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「どうすればいいんだよ……」


流石に竜が相手となると攻略方法を考える手立てがない。

死神ですらあれほど苦戦したのに、それ以上と思われる伝説上の竜だ。

竜は封印された存在だ。いつか復活するということはわかるが何も戦争した少し後に復活するなんて。

ある程度戦闘はできたが、それだけだ。


「パティ。どうしたらいいと思う?」

『んー、まずは情報を集めたら?』

「師匠のところでも竜の情報はなかっただろ」


師匠のところに様々な魔術の資料はあったが、竜関連と思われるものの資料はなかった。

そもそもそういった資料がありそうなところはほかに思いつかない。


『一つ、心当たりあるよ』

「何だ?」

『竜を封印したのは前人類でしょ? もしその人たちが竜が復活するって思ってたとしたら、その資料を残すと思うよ』

「前人類の遺産? でも……心当たりは…………」


ある。死神に対抗するためにたどり着いた竜の眠る場所にあった前人類の残した施設。

どうせ魔銀の武器を作るために行くのだから、まずは心当たりであるそこをあたってみよう。








「客人とは珍しいな」


作ってもらう度にこのやり取りだ。もう何回目だろう。


「ここにわざわざ来るということは何か作ってほしい、ということだな?」

「……はい、そうです。ただ、それだけの用件ではありませんけど」


こちらがそういうと、相手は手を顎に当てる。


「他に何か用があるのか?」

「……ここは前人類の残した施設、ということで正しいですか?」

「ああ。それくらいは見ればわかるだろう?」

「実は、竜に関しての資料を探しているんです」


竜と聞いてすっ、と鋭い目でこちらを見てくる。


「竜……か」


じっ、と見極めるような視線だ。


「お前、先祖返りか?」

「先祖返り?」


どこかで聞いたことがあるような気がする。確かあれは……


「ああ。先祖返りは時々人間の中にある前人類の血が目覚めることで起きるものだ。俺は実際に見たことはないが、そいつらは前人類の力を得ることができるらしい。そして、それは前人類が残した対抗手段の一つだ」

「……俺は先祖返りじゃないです。ただ、知っていることをいろいろと教えてください」

「……ちょっとこっちを見ろ」


目が合う。よく相手の目を見てその心を見透かすみたいな話を聞くが、その手だろうか。

こちらも相手の目をみる。


「……人を見る目なんてないからやっぱよくわからん」

「は?」

「ま、いい。知りたいなら教えてやる。どうせやることもあまりないんだ」

「はあ………」


腑に落ちないやり取りだ。それでいいのだろうかと疑問に思うが、こっちにとっては都合がいい。







「これが資料だ。すごいもんだな。これが書かれたのはもう数千年以上は前らしい」


今の世界では羊皮紙が主流だが、これは植物で作られた紙だと思われる。

本来植物で作られた紙がそれほどの期間残るものだろうかと思うが、この施設の保管能力がそれだけすごいということだ。

また、紙自体も当時の人類の持っていた特殊な作り方で作られたものらしい。魔術も使っているとか。


「別にこれを渡してもいいが、言語が変わっているからな。俺が大体の内容を語ってやる」


正直ありがたい。翻訳をしてもいいが、何回ループを繰り返せばいいのかわからない。

もしパティがいなければ翻訳をすることになれば詰んでいたと思うくらい大変な事態だっただろう。


「かつて人類が誕生した当時、人類は今の人類には持ちえないような絶大な力を持っていた。それは神がこの世界に人類を生み出すときに持たせたものだが、神はその調整を誤ったらしい。少なくとも当時の人類は神からそう言われたと書かれている。その人類の力に対する対抗手段として、神の力を宿した暴力手段を神は生み出した。傍迷惑な話だな。まあ、それが竜だ」


前人類に対抗するための措置。それが竜。


「その竜だが、もちろん人類もそのままにしておくわけがない。前人類は竜を殺すためにいろいろな努力をしたようだ。だが、前人類は竜を殺すことはできなかった。これは竜の生態が問題だったらしい。竜はそもそも生物的なものではなく、力の塊だった。それに方向性を与えたことで攻撃性を持たせ、竜として存在できたらしい。そういう存在だったせいで、物理的に殺すことができなかった。だから後々の禍根になるのがわかっていたが封印という手段を使った」

「力の塊……方向性……」


竜の数は六匹。力、方向性。


「お前が何を考えてるか当ててやろうか? 竜と魔術は何か関係がある、ってところか」

「……よくわかりますね」

「まあな。魔術関連の資料もある」


そう言って、持ってきていた資料の山から1枚の資料を抜き出す。


「竜は力の塊で、物質的な存在ではなかった。概念的な存在だ。だから倒すことはできず、封印するしかなかった。しかし、なぜ封印したのか。ただ封印するだけではなかった。非生物を物質的な土地に封印することで、周囲の土地の影響を受け、物質的な肉体を持たせる。それが封印の役割だ。それにより、竜に肉体を持たせ殺すことを可能にする。実現するために相当苦労したらしい。そして、同時に封印中にその力を世界に拡散させる。そうして世界に満ちた竜から分離した力が今の魔術だ。魔力はもともと竜の一部だってことだな」


とんでもない話である。もし師匠がここのことを知っていれば、ここにこの知識があることを知っていれば絶対にここまできてその内容を聞きたがっただろう。

そもそも前人類の遺した資料というだけでも見たがっただろう。


「それは、前人類は魔術を使用できなかった、ということですか?」

「今の魔術とは全然違うものだ。そもそも竜の持つ魔力とは別の魔力らしい。とんでもない魔力らしいが、その分今の魔術ほどの汎用性はなかったらしいな。竜を封印することで、その力が世界に流出し、今の人間が使うような魔術の能力を持つことも推測していたらしい。魔術の話はこの辺にするぞ。竜を封印したはいいが、いずれ復活する。当時の竜の力より劣るし、物理的に殺すことはできるだろうが、それでも相当な存在だ。だが、竜を封印するまで前人類は消耗しすぎた。数の減少もあるが、その力や知識を限界以上に使い続けた結果、生物としての限界がきていた。だが、竜に対抗する手段は必要だった」

「……今の人間との子を残した、と?」

「普通のやり方じゃなかったらしいな。そもそも当時の今の人間の元となって生物は前人類よりもはるかに劣った野生生物だったらしい」


遺伝子とかの問題があったのだろう。しかし、残された物からも当時の技術がすごいものであるのはわかる。

何とかして自分たちの血筋を残したのだろう。


「……その遺した手段が先祖返り?」

「ああ。先祖返りは当時の人類の持っていた力を持つ。ただ、これだけで竜に勝てるかどうかは不安だったらしいな。そもそも、血筋に自分たちの力を残し、それが発言してくれなければいけないという不確定要素の強いものだ。一応竜の存在に呼応して生まれるように努力したらしいが、完全じゃないらしい」

「それはまた……」


不確定なものを対抗手段とするのはいかがなものかと思う。だが、前人類にはそれが精いっぱいだったのだろう。


「まあ、こんなところだ」

「竜に対抗するには先祖返りが必要なんですね」

「……竜に対抗するつもりか? 今はこの世界に竜はいないぞ」


ループして経験しているから竜が復活するのは知っているが、それをこの人に説明するのは難しいだろう。


「竜が復活する、という予知か予言か、そういう話があるんです」

「信じがたいな。ま、ここの資料も法螺話みたいなもんだし、そういう話が合ってもおかしくはないか」

「……先祖返りは見たことがあるので心当たりがあるのでそちらをあたってみます」

「へえ。知り合いか?」

「殺し合う仲ですよ」


お前は何を言っているんだ、と言いたげな表情で見られた。ここにきているのはその相手と闘うための武器を求めてなのが本来なのに。








竜について教えてもらった後、本来の要件である武器の制作を頼んだ。

ここには魔銀の合金作成の知識や、神鉄に関する内容、そしてそれ以上の金属である世界鉱の存在についての資料もあるらしい。

世界鉱に関しては与太話に近いらしいが、神鉄に関してはどこかにそれで作られた武器もあるのだとか。

恐らくは対竜を見越して当時作られたものだろう、と言っていた。

必要なことを終えて外に出る。またしばらくしたらここに来ることになる。


「パティ」

「はいはーい。なーにっ?」


普段は心の中で話しているが、なぜか今回は実体化している。いや、流石にわかっているのだろう。


「先祖返りについて、知っていたのか?」

「……あの子に関してだよね?」

「ああ。あの死神……セリアのことだ」


死神。セリア。一度だけ短い間だが共に過ごしていた。普段から死神呼びだったので名前で呼びづらい。


「ま、漏らしちゃったのは私だしね。あの子が先祖返りだって」

「……セリアが先祖返りか」

「そうだよー。じゃなきゃあれだけすごい戦闘能力の説明はつかないでしょ?」


確かにそうだろう。あれで年齢は自分の一つ下だ。

あれだけの戦闘能力を普通の手段で得るのは無理だろう。


「そうか」

「でも、あの子が先祖返りなら話は簡単だよね」

「何がだ?」

「だって、あの子いつも言ってるでしょ? 勝てたらいうこと聞くって」

「……」


それは殺さずに倒せば、だろう。前回のことを思えば簡単にできることではない。


「簡単にできることじゃないだろ?」

「でも竜を倒すよりは簡単だよ?」

「まあそうだろうけど……」

「まずはあの子を殺さずに勝つこと。いつも通り、これを目標にしてだめならほかの手段を探せばいいじゃない」


………パティの言う通り、いつも通りできることをやる。それだけでいい。

しし、やはりパティはいったい何なのかという疑問が湧く。

ただ、それに関しては今追及する必要もないだろう。全てが終わった後に聞けばいい。いつも通りはぐらかされるだろうが。

今はただ、セリアを生かして勝つ手段を考える。そして得る。それだけだ。

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