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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
dungeon
312/485

50

「七階はどうなのかしら?」

「七階は水ですー」

「……水?」

「水路だ」


 七階は五階の裏の迷宮のように蟻の巣のように入り組んだ道となっている。ただ、多くの通路には水が張られており、水路となっている。しかも、海水と淡水の水路や、両方が混在する水路など単純に水路と言っても簡単なものではない。最も、その影響を被るのは大体がそこに住む魔物だが。


「水の道なら人は通れない……だから侵入者が来れなくて安全なのね」

「そうでもないですよー。普通に通れる通路もありますー」

「やっぱり迷宮にそういう道は必要なの?」


 迷宮の構造には罠のない通れる道が必要である。それは水も同様であり、水のない普通に通れる道が必要なのか、とユーフェリアは考える。


「いえ、そんなことないですよー」

「……なら何で? そんな道を作る必要がないのに、何で作ってるの?」


 ノエルがじっと将人の方に視線を向ける。その道を作ったのは将人なのだからお前が理由を言え、という意味合いの視線だろう。


「いや、作る必要はなかったんだけど、通れない道を作るのは、こう、流儀というか、主義というか、正しくないっていうか……」


 しどろもどろである。しかし、将人の言うことは迷宮の構造を知っていればおおよそ理解はできるはずだ。八階の海でもそうだが、困難ではあるが、先に進むことができる道を作ったり、途中に休めるような休憩場所を作ったりと、侵入者への配慮がある。それは迷宮の裏も同様であり、七階もそう言った道を作っているということだ。


「えっと、他には?」

「七階は六階と八階に繋がってますー」

「それは前に聞いたわね……」


 前述のとおり、七階の裏は六階と八階に通じている。八階は海の中のどこか適当な場所に出るように、六階は水龍のいる湖に、六階に繋がっている水路は淡水、八階に繋がっている水路は海水で、七階の上部と下部でおおよそ淡水海水が分かれている。途中で混在するようにはなっているが、あまり混じっている場所は多くない。


「……それ以外は?」

「特にないですー」


 七階の特徴は水路の存在する通路、それ以外にはない。あとは、主に魔物が水中に存在する魔物ばかりだと言ったところだろうか。


「……ないのね。それじゃあ、八階はどうなってるのかしら?」

「八階……八階………………」

「…………覚えてないの?」

「はいー、そうですー」

「……いや、そうですー、じゃないと思うけど」


 流石に自分たちの迷宮の構造を忘れるのはどうか、ということである。


「九階は覚えてるんですけどねー」

「八階はどうなの?」


 ノエルが覚えていない、ということでユーフェリアは将人に訊ねる。


「八階はなあ……多分、ノエルは吹き抜けを抜けていっているからわからない所ばかりだろうし」

「あ、そういえば一気に飛んでいけるので八階は通った気がしませんでしたねー」


 八階の構造は中央に大きな穴が存在する吹き抜けの構造だ。壁による押し出しの罠など、吹き抜けを利用した構成である。ノエルのように空を飛べる者にとっては見るべきところはなく、単なる通過点でしかなくなる。魔物もいるが、別にこれと言って目立つものでもなく、むしろ隠れて不意打ちで下に突き落とす役割を持つ。ちなみに、吹き抜けから降りようとしても、それを感知した魔物がそれを阻止する。ロープを使えば切って下に落とす、などだ。

 事前に魔物を倒していも無駄である。ここの魔物の復活速度は早い。その代わりに、基本的には他の魔物はいない。どうやって下に降りるかというと、吹き抜けの外周にある下に降りる階段を通じてだ。この階段の周辺のみ、その階段を守る魔物がいる。最も、大した強さではないが。

 この階層のコンセプトは、面倒であることだ。階段は何度も何度も降りなければならない上に、常に中心から正反対、点対称の位置に存在する。つまり、何度も最大距離を進まなければならない。最も、ある程度の高さまで来ると吹き抜けを落下したほうが早かったりするのだが。最も、吹き抜けの下には隠れている魔物がおり、やはり落ちてきた侵入者を襲うようになっている。


「まあ、そんな感じかな」

「……本当に面倒なだけなのね」


 八階となると、やはり迷宮の最下層に近い場所だ。そんな場所の構造がそういう難しくない構造でいいのかとユーフェリアは思っている。しかし、実際のところこの階層では安全な場所はない。どこにいても、魔物が隠れ潜み、隙あらば襲ってくる。休むのであれば、七階か九階となるが、そもそもそこまで戻るのも進むのも大変だ。そもそも、迷宮の裏には休めるような場所は殆ど無い。必要ならば魔物を全滅させて休むしかないだろう。


「えっと、八階はもういいですよねー。次は九階ですけどー」

「九階は村……か、街ってところか?」

「人が住んでるの?」


 村か街と言うのであれば、そこには相応に住んでいる存在がいるはずだ。しかし、現在のところ他に最下層への落下者は存在しないし、そもそも人を住まわせることはノエル的には認められないため、そのあたりの意見をいまだに将人とぶつけあっている状況である。


「人はいないですー。人じゃなくて、いるのは魔物ですよー」

「……ああ、獣人とかそういう感じの?」


 迷宮内で見た、獣人や鬼、最悪ゴブリンでも構わないが、明確に生活様式をもつ魔物は少なくない。


「生物じゃないですけどねー」

「……え、なら何がいるの?」

「ゴーレム……とは少し違いますけどー、なんかそんな感じのですー」


 ノエルの知らない魔物だ。いや、魔物ですらないだろう。人の姿形を真似た、マネキン、人形。


「動く人形とか、そんな感じだけど……そういう話はない?」

「いえ、あるけど……でも何でそんなものを配置してるの?」

「元々は人の住む村にしたかったんだけど……」


 迷宮内に人を住まわせるのは色々と問題がある。現在ではユーフェリアとは敵対していないが、常識的に考えれば人間がいたら問題が起きるに決まっているだろう。特にノエルはそのあたり煩い。ただでさえユーフェリアの件ですらいまだに保留の状態扱いである。最も、そこまで敵視はしていないようだが。


「流石にそれはダメですー」

「というわけで人形を配置した」

「……真似事だけでも、ってことかしら」


 単に人間代わりというだけでなく、侵入者に攻撃する存在でもある。見かけは人に見えるので、迷宮内にいる人間かということで油断を誘える可能性もあるだろう。最も、九階まで来るような探索者に有効な不意打ちができるかはわからないが。


「……最後に、ここは?」

「ここはもはや迷宮ではないですー。単なる生活空間ですー」


 未だにユーフェリアが落ちてきた隔離場所のような場所はあるが、基本的に最下層は生活空間となっている。生活に必要なものが色々と存在する場所だ。水場や、草原、森、多様な動植物を配置し、食事や衣類の材料に困らない。最も、服は迷宮の格からも作れるが。そういうものは大体がノエルの暇つぶし品だ。

 これで、大体の迷宮の全容は語られた。侵入者である探索者たちが最下層に来る可能性は現在のところかなり低い状況だ。ユーフェリアや、将人、そしてノエルが危惧しているような探索者が迷宮の核を壊す、ということは起りえない。少なくとも、今のところは。

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