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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
skill maker
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2

「ようやく時間か……」


 朝の九時、夜更かしを頻繁にするような学生であれば多くの場合は眠っているであろう時間帯、そんな時間帯に起きてゲームの起動の準備を直斗は行っていた。既に食事やトイレの類は片づけており、あとは昼間でゲームに集中する。流石に親に昼食に呼ばれれば、ログアウトしていったんゲームをやめなければならない、それまでの時間はしっかりとゲームに集中したい、ということだろう。


「九時! だけど、すぐに起動はやめておくか……一、二分すぎてから」


 始まって直ぐである場合、多くのプレイヤーがログインして混雑を起こす可能性が高い。昔ではよくあったが、今のゲームではその手の回線の事情や、サーバー側でも先に解決させているため、殆どないが、それでも全く問題ないと言うほど何も起きないわけではない。

 最も、直斗が一番気にしているのは、予定の時間の前にゲームを起動する可能性の方が問題だったのだろう。ちゃんとゲームの稼働予定時間を過ぎてプレイしたい、という妙なところできっちりとしたルールを守る性格だ。家の中の時計の時間が、ゲーム側の稼働予定の九時と一致しているとは限らないので、時間を少しだけおいてプレイする、ということだ。


「よし、起動!」


 ゲーム機が起動し、ヘッドセットと連動が始まり、ゲームの中に没入する。昨日アバターを作っていた空間におり、そこでアバターの使用についての確認がされた。もちろん、使用するアバターは事前に作っておいたアバターに設定されており、何の問題もないのではいを選択し先に進む。先に進んだ結果、いくつかのシステムの設定を要求され、それも行う。

 そして、そういった設定が終わると、いつの間にか森の中にいた。


「へ?」


 何の説明もなく、設定を終えた途端に森の中にいた。それはあまりにも唐突すぎて、直斗の理解、状況の処理が追い付かない。


「……えっと、ここどこだ? え、今チュートリアルなのか?」


 多くのVRゲームでは、ゲームの説明を行う案内役のAIが存在し、直接ゲームをプレイする前に、いくらかのゲーム内のシステムの説明がおこわなれる。システムと言っても、先ほど直斗が設定した、ログインやログアウト、画面設定、感覚領域の設定のような、ゲームの外側に近い部分ではなく、ゲーム内、例えば魔法の使用やステータスに関しての話などの部分だ。


「見た目はかなりリアル……ってか、リアルに近いな。感覚も大丈夫。痛覚の設定は初期値でかなり低い上に、ほとんど動かせないからちょっと奇妙だけど、でも触覚の類とかはほぼ同一か? 痛覚はカットしているっぽいのに、そのあたりはしっかりしているのか」


 とりあえず、直斗はまず自分の体、アバターと自分の精神のリンクについて確かめる。多くのゲームでは、よりリアルであることを重視し、痛覚の設定を本来の痛覚設定と同一に近づけないと感覚も違ってくると言うことも珍しくないが、スキルメーカーでは違うようだ。ちなみに、この痛覚設定に関してはVR開発初期のゲームではショック死などの事故も起きていたが、今ではゲーム内のリミッターや、本体側での制御などが頑張って仕事をしているため、解決している。


「ステータス!」


 直斗は叫んでみたが、何も出ない。先ほどから直斗は自分のステータスを出そう、出そう、としていたのだが、全くでなくて困っていた。


「……おかしいなあ。この手のゲームでステータスが出ないゲームはないと思うんだけど。いや、ないゲームもないことはないか」


 代わりにシステムメニューを読んでみると、こちらは呼び出せた。しかし、その内容は直斗の予想に反してかなり少ない。本当の意味でシステム的なことしかメニューでは実行できない。よくMMOで存在する、ウィスパーやチャット、フレンド登録の類は存在していないのだ。


「うわあ……説明なしでいきなり森に放り込まれるってどうよ……というか、他のプレイヤーはいないのか? いくらプレイヤーが少ないからって、最初に現れる場所なら他にもいてもおかしくないよな……?」


 そもそも、直斗の周りには森しかない。結構森の深い位置だ。少なくとも、樹々のない森の外は今直斗がいる位置からは確認できない。ここまで来て、直斗は何かおかしいということに気づく。


「……もしかして、初期位置ランダムとかそういう話?」


 多くの場合、チュートリアルを行うゲームの場所を通じて、最初の街に送られるが、スキルメーカーではいきなり場面転換されていた。それは初期位置が完全にランダムになっているからなのかもしれない。もしかしたらこれもチュートリアルで、いきなりこういった場所に送られるものなのかも知れないが、結局のところよくわからないと言うのが現状だろう。

 ステータスも表示できず、チャットの類もできそうになく、今自分のいる場所もわからない。これは困った、どうしようと思っていると、がさがさと草むらが揺れる。


「っ!?」


 思わず身構える。今いる場所が安全でない可能性は考えていたが、それでもまだ、今の状態がチュートリアルではないかと信じたいところだった。がさりと草むらをかき分けて出てきたのは牙の生えた猪だった。


「………………」


 直斗はじっと猪を見てみるが、レベルの表示も、ヒットポイントバーの表示も、名前の表示もない。じっと見ても、それがどういう生き物なのかわからない。ただ、その視線は直斗の方を見て…………明らかに、敵意の類があった。大きく猪が鳴き声上げ、ざっ、と土を蹴り上げる。


「っ!!」


 直斗は嫌な予感がしていたため、じっと猪を見て、動きを観察していた。だからこそ、すぐに動くことができた。猪の突進を躱す。躱したはいいが、猪も野生動物として馬鹿ではない。すぐに振り向いて直斗に再び体当たりを敢行しようとする。直斗はその動きを観察し、速攻で逃げた。


「なんでいきなり猪なんて出るんだよ! まだ大きさ普通だからいいけど! いや、よくないけどさぁ!」


 猪の移動速度は人間が走るよりも確実に早い。一応木々の間を縫って移動し、猪が追いにくくはしているが、それでも最終的に猪につかまるのは目に見えている。


「どこか……回避できる場所……!」


 直斗が視線を向ける先は、地面より上向き、そう、木の上である。流石に猪は木の上まで登ってくることは出来ない。もしかしたら突進して倒す可能性はあるかもしれないが、その時はその時で仕方がない。これが熊か何かであれば木の上に逃げるのは無理だっただろう。

 しかし、木の上に上ると言っても簡単な話ではない。人の手の入っていないような、枝の選定などが行われていないとはいえ、木の枝は高い所にある。当然な話だが、そんな木の枝に上るのにどうやって上ればいいのか。


「く……とりあえず、跳躍して木の幹を蹴ってみるか……?」


 壁蹴り、と呼ばれるやり方だが、移動しながら咄嗟にやれるものではない。それも、アバターという普段の体とは違う身体だ。最も普段の身体では身体能力的に不可能と言っていいだろう。ゲーム内だからこそ、まだできるかもという可能性が生まれるのだ。


「このままでも追われるだけ……南無三!」


 木の幹を蹴って跳躍しようと、地面を大きく蹴り上げて直斗は跳びあがる。そう、木の幹を蹴る前に、枝に届いてしまうくらいに。


「え!? ちょっと待て!?」


 流石にそれは予想外の動きであった。枝の上、木の上に上るつもりではあったが、最初の跳躍でそういったことができるのは想定外だ。故に、枝まで届いたが、落ちそうになる。何とか枝につかまることは出来たがかなり危ない状況だ。


「もう、なんなんだよこれー……」


 よじよじ、と枝を掴んだまま体を持ち上げ、木の上へと逃げることは出来た。下では猪が木に足をかけたりといろいろやっているが、流石に木の上まで登ってくることは出来ない。直斗は猪がいなくなるまで木の上で待つことにした。

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