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ブレイブは湿地帯へと向かう。以前コッチーニから向かった時と同じように向かっているが、以前とは出現するモンスターの様相が変わっていた。
「……前とは違うなあ」
「そりゃあ、今までモンスターに占拠されていたわけだし」
一応、南側には新規プレイヤーも向かうことができるのだが。ちなみに、アーテッドに向かう方面、エムラント山林へと向かう方面はモンスターは以前の通りとなっており、南側だけが変化している状況である。
「大したことはないけどさあ……これ、他の人大丈夫?」
「他のプレイヤーはプレイヤーで頑張るしかないでしょ。順序的にもこっちは別道だし」
「迷いこんだら即死か……」
仮に道中で死亡しなくとも、湿地帯まで行ってしまえば際にやられるので大して変わりがない。そんなふうに、道中の様子を確認しながら進み、ブレイブは湿地帯に到着する。途中の道と同じように、湿地帯も少々様変わりしていた。
「ブワアオオオオ!」
「ブワアアアッ!!」
「ブオオアアアアアッ!!!」
「なんでこいつら普通にいるの!?」
サイたちが既に見える状態である。以前はサイはプレイヤーが湿地帯に入りある程度しないと出てこなかったが、今では普通に水の外に姿を現している。そもそも、以前隠れていた理由も不明な状態なので何とも言えないが、今は隠れる必要がなくなった状態だから出ている、と言うことだろう。
「サンダーライン!!」
「エレクトリックボルト!」
ブレイブとパティがともに電撃の魔法を使う。湿地帯、すなわち水のエリアだ。サイは水棲の魔物ではないため、雷系統の攻撃が弱点と言うことはないものの、水中にいる状態での電撃は効果覿面だ。哀れなことに、二人の雷撃で水に沈むサイたち。一応、耐久力はあるため死亡こそしていないものの、電撃による痺れとショックにより半ば麻痺状態である。
「……なあ、これって」
「うん、楽だね。あ、水上歩行する場合は注意して。自分も受けるから」
「あ、そっか」
ブレイブたちの湿地帯突破はとんでもなく楽な結果となることが確定した瞬間だった。
水上歩行スキルで水の上を歩きながらブレイブは湿地帯を進む。通常、水の中を進まなければいけないため、どうしても移動に時間がかかるものだが、ブレイブのような水の上を進むスキルを持っていたり、凍らせて道を作ったり、空気を固めて道を作るなど、様々な手法を用いて普通に進むことも可能だ。
途中、モンスターが出てきた場合も、ブレイブは空中にブロックの魔法で足場を作り、電撃や雷撃、様々な雷系統の魔法を用いて水中に入っている魔物を倒す。自分は空中に逃げて電撃の影響を受けないようにしているのである。サイ以外にも、多少のモンスターはいるが、どうしても水中に存在している以上、電撃や雷撃の魔法により安全、簡単、楽勝で倒されてしまう。それらの影響を受けない鳥系統、空を飛行するモンスターも少なくないながらいるものの、それらもパティの風の魔法で翼を攻撃して撃ち落としたり、ブロックで固めて落としたり、やはり水中の魔物と同じ世に雷系の魔法で倒したり、相手にならない状態だ。サイと比べると格段にレベルが落ちるのも理由だろう。
結局、湿地帯突破は昔突破できないようなエリアだと思われていたことが嘘だと感じてしまうくらいに簡単に終わった。
「……ここ、突破できないって言われてたんだけどなー」
「それだけブレイブのレベルが高いってことでしょ。だいたい、第六の街、北エリアも……まだ行ってないとこあるけど、いけるところは大体行ったし、後はここくらいしか残ってないでしょ、今のところ」
他に隠しエリア、海の向こうに別の大陸があるとか、そういうことがない限りは、ブレイブの行っていないエリアは最北のエリアと、テイルロマジア、コッチーニの南くらいだ。そう考えるとまだだれも言っていない南エリアに歩を進めるのは間違っていないだろう。北エリアは今人が多くなっている状態なので。
「お、森……だけど、湿地帯は先に続いてるな」
「位置的に、森を通らなくても湿地帯の続いてる先に進めば先に行けるよ。多分、湿地帯を超えるの大変だから、途中から地面のある森エリアを用意したんでしょ。でも、私達なら湿地帯からいけるし、問題ないよ」
「そうだな……森より湿地帯の方が攻略楽だろうし」
普通は水中を移動するからこその選択肢だろう。水上移動するプレイヤーの存在を考慮に入れているものの、水中のモンスターは見づらい、感知しづらい、気付きにくいと実に面倒だ。ブレイブ……というよりはパティが規格外なのだ。まさか水中でも、魔力で探知できる使い魔が存在するとは運営側も思ってなかっただろう。
そのままブレイブたちは湿地、水のエリアを抜けて先に進む。そうして、水がなくなった場所まで到達した。
「お、ここからは水じゃない」
「森はまだ続いてる……っていうか、ちょっとこっちに伸びてきてる?」
「結局森は通らなきゃならないか」
しかし、地図はそろそろ南の端の方、と言ったくらいである。森が伸びてきて、森の中を通るかも、とブレイブが思っていたが、進んでいると徐々に荒地、砂地になっていく。そして、森も伸びてこないで、逆にドンドンと後退していった。
進んでいるブレイブの視界の先には塔のような何かが伸びた状態になっている。
「おお……」
「すごく……」
「でかいなあ」
一面砂のエリアまで到達し、その砂の中には廃墟となった家々も見える。元は街か都市か、何か人の住む場所があったようだが、それはもう昔のようだ。そして、その砂のエリアの端の方には、蟻塚のような土でできた巨大な塔のようなものが立っていた。天井部分には穴が開いており、その周りには飛んでいる鳥のような、半分竜のようなモンスターの姿が見える。
「……なあ、パティ」
「なにー?」
「なんか、竜っぽいのばかり見えるんだけど」
ブレイブのいる位置から見える限りのモンスターは多くが竜に見えるモンスターばかりである。空、大地、流石に海の方面も見えるものの、そちらのモンスターは核に出来ない。大地にいるモンスターも、すべてが地上にいるわけではなく、いくらかのモンスターは砂を掘って隠れていたりもする。
「竜は竜でも、あれらは亜竜だからね。全然竜と比べると弱いよ?」
「ああ、そうなんだ……」
竜と亜竜の区別の付け方は何なのだろう、とブレイブは考える。考えても仕方がない。
「……とりあえず、あのダンジョンに向かうべきかな?」
「流石にいきなりダンジョンは無謀でしょ。この辺りのモンスター相手に腕試し、ついでにあの廃墟に何か残っていないか調べようよ」
パティはダンジョンよりも先に、廃墟の探索の方を優先させることを勧める。単純に、自身の戦闘能力でどの程度モンスターを倒せるか、を調査する意味合いもあるが、そもそもプレイ時間的にダンジョンを攻略する余裕があまりないだろうというパティ側の配慮もある。また、あのダンジョンに関して、廃墟に書物などで情報が残っている可能性などもある。最も、VRMMOにRPGのようなアイテム配置があるかは疑問だが。
「そうするかな…………」
ブレイブもその意見に従い、廃墟の探索を行いながらモンスター相手に実力試しを行うことにした。結局、有用な情報はなく、モンスター相手に強さを確かめるだけだった。
「時間無くなったじゃんかー!!」
「あのね、ブレイブ。そもそも移動に結構時間をかけるんだよ? フマーレストみたいに、街からダンジョン直行できる場所じゃないんだよ? 急いでこないと、攻略時間なくなるのは当然でしょ」
「わかってたなら言ってほしんだけど」
急いで街まで戻る途中のブレイブ。ログアウトの都合上、街まで戻らないといけない。別に街まで戻らなくてもログアウトそのものは出来るが、その場合は置いていたブレイブ自身が死に戻りすることを覚悟しなければならない。死に戻りに対するリスクはないが、死に戻り後は話は別だ。何故なら、街に体だけ出現している状態になるからである。
つまりは、出先でログアウトするならばせめて安全、モンスターの来ないような場所を見つけるか、そういう場所を作るかしなければならない。
「安全地帯作成スキルとかない?」
「ない。現実は非情だよ? 安全地帯はともかく、モンスターの来ない場所を探すか……廃墟みたいな場所で、入り口を完全にふさげるようなスキルか、何か誰かそういうアイテム、道具を作ってもらうってのが現実的かな」
「なるほど……まあ、色々考えてみるか」
先に事はともかく、今はひとまずコッチーニまで戻るだけだ。まだ警告はなっていないが、時間的にはある程度余裕があるが厳しい所である。湿地帯を駆け抜けるのも楽ではないのだから。