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ブレイブの目的は北側エリアを通過して、アーテッドまで戻り、コッチーニに行くことである。故に、アイアンロンドはあくまで通過点に過ぎない。しかし、始めてきた街であるし、どのような店があるか、色々と見て回っている。
町はドワーフの街、ということで金属加工系の武器防具の店が多い。最も、今までの街のように見せに武器を置いて、という形でないため、非常に店舗かどうかが分かりにくい。街に地図がおいてなければわからない場合もあったかもしれない。
「……やっぱりないなあ」
「そもそも貴殿は戦士の類ではないのだろう? 鎧も来ておらぬし、求める物はないと思うのだが」
案内人として、ガルファがついてきている形になるが、そのおかげかあまり気にせず店に押しかけることができている。
「この杖と同じようなものがないかな、と」
「棒術用の棒ならば置いてあるが…………そのような鉄杖は置いておらんな」
ブレイブの持つ杖はブレイブの考えをアメリアが受け作ったものである。杖自体は、魔道具という形で存在しているが、それを装備したところで攻撃力が上がったり、魔力が上がるような恩恵はない。単なる道具としての扱いだ。もちろん、ブレイブの持つ杖も、武器としての使用用途以外はなく、魔力が上がると言うこともないのだが。
しかし、明確に武器として存在する杖はブレイブの持つもの、アメリアの作ったもののみ、というのが現状である。人間側の武器屋とは違い、ドワーフの武器屋ならば、とブレイブも少し期待したが、結局武器として作られた杖はなかった。ちなみに、アイアンロンドには魔道具屋もないため、魔道具としての杖も存在していない。
「ないならしかたないか……」
欲しいものがない以上、ここにいてもしかたがない。既に道具屋のチェックは先に済ませており、後は武器屋くらい、ということで訪れたが、すぐにでることに決まったようだ。
しかし、そんなブレイブの行動に待ったがかかる。
「待ちな」
「…………えっと? 誰ですか」
「ここの親方だ。親っさん、ブレイブ殿に何か用でも?」
どうやら親方に何やら目をつけられたようである。一応、その親方の知り合いということでガルファが間に入って話を聞くことになった。内容はそんなに難しい話ではなく、鉄杖というこの世界に存在しない武器に興味を持ったので見せてほしい、ということである。
「……まあ、いいですけど」
ブレイブは杖を渡す。ただ見せるくらいならばそこまで手まではない。
「……ふむ」
親方は杖を持ち、握りの確認、振るい方など色々と確認している。特に、材質と造りを念入りに調べているようである。
「……二時間ほど待てるか?」
「待ってもらえるか? ブレイブ殿」
「ええ……いや、いいけどさ」
ゲームのプレイ時間的には、二時間待つと残り時間は少なくなるため、本当にただ待っている、というわけにはいかない。
「待つのはいいけど、その間に外でちょっと色々しててもいいかな?」
「それくらいはかまわないだろう……親っさん、杖を」
「悪いが、これは参考にさせてもらうから渡せん」
「……ブレイブ殿、杖無しでも問題はないだろうか?」
「ないです。それじゃあ、二時間過ぎてからまた来ます」
そう言ってブレイブは街の外に向かう。流石に武器を預けている上に、時間になればまた来いと言われている状態で東の方、第二の亜人の街の方に向かうつもりアない。そのため、街の近くでこの辺りのモンスター相手に魔法での戦闘感を確かめている。
「あの洞窟の封印を破った割りには、そこまで強力な魔法使いには見えぬ……」
「ガルファさん? いつまでついてくるつもり?」
「流石に邪魔じゃない?」
「ぐぬっ、ブレイブ殿、パティ殿、流石にそれは酷いのでは……武器がない以上、戦闘に不安があっては良くない、ということで危険があったら加勢できるようについてきているのだ。しかし、それは少し心配のし過ぎだったようだが」
ブレイブだけでも問題ないが、さらにパティもいる。戦闘面においても問題はなく、パティには探知能力もあるので不意打ちを受けることもない。本当にガルファが心配すぎなだけである。最初は監視という形でガルファがついてきているが、もはやほぼ便利な案内役に近い。
時間を潰し、ブレイブは武器屋に戻る。
「まず預かっていた武器を返す」
そう言って親方から杖を渡され、そしてそのあともう一つの杖を渡される。最初に渡されたアメリアの作った杖よりも質が良い。
「…………えっと、これは?」
「先の杖を参考にして作ったもんだ。まあ、片手間だがな。ああ、金は要らん。いい発想になったからな」
「はあ……」
新しく貰った杖を振ってみる。片手間で作った、と親方は言っていたが、ブレイブにはアメリアに作ってもらったものよりも扱いやすく、明らかに材質もいい。確実に、武器としての性能が高いとわかる。しかし、なんとなく、ブレイブの感覚ではだが、アメリアの作ったものの方が使いやすいように感じる。それは使い慣れている、ということが理由なのかもしれないが。
「うーん……」
「そちらの武器も悪いもんじゃない。込められた信念が感じられる。だが、腕はまだまだだな」
プレイヤーの鍛冶スキルのレベルと、NPCであるドワーフの鍛冶スキルのレベルで判断するとそう言われても仕方がないだろう。
「もし、それを作った奴に会う機会があったなら、一度会ってみたい。誘ってみてくれないか?」
「……まあ、構いませんけど」
武器をつくてもらっているし、本人に言うだけならば別に構わないだろうとブレイブは判断する。その後アメリアがどうするかは本人の自由だ。
「あ、でも場所がわからないかな」
「そこの奴に案内させればいいだろ」
「え……いや、構わないが……なんだ、この雑用係にさせられている感じは……」
最初の登場時とは打って変わった扱いである。仮にもエクストラAIのドワーフの戦士たちのまとめ役なのに。
武器ももらい、その日はガルファと別れ宿を取りログアウトする。流石に東に向かうには少し時間が足りなかったからである。翌日、学校で竜司と話していると、スキルメーカーで第三の亜人の街に到達した話をブレイブは聞いた。第三の亜人の街、テイルロマジアについての話はすでに掲示板に乗っているのだが、ブレイブはあまり掲示板を確認していないため、知らない。
テイルロマジアに到達したプレイヤーは竜司たちである。竜司、優枝、美空のいつもの三人でペディアに向かう途中にある横道にそれた先、直斗がマリオットとオラクルに出会った場所の付近で、北側に抜ける隠し道を発見した。そこに行くことになったのはブレイブが美空にした話によるものだ。ちなみに、その隠し道があったのは直斗が二人と出会った方向とは逆方向の崖にあったらしい。もし運が良ければマリオットとオラクルが最初の隠し道、および北側エリアの発見者になっていたかもしれないだろう。
そんな話を昼間に聞き、隠し道発見の報告と、その発見に至るうえでブレイブの話が無ければ到達しなかったことに対する感謝をされる。直斗としてはタダの提案なのでそこまで感謝される筋合いでもないし、軽く済ませた内容だったが。




