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何度もループを繰り返す。数回試して分かったが、クルドさんたちを生かすにはあの場所に冒険者くずれが存在することを証明する必要がある。
まず、その証明を行うために必要な情報を集めるのに何回かのループを必要とした。
最も必要とするのはループの最初のほうだけであり、そのループ自体をまるきり無駄にしたわけではない。
ループでやることはまず、魔術を習うことである。特にまだ師匠から習っていない魔術は多くあった。
仕事の手伝いをしつつ、魔術を習う形を繰り返した。一度学んだ魔術を最初から使えるとどう考えてもおかしいので、一度学んだあとすぐに使えるようになる、という方法で学べる魔術を増やした。
また、師匠の伝手で戦闘技術をより扱えるように、よく戦えるようになるように戦いを学べる師となる存在がいないか探した。
残念ながら師匠の伝手では剣などの戦闘手段を学べるような相手はいなかった。
正確にはいないわけではなかったが、かなり上の立場の存在で、師匠の弟子のような立場の自分では相手にしてもらえる立場ではない。
迷宮に関しては、師匠も今すでに知られている迷宮以上の迷宮は知らず、未攻略の迷宮の存在は知らなかった。
そもそも師匠は魔術研究で食っている人であるため、あまりそういう野外活動的な内容は知らないらしい。
なので何度もループをして、徐々に魔力を増やしつつ、魔術を学んでいく形になった。
魔力量だが、銅から銀へは数回のループで上がったが、金には何度もループしているが上がっていない。
これは聞いた話だが、魔力量の光で示す基準はかなり差が大きいらしく、仮に数で表現するのであれば1、10、100、1000みたいな増え方をするものであるらしい。
ここまで極端な数値差ではないらしいが、要は上のほうへ行くほど差が大きいらしい。
つまり、銀と金は一つの差の魔術師だがその差は相当大きなものになるらしい。
何度もループをして魔術を習っている。そのうち魔術で奇妙な内容があるのを見つけた。
「師匠。聞きたいことがあるんですが」
「ふむ、なんじゃ?」
「氷を作る魔術なんですが、火魔法みたいですけど、何でですか?」
「ほう。魔術の属性の違いに気づいたか。お前の言うそれは水を氷にする魔術、じゃな。もう一つ氷を生み出す魔術もあるじゃろう?」
「はい」
「そちらの属性はわかるか?」
「水ですね」
奇妙だ。魔術の内容は似通ったものなのに属性が違う。
魔術は火、水、土、風の四元素と、光と闇の属性の全六属性だ。
これらの魔術はそれぞれの属性の示す通りの魔術が使えるが、それ以外にも今話しているような火属性でありながら氷を作るような魔術がある。
「なぜ、それらでは属性が違うのか、考えてみよ。わかるか?」
火属性で氷を生み出す、これはどう考えても属性としておかしい。だが、この魔術は水が存在していないと使えない。
つまり、この魔術は水に変化を促す魔術だ。
「……氷を作る魔術は水の温度を変化させるもの、だから火属性、ですか?」
「うむ。大体はその考えで合っておる」
そういって師匠は棚に置いてある資料を持ってくる。今まで片づけをしたことはあったが内容は読んだことがないものだ。
「水属性の魔術で氷を作るものは直接氷を作る魔術と、今の火属性のものと同じ水を変化させる魔術がある。実はこの二つは基本的に同一ものじゃ。最初に水があるかどうかの違いでしかない」
「同じ?」
「そうじゃ。この二つの魔術は水そのものを変化させる、ということで水の属性となっておる。だが、火属性のものは水を変化させるのではなく、水の温度を変化させるものじゃ」
「つまり、干渉するものが違うということですね」
「うむ。だが、重要なのはそこではない」
何が重要なのだろう。
「水の魔術は水を操り、火の魔術は火を操る。多くの魔術は単純にそうなっておる。しかし、今取り上げている火の魔術は温度を変化させるものじゃ」
各属性の魔術はその属性にあたる元素、現象を直接扱うものだ。
火属性なら火の玉、水属性なら水流、風属性なら突風、土属性なら土塊。
基本的に教えられる魔術はそういったものがほとんどだ。
「ええっと、温度を操ることも火属性の特性、ですか?」
「ほう。なかなか答えに届くのが早い。そうじゃ、それが火属性の特性の一つ、じゃ。まあ、正確ではないがな」
そう言って資料を広げる。四属性と光と闇、それぞれの属性について書かれたもものだ。四つの小丸をまとめた大きな丸と陰陽の印のような大きな丸が書かれている。
「それぞれの属性はいろいろな性質をもつが、その実、根源的な性質が存在する。先ほど火属性は温度を操ると言ったが、正確にはエネルギーの操作になる」
なるほど。エネルギーを操作する、つまり熱エネルギーを奪ったり与えたりすることもできるということか。
「これがそれぞれの属性についてじゃ。火属性はエネルギーの操作、水属性は生命の構成要素への干渉、風属性は空間の支配、土属性は物質の生成と破壊」
「光と闇は……一つの丸ですか?」
「そうじゃ。光と闇は同じ性質を根源に持つ。じゃが、その性質は真逆じゃ。光は精神を正し、闇は精神を歪める。同じ精神に干渉する魔術じゃな」
つまり、それぞれの魔術はその根源的な性質を扱う魔術があるということだ。
最も、そういった魔術を教えてもらったことは今までなかった。
「今までこの根源的な性質に関しては教えてもらっていませんよね」
「少なくともお前さんが気づくまでは教える気はなかったの。儂のように魔術の探求を目指すのであれば自力で気づくべきじゃ」
別に魔術の探求をしているわけではない。だが、結局魔術を探求しなければあの死神に打ち勝つような魔術に到達できない可能性はある。
そういう点では自分は魔術の探求をしなければならない可能性はあるだろう。
「ふむ……どうせじゃ。魔術の開発を手伝ってみるか?」
「開発ですか?」
「うむ。あくまで助手じゃがな。根源的性質を知っていればお前さんが魔術でできることも増えるからの。自分で作れるようになればいろいろ便利な魔術も使えるようになるじゃろう」
確かに今までのは攻撃系魔術ばかりだった。そういう点ではいろいろなことができる魔術があれば便利だ。
「やらせていただきます」
「うむ、頼むぞ」
結局何度かループをしていく中で魔術を作ったが、死神に通用するものはできていない。
だが、便利な魔術をいくつか作ることはできたので、数回冒険者として活動し、探索範囲を広げた回もある。
そういった中で二つほど未攻略の迷宮を発見したので、その攻略をループを何回かして行った。
その攻略の中で少量の魔銀を見つけた。魔銀は若干普通の金属よりも強い。
問題は金属の量だ。武器一つ作るにはどうしても金属の量が足りていない。なのでもっと量が確保できればその時に武器制作を行おう。
ただ、魔銀を取り扱える鍛冶師には今のところ心当たりがない。それを探す必要がありそうだ。




