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いつも通り、戦争がはじまる。そしてセリアとの闘いだ。
以前は闘いに集中しすぎないように冷静に、と心がけるようにしていた。
それは魔術攻撃を回避するためにパティの声を聴くためにだ。
それを意識しすぎていたため、どうしても戦闘に完全に集中する形じゃなかった。
ただ、今回は違う。戦闘に集中しながら、冷静だった。
いや、それは正確ではない。正確には戦闘を楽しむ自分と、戦闘を冷静に見る自分に分かれている感じだ。
二重人格、精神分割。色々あるが、精神の区分けという感じだろうか。
精神の大きな部分で戦闘を楽しみ、戦闘に熱中している。その精神のどこか一部分が戦闘を冷静に観察する。
どうしてこうなったかはわからないが、都合がいい。
『来るよ!』
以前と同じく、魔術攻撃が来る。前回も同じ感じだったが、今回はだいぶ余裕をもって回避できる。
意識的な問題でもあるが、こちらでも冷静な自分の意識が周囲を見るだけの余裕を持っているおかげだ。
着弾。大穴が空く。
以前は知っていても、避けることで精いっぱいだった。だが、今回はここで終わらせない。
今、避けた後の隙を狙う。
「っ! 避けてたんだ!」
直ぐに反応される。流石に強い。野生の勘というか、生物的な肉体や感覚の強さでは相手のほうが上だ。
そのまま連続で攻撃を仕掛ける。
「本気で行くぞ!」
意識が二つ、この言い方は正確ではないが、冷静な部分と戦闘に集中する部分があるおかげで、魔術の使用も並行して考えられる。
もはや精神分割に近いが、その言い方は正確ではない好きじゃない。まあ、呼び方は関係ない。
重要なのは魔術の使用を冷静な思考で考えることができるということだ。
もちろん攻撃魔術は相手に感知されて避けられる。いくら肉薄しての戦闘といえど、攻撃魔術は大きく逃げて避けられる。
こちらも追って魔術と剣での攻撃を仕掛けたいが、相手の身体能力のほうがこちらより上だから追っても剣の攻撃が届かないのが恨めしい。
使うのは防御魔術だ。以前は咄嗟の使い方で相手の大鎌を引っ掛ける使い方をしたが、別にそれだけにしか使えないわけじゃない。
やろうと思えば腕を剣のように相手の攻撃を滑らせるようにも使えるということだ。
足元に出して空中戦なんてやり方もできる。そんなことを考えても普通は魔術を戦闘中に発動するなんてことは難しい。
自分でもパティの補助があってはじめてできる。だが、精神分割で二種の思考ができる今であれば。
「っ!」
別に大鎌を防壁で受ける必要はない。腕さえ届く範囲であれば、柄や相手の腕を防壁で押さえればいい。
防壁は出したところから動かすことはできない。これは自分が動かすことができないという欠点だが、同時に相手も防壁を動かすことはできないという利点でもある。
もちろん簡単にできることじゃない。大鎌だって単純な扱いだけをやってくるわけじゃない。
相手の体に手が届くように懐に入るくらい近づく必要があるし、防御の魔術も感知される。絶対に成功する保証はない。
一つ、自分には普通の人間とは違うことがある。死んでも次がある。だから無茶な賭けだってできる。
今回はそれに成功した。ただそれだけだ。
そのまま剣で相手の片腕を折る。あの大鎌を片手でも扱えるだろうが、両手程の戦力は出せないはずだ。
「まだやるか?」
「……まだ、負けてないよ」
片腕でもまだその戦意は消えていない。大鎌で攻撃をしてくる。
だが、片腕ではどうしても大振りになる。両腕で扱ってきたものを片腕で扱えると言っても扱いきれるものではない。
もう一方の腕も折る。大鎌が落ちる。
「もう負けを認めろよ」
「負けるまで負けは認めない!」
肉弾戦をしてくる。折れた腕も使ってくるあたり、相当な無茶だ。
別に痛くないわけじゃないだろうが、それ以上に自分で負けを認めるのが嫌なのだろう。
そういう子だ。知っている。自分で負けを認めないなら、もうなんとか意識を失わせるしかない。
剣で何度か体を打ち、頭に一撃を加えようやく沈黙した。
相変わらずしぶとい。
その後、セリアを回収し、戦場を離脱した。流石にこれ以上の殊勲は必要ないし、セリアの保護が最重要だ。
一番重要なのは戦争で勝つことではない。その後に控える竜との戦闘なのだ。
セリアを失えば戦争は自然に終わりに向かう。
問題だったのがセリアの取り扱いだ。と言っても、セリアの強さに対抗できるような存在がいないせいもあり、こちらが預かる形で収まった。
よくよく考えれば魔術の飽和攻撃ですら避けられる。偉い立場にあるらしい師匠でも勝てるような相手ではないだろう。
そんな相手をとらえておく手段なんて国側にもないだろう。そうなれば殺す以外の対処は国は取れない。
かといって、セリアを確保している自分に対して渡せと言ったり、攻撃行動をとることもできない。
下手したらセリアや俺を敵に回すことになる。つまり、こちらの言い分を聞くしかないということになる。
そういうことなので、セリアを保護している形になる。負わせた怪我は魔術で治してもらった。
「ん……んー……おはよー」
「おはよう。特に体に問題ないか」
「……あ。そっか。負けちゃったんだ」
少し寂しそうに笑う。
「そうだな。今はお前は俺の預かりってことになってる」
「そうなんだ。そっか。私に勝ったんだもんね」
そういってセリアが立ち上がる。
「私はセリア。セリア・ケイトル。これから私のすべてはあなたのもの。何でも言うことを聞きます。よろしくね」
「あ、ああ……うん。俺はスィゼ。農家出身のただのスィゼ。まあ、よろしく」
「シゼ」
「スィゼな。言いにくいのかもしれないけど、ちゃんと言えるように」
「はい!」
元気よく返事をして、名前を言う練習を繰り返す。ちょっと怖い。
「スィゼ!」
「はい、よくできました。それでちょっと話良いか」
「もちろん。別に私に断りを入れる必要はないよ?」
「ああ、うん」
やりにくい。なんというか、こういう従順系はどうもやりにくい。
セリアに竜に関しての説明をする。この後竜が復活し、世界を蹂躙すること。
そして、その竜に対しての戦力としてセリアが必要なこと。
「竜……でも私よりもスィゼのほうが強いよね?」
「そりゃ、直接戦闘ならそうだろうけど。でも、セリアは……先祖返りだろ?」
「うん。なんか私の力とかいろいろすごいからって、王宮に連れてかれてそんな感じのこと言われた……かな?」
「まあ、細かい話は別にいい。先祖返りは特殊な能力、魔力があるって話だけど」
「あるよー。なんかすっごくすっごい斬撃がだせるよ」
すっごくとすっごいは同じ意味だと思うが、もう少し表現はないのだろうか。
「なんかね、こうこの大鎌に力を込めてえいやっ、ってやると普通は切れない者でも簡単に切れるし、遠くまで飛んでくよ」
「……他の武器では出せるのか?」
「んー……試しことはないけど、多分無理。この武器は特別なものだって言ってたし。なんとなく、スィゼの持ってるその剣とかじゃできないかな、って」
もしかしてセリアの持っている大鎌は特別なものなのだろうか。
「その大鎌は? そもそも誰が持ってたの?」
「王様。国の宝だって」
それは返すべきではないだろうか……いや、今はまだだめだ。それは竜を倒してから考えるべきだろう。
「そっか。とりあえず、セリアの持つ特殊な力なら竜に対抗できる可能性がある。そのためにセリアの力を貸してほしい」
「いいよ。さっきも言ったけど、スィゼは私にやってほしいことを命令すればそれだけでいいんだよ?」
「……意識の切り替えをすぐにはできないから」
どうしても、セリアの言うように命令という形にすることを意識するのは難しい。
「さて……まずこれからだけど……セリアを鍛えようか」
「? 鍛えるって?」
「セリアは今まで戦ったことは?」
「死なない程度に王宮の人と何度か。あとはこの前あなたと闘った時くらい」
やっぱり技術を得るだけの実戦経験がないということだ。なぜセリアに技術を教えていなかったのか。
そこまで考えて、自分が王宮につかまってた時を思い出す。毎回全力戦闘だった。
恐らく、王宮にいた戦力ではセリアの相手をまともにできなかった。だから技術を与えるほどに戦闘させることができなかった。
技術無しでもあれだけの戦力だ。わざわざ技術を与える必要はない、と考えたのだと思う。
実際自分がなんとかしなければ問題なく向こうが買っていたのだから。
だが、竜を相手に前人類の持つ魔力や能力だけで対抗できるとは限らない。戦闘技術は持たせるべきだ。
「竜相手じゃ今の戦闘力で勝てるかわからない。俺にも負けるくらいだし。だから、技術を得ることができる程度に鍛える」
「……よくわからないけど、私と闘うってこと?」
「……それが一番技術を伝えやすそうだし、それでいいかな」
ぱっ、と明るい笑顔になる。
「やった! また闘えるなんて嬉しい!」
「ただし、相手を殺すまで戦うなんてのはなしだぞ。こちらがやめろ、っていったらちゃんと聞けよ」
「もちろん。スィゼの言うことは何でも聞くよ」
とりあえず、セリアを鍛えることになる。毎日闘い続けていた囚われ生活を思い出す。恐らく相当に大変だろう。




