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「ウィンドバレットー!」
鳥型モンスターの翼を的確につき、パティがモンスターを打ち落とす。ブレイブであれば、ファイアーボールを複数展開し、面で制圧する形になっただろう。
「……的確だなあ」
「必要な運用方法だから仕方ないよ。ブレイブはそのあたり融通がきくだろうけど」
使い魔であるパティにとっては、ブレイブのような無差別な運用は出来ない。それはパティはプレイヤーではなくAIであり、それゆえにいろいろな制限が存在するからだ。
まず、一つ目の制限はスキル作成の不自由さだ。AIは自分でスキルを作ることは出来ず、先に運営側からスキルを与えられている。そして、与えられる以上のスキルを得ることは出来ない。これはある意味、AIとプレイヤーの明確な差別化である。そもそも、AI側をあまりに自由にしすぎると、プレイヤー側を容易に超えることが可能だ。死に戻りのような特典はAIには存在しないが、ゲーム内において眠る必要もなく、無制限に活動できるAIが自由にスキルを得られるとなると、とんでもないことになるだろう。
ちなみに、使い魔は死んでも復活できる。クールタイムのようなものこそあれど、使い魔は死んでも復活できると言う他のAIにはない利点がある。最も、使い魔は使い魔でしっかりと不利な点はあるのだが。
そして、二つ目の制限。使い魔は成長しない、という点である。使い魔のスキルは、プレイヤーのスキルのように成長する。これは他のAIのスキルも同様だ。だが、他のAIはステータスが上昇しない、なんてことはない。しかし、使い魔は初期のステータスはそこそこ恵まれたものになるが、それ以上に上昇しない。一応、AIはプレイヤーと違いステータス上限が決められているが、それでも全く成長しないわけではない。少なくとも、現在の上位レベルのプレイヤー並に強くなれるのはどのAIでも一応できる。使い魔になったAIは、その条件から外れ、特殊なステータスを与えられ、全く上昇することはなくなる。
こうしてみると、いろいろな制限や不自由が使い魔には存在する。しかし、使い魔側はもともとある程度それを知っている。使い魔になる条件として、それを許諾しなければ使い魔にはなれないからだ。
「もともとそこそこ強いけど、MPの上限が決まってる以上、スキル管理はしっかりしないと……」
「大変だな」
「ブレイブも、ずーっと面攻撃じゃなくて、ちゃんと狙えるようになったらー? MP回復するとは言っても、無限じゃないんだよ? 私に渡してくれるMPも確保してほしいし」
一応、パティのMPは自然回復する。しかし、それはプレイヤーと同等ではない。同じ時間でも、パティのMPはプレイヤーの半分の量しか回復しない。一応パティのMPは他のプレイヤーよりも多いので、回復量はそこまで低いとは言わないが、それでも魔法使い系の使い魔として運用されるのであれば少々厳しいだろう。
ちなみに、MPの回復は総量が多ければ多いほど回復する。ただし、すべてのMPに一定の割合というわけではない。最大値が高ければ高いほど、割合としては減っていく。一定数値の回復でないだけましと思うべきだろう。
「だいたい、誘導弾設定はどうしたの? 設定した同タイプのスキルを一本化してるのに全く使ってないし。だいたい、たくさんスキルを持っているのに同じスキルばっかり使い過ぎ。便利でレベルが高いからって、一番有効なスキルを使わないのはどうかと思うよ」
「うぐぅ……」
ぐうの音も出ないとはこのことである。実際言われてしかるべきのスキル運用なのだから仕方がないだろう。
「ほら、だからスキルの練習するよ。このあたりでも、レベルが高いと言っても全然問題ない相手何だから」
「ああ、うん、わかったよ……」
使い魔に諭されるブレイブ。主従関係が逆転しているのではないかと思う一幕であった。
「強力なスキルはMP消費が大きいから、あんまり使えないよね。でも、強い相手には必要なのはわかる」
「やっぱり最大MPがネックだな」
「それもそうだけど、それ以上にスキルレベルと運用効率の上昇の問題がね。強力なスキルは消費が大きいからあまり使えず、それによりレベルが上がらない。レベルが上がらなければ威力も上がらないし、MP消費も減らない。だから、最終的に強さは落ちてもレベルが高くて消費の安いスキルを使っちゃう。そういう傾向はあるだろうね」
ブレイブは現在、パティと強力な魔法スキルの作成について、話し合っている。これは、少し前にリュージに聞いた竜のような強力なボス相手にどうするか、をブレイブなりに考えた結果出てきた案である。そもそもブレイブは今まで低レベルの魔法を大量に、連続的な攻撃運用で戦闘してきている。それでいい相手だから、大丈夫だったが、それが通用しない相手になるとどうしようもなくなってしまうだろう。
「うーん、ブレイブでも強力な魔法となると、何回か使える程度だよね。なんとかして、MP消費をどうにかできればなあ」
「スキルでそういうのはないのか?」
「対策されてるよ。流石に、スキルでそれが自由にできると問題が大きいし」
今更パティが運営側の事情に詳しいことは思考の外に追いやるようになったブレイブ。パティは尋ねればだいたいのことは答えてくれるが、その情報源について言及することはない。意図的に言わないようにしている、ようである。その意図をブレイブも汲んで、わざわざ聞かないようにしている。NPC側はそれはそれで大変なようなので。
「でも、全くできないわけじゃないみたい。例えば、代償型のスキルとかね。HPをMPに変換する、とか。道具をMPに換算するとか、そういうのとか」
「具体的にできないのは?」
「強化系スキルと同じ。装備なら分かりやすいけど、これを装備すれば攻撃力が幾つか上昇します、クリティカル確率が倍になります、消費MPが半分になります、とかそういうの。制限なしで強化できるパッシブスキルは禁止、ってことだね」
それ自体は今までの傾向からも判別している内容である。
「じゃあ、具体的にできるのは。別ので何かないか?」
「うーん、あるにはあるけど……攻撃力とか、クリティカルみたいな、そういうのは楽なの。時間制限で、MPを半分くらい消費して、いくらかのステータス上昇をする、みたいのなら。でも、MPはそういうのは難しいから……魔力を半減する代わりに、消費MPを二割減らす、とかならできるかもしれないけど、それはそれでだめでしょ? MPなら、外部タンク系にするしかないけど……MPを直接外部タンクに補完する、という形式は不可能だから」
先ほどパティが言ったように、持ち物を消費する形や、自身のHPをMPにする、ような別の物を使うのであれば作るのは簡単なようだ。逆に、保管するスキルは不可能であるようである。保管先がないと言う点もあるが、保管する道具を作ってもそれに補完すると言う形式は出来ない。あえて相違形式を作るとなれば、MPを消費してのMPポーションの作成という形になるだろう。それでも、単純にMPだけの消費で作れると言うことはない。
「つまり、別のエネルギー源を利用する形ならば不可能ではない、ってことか……」
「そうだね。でも、持ち物だと、効率が悪いし、HPだとそれはそれで危険だよ。でもHPならポーションで回復できるから、メリットは少なくないけど。それでも、やっぱり体力という形式であるHPは物よりも効率はいいけど、半分以下だね」
MPポーションはHPポーションよりも高価である。これは素材であったり、作業の問題のようだが、それを無視できる方法があるとなれば流石に問題だと言うことなのだろう。それゆえに。HPをMPに変換するスキルはあまり効率が良くないようだ。
「一番効率が良いのは、やっぱりMPに近い純エネルギーだよ。でも、そういうのは基本的にないからねえ」
MPに近いエネルギーとなるとなかなか思いつかないものである。一番近いのはそれこそHPだ。
「ふむ……」
改めて、ブレイブは話を思い出す。それはブレイブの中に、少し引っかかる感じの内容があったからである。
「純エネルギーか……」
MPに近い運用、となると例えばスキルに使うようなエネルギーになるだろう。逆に考えれば、スキルでできるようなことはそのままスキルのような運用エネルギーになるのでは、とブレイブは考えた。
「……試してみるのはありかな」
スキルメーカーにおいて、スキルを作ることにデメリットはない。今ならば、パティという使い魔へスキル運用を任せることもできる。いや、むしろパティも利用する形でのスキル作成も可能では、とブレイブは考えた。
「ブレイブ、どうしたのー?」
「いや、ちょっと考えがあってな」
ブレイブはパティにその考え、スキル作成、運用を話す。
「変なこと考えるねー。スキル作ってみないと分からないけど、やるだけやってみたら? スキル作成はタダだし」
「そうするよ。でも、できた場合、パティに負担がかかったりはしないか?」
「心配してくれるの? 大丈夫だよー。使い魔っていうのは、ある程度そういう負担を背負うものだから。それに、それくらいなら負担にもならないしねー」
「そうか……」
いつも通り、軽い返事でパティはブレイブに返事をする。そういう使い魔だからこそ、ブレイブも気兼ねなく、新しいスキルの作成を行うことができるのであった。




