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妄想設定作品集  作者: 蒼和考雪
dungeon
295/485

33

「ゾ…………ゾンビ……?」


 七階の映像を見るユーフェリアの表情が青ざめている。流石に刺激が強すぎる映像だったのだろう。腐った人間の死体にしか見えないゾンビは見慣れない人間にとってはきつい。たとえそれが匂いの存在しない、その場でリアルに見るものでない映像であったとしても。多くの迷宮探索者は迷宮攻略の過程でゾンビを相手にする経験を経た者は少なく、仮に相手をすることに慣れていたとしても、この迷宮の奥で突然出現するとなると堪らないだろう。


「あ、あの、あのゾンビってもしかして……」

「もしかして?」

「迷宮で死んだ人間の成れの果てだったりするということは……」

「ああ、そのあたりは大丈夫。あれ最初から配置してるやつらだし」


 ほっ、と安心したようにユーフェリアが息を吐く。流石に迷宮で死んだ人間がゾンビになってさまよっている、となると精神的にきついものがあったということだろう。彼女とともに来た探索者も迷宮で死亡している。


「そもそもー、ゾンビは人間の死体じゃないですよー」

「……そうなの?」

「はいー。生物には擬態する生物って多いじゃないですかー。それの一種です」

「……そうなんだ」


 流石に人間の死体ではなく、全く別の生物であると言われると将人も驚いた様子だった。将人の知識では、ああいったゾンビはネクロマンス、死霊を操る術の類で操作するものであったり、人間の死体に幽霊が憑依したりなどで肉体を操るようになったりするものだという認識だ。


「そうですよー。迷宮の魔物の類はそういう生き物ですー。そうじゃなければ呼び出すたびに人を殺さなきゃならないじゃないですかー」

「確かにそうだけど……」

「ゴーストやスケルトンの類も人間さんじゃないですー。あ、でもああいうのは生物でもないですねー。ゾンビは生物ですけどー」

「……生物じゃない?」


 将人が首を傾げる。ノエルは調子に乗って解説を続ける。


「はいー。ゴーストなんかは魔力でできた生物ですー。見た目も、ゴーストは顔の描かれた白い布のような感じですねー。ちなみに普通に物理攻撃で倒せますー。スケルトンは、骨……じゃないんですよー? あれ、骨っぽく見えますけどー、土塊ですー。陶器みたいなものと思えばいいですねー。じゃないと斬ったとき骨を切るんですから剣がだめになるじゃないですかー」

「……それはよく聞くけどさあ」


 そもそもこの世界に存在する剣が骨を切って駄目になるかというと疑問が残るところである。そもそも鉄製の剣でないものも多いのだから。


「……あれはゴーストじゃないのかしら?」

「え?」


 ユーフェリアが映像を見て、ぽつりと呟く。その呟きは将人にも聞こえており視線を映像に向ける。その視線の先、七階の映像には一人の少女の姿があった。その姿は半透明であり、いわゆる幽霊の様相である。


「……あれ? ゴーストって白い布のような感じじゃないの?」


 将人がそういったところで、近くを白い布のようなものが通る。本物のゴーストだ。つまり、映像に移っている少女はゴーストでないということである。


「………………」

「………………」

「どうしたんですー……あ、珍しいですねー」


 将人とユーフェリアが黙り込んでいたところに、ノエルが映像を見て面白そうに言う。


「ノエルわかるのあれ?」

「はいー。あれ、幽霊ですよー。すっごく珍しいんですー」

「……ゴーストじゃなくて?」

「ゴーストと幽霊は別物ですー。前者は魔物で、後者は人間さんの成れの果てですからー」

「えっ」


 幽霊とゴーストは明確に別物の存在だ。ノエルの言った通り、ゴーストは魔力から生まれた不死系統の魔力生物であり、幽霊は人間が死に、その魂が輪廻の流れに乗れずにさまよっている結果の存在である。


「……ねえ、あの子こちらを見てないかしら?」

「……」


 将人が再び映像に視線を向ける。少女の幽霊は将人の方を見ている。いや、見ているのは映像なのに。将人と、その少女の視線が交差する。目が合った。


「っ!?」


 少女が一気に映像の前近づいてい来る。ばん、と映像を叩く。映像には手形がついている。突然の異常な出来事、ありえない光景に空気が凍り付く。音がないのが救いと行った所だろうか。ばんばんばんばんばんと叩くように映像に手形がつく。真っ赤な手形はまるで血で濡れているかのようだ。

 流石にあまりに異常すぎるその光景に、将人は映像を止める。ふっ、と映像は消える。


「……ふう」


 気が付くとユーフェリアが将人にしがみついていた。流石にあの異様な存在に恐怖したのだろう。怖すぎてつい側にいた将人に縋りついたようだ。


「……えっと、大丈夫?」

「え……あっ!」


 将人にしがみついていたことにようやく気付き、しがみついていた手を放す。


「……こ、これは別に……ちょっと躓いただけよ!?」


 流石にいいわけにもならない内容である。しかし、流石に突っ込むのは無粋ということで将人からは何も言わなかった。ただ、少しだけ気になったのは将人よりもノエルの方が近いということである。


「あ、あの子ちょっと送ってきますねー」

「送ってくる?」

「はいー。私一応天使なのでー。幽霊とか、そういうのを正しい流れに導くのもお仕事ですのでー」

「そうなんだ……」








「ふう、終わりましたー」

「お疲れー」

「ごくろうさま」


 ノエルが戻ってきた。どうやらちゃんと七階にいた幽霊を送ってきたようだ。最も現在は七階の映像を消しているのでかくにんはできないのだが。


「……七階に行ってきたのに臭くないわね」

「臭いくらいどうにでもなりますよー? 天使舐めてますー?」

「そ、そういうわけじゃないわよ!?」


 ノエルの言葉に過剰反応するユーフェリア。完璧に以前の出来事がトラウマ化しており、上下関係ができているようだ。迷宮側としてはノエルに逆らおうとしない姿勢は迷宮の安全につながるのでいいはずなのだが、将人に取っては少し精神が大丈夫か不安になるようだ。


「それにしてもー、七階面倒でしたよー? あれ攻略するの大変でしたー」

「……ああ、ノエルもあれやらないとだめなのか」

「迷宮の中にいるのに迷宮を攻略しないといけないの?」

「そうですよー。まあ、行ったことがあれば転移くらい余裕ですけどねー」

「………………」


 ノエルの持っている能力は一種のチートと言ってもいい。そもそも、天使は神の側に仕える者であり、神に準ずる力を持っていると言ってもいい。それならば確かにチートクラスの能力を持っていてもおかしな話ではないだろう。


「あれ、私なら遊び感覚でできますけどー、普通の人大変そうですねー」

「どういうものだったの?」

「興味あるんですかー?」

「ごめんなさい、聞かないから!」

「……いえ、別に咎めるつもりで言ったんじゃないですけどー」


 七階。前半の不死の魔物が存在する、腐臭により侵入者を追い返すエリア。その先を超えると、いくつかの部屋で構成されたエリアにでることになる。実は前半の不死の生物のエリアは攻略事態は容易だ。道も短く、道中にでる魔物もゾンビ、スケルトン、ゴースト、対処は難しくない。この前半のエリアの問題は臭い、腐臭だ。実は腐臭に対応するためのものが七階の手前にあるという親切設計だったりするのだが、あれは臭いにまみれた侵入者が戻った後に臭いを吸い取ることで慣らさないようにする意図であったり、微妙にきつい臭いに晒されたことを癒すためのものとして置かれているのだが、あの犬除けと呼ばれる花、吸香花を摘み取って持っていけば臭い対策になるのである。

 さて、すでに判明している前半は置いといて、後半のエリア。後半はアミューズメントパークである。いや、微妙に違うかもしれない。七階の後半は将人がゲームなどでやったことのあるミニゲームを参考にして作ったエリアだ。いくつもあるミニゲームを七つ攻略し、攻略したときに得られる印を鍵として扉を開き先に進む、というエリアである。ミニゲームならば簡単だ、と思うことなかれ。人間を使ったピンボール、数メートルの高さにある足場を登って最上階に到達する塔、自分より大きな転がってくるボールを複数ある穴に投げ入れる競技、実際にやるとなると大変なものである。いくら迷宮探索者とはいえ、攻略は容易ではない。

 最も、設置した将人はそこまで難しくない構造にしてしまったと思っているようだが。知らぬが仏である。

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