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結局前回も一旦生き残る形になったが、結局死んでしまった。
やはり一番必要なのはあの時回避をしっかりできるかどうかだ。
せっかくパティにタイミングを教えてもらったのに、闘いに集中しすぎた結果、ダメだった。
次の闘いは戦闘に熱中しすぎないようにする。ただ、あまり冷静だとそれはそれでうまく行動できるかはわからない。
戦闘時に高揚しているからこそ、あれほどのぎりぎりの戦闘ができるという側面もある。
でも、まずは試してみるだけでもいいだろう。
死神との闘いを始める。今回はできるだけ戦闘に集中しすぎないよう、楽しみすぎないよう冷静にいかないといけない。
冷静に、という意思を込めてしまうとどうしても戦闘への意識が弱くなる。
戦闘に集中しつつ、パティに継続的に呼びかけを行ってもらって何とかすることにする。
避ける、防ぐ、攻撃するのはあまりできていない。やはり戦闘への集中が足りないせいだ。
だが、今はこれでいい。あのは魔術攻撃は恐らく連続して撃てるようなものではないだろう。
あれが撃たれてからが本気の勝負だ。
相手が少しイライラしているような顔をしている。前回、あまり長い期間ではないが交流があった。
それは主に戦闘という形だが、戦闘が終わった後は普通に話をしたりしていた。
ずっと死神死神と呼んでいたせいで、普通の少女としての認識が薄い。前回の交流ではどうしてもそういう意識がうまく纏まっていなかった。
今は大分、戦闘での表情を見たり、言葉に込められた感情を意識できる。
何なのだろうか。相当意識しているな、自分は。
『来るよっ!』
前回と同じくパティに攻撃のタイミングで呼びかけられた。
直ぐに退避行動をとる。死神も同じように退避行動をとる。
二度後ろに跳び、自分たちのいた場所に攻撃が着弾する。死神は一度で回避できる距離まで跳んでいたのはさすがだ。
自分たちのいた場所には大穴が開いていた。その穴を挟んで、自分と死神の視線がぶつかる。
「すごいね。気づいたのかな? なら先祖返り? でもそんな感じじゃないよね」
そう言いながら大鎌をふるう。また同じように闘いを始める。だが今度は先ほどとは違い、戦闘に集中した形だ。
避け、防ぎ、そして攻撃を入れる。前までの頻度よりも明らかに多く、若干相手は今までの攻撃のリズムで対応していたため、対応が少し遅れている。
「やっぱりさっきの本気じゃなかった!」
「最初から本気じゃないのはお互い様だっ!」
人のことを言えないだろう。
対応が遅れていた攻撃もすぐに対応するようになった。だが、そのわずかな遅れの間に若干傷を与えることはできている。
だがそれは自分も同じだ。最初のうちの集中できていない部分でダメージを受けている。
闘いの状況は五分五分といったところだろう。お互い、思う存分戦闘を続ける。
体力は無尽蔵ではない。相手の身体能力の高さはとんでもないもので、身体強化で体を強化しているこちらのほうが疲れるのが早い。
今はまだ大丈夫だが、そろそろ疲労が体に影響を与えるだろう。
このまま直接戦闘だけで戦ってもジリ貧だ。なんとかして相手に痛打を与える手を考えなければならない。
だが、簡単に思いつくものではない。思いついたのならとっくの昔に使っている。
『パティ! 何か手はあるか!?』
『あるわけないでしょ! 魔術は感知されるから使えないじゃん! あとは落ちている武器や人の体でも蹴とばして驚かせるくらい?』
流石に無理がある。魔術攻撃は相手にその攻撃を感知され回避される。これは先読みに近い。だからこの方法でダメージを与えるのは無理だ。
かといって、パティが言った通りに落ちているものを利用するのも難しいだろう。
そもそも相手が空白の部分を通るときに立ちはだかったのだから、ほとんど移動していない現状では落ちているようなものもない。
そこまで考えて思いついたのは防御魔術の利用だ。
防御魔術は検知されているようだが、相手がよくわからないものなのか、対応できるような手を打たれない。
『防御魔術の利用は!?』
『防御魔術……一つは誘い、一つは防壁の攻撃への転用、一つは行動の阻害。思いつくのは三つ!』
即席でそれだけ思いつければ十分だと思う。思考能力が高い使い魔で本当に便利だ。
誘いは厳しい。下手をすれば防壁を突き破られる可能性がある。
攻撃の転用は難しい。そもそも攻撃的な利用をしようとすれば反応されるかもしれない。
動きの阻害……試してみよう。
『パティ、体の延長線上に防壁を出せるのなら、剣には出せるか?』
『できるよ! 魔銀は魔力との相性もいいから身体強化の影響で魔力が乗ってるし』
『相手が攻撃してきたタイミング、逸らすときに逸らす方向に防壁、できれば剣に沿う形のも張ってくれ』
『うまくひっかけられるかな?』
『やってみるだけやってみる!』
パティとの相談が終わり、相手の攻撃で最もタイミングのいい攻撃を見極める。
避け、防ぎ、逸らす。攻撃を入れず、相手の攻撃を見極めることに集中する。
『今だ!』
剣に沿って逸らされた大鎌の先に防壁が展開される。流石に相手もその防壁を感知し、咄嗟に逸らそうとするが、間に合わない。
大鎌が引っ掛かり、止まる。一瞬、しかし大きな隙だ。
直ぐに大鎌に力が籠められ、防壁が破壊される。だが、相手が攻撃を、回避を、防御をする前に、こちらの攻撃のほうが早かった。
右わき腹から大きく切り裂いた。真っ二つ、というわけにはいかない。流石に完全な直撃は回避された。
致命傷とまではいかないが、大きな傷だ。
そのまま攻撃を仕掛ける。
「っ!」
流石に防御するが、今まで程の動きは見られない。
防御も、回避も、攻撃も、今までより遅い。しかし、追い詰められながらも、ギリギリまで殺し合いを続ける。
油断はしていない。甘くも見ていない。攻撃を回避し、二度目になる直撃を入れた。流石に致命傷だ。
死神はこれ以上戦えない、そう言わんばかりに武器を取り落とす。
「……そっか、負けちゃったのか」
ずっとこちらを見ている。嬉しそうな、楽しそうな瞳。そして、その中にわずかに見える寂しそうな光。
「……でもいいかな。最後に楽しい闘いができたし」
にこり、とこちらに向けて笑いかけてくる。
「すっごく、強かったよ。あなた」
「……お前も十分強かったよ」
「…………最後、に……名前、教えてくれる?」
「……スィゼ」
「……しぜ」
「スィゼ」
「…………しぜ」
最後に名前を教えられ、死んだ。……間違えたままなのが少し憎い。
その後はあっさりと戦争が終わった。どうも、相手は死神の力を当てにしていたようだ。
そもそも、死神を人の目につかないよう隔離していたのも、今回までばれないようにするためだったのだろう。
死神がいなければ戦争を始めるつもりはなかったということだ。
自分はあの後、国の上層部関係者たちに連れまわされた。
あの死神を相手にまともに戦った自分は英雄みたいなものであるし、その戦闘力だけでも評価としては十分だ。
相手の国が死神を使い、こちらを攻めた時と同じように逆にこちらから相手の国に攻め入ることだって可能だ。
一応戦争はしないとのことだが、しっかりと手綱を握られている状態だ。
死神の亡骸に関してが、こちらでちゃんと葬っておいた。今までさんざん殺されてきた相手だが、だからこそ逆にちゃんと対応したいと思ったからだ。
あのまま放っておけばどうなっていたかわからないし、自分で葬ることにした。と言っても魔術で穴を掘ってそこに埋めるだけだが。
これですべてが終わった。その時はそう思っていた。
あの後しばらくして、竜が復活するまでは。
竜は世界を蹂躙した。かつての世界で暴れまわったときのように。
今はかつて竜を封印した前人類はいない。人々は成す術なく、竜に殺されていった。
挑んだが、死神よりも強い相手だった。結局勝ち目がなく、殺されてしまった。
どうやら戦争をどうにかするだけではどうしようもないらしい。