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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
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26

 基本的にブレイブが通る山林の道は通常の道か、回り道だ。近道を通る場合、数の暴力で亜人モンスターが襲ってくるため、流石に対処できない、と判断したためだ。


「ファイアーランス!」


 炎の槍が展開され、撃ちだされ、そのうちの数発が襲ってきた亜人モンスターにぶつかり炸裂する。ファイアーボールとは違い、少し食い込んだ状態で炸裂するのがファイアーランスの特徴で、より効果的に火傷と炸裂によるダメージを与える。

 普段から使っているファイアーボールではなく、なぜファイアーランスを使っているのか。それは単純に、ファイアーボールの威力ではここから先のモンスターに有効ではないからである。ダメージがないわけではない。しかしダメージを受けても怯む様子すら見せずに、多少受けても突っ込んでくるようになったのである。

 ファイアーランスは、レベルの都合上ファイアーボールと同じくらいの威力しかないが、こちらは同じくらいのダメージなのに怯む。それはなぜか。一つは、ランクの違い。所謂、魔法の格というものがファイアーボールよりもファイアーランスの方が上、という点。だが、こちらはダメージ判定の諸々にかかわるくらいで、モンスターが怯むかどうかにはそこまで大きな影響はない。一番大きな理由は、攻撃の性質の違いだ。実際にボールを相手に投げつける場合と、槍を投げつける場合で考えれば一目瞭然だ。ファイアーボールは表面で留まり、それが炸裂して威力を出しても表面を焼き払う程度だ。程度、というには大きいダメージかもしれないが、モンスターにとってはわかっていれば覚悟できる程度のダメージ、といった頃なのだろう。それに対し、ファイアーランスは、攻撃が相手の身体に食い込む。貫通するかどうかは相手の防御力にもよるが、それでもより奥へと炎が入り込む形だ。その状態で炸裂するのだから、中の方により熱、炎が通るということである。

 ちなみに、何故それをブレイブが分かっているのかというと、この亜人の襲撃が三回目だからである。


「ギャアウッ!!」

「バァゥ!!」


 ファイアーランスの攻撃も一撃で相手を倒せるわけではない。一撃で倒せない仲間を無視し、攻撃を受けなかったモンスターが攻撃を仕掛けてくる。


「バリアッ!」


 前面に展開されたバリアにモンスターがぶつかるが、それでそのまま怯むことはなく、がんがんと、バリアと叩く。


「スピア」


 ブレイブは持っている杖に魔法をかけ、バリア毎敵を貫く。スピアは文字通り、杖に槍の性質を付加させるものだ。そんなことをするならば最初から槍を頼めばいいのでは、とは思うが、こういう形で魔法を付加するのであれば、あらゆるタイプの武器にできるので悪い選択ではないだろう。最も、魔法のレベルが低いのでそこまで威力は出ないが。ちなみに、バリアは新しいバリアの魔法を作り、そちらは裏からの攻撃には弱いタイプの魔法として、一本化している。

 即席の槍となった杖がバリアを貫き、そこに張り付いた亜人を貫く。


「ギェァッ!」


 顔面を貫かれた亜人はあっけなく絶命する。その悲鳴を聞いたためか、残っていた中で無事だった亜人が逃げる。それに続き、ファイアーランスを受けた亜人も逃げようとする。


「させるか! ファイアーボール!!」


 ファイアーボールは威力としてはファイアーランスと一緒だ。コスト面での効率、使用してきた限りでの経験、様々な面で現状ファイアーランスよりもファイアーボールの方が上だったりする。ファイアーボールは面のように展開され、逃げようとしていた亜人を撃ち抜く。


「ギャァァッ!」

「ギョオンッ!」


 火の雨を受けた亜人はすでに虫の息だ。このまま放っておいても何れ死ぬが、放置しておいても仕方ないのでブレイブは止めを刺す。


「ふう……」


 これで亜人の襲撃は三度目、回り道の方では亜人は少ないと言う話だが、それは襲撃がないと言う意味ではない。亜人の数が少ない、というだけだ。また、亜人もいくらかいるようで、その出現頻度も違うようだ。ちなみに、二回目はゴブリン、一回目と今回がコボルトである。


「三体……一体逃がしたか」


 ソロの戦果としては十分……とは言えるが、本人としては全滅させたい思っていたようだ。近道の亜人の話もあり、亜人は全滅させ情報がいかないようにした方がいい、と考えたからである。最も、一回目でも同種の内の数体を逃がしているので今さいったを逃がしたところで大差はないだろう。むしろ、一回目よりも戦果がいいのだから十分いい結果なはずだ。


「ま、しかたないか。解体っと」


 解体スキルを使い、モンスターの素材を残す。解体スキルはモンスターの倒し方により残る素材に影響が出るが、ブレイブの目的はあくまでスキルレベルを上げることなので都合が悪いということもない。一応、ここにでる亜人の素材はそこそこ言い値で売れるのだが。


「……回り道でも全然出てくるなあ」


 一度の分岐で一度だけ、亜人に襲撃されている。最も、他の道では頻度や敵の数が多くなるのだから、一度の襲撃くらいは全然問題ない、むしろ経験値が稼げる、と言ってもいいだろう。ブレイブ自身もソロで苦戦しないのだから出ること自体には問題がないはずだ。

 最も、やはり近道に敵が沢山出る、と聞いていたのだから、回り道ではほとんど出ないと考えるのが普通だろう。その考えを引きずっているため、少し出てくることに気落ち気味なのである。

 そんなふうに、気分的に少しだけブルーになりながらも、先へと進む。この山林を抜けなければ次の街へといけないのだから。








「ん?」


 四度目の襲撃に対処した後、道を進んでいると、がさがさと森の中から音がする。


「ギギ!!」

「ゴブリン……でも、何か様子が……」


 森の中から三体のゴブリンがブレイブのいる方へと向かってきている。ブレイブには気づいていないようだが、何故か表情が優れない。


「先制攻撃するか。ファイアーランス!」


 気づいていない以上、攻撃を避けられる道理もない。最も、正確な狙いをつけられるわけではないので確実に当たると言うわけでもないが。もちろん、放たれた攻撃はしっかりと命中している。


「ギァアー!!」

「ギッ! ギギギッ!」


 攻撃を受けた一体がその場で苦痛に倒れる。残り二体のゴブリンはこちらを見て、叫ぶ。そして、残った二体のゴブリン同士が顔を見合わせ、同時にブレイブへと向かってくる。


「っ!?」


 もしかして、同時に連携攻撃をしてくる頭があるのか、と一瞬考えたが、どうやらその行動の威とは違うようで、そのままブレイブの横をすり抜けていっただけだ。


「えっ」


 向かってきていれば跳躍で回避しよう、と考えていたが、そうはならなかった。虚を突かれた形で、一瞬思考が停止する。その間に、ゴブリンがなぜ表情がすぐれなかったのか、その理由が判明する。


「ゴアアアアアアアアアアッ!!!」

「…………」


 森の奥、ゴブリンが現れた邦楽から、巨大な熊のような様相のモンスターが現れた。思わずその巨体と叫びにブレイブは固まってしまう。幸いなことに、その巨大な熊にブレイブが襲われることはなかった。

 すんすん、と鼻を鳴らして匂いを嗅いでいるようで、何の匂いを嗅いでいるかというと、先ほど焼けたゴブリンの匂いである。


「ギッ! ギッ!」


 熊が匂いを嗅ぎつけ、その顔をゴブリンに近づけている。ゴブリンは別に美味いわけではないが、森の中で獲物に贅沢は言ってられない。それに、特別まずいと言うわけでもない。


「ギアアアアアアアアアアアアアアアッ」


 ゴブリンが生きたまま、熊に食われている。ゴブリンの悲鳴と熊の咀嚼音、それらを聞いてブレイブは正気に戻る。


「……やばい、逃げよう」


 幸い、熊の気はゴブリンに向いている。あまり音を立てず、静かに逃げれば気づかれないはずだ。ブレイブは足元や、周り、熊の視点、意識に気を使いながらなんとかその場を脱することができた。


「すぐに、逃げよう。そうしよう。走ったら気付かれるかもしれないから、早歩きで」


 あんなモンスターが存在するなんて聞いていない、と掲示板の情報網に心中で文句を言いながら、山林の道を急いで進む。途中で回り道を通ることになり、襲撃もあったが、途中で出会った明らかにボスですと言わんばかりの巨大な熊に比べると大したことはない。実力的にも、精神的にも相手としては全然格下であるため、的確に対処し、何とかエムラント山林を抜けることができた。


「はあ……」


 抜けたところで思わず大きく息を吐く。途中で出会った巨大熊はそれほどまでに恐ろしい相手だった。以前であった大蜥蜴も相当な威圧感を持っていだが、それが子供に見える程である。湿地帯のサイよりもはるかに強大だったとブレイブは感じていた。


「やばいって。なんであんなのがいるんだよ、ここ序盤でしょ、マジで……」


 色々な意味で気づかれしたブレイブは早くログアウトして休みたい、と思ったが、山林を抜けた直ぐのところに次の街はない。暫く道なりに進み、途中一匹だけの亜人に襲われたが、山林の亜人よりもはるかに弱く、楽に対処していた。そうして、次の街、三つ目の街”マッフェロイ"に到着した。街の探索は次にログインしたとき、としてとりあえず宿に行き、ブレイブはログアウトした。

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