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また死神に殺され、過去に戻る。結果、パティも一緒だった。
これでループ現象における要素の一部は判明した。つまり自身の魂、または精神に付加された要素は一緒に戻るということだ。
魔力が増えるのも、魂か精神の要素が増えることに起因するのだろう。
本来魔力は増えることのない才能であるので、魂が大きい理由だと思う。
あれから結局、相手の本気を引き出せるようにはなったが、その本気に勝つことはできていない。
それだけ相手が強いということだ。だが、経験的な部分では徐々に追いついている。
そして、今回のループでパティに魔力診断を受けるように言われた。
言われたとおりにやってみると、金色の光、すなわち金の魔術師になった。
これでさらに発展した魔術が使用できる。今回もまたいつもと同じように師匠に師匠になってもらい、その教えに着いた。
そして、金の魔術師で使えるさらなる身体強化を教えてもらうことができた。
そういえば師匠は白の魔術師らしい。白の魔術師は現在の魔術師において最高の魔力量を誇る魔術師だ。
それ以上の青色や黒色は伝説レベルなので、現在知られている中では白色が最高位だ。
何故自分のような新人を弟子にするのか聞いてみると、すぐに弟子が必要な魔術を学び出ていくため弟子がいなくなるかららしい。
なので自分のような新人でもそこそこ目がありそうな魔力量があるとあてがわれるらしい。
金の魔術師になったはいいが、今回は武器を作る余裕がなかったので、次のループで本腰を入れる。
どうせ今回は捨て回になるので魔術研究に力を入れよう。
ようやく戦争の日まで戻ってきた。何度も何度もループを繰り返してきた。
最初は銅レベルの魔術師以下、戦闘経験も1年ほどしかない新米の冒険者だった。
それが今や金の魔術師になり、何度も何度も戦闘してきた結果、ついに渡り合える程度に強くなった。
いつものように開戦すると同時に死神が突っ込んでくる。
何度もやった通り、相手の突っ込んできた途中で早退しその動きを止める。
大鎌の動きが見える。以前の身体強化では防ぐのが精いっぱいで、相手の動きの隙を見出し、そこを突くことしかできなかった。
今の身体強化であれば、攻撃を受け流した後の僅かな動きの隙をつくこともできる。
避け、防ぎ、合間に攻撃を入れる。暴風のような、圧倒的な威力を持つ攻撃でも、技術が伴っていないのは今までのことで分かっている。
身体能力がまだ相手よりも低いことはわかっているが、技術の差で身体能力の差を埋める。
恐らく相手と強さで言えばほぼ拮抗している。まだ相手は本気じゃない。本気の相手にどれだけ戦えるか。それが一番重要だ。
「強いね」
相手の動きが止まる。何度も経験してきた。
この動きが止まっている間に攻撃しようとした時があったが、それをすると何故か相手の強さが桁違いに上がる。
なぜかはわからないが、経験上わかっている。なので手は出さない。
「強い、本当に強い。私と同じくらい強い人なんて、今まで会ったことなかった」
笑顔を向けられる。威圧感、重圧、闘気をもいうのだろうか。ただ、闘いたい。そんな意思を、物理的な重圧だと感じてしまうほどの意思を向けられる。
何故だろう。今まで殺されてきた相手なのに、これだけの闘いたいという意思を向けられ、すごくドキドキとしている。
いや、わくわくしているのだろうか。恐らくどこか子供心なのだろう。これだけ強い相手に、一対一での真剣勝負をする。
そんなシチュエーションに、気が高ぶっているのがわかる。
こちらも、暴力的な笑顔をつい浮かべてしまう。
「ふ、ふふふ! 強い人と闘うのって、すごく楽しいよね!」
「そんなことは思ったことはない。だけど……この闘いは、楽しいかな」
「そういってもらえて嬉しいな。私も、あなたと闘ってて楽しいよ。もし、私が負けたら、その時生きていたら……私の全てを上げる」
相手の気が集中する。本気になったようだ。大鎌を構える。
「本気で行くよ。もっと、楽しもう?」
大鎌が振るわれる。今まで経験してきた本気の時よりも早い。
恐らく、今回の自分の行動に相手も触発されたのだろう。
あの少しの会話だけでわかったことだが、死神は闘いを楽しむ性質を持つ。
ただ、今回それが独りよがりでなかった、相手も自分との闘いを楽しんでいる。
それが嬉しいのだろう。だからより楽しもう、と無意識にその能力を上げているのだと思う。
自分はもともとこの闘いを楽しいもの、と考えたことなかった。
だけど、相手の今までの闘いに感化されたのだろう。自分も死神との闘いを楽しんでいる部分が見えた。
どこかに強い相手と闘いたい、そんな思いがあったのだろう。死神はそれがより顕著だったのだ。
大鎌を受け、逸らし、隙に攻撃を刺しこむ。今までは避けられていたが、本気になってからは避けない。
いや、避けてはいるが今までのように退避するようなものではなく、皮一枚を切らせるような避け方をしてきた。
その代わり、こちらが攻撃をしたときにカウンター的に攻撃を仕掛けるようになってきた。
咄嗟に魔術を使い防壁を張り防ぐ。魔術の発動は検知されているが、攻撃魔術とは違い防御魔術は回避できないようだ。
正確には回避しようとしているがその動きが間に合っていない感じだ。
攻撃に対してのカウンター的な攻撃、その流れに乗せないと攻撃をできないからだろう。だからその流れに逆らって防御されていない部分に攻撃を逸らすことができない。
死神には攻撃が力任せなものになっており、技術が伴っていない。それも影響しているのだろう。
こちらが力が足りていないが、その分今までのループで技術を磨き続けた。
それでようやく拮抗できる相手だ。とんでもなく強い相手だ。
楽しい。そんな強い相手と拮抗できるような戦いができることを。
あまりに闘いに集中していたせいだろう。周囲に他の冒険者や相手の兵士はすでにいなくなっていたことには気が付かなかった。
お互いに相手だけを見ていたからでもある。それだけ闘いを楽しんでいたのだ。
そして、その闘いは周囲に影響を与えていた。多くの兵士や冒険者は戦闘を止めてこちらを見ていた。
それが今回戦争を起こした相手側にとって都合が悪い状態であることに、気が付いていかなかった。
「っ!」
死神が大きく後ろに跳ぶ。戦闘を楽しんでいたのはお互いさまだが、なぜそのとき相手が戦闘を離脱するようなことをしたのか。
不意打ちぎみなその行動に思考が追い付かなかった。そして次の瞬間、意識もろとも自分が消し飛んだ。
「……せっかく楽しかったのに」
戦場に降ってわいた強力な魔術。それを感知した少女はその範囲から離脱した。
しかし、少女と戦っていた男はその魔術に巻き込まれ消し飛んだ。
その相手は少女と対等に闘える、今まで少女が出会った中で唯一の存在だった。
「……邪魔したの、許さない」
少女が大鎌を大きく振り上げる。その大鎌に膨大な魔力が籠められた。
「っ!」
思いきり、大鎌が振るわれる。その大鎌が振るわれたのは少女の所属する国の側だ。
先ほどの魔術は少女の所属する国が使ったものだ。
少女が一人の人間と闘い続けることで、自分の側の最大戦力が止められていることを懸念したからだ。
しかし、それは悪手だった。少女にとって闘っていた相手は今まで存在しなかった唯一無二の相手だったのだから。
魔力を込められた大鎌の振るわれた先、その先に存在していたものはすべて切断された。
距離にこそ限度はあったが、味方の兵士、周囲の町、草木から全てだ。
少女は先祖返りと呼ばれる特殊な存在だ。かつて人類は今のような身体的にも魔力的にも弱いものではなかった。
今では伝承で残るだけだが、かつては存在したと言われる天使などの前人類。
彼らは伝説であるが、その血は今も多くの人間の中に流れている。それを証明しているのが時々現れる先祖返りと呼ばれる存在だ。
少女は先祖返りだった。天使の魔力とよばれる黒色の魔術師に相当する絶対的な魔力。そして、その魔力を用いて発動する空間切断の風属性の魔術。
それゆえに少女は国にその存在を確保されていた。その身体能力は無意識の身体強化の魔術の影響だ。
それほどの力を持つのに国に従うのは、大鎌がその国の所有物であり、それを渡す見返りと、様々な面で偶されていたからだ。
その代わり、少女は戦争に参加するなどの国への貢献も求められている。
今回はその一つだった。あくまで求められていたのは少女が戦争に参加し、戦うことだけだった。
そうだったはずなのに、自分の自由を止めさせられた。せっかく楽しんで戦える相手だったのに。
「……もういいや」
少女はそのまま戦場を立ち去る。大鎌を自分のいた国の本陣に投げ捨てて。
その後、少女はどこに行ったかは誰も知らない。