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「さて……東に行くかー」
「ここでやることもないし、早くアーテッドまでいこー!」
パティとともに、ブレイブはアイアンロンドを出て東へと向かう。道中出てくる敵は第六の街近辺の敵とは変わりがない。そういう点においてはあまり面白みがない。しかし、倒せる敵であるためきっちりとブレイブたちは殲滅していく。
道は東に続いており、ほぼ一直線だ。そうして進んでいると、四辻の場所に出る。
「東、でいいんだっけ?」
「東でいいけど、南にも街はあるよ? テイルロマジアが」
「そっちはマッフェロイ方面だもんなあ……アーテッドに行きたいし、東だな」
四辻は北エリアの中央に近い位置だ。来たには最北のダンジョン、西にはアイアンロンド、南にテイルロマジア、そして東には亜人の街、第二の街"ニアーズレイ"が存在している。
「ここに待ちとかあると便利そうだけどなあ……」
「便利だから街を建てなかったんでしょ。各地に行きやすいと、そこを大半の拠点にされちゃうからね。マッフェロイに人が多くなる、みたいな感じで」
マッフェロイは第四の街、第五の街に続く場所であるためか、そこそこ人が多い。実質的には通過点ともいえる場所だが、第四第五の街にすぐ到達できるプレイヤーばかりでもない。必然的に、どちらの街にも行けないプレイヤーが集まる形となる。特に、コッチーニ側からマッフェロイ側に人を送る護衛がつくこともあるため、余計にそういう結果になったともいえる。そして、今マッフェロイにはコッチーニに戻れず、第四第五に行かざるを得ないプレイヤーが多く集まっているのが現状だったりする。
「運営側は人を一か所に集めたくない、って方針があると思うよ?」
「それ、今のマッフェロイを見て言える?」
「あれは偶然の結果。それに……あれはちょっと、そうなってもいい感じ、ではあったと思う。エムラント山林で亜人が防衛戦を張るには一定の条件がいるし」
「本当にどこからそんな知識を……」
改めてパティの知識、攻略や運営側の事情に詳しい知識内容についてブレイブは疑問を抱く。今までもいろいろとあれこれと知っているような感じだったが、ここで運営側や攻略条件のような内容について言われると、やはり抑えていた疑念が再出する。
いくらスキルや戦闘、感知スキルによる敵探知など、そういった部分で世話になっているとはいえ、ここまで来るとやはりパティという存在に対し思う所がブレイブには出てくる。
「本当に、パティは一体何なの? ただのNPCとは思えないんだけど」
「そのあたりはあまり疑念を持ってほしくはないんだけど……うーん、私もあまり詳しくは言えないし……というか、言えれば言ってるよ。自分から話す許可を得てないから、私は言えない。それじゃだめ?」
「………………」
色々とパティという存在に対し疑念を持つものの、パティ自身がブレイブに敵対するということはない。今までの行動からも、ブレイブの助けになる、そういったことしかしていない。意図せずに事故った場面はあったかもしれないが。
「まあ、パティには世話になってるし……謎は残るんだけど」
「ミステリアスって良くない?」
「不安が残るのは良くないと思います。ところで、エムラント山林の亜人が防衛戦を張る条件って?」
先ほど言っていたパティの発言を聞いていてブレイブが気になった点がそこだ。パティの発言を総合してみると、エムラント山林を侵攻してモンスターがマッフェロイに来る、その防衛のためにプレイヤーが多くなる、というふうにブレイブには聞こえている。つまり、エムラント山林の亜人の防衛戦は一種想定外の事象であるということだ。
「エムラント山林は、北と南で縄張りがあるんだよ。南に亜人、北にボス。亜人が防衛戦を張るには、北側に亜人がいけないといけないんだけど、それにはボスを倒してなきゃいけないから。あれ、発見難しい方なんだよね。単純に強いし、夫婦だから……倒すの遅れると子供がいることもあるしね」
「……………………」
その内容にでてくる対象に心当たりがある……というよりは、その対象を倒したプレイヤーが自分たちである。つまり、エムラント山林を使用できない理由は自分たちにあったのである。それが悪いこととは言えないだろう。それが無ければマッフェロイにモンスターが押し寄せていたのだから。その場合の防衛を考えると、亜人任せにできるだけプレイヤー側としてはかなり都合が良い結果になっていると言える。マッフェロイ側からコッチーニ側に抜けられないことを除けば。
「誰が倒したんだろうねー」
「さあ」
とぼけることにしたブレイブ。最も、事実を知っているのでパティは隠れてにやにやとしている。実にいやらしい。
東に順調に進む。道中に出てくるモンスターの強さは東と西で差異は殆ど無い。北エリアに存在するモンスターは南エリアのように、各街間で強さが変わる、ということは内容だ。これは北エリアがある種の隠しエリアに近いからだろう。今回起きたコッチーニへのモンスターの侵攻がなければ恐らくほぼすべてのプレイヤーは北エリアに来ることはなかった可能性が高い。一応、廃坑や迷いの結界のようなわかりやすい、まだ何かあると言う事例はある以上、イベントの類として何かあるのでは、と考えることは出来るのだが。それでも、それらを抜けるのに必要な条件を達成するのは困難だ。廃坑も、ブレイブの無理やりの突破が無ければこれなかっただろう。
道中の敵の強さが変わらない、となるとやはりブレイブとしては苦戦せずに進むことができる。そもそもの想定としては、街としては戻る形なので弱くなると言う想定だったのだが。
「敵の強さ同じだな」
「北側は、どこからくるかわからないからでしょ。アイアンロンド、テイルロマジア、ニアーズレイ、どこからプレイヤーが来てもおかしくない。だから、強さがどこでも変わらないように設定されてるってことだと思う」
「なるほど」
そういう意味合いではアーテッド側から来てないブレイブが良い例だ。また、リュージ達も同様の例となるだろう。そもそも、アーテッド側から来るプレイヤーもそこまで多くもないのだが。一応アーテッドにもモンスターが進行してくるため、その防衛のための人間は必要なのである。
そうして本来想定されるルートを逆行する形でニアーズレイにブレイブが到着する。
「……警戒心強い」
「臭いも独特な強さがあるし、早く行こー。多分見る者もないし」
パティの言う通り、あまり見る物はない。見せは存在している者の、武器防具に特筆したものが必要ない。亜人はもともと持っている牙や爪を使う方が武器を使うよりも強いことが多いためだ。もちろん、武器や防具を装備しないわけではないのだが、基本的に重要としていないため熱心に作らないのだろう。必要になればドワーフのところに行って作ってもらう方が自分たちで作るよりもいいのだから。
「……食べ物が充実してる」
代わりというわけでもないかもしれないが、見せには食物関連の品物が多く存在している。香辛料などもあるが、匂いは大丈夫なのかと疑問に思ってしまうくらいだ。
「ブレイブは食べなくてもいいよね? 食べられるだろうけど」
「プレイヤーだってものを食べたいときくらいある……」
とは言うものの、ブレイブは食物関連を買ってゲーム内で食べることはないのだが。空腹ゲージでもあれば話は変わっただろうけれど。武器や防具の類がない、そもそもあったとしても杖は置いていない、ということでブレイブはニアーズレイを素通りし、その街の山側にあるハーティア森林に繋がる道へと向かい、ハーティア森林内に存在するエルフの村、一つ目の亜人の街"エメンリア"へと向かう。そしてエメンリアを抜け、その先、最初の街であるアーテッドまで戻ることができた。そこまできて、ゲームのプレイ時間の限界が来たため、ログアウトする。コッチーニに向かうのは翌日という予定になってしまった。




