47
「ファイアーボール!」
沖に存在する島。フマーレストの面する海の沖に存在する島に存在するダンジョン、そこに存在するのはフマーレスト周辺の敵よりは明らかに強い、コッチーニ南の湿地帯に出てくる敵程の強さを持つ。それは第四の街に行く途中に存在する、ワームの中ボスレベルの強さはあり、つまりはそのレベルの雑魚がわんさか出てくるのが沖島ダンジョンだ。
しかし、ダンジョンの位置は海に面していることもあり、出てくる敵には水棲の敵が多い。もちろん、それ以外もいるが、数だけで見れば水棲生物が多いだろう。故に、ブレイブの火の魔法は特効ダメージがあり、追い払うことが難しくないと言うことである。
「あー! またそれー! もう、それ使ってばかりだと倒せないし、逃げられるでしょー!!」
もはやブレイブの魔法運用の監督役となっているパティがブレイブをしかりつける。確かに火の魔法は有効打になり、追い払うのに苦労しないスキルとなってはいるが、それでは本来の目的果たせない。プレイヤーレベルの上昇、経験値の取得である。
「ああ、つい……」
「あまり直らないようなら、譲渡してこっちで預かろうか? 使いやすいからって、いつまでも弱いスキルに頼ってたら駄目だよ?」
せめてファイアーボールではなくファイアーランスくらいにしてほしい、とパティは続けた。威力だけで言えば、ファイアーランスの方が威力が高い。使用頻度が低いため、そこまでレベルが高くないのがネックだが、いつまでもファイアーボールに頼ることはできない。
ここでも、有効だとはなっても決定打にはなっていない。威力だけで言えば、相手のHPを大きく削ることはできても、半分も削れていないのだ。だからこそ、相手に逃げると言う選択を与え逃げられてしまう。飽和攻撃をしてもいいのだが、洞窟という狭い範囲で火の魔法を使うと小規模でも爆発により崩れる危険もあるため、過剰な使用は厳禁である。
「シャアアアアアッ!!」
「来たよ! 麻痺させて、動き鈍らせるから、強力な魔法でね! パラライズアンペール!」
ばちっ、と弱い電気をパティが現れたモンスターに散布する。現実的にはあり得ない光景だが、ゲームのスキルだからこそできる光景だろう。撒かれた電気は、威力こそ弱い者の、触れた者に浸透し、その動きを阻害する。
ブレイブは、そのパティの使用した魔法に合わせ、自身の魔法スキルを使う。
「サンダーライン!!」
直線状に雷の帯が伸び、モンスターを飲み込む。延長線上に他のモンスターがいれば、そちらにも有効だったが、いないため意味はない。複数対象を攻撃できる魔法を単一の対象に使っているため、少々もったいないと言える。
モンスターは電気に痺れ、びくびくと痙攣している。しかし、未だに死亡していない。
「止め!」
「フレアニードル!」
膨大な熱量を、ペットボトルサイズに集め。二つの円錐をくっつけたかのような菱形をした先のとがった炎の針を頭部に撃ちこむ。その針の先に触れた部分から焼き貫かれ、モンスターを貫きその頭蓋の内を焼く。そうして、モンスターはすぐに動かなくなった。
「……これを撃ちだすのじゃダメ?」
「MP消費量。それに、的確に使用できるようにないと成長しないし、エネルギーの無駄遣いは資源の無駄」
厳しい物言いである。しかし、むしろ今までブレイブはそれだけ無駄の多い戦い方をしてきたともいえるので、ある意味自業自得だろう。
道中に出てくる敵を、パティの指導の下に的確な魔法の使い方で戦い続ける。時折、ついファイアーボールを使ってしまうことでパティに叱られながらも、ダンジョンを進み続ける。
「……なんか主従逆転してるような気がする」
「主なら主らしく、私に何か教えられるくらいになればいいよ? まあ、それは冗談だけど。むしろ、私はそういう教える側の存在、って思えばいいんだよ。そういう使い魔だって」
「……思うんだけど、使い魔って結局どういうものなの?」
パティという存在があまりに特異すぎるがゆえに、ブレイブはつい聞いてしまう。お前はいったいなにものなのかと。
「NPC。この世界に作ってある、NPCの一人。召喚主に、ふさわしい、適合する、条件に一致する存在を、召喚主をマスターとし、自身をスレイブとする、明確なルールにより縛られた特殊なNPCの存在。それぞれ、独自の性質を持ってるし、もともとのNPCとしての活動もあるから、個々で全然違う」
「……パティが色々と詳しいのは、独自の性質か、それとももともとの活動とやらか?」
「どちらかといえば、私の存在としての性質のせいかな。まあ、そのあたりはあまり聞かないでほしいけど。ブレイブは優しいでしょ?」
そのパティの言い方は、ブレイブは優しいから聞かないよね、という考えというよりは、ブレイブは優しいということにしておくから、聞くな、といっているようにブレイブには聞こえただろう。実際、そういう意図で言っている。別段パティがブレイブのことをやさしくないと思っているわけではないが。
「……まあ、聞かないでおくけどさ」
「ありがとう。その代わりと言っては何だけど、私は全力でブレイブを支援するし、その助けとなる。まあ、使い魔だから当たり前と言えば当たり前だけど」
使い魔でも主の言うことを聞くものばかりではない。それを知っていての物言いである。
「左、来るよ」
「キチキチキチ」
「サンダージャベリン、レイン!」
水棲系のモンスターに有効なのは火だけではない。電撃もまた、多くの作品において水、および水辺の生物に対して有効である。ちなみに、純水を使えば防げるようだが、この辺りは海である以上、そうそう純水を扱えるということはない。
しかし、火や水、土や風の魔法はもともとそこまでMP消費が高くならない、強力な魔法も、そこまで極端に高くならないのだが、先ほどから使っている電撃、雷の魔法はMP消費が初めから高いのである。その代わり、攻撃力は高い。何故雷の魔法は火などの魔法よりもMP消費が高く、威力が高いのかはパティの談では属性的に上位だからであるらしい。属性に上位とかそういうのがあるのか、というのは疑問点だが、だいたい四大元素、火水土風は消費が低く使いやすいが威力は抑えめ、それ以外は消費も大きく威力も高め、と大雑把に決まっているとのことである。
「消費大きいなあ……」
「敵もたくさん出るからねー。あ、そっちだめだよ、こっち」
「……どうやってパティは敵を感知しているのか」
使い魔であるパティは、ゲーム内の知識以外にも、魔法を扱う戦闘技能、および、敵の感知能力にたけているようである。そのおかげで敵の出現がわかり、回避したり先制攻撃したり、先に戦闘準備をしたりなどもできる。実に高性能な使い魔である。
「私は魔法系の感知タイプだからねー。だから、魔法で隠蔽されてたらわからなかったりするし、魔力が一切ない場合とかもわからないね。生物系は余裕だけど。わたし以外でも、動物系の使い魔は音とか匂いでわかるし、変な話じゃないよ?」
「あんまり他の使い魔の話はないんだよなあ……なんというか、仲が悪い、とかそういうのばっかりで」
「使い魔だって、一応主に仕えるってことになってるけど、嫌なことは嫌だし、命令も細かなものならともかく、大雑把ならうまく回避することもできるし。それに、良好な関係性でなければ、契約のつながりも弱くなるからそういう隙をついてるのかもね。そう考えると、私はかなりお得だよ?」
「ああ、うん……理解してるよ」
ブレイブにとっては口うるさい、という欠点があるのだが、恩恵がないわけでもないのであまり強くは言わない。
「あ」
「どうした?」
「ボス部屋」
「えっ」
今までパティの助けもあり、苦戦せずにボス部屋まで来た。
「え、ここ雑魚が中ボス位って聞いたんだけど?」
「ブレイブが強くなった、魔法スキルを的確に使ってる、無駄な戦闘は回避。まあ、来るだけならそこまで大変じゃなかったりするもんだよ」
「ええー」
「ついでに言うと、新スキルはまだ利用してないし。このままボス部屋言って、特大の一発撃って来ようよ」
「……まあ、やるだけやってみるかあ」
ここまで楽に来れたため、次に来るときも似たようなものだと辺りをつけ、死に戻りしてもかまわないとボス部屋に突貫したブレイブ。そして、一分もしないうちに、ボス部屋ごと、ボスを撃破し、崩れたボス部屋に潰されたブレイブが死に戻りすることなのであった。
「……あれ、ボス部屋って元に戻るの?」
「壊れたフィールドはちゃんと元に戻すよ。一日くらいかかるけど」
ブレイブはボス部屋破壊による文句が来ないかと不安だったが、そのパティの台詞のおかげで一安心した。




