表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/485

11

「パティ、何が起きたかわかるか?」

「最後のなら、多分魔術だったかな」


戦場での最後、どうして死んでしまったかは不明だった。パティは戦闘に出ても役に立たない。

そのため、基本的には思考の補助を行うため、精神に介在している状態で待機させていた。

戦闘中に使う防御の魔術はパティを通して発動の待機やタイミングの調整を行っていた。

そうやって常に周囲の状況を確認していたパティが言うにはあれは魔術だったと言う。


「あの死神がやったのか?」

「んー……それは違うんじゃない? 最後あの子退いてたし。多分、魔術の攻撃を感知したんだと思うよ」

「え? 死神には魔術攻撃が来るのが分かってたのか?」

「あの子先祖返りだしね」

「先祖返り?」


あ、というような表情をしてパティが黙る。先祖返りとは何だろうか。


「……確か、昔いた前人類の血を引いた人が時々その前人類のような強さを発揮することがあるみたい。資料で読んだの」

「ふーん」


恐らく嘘だろう。パティを作った時から思っていたが、確実にこちらとは別の意思がかかわっているような気がする。

最初から意思の発露や思考があまりに上手だ。もしかしたら、ループ現象とおなじようにあの神がかかわっているのだろうか。


「ほら、今考えるのはあの魔術攻撃をどうするか、でしょー」

「そうだな。同じルートをたどれば同じことになるし」


ループ現象の特性として、同じことをすれば同じ結果が起こる。

これは厳密な意味で同じ結果を引き起こすわけじゃない。微妙な差異が微妙な結果の差を引き起こすこともある。

だが、大きな結果の変化はない。今回でいえば、戦いが膠着する形になればそれまでどんな戦闘の流れを伴っていても最後は魔術攻撃を受けて死ぬことになる。

そもそもあの魔術攻撃はどこからきたものだろうか。


「パティ、魔術攻撃が分かったんならどこから飛んできたのか、どんな魔術攻撃だったかはわかるか?」

「んー、上からだから結構遠くかな。でも速度はあったね。あれを防ぐのは難しいかな? 多分白と金数人で発動させてる魔術だと思うし」


パティは魔術を見ただけで大まかにその魔術の性質が分かる。これもパティの能力として想定されていないもので、余計に怪しさが増す。

だが、便利な能力だ。魔術の小型化もパティなしではできなかった。それほどにこの能力の利点は大きい。


「防ぐのは無理か……」

「金の魔術じゃ無理だね。白相当なら、風で空間を隔離する荒業でもすればなんとかなるけど……」

「白になるにはあと何回ループすればいいのやら」


少なくとも金になるまでもループ回数が相当必要だった。魔力の色の判別方式から考えてみても相当にループする必要があるだろう。


「つまり回避するしかない、ということか」

「そうだね。現状じゃそれ以外の方法はないね」


問題はいつ来るかがわからない点と回避行動ができるかどうかだ。

一応死神の動きで攻撃が来るタイミングはわかるが、そのタイミングで行動して回避できるかが不明だ。

しかし、やってみるしかない。試してダメなら仕方ないだろう。

今まで通り、死んだら別の手を試す方針でいいだろう。







前回と同じく、死神を本気にさせる。前回は本当に楽しかった。今回も楽しくないわけではないが、前回ほどのわくわくはない。

多分二回目だからだろう。そういう経験は最初の一回目だからこそ、激情が心の底から湧き上がってくるのだ。

避ける、防ぐ、攻撃する。一手間違えれば、一歩遅れれば、一瞬で死に至る。そんな刹那を渡り合う殺し合い。

だがそこにあるのは相手を殺したいという、殺意からくるものではない。闘いをの楽しみたいという、喜びだ。


『来るよ!』


パティの声が聞こえる。邪魔だ、と思った刹那死神が退く。

パティの声と死神の動き、それに反応しすぐに自分も退く。しかし、少し遅れた。

相手の攻撃が来た場合、パティが連絡してくれるように頼んでおいたが、やはりあまりに戦闘に没入しすぎたしでせいでそれを煩わしいものと思ってしまった。

そうなることは予想できていたが、本当になってしまったのは反省しなければならない。

前方に回避した魔術攻撃が着弾する。直撃は回避できたが、余波がひどい。

その攻撃の余波で受けるダメージで戦闘の続行は難しいものとなってしまった。


「驚いた。避けるなんてすごいね」


死神が目の前にいる。今回もダメだった。


「えいっ!」


ごっ、と頭に響く一撃で意識が刈り取られた。









「ただいまー」

「お帰りなさいませ、セリア様」


立派な建造物、王宮の外れの離宮。そこにある人物から死神と呼ばれる少女が帰還した。


「……セリア様、その方に担いでいるのは何ですか?」

「戦利品だよ」


その少女の方には一人の男性が担がれている。それは戦場で少女と戦っていた相手だ。


「セリア様……そのものをすぐに始末するべきでは?」

「え? 嫌だけど」

「何故です?」

「だって、この人私と同じくらい強いんだよ? 今までそんな人と闘うなんて経験はなかったから…すごく、楽しい戦いができるんだ、この人との闘いは」

「ならば尚更です。それほどの強者をここに連れてくるわけにはいきません。ここは王宮の一角です」

「……トレイル」

「はい…………!?」


少女と話していた執事に殺気が向けられる。執事も今までの王宮での経験でそれなりに荒事の経験はあるが、その殺気は今までの経験がすべて些事であると感じてしまうほどに強烈なものだった。


「私はここで何をしていてもいい。私がここにいて、偉い人の言うことを聞いている限り自由を許されている。そうだったはずだよね?」

「は、はい! そうです!」

「なら、私が誰をここに連れてきたっていいでしょ? それとも、トレイルが勝手にだめだって言ってるの?」

「い、いえ! そんなことはありません! 申し訳ありませんでした!」


そう言って執事は少女に頭を下げる。そんな姿をさらす執事を見て、徐々にさっきが収まっていく。


「そもそも私が戦っているのを邪魔したのは味方のほうだし。せっかく気持ちよく闘えてたのに…」


そういって肩に担いでいる男に目を向ける。少しイラついていた表情だったが、そちらに目を向けると嬉しそうな表情に変わる。


「でも、これからはずっと楽しい戦いができるのかな。ああ、でも、もしかしたら殺しちゃう可能性はあるかな」

「セリア様。とりあえず中に入りましょう。その方はどうなされるのです?」

「ん、お願いね」


少女が執事に担いでいた男を渡す。


「空いている部屋に寝かせておいて。武器とか持ってたものは後で持ってきたもらうから」

「かしこましました」


そのまま少女が建物中に入る。


「……面倒なことになりました」


今まであり得なかった少女の行動に執事がこれからどうなるのか予測もできずに立ち尽くす。

とりあえず少女に言われた通り、空き部屋に運ぼう、と行動を開始した。




後に、少女と戦っていた男はその存在を危険視し、邪魔だと感じていた国の上層部に暗殺される。

結果、少女は荒れ狂い、離宮を破壊して出て行ったらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ