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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
doll fantasica
3/485

3

ドールの戦闘は少々ゲームとしては特殊だ。なぜかというと、ドールの戦闘はプレイヤーであるマスターが操作するものではないからである。

戦闘において、ドールは戦闘を行うバトルフィールドに存在し、マスターは外部からそのエリアを観察する。

基本的にドールの意思で戦闘が進み、マスターはその時々においてドールに指示を出す、というのが基本の形だ。

ドール側に特殊な術式を組み込ませることでマスターが直接ドールに干渉できるという話もあるがそういうのは特殊な例だ。


『マスター、こちらは準備できています』

「ああ、こちらも……特に準備というほどのことはないからな」


闘技場。コロッセオのような円形の建物に四角形のリング。もっともこれは雰囲気なもので、建物までの全域が戦闘エリアだ。

ドールの戦いにおいての勝敗条件はドールの戦闘不能で決定する。


「向こうは……虎か。猫型ベースかな」

『いえ、多分虎型だと思いますよ。姿がほぼ完全に虎ですから』


ドールは設定である程度の姿形の変更は可能だ。ある程度似通った種であるなら似せた形にできる。限界はあるが。

お互いに初期位置につく。戦闘開始の合図があるまでの若干の間は待機状態だ。

人対虎。傍目から見れば戦わずとも勝敗が予測できる。ドールとはいえ、根本的な性能は現実に近い。

人型が人気がないのはもともとの強さの差があるからだ。多くの人型の購入者が術式で性能の差を埋められていない。


<人型なんて使っているのか。ならこっちの勝ちだなw>


こちらを馬鹿にしたようなメッセージが届く。対戦相手のものだ。

マスター同士はメッセージで会話ができる。多くの場合は挨拶程度のものだ。


「挑発か、それとも本気か……今のランクなら同じく始めたばかりだろうに」


戦闘相手は基本的にランダム選出で決定する。事前に連絡し、特定の相手との戦闘を行うことも可能だが、主な戦闘はこれだ。

ランダムでこそあるが、戦績によるランク分けが存在し、そのランク内で相手を選ぶ。

自分はまだ始めたばかりなのでZランク。そこから数回の戦闘後Eランクに上がる。

以後は戦闘成績でAランクまで上昇し、全国上位に入ることでSランクになることができる。


「まあ、返す必要もないな」


わざわざ相手をする必要もない。こちらの強さはユアが戦闘で証明すればいい。

負けたら、と考える部分もあるが負けたことを考えても仕方がない。考えるのは勝つことだ。







戦闘エリアに戦闘開始の合図が鳴り響く。その開始音とともに敵の虎型のドールが跳躍する。

狙いはもちろんユアだ。戦闘開始と同時の攻撃はこちらも予測している。

直ぐにその場から横に跳躍して回避する。

敵はすぐに動かない。不意打ちに近い攻撃が外れたからか、その巨体に行動をとらせるのに時間がかかるのか。

こちらは予測の上の回避ですぐに行動できる。その隙を逃さず攻撃する。

本来ならこちらの攻撃は脅威ではない。虎を素手で殴ってもダメージを与えるのは難しい。

普通なら、攻撃を受けてからの反撃を狙う所だ。ある程度術式で強化しても強固な肉体を突破できない。

そう、普通なら。


虎型のドールはこちらの攻撃が届く一瞬前に一度硬直し、その後大きく後ろに跳躍した。

獣型と人型の違いは多くあるが、そのうちの一つ、本能の違いの利点だ。

人型はその知恵、知識を用いた技術と量の多い魔力を利点に持つのに対し、獣型は強固な肉体と咄嗟の有効的な判断につながる本能的な反射行動を利点に持つ。

つまり、今の攻撃を受ければ危険だ、と本能的に察したのだ。


「魔力強化は有効、だな。通常の何倍くらいだ?」

『およそ5倍程です」

「どのくらい持続できるかわからないが、もうすこしあげて攻撃してくれ」


魔力強化。通常であれば、魔力強化の強化率は大きくても2倍くらいだろう。

これが筋力強化でも3倍ほどにまで上げられる。ただ、それでも人型では獣型を突破できるほどの攻撃力にはまだ届かない。

そもそも最大の強化をしては消費する魔力量も大きくなる。今の術式を削って保った多量の魔力をもってしても。

ただ、強化範囲を操作して強化を部分的に集中させる、強化に使われない余剰分の魔力を集めて補う。

魔力操作によって、強化を手助けする。それが考えていた戦法だ。

そしてそれは虎型のドールの防御力を超えた、とみていいだろう。だからこそ先ほどの攻撃は回避された。

今はこちらと向こうは睨み合いの状態だ。向こうが警戒してこちらの動きを探っている。

時々ピクッと反応するように動いているが、それはこちらの動きに対してではない。

恐らく相手のドールの主人が命令しているのだろう。先ほどあんなメッセージを送ってきた相手だ。人型に楽勝できなければおかしい、とでも考えているのだろう。

程なく、虎型のドールがこちらに攻撃を開始する。

先ほどと同じようにユアが避けるが、その後の動きに隙が無い。すぐに避けたこちらにむけて追撃する。

避ける、避ける、避ける。流石に巨体での完全な制動ができているわけではなく、回避できる。

ただ、いずれ攻撃が当たってもおかしくはない。そもそもこちらから攻撃できていないのが厳しい。


「ユア」

『マスター、あれですか?』

「ああ。実戦でできるかどうかもわからないし、いけるかもわからないが、うまくいけば大きな隙を作れる」

『はい……わかりました、やってみます』


ユアは覚悟を決める。動きに若干の変化ができ、敵の攻撃が届きかける。

誘い、ではあるがうまく敵が乗ってくれるかわからない。もしかしたら想定した攻撃以外の攻撃に当たってしまうかもしれない。

人型は脆い。下手を打って一撃で勝負が決まる危険もある……が、あのままではこちらの魔力の削りが大きかっただろう。

魔力的な持久力は人型のほうが上だが消耗を考えると魔力切れでの勝利を狙えたかはわからない。

となれば何とかしてこちらの攻撃をあてるしかない、ということになる。


何度かの回避の後、ユアが虎型のドールの攻撃を後ろに回避した。

今まで側面に回避することで虎がこちらに向く動きが発生し、それが敵の行動を遅らせる要因となっていた。

しかし、後ろへの回避はそのまま虎の攻撃動作を次につなぐことを可能とする。

後ろに下がったユアへの虎の追撃。そのまま体を前に出し、その大きな口と牙により噛みつきを行う。

咄嗟にユアは腕を出す。噛みつきは腕に向かい、腕を噛み千切ろうとした。

……そう、噛み千切ろうとした、だけだ。虎に腕は噛み千切れなかった。

虎に驚きの表情があれば、こんな顔だ、といったような顔をしている。普通なら強化していても余裕で噛み千切れるレベルだ。

魔力変換。本来であるならそれは様々な能力に魔力を変化させるものだ。

だが、この変換というのがどこまでできるのか。あらゆるすべてに変化できると言われている、らしい。

ならばこれはできるのか、あれはできるのかと試したところ、いろいろとできた。ただ、変わった変化には大量の魔力を必要とするケースが多い。

その中で一番防御に向くのでは、と考えていたことがあり、同時に魔力を必要としない変化があるのを見つけた。

魔力変化が大きくなるのは自身の認識、知識や差異によるものだ。ならば……魔力変化で自分を作り出した場合はどうか、を試してみた。

魔力変化で自分の肉体の外側に自分の肉体を作る。消費魔力が少なく、この作った肉体で攻撃を受ければダメージを受けない。

自分の体なのだから作りやすくもある。問題は防御力になるが、これは使用した魔力量と発生範囲で操作できた。

より狭い範囲に大きな魔力量で作ることで密度があがり、防御力が増加した。

今、その防御力で虎の噛みつきを防いだ。そして防がれた驚きによる隙は大きい。噛みついた体勢のままだ。


「最大で行け!」

『はい』


魔力操作によりその腕に濃密な魔力が集中する。若干の揺らぎのようにこちらは見える。普通は見えないが、見えるほどに集中している。

その集中した魔力で強化した攻撃を大きな隙のできた虎に叩きこむ。

ドゴッと鈍い肉の塊を殴りつけた音、ゴギッと固いものを折るような、破壊するような音がこちらにも聞こえる。

そのままユアが追撃をかける。虎は避けようと動き始めたが、ダメージと咄嗟の行動の遅さでユアの追撃をまともに受ける。

虎型のドールが崩れ落ちる。まだ戦える状態ではあるが、動きが明らかに遅い。


「ユア、とどめを」

『……はい』


さすがにこれ以上は必要はない、とはこちらも思う。だが、相手が負けを宣言するか、ドールの戦闘不能が確定するまでは勝負が続く。

よろよろとした動きしかできない虎型のドールにユアの最大の魔力での攻撃を決める。

これ以上は耐えられず、虎型のドールは戦闘エリアに崩れ落ちた。

こちらの勝利の判定が下る。初戦は勝ちを拾えた、というのは嬉しい。


「ユア、よくやった」

『ありがとうございます!』


とりあえず今回は勝利できたがこれからどうなるかはわからない。

今のままでいいのか、ダメなのか。少なくとも現状で判断できることではない。

経験記憶もある。まずはひたすら戦ってみるべきだろう。

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