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「さて……どうするかなあ」
翌日。スキルメーカーにログインするが、ブレイブはこの先どうしようか迷っている。現状、街は第六の街まで存在している。しかし、実のところ。コッチーニ襲撃があり、アーテッドからコッチーニの方へと移動ができなくなった。正確な物言いは違うが、コッチーニがモンスターに占拠されたことで、コッチーニを経由した第三の街への移動ができなくなっている。それ以上に、エムラント山林がコッチーニからやってくるモンスターたちの、マッフェロイへの襲撃を守る天然の要塞となっており、それを担う亜人を倒し先に進むわけにもいかないと言うのが現状だ。
ここで、アーテッド側から、ある宣言がされる。西に存在すハーティア森林、その迷い道の解放である。以前、ブレイブはあちらに訪れたことがあるが、ハーティア森林には一種の結界の護り、および、何者かによる守護がなされている。それについて、アーテッド側からの情報提供と、その先に進む道の解放が宣言された。
ハーティア森林にはエルフが存在する。そして、そのエルフがハーティア森林の護りをになっている。そういうことであるらしい。アーテッド側に存在するプレイヤーは、そちらを通じ、先への攻略を置こうなうようだ。具体的に言えば、フィールドの北側のエリアである。第六の街はあ北西の端と行った所である。
このハーティア森林の先は、エルフのような、人間に比較的友好的な亜人の住みかとなっているらしく、それゆえに、プレイヤー側と交流を絶っていたようだ。実は、第六の街アルイヌイットの東側には、現在閉鎖され使えない山を貫く坑道があるようだが、そちらに関しても亜人の手により塞がれているらしい。なので、向こう側から開拓しないとアルイヌイットから北の亜人のエリアに進むことは出来ない、ということである。
「南は? コッチーニに行くのは無理でも、南の海を攻略したら? 島があるんでしょ」
「島か……」
レベル的に、大丈夫かどうかは不安ではあるものの、いくらか作成した新スキルを試す意味合いでも、コッチーニを奪い返す、そのスキルを試すために必要な手を打つためにも、やる意味合いはある、とブレイブは考える。そもそも、レベル上げもあまり行っていないのだし、それを進めるのはブレイブにとって悪いことではないだろう。
「行くか」
「バカンス! 夏だもんね!」
「夏だっけ?」
パティの発言はともかく、ブレイブは第五の街、フマーレストへと向かうことになった。
現状、ブレイブはMPが減ったとはいえ、スキルの運用をパティに指導され、効率の上昇の結果、半減したMPでも以前と同じ……むしろ、以前よりも問題ないMP消費となった。そのうえ、MP総量がそこそこあるパティが存在し、実質二人組のパーティーとなっている。主人と使い魔という形であるため、実質的な言い方をすればソロプレイヤーだが、実質的には違うと言えるだろう。
つまりは、一人ですら楽に移動できるのに、パティがいることでさらに楽に移動ができるようになっている、ということである。
「……でも、まだ第五の街に行くには時間がなあ」
移動は結構な時間がかかる。場所の移動には基本的に徒歩での移動であり、ワープ機能はない。スキルならできるかとも思って試したようだが、直接的なワープスキルは存在しないようだ。かなり限定的な、狭い範囲での物質交換のような転送、転移の類は出来るが、街と街を行き交うようなことは出来ない。
「竜とか、大鷲とか、そういう空を飛ぶ生物を使えば楽に移動できるよ?」
「テイマー系のスキル?」
「そんな感じ。でも、そういうモンスターはあまりいないし……ボスはテイミング無理だし」
「馬系でもいいかもな」
「でも、そういうモンスターは大抵後半に用意されていて、前半では仲間にできないのであった。まる」
実際、現状見ていないと言ってもいいだろう。雑魚モンスターでも、豚、亜人、鳥系、牛なんかが主であり、馬などの移動に役立つモンスターは見ていないのが現状である。探せばどこかにいるかもしれないが、かといって探すほど一生懸命になるつもりもないと行った所だ。
「先輩、こちらではお久しぶりですね」
「フィルマ。ああ、久しぶり。こんばんは」
じっ、とフィルマはブレイブの腰に引っ付いているパーティキュラーを見ている。ブレイブの腰には現在、パティが引っ掛かりやすいように腰掛の類を備えている。そこにパティが鎮座しており、時折すれ違うプレイヤーの目が釘付けである。
「先輩、これは何ですか?」
「ああ……パーティキュラー。俺の使い魔だよ」
「パーティキュラー、パティって呼んでね! フィルマ……ちゃん、でいいかな?」
「使い魔ですか……」
フィルマとパティの目線が合う。
「うーん……いい感じ。いい、黒だね」
「……瞳か髪の色、ですか?」
「そーだよ。知り合いに同じくらいの黒を持つ人、知ってるから。綺麗だね」
「そう言ってもらえると、少しは嬉しいですね」
仲が良い、というにはちょっと奇妙な感じである。
「そういえば……リュージ達は?」
「今、東へ抜ける道が他にないか確認しています。アーテッドまで戻らないと、北へ抜けられそうにないので」
「ああ……リュージはやりたがるよなあ、そういうの……」
第三の街から先にいるプレイヤーはアーテッドまで戻ることは実質的に不可能である。現在、コッチーニからの進行を防ぐ亜人は倒すことが現金とされているため、東にエムラント山林を抜けることは出来ない。しかし、そう言われたからと言ってあきらめきれないプレイヤーはたくさんいる。
そういったプレイヤーは、どこかに抜け道がないか、そう行った所を探している。中にはエムラント山林を強行突破しようと向かうプレイヤーもいるが、そういうプレイヤーは入り口にいるNPCの検問に引っかかってしまっている。対策はきちんと打たれていた。
「でも、見つからないので……」
「第三の街で足止め、ということか……北はダメ、か?」
ふっ、とブレイブは自分の記憶の中にあるある場所のことを思い出す。刑事場などでも特に話題にされなかった、ある二人と出会った場所だ。
「北ですか? 北は険しい山で、越えれるような場所ではないですよ」
「でも、第四の街へ向かう途中に、横道があっただろ? あっちが全く意味がない、ってわけじゃないと思うんだよ」
ブレイブが逸れて進んだ道の事である。実際、あの道は山にぶつかって終わっていた。しかし、山に行くだけならばその道以外でも行けるはずだ。なのに、あそこだけ道が続いている、というのは奇妙なものにブレイブは感じていた。
「……確かに、ありました。あちらを進んでも特に何かあると言う話はありませんでしたし、こっちで特に何もなければ行ってみてもいいかもしれません」
そんなふうに話を終えたところで、フィルマはブレイブに今後のことを尋ねる。
「先輩はこれから先、どうするんですか?」
「俺は南に行くつもり。フマーレスト」
「クラーケン退治ですか? あ、でももう第六の街に行ってますし……」
「沖にある島に行ってみるつもりなんだよ。実力試しに」
「なるほど……先輩なら大丈夫だと思いますけど、沖の島は第四の街に向かう途中の中ボスレベルや、コッチーニ南に存在する湿地帯に出現するモンスターレベルの強さはあるらしいですので、注意してくださいね」
「ああ、うん、頑張るよ」
最終的に、その日はフィルマと会話しているうちにゲームプレイの時間が来たため、リュージ達を待つことなく、ブレイブはログアウトすることになった。翌日学校でそのことについて色々言われるのだが、それに関しては別段話にするようなことでもないだろう。




