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年月は過ぎ去り。もう、十歳になる頃合。俺は、学校へ行くこととなる。
「はいー、入学おめでとうー」
学校への入学、というが、入学式のようなものはないようだ。幸い、学校そのものはそれなりに近い場所にあるようで、数十分ほど公共交通機関に揺られて到達できる場所のようだ。学校に繋がるルートは一つしかないらしく、全員が一度その場所に集まるらしい。流石に徒歩で来れるほど近くに住んでいる人物は、寮住まい位らしく、それ以外はこの場所を通るようで、初登校ということで一度全員が集まってから案内するらしい。
それを待ち、ようやく全員が集まったようだ。そういうことで、気の抜けたおめでとうの挨拶を始まりとし、いろんな話をしながら案内をされる。
ルート自体は、坂道になっており、体力を使うようだ。これくらい登れなければいけない、ということだろうか。投稿ルートの横は森になっており、かなり鬱蒼と広がっている。しかし、近づこうにもここからだと近づけないようだ。
「先生、なんで森の方に行けないんですか?」
「こらー、横に逸れちゃだめよー。まー、気になるとは思うけどねー」
ずいぶん呑気な先生である。
「えっと、この登校ルートにはある種の結界が張ってあって、ここから出れないよう、この道に入ってこれないようにされているわけなの。ちなみに、この登校ルートを通るにはこの学校所属でないといけないから、そもそも普通は入ってこれるような場所じゃないんだけどねー」
「へー」
「凄いな」
軽い。しかし、内容は結構厳しいものだ。外部からの侵入経路が存在しない……いや、登校ルートを通れない、というだけか。横の森には入れるのだろうか。
「能力によるものですか?」
「それは秘密よー。そもそも、そういうことは基本的に外部には秘密なのー。対策されたら困るからねー」
確かに。極端なことを言えば、ただの結界なら無理やり破ることも不可能ではないし……どれくらいか、確かめてみたいところではあるが。流石にやったらダメか。
「はーい、ここから学校内の土地よー。所属というか、土地自体は今までのところも学校所有だけど、明確に学校内とされるのはこの門のとこから先だからねー。ようこそー、月空桜学校へー」
げっくうおう……実に言いにい。桜を抜いてつきそらとか、そういうのはダメか? いや、ネーミングに何を言っても仕方ないか。この世界のスタンダードを知っているわけでもないし。
「……あれ? 何かやってる?」
その言葉を聞き、そちらの方を見る。校庭の一角、明確なバトルフィールドとして区切られている空間に、二人の人間がいる。
「あらー、生徒同士の戦闘訓練ねー。あなたたちも来年からはやると思うけどー、どうせなら今見ていくー? 面白いわよー」
面白い、で済まされるものではないと思うが。しかし、この学校の生徒同士の闘い、となると少々興味がある。他の生徒も先に進まず、ここで戦闘を見ていくようなので、ひとりだけ先に行くわけにもいかないだろう。集団行動は大事だ。
戦闘フィールドにおいて、二人の人間が立っている。最初の立ち位置、開始位置には円形の線が描かれており、その中に二人はいる。戦闘フィールドにはだれもいないが、どこからともなく警笛音がなり、それを合図に二人が動く。
「隆起!」
片方の生徒、赤に近い茶髪の紙の生徒が地面に手をつき叫ぶ。その言葉とともに、もう一方の生徒、黒髪の生徒に向け、地面が盛り上がりながら迫っていく。それ御見て黒髪の生徒は横合いに避ける。直線状に迫ってくる以上、横に避ければそれだけで回避できるからだ。
だが、手をついたままの茶髪の生徒は地面につけた手を横にずらす、直線状の大地の隆起は真横に曲がり黒髪の生徒を追跡する。そして、足元に迫り、ふっ、と隆起が消える。
「ちっ!」
ごっ、と大地を破壊する音と共に、黒髪の生徒の足元が高く、大きく、隆起する。それはその上に立っていた黒髪の生徒を巻き込もうとしたが、その隆起の前に跳び、それを回避する。その隆起した大地を蹴り、さらに上へ上へと上がり、隆起の中から脱した。
「水龍!」
大地という、常に存在する物を利用した茶髪の生徒とは違い、空気中に存在するとはいえ、水は絶対量が少なく、集めなければ使いようにならない。もちろん、持ち込みなども可能だし、エネルギーさえあるなら短期間で扱えるが、節約しようとすると水を集めて扱う能力は発動に時間がかかる。生み出された水龍は、結構なサイズとなり茶髪の生徒を襲う。
「っと!」
大地を数か所隆起させ、その隆起した大地を壁にし、茶髪の生徒は回避する。しかし、水の龍は未だに健在だ。壁の横から中に入り込み、茶髪の生徒を追う。茶髪の生徒は、何か所かに作った壁を利用し、攻撃を防ぐ。
「砂龍!」
対抗し、土ではなく、そのさらに細かい砂を用いて作った竜を生み出す。そして、その竜を茶髪の生徒は水の竜へと衝突させる。両者が衝突し、両方とも倒れる、ことはなかった。砂の龍は水を含み、泥の竜となった。そして、それは茶髪の生徒の制御化にあるようで、もともとの滑らかで素早い動きとは違いう、多少鈍重な動きをしながらも、黒髪の生徒に向かっていく。
土は水に強い。能力はもともと様々な設定を元にしているが、四大元素であったり、五行思想であったりと、様々なものを取り入れられている。この場合、五行思想にならい、土は水を吸収する、という土剋水のルールの影響を受けたのだろう。
「くっ!」
黒髪の生徒は泥の竜に向け、手を向ける。それだけだったが、少しだけ龍の動き鈍る。そして、ぱん、とはじけ飛ぶ。泥の龍は水の竜を含んでいる。それゆえに、黒髪の生徒の能力の名残、水に含まれている力が多く残っていた。それを利用し、泥の龍の動きを止め、中の水を破裂させ、破壊したのだろう。
「ふう……っ!?」
龍に意識を払っていたためか、黒髪の生徒は足元が沈んでいることにようやく気付く。土を隆起させた時から、徐々に土に力を馴染ませ、その影響力茶髪の生徒は高めていた。そして、先ほどの龍に意識を向けている間に、フィールド全体にその力を浸透させ、一気に崩した。それゆえに、黒髪の生徒は大地に足を沈めることなった。
「いけっ!」
先ほどの龍のように、大地から切り離さず、大地から伸びる触手のように龍を生み出す。仮にこれで多少破壊されても、どんどん伸ばしていくことで破壊を無駄にできる。質量攻撃である。
「水よっ!」
黒髪の生徒はせまる大地の龍を水を用いて壁とし、防ぐ。しかし、環境と状況が悪い。大地に足を沈め、動くことのできない、水を操る黒髪の生徒と、大地を操り、自分が最大限力を振るえるフィールドに立つ茶髪の生徒では、どちらが勝利するかは明白である。
最終的に、水の壁をやられた時点で黒髪の生徒はギブアップ、敗北宣言をし、勝敗の決着がついた。
「……はー」
とんでもない戦いである。あれくらいできなければいけない、ということだろうか。
「みんなもー、いつかあれくらいは……できなくてもいいけどー、強くなりたい人はあれくらい超えないとだめよー」
「……マジで?」
「もっと能力をうまく扱えるようにならないとねー。まだまだあの子たちも学ぶことが多いわー」
別に戦闘主体でなくてもいいが、戦闘主体だとあれくらいは余裕でできるのだろうか。先行きがかなり不安だ。




