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「あ、お久しぶりッス、ブレイブさん」
「あー……久しぶり、アメリア」
アーテッドからコッチーニへと向かおう、と思っていたところに、ブレイブはアメリアと出会う。毎回の事ではあるが、ブレイブが出会うときはいつもアメリアが露店を開いている時となっている。最も、アメリアが露店を開いていない場合は殆どが鍛冶仕事中ということになるのだが。
「……ブレイブさん、アーテッドで見た覚えないッスけど、どっからきたッスか?」
「エメンリアの方から。実は、今マッフェロイ側から北へと抜けられるようになってるからね」
自分の通ってきた方ではなく、リュージ達が開いた道の方について語るブレイブ。あまり詳しくはないが、それでもテイルロマジアの方の道を通ってニアーズレイを通ってきた、ということで話を通したようだ。
「そうなんスか」
アメリアはそれを信じる。アメリア自身、そこまで興味のない内容になるし、そちらの方に詳しくはない。テイルロマジアにも、ニアーズレイにもためになるような鉱石がなかったためでもある。ブレイブたちの通ってきたドワーフの街、アイアンロンドに関してはまだ到達者が少ない。ニアーズレイ、テイルロマジア周辺に関しての探索がまだ進んでいないためだ。こうして現状を見てみると、ブレイブたちはずいぶん強行軍で進んできていると言える。これも探知能力を持つパティの恩恵である。
「それで、わざわざそんなところを通ってきてここまで来てどうしたんスか?」
「いや、コッチーニに行くつもりだったんだけどね」
「……流石にそれは無謀ッスよ? いくら北側を抜けてこられるって言っても……そもそも、ブレイブさんソロッスよね?」
「あー……一応、使い魔いるけど」
そうブレイブが言うと、腰でぴたりと止まった状態で座っていたパティが動き出す。そして、アメリアに挨拶をする。
「使い魔のパティだよー。アメリアさんでしょー、よろしくー」
「それ使い魔……? てっきり人形趣味かなんかだと思ったッスよ」
「それ酷くない!?」
ちなみに、特に話していな時のパティは本当に人形のようにおとなしい。故に、ブレイブは腰に人形を置いている変人のように、道行くプレイヤーの目に映っているだろう。それに気づくのはかなり先、掲示板を覗いてるときに適当にスレを見ていたら噂になっていたことを知った時になるだろう。
「使い魔っていっても、一体だけッスよね? いや、たくさん作れるかは知らないッスけど。それ一体だけ伴って行った所で何するッスか? 魔法使って雑魚でも一掃するッスか?」
「何かすっごく辛辣に言われてるんだけど……」
「当たり前ッスよ。向こうで少しでも戦闘すればモンスターのリンクがあるッスよ? 当たり前ッスけど。それを、一人でどうやって抑えるッスか。その使い魔がいた所で、多勢に無勢で押し潰されて死に戻りするだけッスよ……死にに行くつもりッスか?」
「別に死に戻りするだけなのにねー」
「そりゃそうッスけど……VRで好んで死に戻りする選択肢選ばないッスよ?」
「…………」
そのアメリアの言葉に目を逸らすブレイブ。実のところ、ブレイブは死に戻りを利用した戦闘方法の経験者だ。コッチーニ南の湿地帯で。
「……まあ、いいッスけど…………行くんなら、武器変えるッスよ。新作があるッス」
「あ、そうなんだ」
「それじゃあ、前使ってたの渡すッス。交換ッス……よ……?」
じっ、とブレイブの持って居た杖を見るアメリア。
「あっ」
なんだかんだでアメリアの武器の方が使い勝手がいいものの、質など諸々の点で、ドワーフの作った杖の方が有利なのだ。つまり、ここまでブレイブはドワーフの作った鉄杖を使っている。自分の作ったそれと違う杖と使っているのを、アメリアは見つけたのでる。
「えっと、アメリア、これは」
「渡すッス」
「え」
「渡さないと潰すッスよ」
「あ、はい」
その気迫、目力に負け、おとなしくドワーフ製の鉄杖を渡すブレイブ。
「……………………」
振り心地、材質、重心、色々な項目をアメリアはチェックする。場合によっては持っている金づちか何かでかん、と杖と叩くこともある。金属の音を聞いている感じだ。
「……ま、負けてるッス」
鉄杖をチェックし、置いたと同時にがくりと床に手をつき項垂れるアメリア。自分より質のいいものを作られたことがよほどショックなようだ。さらに言えば、これは半ば片手間に作られたものであると聞けばどれほどの精神ダメージを受けるだろうか。実のところ、新しくアメリアの作った杖の方がこの杖よりもいいのだが、タイミング的に自分の作った過去のものと比べているため、負けているという評価になっている。どちらにせよ、最初に作り始めた時期や制作に撃ちこんだ時間からしても、ドワーフ達の方が不利である以上、少しの差で勝ったとしてもそれは勝ちとは言えないが。
「……ブレイブさん、これ何処で手に入れたッスか?」
「え、えーっと……」
「ドワーフの街、アイアンロンドだよー」
「アイアンロンド? 聞いたことないッスね……」
ブレイブが答えに窮しているところにパティが勝手に答える。そうして、ブレイブはテイルロマジアを通ってきたのではなく、実は第六の街、アルイヌイットの廃坑から抜けてきたことを言わなければならなくなったのであった。
「……そんなところが。しかし、廃坑に……ドワーフの鍛冶技術……」
がしっ、とブレイブの腕が捕まれる。
「ブレイブさん、連れて行ってくれない?」
「え?」
「報酬は何でも払うわ、何でもよ。これからの全収入の半分を渡してもいいわ。お願い」
ロールプレイが崩れる程度にマジな心情である。
「ああ、わかったから、わかったから落ち着いて」
「……ああ、悪いッスね。そして、何か恥ずかしいところを見せたッス」
「いや、いいよ……」
「向こうも一度会ってみたいって言ってたしね」
しかし、状況が状況とはいえ、許諾してしまった以上、ブレイブはアメリアをアイアンロンドまで案内しなければならなくなる。つまり、コッチーニ行きはお預けということになってしまった。残念なことに。
アイアンロンドに向かう道中。もちろん、敵が出る。今回はアメリアというお荷物になる存在がいるが、やはりパティの探知能力及びブレイブの遠距離からの魔法、そういった要素により完全な不意打ちの無効と先制攻撃により、余裕をもって進むことができる。
「……チートッスねぇ」
思わずアメリアの口からそういう言葉が出ても仕方がないだろう。それには遠距離攻撃、魔法職が少ないと言う理由もあるのだが、強力な先生遠距離攻撃がほとんど存在していない。そして、探知能力も、パティのようなかなり広範囲に展開される遠距離探知ほどの探知能力はない。せいぜい、聴力を利用したものが逸れに値するが、人間の探知能力を超えるにはかなりのスキルレベルが必要だ。そこまで行っているプレイヤーはまだほとんどいない。
「そこまでチートかな?」
「北エリアの探索がまだそこまで進んでいないことを考えるとチートとしか言えないッスよ。本当にチートしてるって思ってるわけじゃないッスけど」
軽々しくチート、チート、というが、実際スキルを作った本人の実力だ。チートではない。ただ、そういうとんでもないスキルや能力はついチートと言いたくなる心情だということである。あえて言うなら、チートじみてる、と言うのが正しいのだろう。
「ちなみに、パティはどこまで探知できるッスか?」
「その時の気分と調子とテンションで変わるけど……二、三百?」
単位は言ってないが、メートルだ。つまり、二百メートル先の敵が分かると言うことである。
「マジでチートじゃないッスよね!?」
「わかる、ってだけだよ。そもそも魔力が分かると言っても、魔力から何かもが分かるわけじゃないし。分布から、その魔力を持っている存在の姿が分かるけど、例えば人型だからって人間かゾンビかわかんないし。遠くだと、うっすらとしかわかんなくて、魔力があるなー、ってくらいしかわかんないし。まあ、チートって言われる程度には凄いのはわかってるけどね!」
ふふん、と自慢するパティ。
「……これがブレイブさんの使い魔ッスか?」
「ああ、うん」
「ずいぶんな使い魔ッスね」
「これで滅茶苦茶優秀なんだけどね」
性格的には少々あれだが、能力だけを見れば、戦闘から探索、スキルだって継承できるのだから、やろうと思えば肉弾戦以外は何でもできておかしくない性能だ。そう考えると、優秀なのは事実だろう。正確に多少難はあれど。
「しかし……使い魔ッスか。作ってみるのもありッスかねー」
デメリットを考えるとつらいものはあるものの、アメリアであるならば鍛冶の手助けになるような使い魔が出てくれれば半減しても恩恵は計り知れないだろう。
「でも、望んだ使い魔が出てくるとは限らないからなあ」
「そうッスねぇ……でも、鍛冶以外でも、戦闘に役立てば、鉱石の採取が楽になるッスよ。一概に一所だけしか望まないってわけじゃないッス」
「もし呼ぶつもりなら、ちゃんと仲良くしてあげてね? 主従の関係だけど、対等に見てあげたほうがいいから。私のように、主を立てる使い魔ばかりじゃないからね!」
「…………」
「…………」
パティがブレイブを立てていたかどうかはともかく、そんなふうにのんびりとしたやり取りをしながらアイアンロンドへと向かい到着する。そうして、件の鍛冶屋に突撃し、アメリアが弟子入りする形となり、今回のことは決着がついたようだ。
「時間切れー」
「……アーテッドまで戻るのにギリギリなんだよなあ」
コッチーニに行くのは翌々日になるようだ。特に用事さえなければ。