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「…………今の、何なんです?」
「六階の映像だけど……あ、やっぱり女の子だし虫とか駄目だったか?」
「確かに大きな虫とか嫌いですけど、そういことじゃないわ……これ、一体どうなっているのかしら」
各階層の状況を映し出す映像機、それに映った映像とその内容にまずユーフェリアは驚きを見せる。そして、その興味、疑問は映像を映し出していた機械の方へと移っていた。彼女のような貴族ですら、そのような機械の類は見たことがない。
そもそもそれらの機械は迷宮で生み出された、将人が作ったものであるため当然と言えば当然である。この世界では色々と魔術を用いた特殊な道具が存在するが、それを加味しても明らかにオーバーテクノロジーである。
「ああ……それ、迷宮で作ったものだから」
「将人さんの作るものは特殊ですからねー」
「……迷宮で作られたもの?」
ユーフェリアは難しい顔をして映像を映す機械を見ている。
「……今更なんだけどさ、なんでわざわざ迷宮を攻略するんだ?」
「え……どういう意味かしら」
「いや、迷宮に人間が侵入者として入ってきて、最下層の迷宮の核を破壊しに来るんだろう? それがなんでかな、って」
将人は人間の侵入者がなぜ迷宮の核を破壊するのか、それが分かっていない。将人が得られる外の情報は殆ど無く、人間側の事情も知らない。迷宮に侵入してきた人間が迷宮内で行う会話を拾うことは不可能ではないが、それでも得られる情報はかなり断片的だ。そもそも、迷宮内でわざわざ迷宮を攻略する事情を語るはずもない。
「……迷宮が存在すると、その周辺の魔物の凶暴化と危険度が上昇する。その理由はいまだ判明していないけれど、それが迷宮が生まれたことに起因したことはわかっているわ。同時に、迷宮を破壊すればその状況が収まることも。だから私たちは迷宮を破壊しに来ているのよ」
「……迷宮が生まれると周囲の魔物が活発になる?」
初めて知った事情に将人は少しだけ考え込む。しかし、ノエルの発言がその思考をすべて持っていった。
「それは当然ですねー。迷宮の役割は大陸の魔力を外に放出することですー。魔力を放出して、その影響を魔物が受けたらそうなるのは当たり前ですよー」
「えっ!?」
「……なんですって?」
二人の驚きをよそに、ノエルは迷宮の役割と、その影響について話し始める。
「将人さんには話していることですけどー、迷宮の役割はその迷宮自身、迷宮に作られた道を通して大陸に巡る溜まった魔力を排出することですー。この魔力はそのまま力、エネルギーの類でー、迷宮では迷宮の核を通じていろんな用途に使用できるんですー。人間さんも、迷宮内に満ちる魔力の影響を受けて強くなったりしますよー。まあ直ちに影響することはないですけどねー。迷宮で作られた魔物は迷宮に適応しているのでそういうことはないはずですけどー」
「……なぜ迷宮を攻略している人間が強くなっていくのかわかったわ」
迷宮探索者は迷宮を探索し、攻略していくうちで強くなっていく。これは全ての迷宮探索者がなんとなくで理解しているのだが、あくまで攻略しているうちに実力をつけた結果だと全ての探索者は認識している。しかし、実際は迷宮の中に満ちる大陸の魔力、その影響を人間が受けた結果である。人間が受ける影響は、魔物のような魔力との親和性の強い生物とは違ってとても弱いが、それでも全く影響を受けないわけではない。
ユーフェリアは人間の中、この世界の人間の中では初めて、唯一その事実を知った人間であるだろう。
「当然、人間だけじゃなくて魔物も影響を受けるんですねよー。外に放出した魔力の影響を受けて強くなったりするんですー」
「…………やっぱり迷宮は破壊したほうがいいわね」
「でもー、迷宮がないと大陸の魔力が貯まって、噴火とか地震とかー、そっちの天災が起きますよー?」
「え……」
「最悪大陸が沈没しますー。魔力が人間さんや魔物に影響するなら、当然大陸だって全く影響がないわけじゃないですー」
流石に大陸沈没というあまりにも大きな天才の話をされるとユーフェリアとしても言葉が出ない。
「……私たちが迷宮を破壊した結果、そういう天災が起きるの?」
「いえー、そうそう起きませんよー?」
「…………えっ」
「迷宮が生まれる頻度が多くなる時はありませんでしたー? 迷宮が破壊されて魔力が溜まった場合、迷宮をたくさん生み出してたくさん出せるようにしますー。だから、そうそう天災が起きるほどにはなりませんー。でも、そういった迷宮が破壊され続けたらいつか起きちゃいますけどー」
「そ、そうなの……」
ユーフェリアは自分たち人間が迷宮を破壊してきた結果、天災を起こしてしまっているのでは、と後悔の念を抱きかけていたところに、あっさりとノエルに否定されたことで脱力した。最も、今まで全く天災が起きていないか、というとそんなことはなかったりするのだが。実際、ノエルが言ったような大規模なものでなければ何度か起きている。
「あとー、人間さんは迷宮の魔力の影響は重要だと思いますよー?」
「何かあるのか?」
「はいー。人間さんが使う魔術は、子供が迷宮から出る大陸の魔力の影響を受けた結果ですー」
「…………え?」
ノエルの発言はユーフェリアとしては少しだけ、衝撃を受ける。ユーフェリアは治癒の術を使える。これは正確には魔術とは別物だが、それが魔力の影響を受けた結果だと言われると、少々精神的にくるものがあるようだ。
「大人は影響ないの? 俺とかずっと迷宮にいるけど……」
「ないですねー。子供っていっても生まれる前、お腹の中にいるころじゃないと影響ないですー」
「……それ大丈夫なのか? 不安になるんだけど」
将人の心配は迷宮の魔力の影響による奇形や流産の類だ。生まれる前から影響をもたらすとなると、そういった生まれる時や、その子供自身への影響が気になるところだろう。
「魔力の影響を受けても人間が魔物になったりとかそういうの無いですよー」
「奇形とか、流産とか、その子供や母体への影響は?」
「全然大丈夫ですー。元々駄目ならそれは知りませんけどー、魔力の影響による変質とかそういうのはないですー」
「そっか……ならいいんだけど」
正直将人がそういうことを心配しても今更だ、と言っていい。将人は散々迷宮で人を殺しているのだからだ。本人はそれに関して理解していも、自覚が薄い所がある。だから単純に子供やその母親に対しての心配ができるのだろう。ノエルはそのあたりなんとなくわかっているがわざわざ指摘はしない。
「……ってことは、もしかして迷宮があると周辺の人間に魔術師が増えるってことか?」
「そうですねー、そうなりますねー」
「それって! 迷宮を囲んでいる村で生まれたこと共は魔術師になる可能性が高いってこと!?」
今までの話をしっかり聞いていたのか、ユーフェリアが叫ぶ。
「……迷宮を残す利点と、迷宮を壊す利点……魔術師が増えるなら、迷宮を残すことの意味は大きいわ……」
ぶつぶつとユーフェリアは思考し、呟き続ける。
彼女の言う通り、迷宮が残った場合その周辺の子供に魔術が使える子供が増える。魔術師が増えると言うことは、国の戦力が増えると言うことでもある。それは戦争の有利、また魔物に対する対処の有利、迷宮に対しての有利である。
「……この情報を持ち帰ることができれば」
「それは無理ですよー」
「っ!?」
いつの間にかユーフェリアの後ろにノエルが立っている。気が付いたときにはすでに肩に手が添えられていて、ユーフェリアは逃げることができなくされていた。
「言っておきますけどー、あなたがここから出るときは記憶消しますから―」
「そ、それは何でかしら?」
「迷宮のことは基本的に人間さんには秘密ですー。だから、記憶消すのは必要不可欠なんですよー?」
「散々俺たちにはいろいろ語っているのにか?」
今までそういうそぶりをノエル全く見せることはなかった。なので、将人としてもノエルの発言に少し驚きを見せている。
「将人さんは迷宮と一蓮托生ですしー、外に出れませんから問題ないですー。でも、この子は違いますよねー?」
「……まあ、確かに出ようと思えば出られる可能性はなくはないんだろうけど」
「でも、出ようとするなら―……記憶が云々という前に、消しちゃいますけどねー?」
「……出ません、出ませんから、絶対に外に出ようと考えませんから!」
微妙にユーフェリアのトラウマが再発する。少しだけ、震えが出ている。
「はい、将人さんー。任せますねー」
そう言ってノエルはユーフェリアを将人の方に押しやる。
「……脅すなよな―」
「別に脅してませんー。全部事実ですからー」
「…………」
将人は少し複雑な表情をする。ある意味、ユーフェリアをこういう状況にしたのは自分なのだからしかたがない。最も、将人が一番下まで落ちる落とし穴を作ってなければ、恐らく途中で死んでいたほうが高いのだが。
「……あ、六階突破してる」
迷宮の中を映し出す画面、そこには六階の巨大な樹の生えた森を攻略していた探索者が先へ進んだことを示していた。




