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使い魔作成。一般的に、魔法使いと言えば、その強力な魔法の存在以外に、主に付き添う、猫や梟などの生物を用いた使い魔の存在を思い描くことも少なくはないだろう。この世界においても、使い魔作成ということは出来る。ただし、この使い魔というのは意外に厄介なものだ。
まず、使い魔作成のスキル、というよりは、使い魔そのものが一つのスキルであると言う点である。最も、スキルメーカーはいくらスキルを作成しても損がない以上、使い魔をスキルで作成すること自体に特に問題はない。しかし、使い魔という存在を、なんの代償もなしにスキルで作成できるか、というと話は違ってくる。
使い魔作成は、本人のMPの半分を代償とする。それが初めて使い魔を作成したプレイヤーの情報によって判明した使い魔作成の欠点の一つである。現状、魔法使い系のプレイヤーは少ないため、MPが半分になったところでそこまで大きな代償でもないが、そのプレイヤーの使えるMP消費型スキルを使える回数が減ると言うのはそれはそれで大きい代償だ。また、魔法使い系のプレイヤーにとってはMPの半分はとても大きな代償だ。使える魔法の量が半減する、というのも大きな欠点であるし、また、強力魔法はMP消費が大きいため、そういった魔法を使える回数も減るし、全MPを消費するような、決死の大技ともいえる魔法は使えなくなる。全MPとは言わなくても、半分以上使う魔法スキルは使えなくなるのだから、やはり使い魔作成は代償が大きいものとして見られている。
そして、一番の欠点。それは、使い魔が本人の望むものとなるかどうかが不明瞭である点だ。もちろん、作るのが本人である以上、完全に望まぬ使い魔になると言うことはないが、それでも使い魔は個々の個性を持ち、その個性に合わせた性質、能力、得意事項が存在する。何故そんなことになるかというと、使い魔はエクストラAI、またはプレイヤーAIを実装しているから、と思われている。それゆえに、望んだ使い魔らしさを持たない使い魔が生まれてしまうこともあると言うことだ。最も、使い魔は個々で動けるゆえに、全く役に立たないと言うこともない。ステータスも、消費したMPの半分以上のMPを持っていることもあるため、有用性が全くないと言うこともない。戦闘でも、囮や補助をこなすこと自体難しくもない。スキルも、プレイヤーの持っているスキルとは別に覚えることもできる。強いプレイヤーの持つスキルとは別カウントなのは少々残念だが、逆にプレイヤーのスキル方針と違う攻勢を作ることもできるだろう。スキル作成に制限がないのでどれだけ有用かは不明だとしても。
「使い魔……作成、っと」
使い魔作成は他のスキルのように単純ではないらしい。それらしい、雰囲気が必要であるとのことだ。具体的には、それっぽい魔法陣とか儀式を行わなければできない。普通のプレイヤーでは思いつかないような方法だが、最初に使い魔を作ったプレイヤーはそこそこのロールプレイヤーだったようだ。
ブレイブの使い魔作成は地面に魔法陣、五芒星を描き、その左右に持続性のある灯り代わりのファイアーボールを出すと言うものである。それだけだが、十分なようで、使い魔作成と言ったことにより、魔方陣が発光する。魔法陣が光、その光が小さな球形となり周囲に散る。魔法陣の光は消え、周囲に光の球が乱舞し、所徐々に渦巻くように一か所に集まり、それは小さな人の姿を形作る。
最後にひときわ大きく輝き、そこには金髪の人形のような可愛らしい少女がいた。いや、逆だ。少女のような可愛らしい人形、という方が正しいかもしれない。人、というには等身や大きさが明らかに違いすぎる。子供というにも、少々歪だ。
「ふーっ! 疲れたー! ひっさびさの降! 臨! プレイヤーさん、私を呼んでくれてありがとー!!」
「…………」
ぴしり、とブレイブの動きが硬直する。流石に、予想外の台詞だったからだ。いや、予想できる方が変かもしれない。
「あ、初対面なのにちょっと変にテンション上がっちゃった。ごめんごめん。それじゃあ、改めて……初めまして、プレイヤーさん。私はあなたの使い魔、パーティキュラー。えっと、パティって呼んでくれればいいよ。名前呼びにくいからね」
「……ああ、うん、パティ、よろしく」
「それで、プレイヤーさんはなんていうの? お名前、教えてほしいなー」
「ブレイブ。まあ、勇気とか、そんな感じの意味だよ」
「よろしく、ブレイブ!」
ファーストコンタクトの使い魔の印象は、ちょっと残念っぽい、というのがブレイブの感想だが、どうやらかなりプレイヤーに対して協力的な使い魔であるようで、それ自体はかなり安心する事項だった。使い魔作成に関しては何度か他のプレイヤーに行われているが、非協力的な関係になったり、途中でプレイヤーと仲たがいをするケースもあるらしい。もちろん、そんなケースの方が少ないのだが、そもそも使い魔作成の事例自体が少ないため、かなり不安だったようだ。
「えーっとね、ブレイブは私に何を望んでる? 使い魔作成するってことは、相応に存在するリスク……MP半分の欠点を理解してる、ってことだよね。それなのに、MP半分を犠牲にしてまで私を作るってことは、理由があるってことでしょ。なら、私は私で相応の働きをしなきゃならないわけで……」
「ああ……ずいぶん理解が速いね」
「そういうもの、だからね。私は。他の使い魔だと、私ほどに理解している存在はそうそういないし。まあ、私がそういうものだからっていうのもあるけど。プレイヤーの精神性、性格から、所有スキルとその運用傾向、また、使い魔作成の方法、ロールプレイによるスキルメーカーとの親和性その他いろいろ、もうたくさんの事柄が使い魔の選択にかかわるからね」
流石にちょっと、詳しすぎるのではないかとブレイブは訝しむ。そういう存在、と言っても、ただの使い魔がそれだけゲームに詳しいと言うのはどういうことだろう。しかし、詳しいと言うことは怪しくはあっても、逆に言えばそれだけ知識を有するということであり、それは利点でもある。また、それだけの思考力、知識を持つと言うことは、それ相応のスキル運用が可能ということでもあり、ブレイブとしては実用的でありがたいとも感じていた。
「えっと、俺のスキルの確認……はできないか」
「スキルで作っちゃえばいいんだよ? スキルメーカーの利点だよ。でも、私は使い魔でスキル作成は出来ないから、スキルを譲渡するスキルと、確認共有のスキルを作って、確認共有のスキルを私に使ってくれればいいかな」
「……スキル譲渡か」
もともとブレイブの望んでいたことは、使い魔にスキル運用の一部、ブレイブの使わないスキルや、同じだが別のスキルの管理を任せることだが、それをあっさりと可能とする方法を提示される。ブレイブとしては、すぐに思いつくような内容ではなかったので少々ショックだった。一応、スキルを任せるようにはするつもりだったが、どうするか明確に考えてはいなかったためである。
ブレイブは言われた通り、スキル譲渡、確認共有のスキルを作り、それをパティに渡す。
「スキル受け取りましたー。わ、珍しいね。魔法使い系? このゲームだと、今それほどいないよね。MPも高いし、魔力も高いし……というか、これなら私を作る代償、半端ないけど、よくやる気になったね」
スキルを譲渡すると、すぐにそのスキルを用いてステータスの確認をされる。
「なんかスキルをあっさり使いこなしてるなあ……」
「私はスキル持ってたらプレイヤー以上に使いこなせるからね。MPも……ブレイブよりはい低いけど、現在の大半のプレイヤーよりは高いだろうし。ただ、スキルレベルは上がりが悪いけどね。あ、スキル譲渡は譲渡するスキルのレベルを半減以下にするっていう欠点があるから、注意してね」
今さっき作ったばかりのスキルの欠点まで網羅されている。ちょっと知りすぎではないかと思うほどだろう。運営はなぜ、このようなAIを使い魔にしたのだろうか。実に謎である。
「で、具体的に何をしてほしいの? 多分スキル関連だと思うだけど」
「俺のスキルを確認したなら、同じ名前で似たような能力のスキルがあるのはわかるだろ」
「バリアだよね。二つ……どころじゃなくてあるけど、一本化されていないのを考えると、弱いバリアのスキルと強いバリアのスキルがあるね」
「それを使う場合、ちょっと難しくて」
「似たようなスキルがあると、イメージ被っちゃうから、望んだ方を使えないことがある、ってことだね。だから、片方を私に運用させたいってことでしょ」
「ああ、うん……そうなんだけど」
理解が速い。速いというか、速すぎると言うべきか。
「じゃ、自分で運用しない方を私に渡してくれればいいよ。そうすれば楽でしょ。また同じのを作るかもしれないけど、一本化すればいいだけだしね」
「ああ、そういう可能性もあったか……」
他人にスキルを譲っても、また同じスキルを作ってしまう可能性はある。それでも、一本化すれば問題はない。もともと一本化すれば問題ないのだが、その場合高レベルを持つスキルのスキルレベルが無駄になるので、分けようとしたのである。
「どっちを渡してくれてもいいけど……私が運用するとなると、ラグがあるからねー。そのあたり注意してね」
「そうだな……指示出しして使ってくれるにしても、遅れると危ないからな……」
最終的に、バリアのスキルは強い方を残すことに決め、弱いバリアのスキルを譲渡することになった。譲渡する場合の減衰が著しいが、それは仕方ないとあきらめるしかないだろう。それでもまだ少し残るだけ有情というべきか。
他にも、もう使わないようなスキルや、使いそうであまり使わないスキルを譲ったりと、スキルの整理を行った。また作るかもしれないが、その時はその時、ということである。