いことしたかな?」
「そんなことないッスよ。ずっと修行ばっかりってのもあれッスし……あ、もしかして衝立づくりの事なら、修行している所のドワーフもこれも経験だって参加してたんで問題なかったッスよ。というか、そういう新しい発想を持ってこられるのはありがたいらしいッスし」
以前ブレイブが鉄杖を見せた時もそうだが、ドワーフはドワーフである程度発想性が固定化している現状であるらしい。そこに、様々なアイデア、多種多様な発想、特に実物をもって来た場合、それに見合った報酬や、彼らに対する貸しとしてくれるらしい。アメリアの件も、ブレイブの作った貸しによるものだ。
ブレイブはアメリアに案内され、いくつかの衝立の置いてある場所に案内される。衝立以外にも、様々なものがその場所にはおいてあり、その中には廃棄と書かれた場所に撃ち捨てられているのも少なくはない。この場所はドワーフ達の制作物の展示場みたいな場所であり、一度これはどうだと作ってみた物を置く。評価を貰えずある程度放置されたか、低評価を貰った品は廃棄と書かれた場所に打ち捨てられる。彼らは彼らで、いつでもなんでもいいものを作れると言うわけではなく、彼らの作る良品は無数の作品の中の失敗品扱いされていない一握りと言うことである。
ちなみに、アメリアの作品は大体が廃棄行きだ。ドワーフ達の選定眼はかなり厳しい。ただし、友人であるブレイブに対しての武器、鉄杖に関してはある程度両評価を貰っている。これに関しては、ドワーフ達も熱心に教えているためでもあるが、友人、恩人に対しての品物であると言う側面もある。そう言った人情的なことには評価が甘い。ただし、それでも一般品以下はだめらしいが。
「これと……これと、これ。この三つッスね、実用的なのは」
アメリアは三つの作品を運んでくる。耐久力、防御力、性能だけを見ればもっと良質、使い勝手のいいものは他にもある。ブレイブの目で見ても判別できる程度にそれがわかる。しかし、実際にブレイブが使用することを考慮する場合はそれらを選択肢に選べない。アメリアはブレイブの目的が何かは知らないが、家に飾る衝立が欲しいとかそういう者でないのはわかるし、ブレイブの向かった方向はコッチーニ方面である。
つまりは、単純に持って移動する上で運びやすいものでなければならないと言う前提がある。その前提で考えた上で、耐久力や防御力を考慮した上で判断した結果だ。
「これが一番防御力だけを見れば高いッス。ただ、分割しにくいッスから、一応候補には入れてあるッスけど、運ぶときは注意してほしいッス」
「ああ……運搬は確かに大変だなあ」
スキルメーカーにおいて、アイテムポケット、異空間に物を保管する類のスキルは今のところない……はずだ。お金に関しては一応財布の類はあるし、ある種の銀行カードのような方法での貯金からの支払い形式もとれるのだが、明確に物を保管するためのアイテムがない。いや、正確にはあると言えばあるのだ、魔道具に。ただし、高い。滅茶苦茶高い。ブレイブは一応買えなくもないが、ブレイブは魔道具屋に杖を見に行っているだけで、他のアイテムは軽く見た感じだ。故に、高性能の空間格納能力のある袋や箱の類はあまり気にしておらず、知らない。そして、それらのアイテムにもある程度の限度もある。
「運搬だけを考えるなら、これッスね。シート式」
「防御力は?」
「結構あるッス。防御、耐久共に基準以上ッス。ただ、シートっすから、しっかり固定しないと捲れるんで、入ってくると思うッスよ」
「残ったこれは?」
「それは一番中途半端ッス。ただ、器用貧乏と言うよりは万能って言った方がいいッスね。しっかり組み立てしないとすぐばらけるんで、そこだけは注意するべきッスけど」
三つの衝立の代替の特徴をブレイブは聞く。運搬、持ち運び、格納、同じ品物を用意し、軽く耐久性のチェック、実際に試しでの運用として、建物の入り口をふさいでみるなど、色々と試してみる。その結果……
「二つはダメ?」
「二つッスか…………」
ブレイブの判断は、後に紹介された二つだ。この二つは競合しない、同時に使用できるという利点があるとブレイブは判断した。また、シート式は格納のしやすさもあるが、もう片方の衝立を分割した後、包むのにも使える。つまりは、一つの運搬で二つを持っていけると言うことだ。別に一つでなければいけないと言うルールがあるわけでもなく、二つ持っていくことに問題はないだろう。ブレイブにとっては。
「流石に二つをタダで、ってのは無理ッス。これでも製品として使えるレベルになるまで試作がいくつもあるッス。コスト的につらいッスよ」
「じゃあ、お金は払うよ」
「……それならいいかもしれないッスね。ちょっと聞いてくるッス」
そう言ってアメリアは修行をしてもらっているドワーフに話を聞きに行った。結果としては、許可されたようだ。なお、支払いはアメリアもちとなっている。ブレイブには両方ともタダでもらえると嘘をついていたが。
「ところで、ブレイブさん」
「何?」
「コッチーニ、復活したらしいッスね」
「ああ、らしいね」
らしい、ではなく本当に復活したことを知っているのだが。そもそもの当事者であるが、本人に成果を誇示するつもりがないため、らしいとか関係ない風に言うようである。
「よくわからないッスけど、その時街にいたプレイヤーや、街に向かっているプレイヤーによると、空から火の玉が降ってきたらしいッス。それも、滅茶苦茶でかい。それでコッチーニが焼却されて、その結果コッチーニのモンスターが全滅、街が復活ってことらしいッスね」
「へえ。それはまた」
「……ところで、ブレイブさん。あたしと別れて、すぐにアーテッドに戻って、もともとコッチーニに向かうつもりだったッスよね」
「うん、そうだけど」
「ドンピシャッスけど、大丈夫だったッスか?」
ブレイブの移動速度、行動目的、そういったものを考慮しての質問だ。ただ、アメリアは何かを考えてこの質問をブレイブにしているようだ。何を考えているのか、ある程度は想像がつくだろう。
「大丈夫だったよ。そもそも、俺の目的はコッチーニじゃなくてその南の方だし」
「湿地帯っすね。あっちは言ったことないプレイヤーの方が多いし、知らないことも多いッス」
「誰かは知らないけど、コッチーニ解放してくれたおかげで助かったよ」
「誰か、ッスか」
クスリ、とアメリアが軽く笑う。
「ブレイブさん、誰がしたと思ってるッスか?」
「え……誰って……」
言葉に窮する。明確に誰、というものを思い浮かばないからだ。
「掲示板なんかでは、天災とか、もともとある程度時間が立てばそういう風になるとか、運営の仕業とか、そういう意見が多数ッス。基本的に、誰かプレイヤーとかNPCがそれをした、って思ってるのはごく少数っすよ?」
「へえ……」
「誰がしたとか、そういう明確な考えがないのに、何でブレイブさんは誰かってはっきり言えるッスか? コッチーニを解放してくれた、とまで言ってるッスよね?」
「何が言いたいの?」
ブレイブには、アメリアに対しそう聞くしかなかった。下手に何か言い訳をしても、それが逆に良くない結果になると思ったからだ。結果としては、どちらにしても大した差異はないだろう。アメリアはほぼ確信しているのだから。
「ブレイブさんッスよね。コッチーニ解放したの」
「どうやって? 普通は、コッチーニ全体を焦土にするようなスキルを使えないよ」
「その考え方がそもそもおかしいッスよ。スキルを使えない、なんて言い方。普通はしないッス。そんなスキルはあり得ないッスからね」
スキルに対しての認識が違う、と言うのもあるが、普通に考えてそんなスキルを使えないとは考えない。ありえないと考える。何故なら、そんなスキルを使うMPを確保する手段がないから。ブレイブはそれを使うだけのエネルギーを確保でき、エネルギーさえあればスキルを作れることを知っているから、使えない、という言い方、思考になる。しかし、普通のプレイヤーは、そんな強力なスキルを作れること自体知らない方が多い。上位のスキルに必要なMPを確保できていることが少ないのだから。そもそも、ブレイブがそれだけのことができる、考えられるのはパティのおかげだったりするが。
「それに……コッチーニ南の湿地帯にまで行くのは、アーテッドからだと相当大変ッス。常識的に考えれば、中継地点としてコッチーニがないと本当にきついはずッスよ。たまたま、ブレイブさんが向かった時に復活した……と考えるのはおかしいっスよね? だって、あたしがあったときにはすでに向かうつもりだったはずッスから」
「……ああ、もう。否定する要素が少ない……っていうか、別に無理に否定し続ける必要もないんだけど」
よくよくブレイブが考えた結果、そもそもわざわざコッチーニを解放したのが自分でないと主張し続ける意味がない。
「やっぱりブレイブさんだったッスか」
「やっぱりって。そんなに怪しい?」
「だってブレイブさんがコッチーニに向かうって時点で最初から変ッスよ? ソロプレイヤーッスよね、ブレイブさん。一人でコッチーニに向かって本当に何するつもりだーって思ったッスよ?」
最初の時点で変だと思われていた所に、ブレイブが向かったと思われる時間、コッチーニに到着した可能性のある時間に例の事件である。それだけ色々と疑問点があれば、流石につなげて考えることもできるだろう。
「まあ、一番の理由は、掲示板にもあったプレイヤーにやられたって報告っすね」
「え? PKって普通分からないんじゃ」
「スキルでそういう報告できるものがあるッス。流石にユニークスキルらしいッスケドね」
「まじで」
そのスキルの持ち主が偶然、監視役としてあの時のコッチーニに詰めており、その結果判明したものだ。最も、その情報の信憑性が疑問視されているのだが。今までそのスキルの持ち主がそのスキルに関して明らかにしていなかったため。
「ちなみに、どうやったッス? ブレイブさんも言ってたッスけど、普通は無理ッスよね?」
「うーん……極端なことを言えば、あれだけのことができるスキルは誰でも作れるんだよ。ただ、MPが足りないから使えないだけど」
「……衝撃の事実っすね。ちなみに、どのくらいのMPが必要だったッスか?」
「それは……えっと、パティ?」
ブレイブでは計算のしようがない。なのでパティに無茶ぶりをする。流石にパティでもわからないだろう、とおもわれるのだが。
「はいはーい。もう、二人でお喋りとか、私も混ぜてよって言いたくはなるね! まあ、いいけど。最初はビジネスだったし、私の出番もないし。えっと、あのスキルのMP消費? えっとね……数値化が難しいなあ。そうだね、今のブレイブがレベル二十まで上げるのに必要な経験値を獲得するのに必要なモンスターを全部魔法で倒しても、まだ足りない数値だね」
「………………」
「………………」
数値自体は具体的ではないが、言っている内容からして数値がおかしいことになるのは確定的に明らかだ。
「え、でもどうやってそれだけのスキル使ったッスか?」
「ユニークスキルだよ。私も手伝った、ね。他の人には不可能だし、そもそもの発想からしてブレイブがおかしいし……代償もでかいよ?」
じっ、と真剣な目でアメリアを見つめるパティ。確かに、例のスキルに関して代償は大きい。これから得られるすべての経験値が半分になるのだから。
「う……なんというか……どれだけのものを代償に?」
「秘密! だから、聞かないでね! 言わないでね!」
「…………分かったッス」
妙な説得感、相手に言うことを聞かせるような威圧感、雰囲気をパティが出し、アメリアの口外を抑える。最も、本当に言わないかどうかは不明だが。