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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
skill maker
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24

「売れてるの?」

「特には売れてないッス。まあ、趣味ッスから別にいいッスけどね」


 アメリアの露店に売っている武器は以前のラインナップと比べると大分マシに放っているが、やはり商品としてみると普通に武器屋に売っている武器よりも格段に見劣りする。


「えっと、杖ができたって話だけど」

「これっス!」


 ごそごそと、露店の後ろを漁り杖を取り出した。杖と言えば杖だろう。ステッキのような、細長いタイプの杖だ。いわゆる魔法の杖のような宝玉の類の装飾や、木を削って作ったような、半ば棍棒じみた先の方が大きいものでもなく、本当に細長いタイプだ。


「杖?」

「杖ッス。まあ、棒術に使うような棒といっても変わりない気もするッスけど」

「これ作るのにそんなに時間かかったのか……」


 単なる細長い杖を作るだけなのにそう時間がかかるものか、とつぶやく。そんな態度に流石にアメリアも抗議する。


「言っておくッスけど、それ本当にまともに使える武器ッスよ? ここに置いてある、使い捨てにすら使えないような武器とは違うッスからね」

「それ自分で言う……?」

「事実は事実として受け入れるべきッス。そもそも、鍛冶スキル上級手前でなければどのみち店売り武器には届かないッスよ」


 基本的に、生産職のスキルはどうしても現状店売りよりも悪い状態だ。始めたばかりの状況で中級まで到達しているプレイヤーの方が少ないだろう。最も、それは作ることのできるアイテムの性能が悪いと言うだけであり、店売り品を買うよりもコスト的には安くなる、ということはある。最も、時間効率がよくないのでやはり店売りの方が使用頻度は高いのだが。


「……まあ、いいって言われても俺にはわからないんだけど」

「使い心地で判断するしかないッスね。わざわざ杖術のスキルとって確かめたッスよ」

「スキル自由に取れるからそのあたり便利なんだよなあ……」


 街の中で軽く杖を振り、その使い心地をブレイブは確かめる。しかし、いくら明確に武器とは言えない杖とはいえ、一応は武器で、ここは街の中である。


「武器使うなら外でやってほしいッスよ」

「あ、ごめん……アメリアは何かあるの?」

「露店やってるッス。街の外に出ないッスからね」

「ああ、そう……」


 アメリアは特に何かをするつもりはなく、露店をやっているだけのようだ。仕方ないので、ブレイブはアメリアと別れ、武器の使い心地を確かめに街の外へと向かう。最近のブレイブの相手は専らサイ、湿地帯に存在する強力なモンスターだ。スキルのレベル上げとしては優秀な相手だが、代わりにプレイヤーのレベルは上がっていない。なので、ここで少々強力なモンスターを相手に、杖術のレベル上げと合わせてプレイヤーのレベル上げを行うつもりのようだ。

 森、しかもその奥の方へと向かう。狙いは猪だ。既にソロで狩れる相手だが、直接戦闘となると勝手が違う。スキルレベルを上げるのであれば、サイが本来はいいはずだが、サイは武器や防具の破壊実績が存在する。破壊と言っても、本当に武器を使い物にならなくすると言うことはないが、破損状態にされるので、修復が大変だったりする。特に、この杖はアメリアのオリジナルで武器屋には存在しないものだ。どういう扱いになるかわからない。

 だから、いざというとき魔法に頼れる、そこそこ強力な戦闘の練習相手として猪を選択した。


「キィッ!」

「邪魔っ!」

「ギェッ!」


 森を移動がてら、跳躍を使い道中で見かける猿を杖で叩き落とす。力が足りていないため、頭にクリーンヒットさせなければ一撃で猿を殺せないが、叩き落すことは出来ているので悪くはない。軽くだがスキルレベルも上がる。


「ブァアオオオオッ!!」

「見つけた……けどさあっ!?」


 目的のイノシシを見つけるが、軽く興奮状態で突進してくる。跳躍で回避し、ついつい魔法を使いそうになるが、今回の目的は杖を使っての戦闘だと思い出し、すぐに取りやめる。


「よし、回避しながら……回避しながらっ!!」

「ブォオッ!」


 イノシシの相手をするのは簡単ではない。ブレイブは直接戦闘の経験は碌になく、もっぱら遠方から魔法を撃って近づく前に殲滅してきたのである。近づいてきても、木の上に逃げることで猪を回避できるのだから直接戦闘能力が上がる理由もない。サイ相手に少しは腕が上がっているかもしれないが、一撃で終わるサイと戦って上がるのはせいぜい回避がうまくなるくらいだろう。


「よしっ!」


 いいタイミングで杖をぶつけることができた。しかし、そこそこ威力のある一撃だが猪には大したダメージにはならなかった。今まで近接戦闘のスキルをほぼ使ってこないでいたブレイブの直接戦闘にかかわるステータスは低いのだから当たり前である。猿は元々が弱いので楽に倒せたが、その猿でも一撃で死なないことが多かったのだから、当然の結果と言えるだろう。


「駄目じゃん!」

「ブァアアオオオオオオオッ!!」

「ファイアーボール!」


 結局、いつも通り魔法に頼ることとなる。猪を倒した後、軽く杖の使い心地を確かめる。


「まあ、魔法使いじゃしかたないよな……そりゃ今まで直接戦闘なんて碌にしてないけどさあ」


 スキルメーカーにおいて、ステータスの上昇は基本的にスキルに依存する。直接戦闘に使うようなスキルのレベルを上げていれば、直接戦闘にかかわるステータスが、魔法のスキルのレベルを上げれば魔法系統のステータスが、スキルに対応したステータスが上昇するのである。つまり、今まで近接戦闘のスキルを作らず、レベルも上げていないブレイブの直接戦闘能力は低い。低いと言うか、ない。

 最も、ブレイブとしては納得してしまうしかない。多くのゲームにおいて魔法職は近接戦闘、攻撃力は低いのが相場である。自分自身もそういうふうにプレイヤーを作っているのだから、そうなるのは必然だろう。


「……まあ、杖くらいまともに使えるようになっておくか」


 魔法職とはいえ、近接戦闘ができなければ近づかれれば終わる。せめて杖を使っての受け流しや、防御位できるようにならなければ、とブレイブは森に出るモンスターを対象に戦闘能力を高めることにした。







 戦闘能力を高めるとは言っても、猿を相手にしても碌に成長する要素はなく、猪は近接戦闘を行うには少々強い。そういうことであるため、入り口の方へと向かい、先に向かうと出てくる狼を相手にすることにした。

 狼は数が多いため、危険は高いが、先にその数を減らせばそこまで苦戦するような相手でもない。相手の方が気づくのは早いが、範囲連弾のファイアーボールで数を減らせる。最も、先にダメージを受けてしまうので回復する必要はあるが。


「そういえば……こっちは全然進んでないよな。というか、道的にはこっちが正規じゃ……」


 以前から森には横から入っているため、ちゃんとした道を進んだことはない。なので、こちらの道を進んだ記憶はブレイブにはない。しかし、一応掲示板で情報収集をしているので先に何があるのかが分かっている。


「看板……迷いの森か」


 正確には迷いの森ではなく、元の場所に戻されると言うだけの話だが。一種の幻惑であるのは事実だろう。


「……実際に目で見て確かめるか」


 狼相手の戦闘訓練をしつつ、森の先へと向かう。既にコッチーニの方に多くのプレイヤーが行っており、先に行く意味もないとなると森にわざわざ来ることもない。なので、途中で他のプレイヤーに会うこともなく、狼に襲われるのを対処して先に向かう。

 噂の看板はわりとすぐ見つかった。


「ここか……森も深いなあ」


 そこそこ森の奥であり、樹々も多く先を見通すのが難しい。枝も葉も茂り、日の光を遮り暗くなっている。


「……森の中で駄目なら」


 ブレイブは跳躍スキルを用いて、枝に飛ぶ。そして、さらにその上へと向かう。


「うわあ……森だあ……」


 そんなことは当然わかっていることだが、光景を見てそう言わずにはいられなかったようだ。高所から見れば明らかに鬱蒼と樹がはている状況なのが分かる。木の上から見る分には遠くまで見渡せるが、それでもどこかぼやけた様子が見て取れる。


「正確に見えないなあ……これは流石に、そういうものとして考えるべきか……」


 単純に道に迷うとかそういうものではなく、一種の魔法や結界、異空間、少なくとも意図的に幻惑効果を発生させられている状況である、と行った所だろう。木の上にいてもその効果はあるようで、看板から先の様子が正確に観察できない。ただ、森の中とは違い遮るものが少なく、よく見ること自体は出来ているが。


「うーん、木の上でも効果はあるのかあっ!?」


 樹に掴まっていた所に、突風が吹いて樹から落とされそうになる。咄嗟に気をつかむことで落下をカバーするが、さらに大きめの石も飛んできて、無理やり手を放させられ、落下させられる。


「あ、やばい」


 がん、と地面にぶつかり、ブレイブは暗闇にのまれ、次の瞬間にはアーテッドで復活していた。


「……落下死とかないわー」


 最も、ブレイブとしてはあの時の風と石、明らかに自己とは思えない状況だ。見られることを良しとしない、何者かがあそこにいたということだろう。


「やっぱり人為的かな? でも、先に向かうのは楽そうじゃなさそうだな……」


 少なくとも幻惑の類の魔法であれば、それらを看破できなければ先に進めないだろう。どの程度スキルのレベルを上げればいいのか、それが分からない。そもそも、スキルのレベルを上げる方法もなかなか思いつかないレベルである。


「……支援系魔法か」


 今まで攻撃魔法ばかりつくていたが、幻術の魔法などのある種の支援魔法の類も存在するのだとブレイブは思いつく。スキルメーカーは職業などがない。自由度が高い、というのは利点ではあるが、逆にどういうスキルが存在するか、どういうスキルを覚えられるか、そういう指標が明確にないという部分がある。それゆえに、思考が凝り固まっていると中々自分のスキル、技術の発展ができないことも少なくはないだろう。


「……まあ、それは次に回すか」


 コッチーニから戻り、アーテッド付近でレベルとスキル上げ、流石に時間切れである。ブレイブは宿に戻り、ログアウトし、今日のスキルメーカーのプレイを終了した。


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