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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
dungeon
298/485

36

「これで七つ目だ!」


 二つの塔の周りをぐるぐると回る足場を乗り継ぎ、ようやく最上部にたどり着く。いったい何を足場が回る動力にしているのか、ここまでいくつもある設備がなぜ体力勝負の設備ばかりだったのかなど気になるところはあるが、ようやく七つ目のカギに到達した。


「リーダー! 早くとってきてー!」

「わかってる!」


 下からレッツェがせっついてくる。一番上まで来たのだから、これ以上何もない。少しくらい休んでもいいものだろう。しかし、ようやくここまできて、次に進める。気持ちはわからないでもない。

 俺は最上部にある鍵を取り、下に……飛び降りる。飛び降りようとするのだが、高さゆえに少しの躊躇が生まれてしまう。幾ら下に敷き詰められたものの上に落ちれば衝撃をほぼ吸収してくれるとはいえ、落ちるのは怖いものだ。


「これで七つ目か」

「貸してー!」


 レッツェが七つ目の鍵を奪い、六つの他の鍵と纏める。


「おおっ!?」

「うわ、何だ!?」

「…………何が起きた?」


 レッツェとジェリコの叫びが聞こえ、何事かと確認しに行く。レッツェの手の上には、七つの印のある円形の印章が存在している。


「……凄いですね。七つ集めるとこのように変化するんですか」

「レイズ、一体どうしたんだ?」

「鍵を七つ纏めると、全部がくっついて今レッツェが持っている印章の形に変化したんです」


 信じられないような奇妙な話だが、ここは迷宮であり、鍵は迷宮で作られた謎の物質だ。そんなことが起こってもおかしくはない……とは思う。


「……多分数字」

「印章の七つの印の事か。これは恐らく、攻略した扉を示しているんだろうな」


 わざわざ七つ集めないと完成しないのだから、そういうわかりやすい内容だろう。


「これで先に進めるのか」

「一つだけでいいのかな、これ」

「流石に人数分集めろ、というわけじゃないだろう」

「しかし……これ一つあれば他の探索者も進める、というのは楽なエリアですね」


 レイズの言う通り、これ一つあれば先に進める……いや、それは本当だろうか。


「それは少し甘い考えかもな……」

「え? どういうことですか?」

「いや、これまでいろいろとやってきた迷宮の主がこんなところで一つあれば後から来た人間でも進める、なんていうのは変な話じゃないか?」

「迷宮の主が失敗しただけでしょー! そういうのどうでもいいから先にいこ―!」


 ひとまず、迷宮に関しての考察は置いておこう。せっかく七階を攻略したのだから、先に進むべき、そう言いたいのだろう。


「……確かに、今そんな話をしていても仕方がない。先に進もう」

「でも、この先がどんな階かわかんねーし、一度確認したら戻るか?」

「………………」

「………………」

「お、おい……なんで黙るんだよ?」


 戻る。ここは七階の奥だ。ここは安全だが、代わりに食料がない。いや、持ってきた食料はあるのだが。要はここで生活するのは難しいということだ。いや、それはおいておこう。問題なのは七階の前半、そう、ゾンビたちのいる腐臭漂う不死系の魔物たちのエリアだ。

 行きはまだよかった。行きはあの犬除けを利用して腐臭対策ができたから急いで突破することができた。しかし、戻るとなるとどうだろうか。ここにはあの犬除けが存在しない。


「あのエリアを戻るんですか……?」

「やだー……行きでもやだったのに帰りもなんてやだー」

「あ―……ここに犬除けねえしなあ」

「……魔物も集まってる可能性がある」


 行きにある程度倒してはいるが、足を折るなど、動きを遅くしたゾンビたちを置いてきている。あいつらが俺たちを追いかけ、そのまま追いかけ続けていたのならば。もしかしたら、扉の先に大量にいる可能性がある。


「……今は先に進むことだけを考えよう。戻るかどうか決めるのは先を見てからでもいいだろう」

「そうねー。戻りたくないけど……」

「でも迷宮から出ないわけにもいかないでしょうし……」

「あー! どっかに抜け道とかないものかなー!」


 抜け道。この迷宮にそういうものがあるとは……いや、五階の隠し通路の例もある。ないとは言えないかもしれない。しかし、探すにしても当てがないのだから、難しいだろう。








「広い…………」

「潮の匂い……」

「これは海ですか?」

「迷宮内に海があるのか。とんでもねーなぁ……」

「そこに泉がある。潮の香りがするのはこのでかくて広い湖みたいな、海だと思われる水場からだが……飲めるかどうか確かめておかないとだめだな」


 八階は広い湖……いや、海だった。足場、地面は入り口のところと、途中に存在する島のような場所、さらに奥にある壁の所にしか存在しない。


「……これ、もしかして海の上を進むなきゃいけないの? 船作るの?」

「いえ……足場があります」


 海には浅瀬の地面があった。入り口付近では深さは足首位、先に進むと膝くらいになっている。もっと奥ではどこまで深いかは不明だが、最悪本当に体がつかるくらい深くなる可能性はある。海に伸びている地面は幅が広い。ここにいる全員が並んで歩いても余裕がある。しかし、その脇、端から先は深い。地面がない。


「これは……先に進むのは問題なさそうだが……」

「いやいやいや、これは無理だろ!? 単に歩くだけなら問題ないだろうけどよお……」


 この海の中の地面の上を歩く分には問題がない。しかし、ここは迷宮だ。この海に魔物がいないはずがない。水の中、海というのは厄介だ。特に深い場所に魔物がいた場合、魔物の姿が確認できない可能性もある。地面が広いので、魔物に襲われても比較的早く気づくことはできそうだが、襲ってきた魔物次第ではその動きに引っ張られ深い場所にもっていかれるかもしれない。

 最初は足首までだが、途中からは膝までだ。脛を魚の魔物が齧ってくる可能性も考えられるし、海月の類や、突撃魚の類が刺してきたり、飛び魚の類が跳ねて襲ってくる可能性だってある。別に海以外に危険がないわけでもないが、海は他よりも発見しにくく危険が高い。


「釣りしたい」

「……食物の確保にはいいかもな」


 一時的にならば、食事を釣りで確保してここに留まることは出来るだろう。ただ、魚だけの食事だといつかは限界が来る。そもそも、今は釣り道具を持ってきていない。海が存在するなんてそもそも想定していないのだから。


「ひとまず……戻ろう。海があると分かれば相応に対策は要るだろう」

「水場を攻略するのは大変ですからね」

「……でも、あれ戻るの?」

「レッツェ、私が頑張る」

「アリムラ? 頑張るって?」


 アリムラが一つの提案をする。風の魔術を全力で用いて、ゾンビの腐臭を吸わなくてもいいようにする、ということだ。もちろん、そんなことをすれば魔力消費は尋常なものではない。


「大丈夫なのか……?」

「一度休んで魔力を回復させたら、なんとか戻る分には問題ない」

「……大丈夫ならいいんだ」


 ただ一人魔術を使えるから、と無理をさせるわけにもいかない。特に魔術を使えるアリムラは仲間の中でも重要な立ち位置だ。いなければ迷宮攻略が成立しなくなる。


「なら、戻ると言うことでいいだろう。ただし、無理そうならば引き返す。アリムラも、絶対に無理はするなよ?」

「わかってる」


 一度迷宮の外にまで戻ったら、本格的にしばらく休むことにしよう。海への対策も数日でなんとかできるようなことではない。数週間……数か月とまではいかないだろうけれど、やはり時間はかかるだろう。

 思えば、この迷宮を探索してもう何ヶ月もたっているのか。ここまで深く、難解で厳しく大変な迷宮は初めてだ。ここを攻略できれば、他の迷宮の攻略が簡単に思えるようになるだろうな。

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