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一度戦争回避を目指してみればいいのではと考えてみた。
結果としては失敗だった。根本的に間違っていた。
三回目は二回目の流れを踏まえ、最初に仲間を作り、戦争の原因を探り戦争そのものを起こさないようにするにはどうすればいいかを模索してみた。
しかし、そもそもループ現象は説明できるものでもないし、証明できるものでもない。
未来に起きる事柄についてはある程度教えることができるが、それだけでループ現象を認められるものとは思えない。
それこそ戦争が起きるのは1年先だ。その予兆すら見受けられない状態での話は無意味だ。
かといって戦争になることが分かり始める状態では遅い。そもそも二回目も一回目も戦争の予兆なんてなかったと記憶している。
戦争は唐突に起き、冒険者に対する招集も集められてすぐに戦争への参加だった。
もともとこの戦争は相手側が起こしたことでこちらの国に原因があるものではない。つまり問題解決をこちら側で行おうとしたのが間違いなのだ。
結局二回目と同様に戦争に参加し殺されて終わった。
四回目は前回のことを加味し、相手の国に出向いてそこで原因を調べてみることにした。
あと、あの大鎌を使う死神の存在も調査をしてみた。あの存在は少なくともこちらには全く情報のない存在だった。
相手側で調べれば何かわかるだろうと思って調べようとした。
だがその前に必要なものがある。路銀だ。
少なくとも暫く相手側の国で過ごせる程度の路銀は稼いでおかないといけない。
そのため目標とする金額を決め、その金額が貯まるまでギルドで仕事をした。
路銀が貯まり相手側の国に出向き、戦争の原因を調べたがまるで情報がない。
少なくとも戦争が起きるような動き、予兆がないのだ。大鎌使いに関しても全く情報がない。
そのまま調査していたところ、いきなりループの初日に戻っていた。
その時はなぜループの初日に戻っているのか意味が分からなかったが、ギルドに向かう道中でようやく整理がついた。
相手側の国での調査中に自分が死んでしまった、ということだ。恐らくいろんな人間に聞き込みをしたせいで秘密の情報を持つ危険人物として見られて暗殺されたのだろう。
少し突飛的な発想だ。だが、これが真実であればあの死神や戦争については国の中枢、かなり偉い人間がかかわってきている。
そして秘匿も相当なものとみていい。恐らく一人ではどうやっても対処できるようなものではないだろう。
ではどうすべきか。といっても答えははっきりしている。戦争に参加する以外の道はない。
いや、厳密にいえば冒険者にならなければいいのだ。ただ、それを選ぶ選択肢は自分にはない、選びたくないというだけだ。
自分を殺した相手の復讐……というとあれだが、負け続きでは嫌だという思いはある。勝ちたい。
それに、あの戦争の惨状を見ればこちらの国が負ける可能性が高い。そうなると国がどうなるかわからない。
あの存在を止めることができれば勝てるとは言わないが、負けない程度に戦うことはできるだろう。
そのためにはまず力が必要だ。少なくとも相手の攻撃に対処できる程度には。
いつも通り冒険者ギルドに登録をする。だが今回はいつもと違うことをする。
「すみません」
「はい、どうしましたか?」
「魔術師教練を受けたいのですが」
「少々お待ちください……お手数をおかけしますが、この玉を両手で包むように持ってください」
そういわれて握りこぶしほどの大きさの透明な球を渡される。
いわゆる魔力診断というやつなのだろうか。こういうもので素質や魔力量が分かるのはよくある話だが。
言われたとおりに両手で包み込むと玉の色が黄色に変わる。
「銅……しばらくお待ちください」
銅。色分けは金属で分類されているのだろうか。仮に金属なら銅はどこの位置づけなのか。
とりあえず魔術を習うことはできそうだ。遠目で魔術師の攻撃を見たことはあるがあまり強くはなかった。
だが、攻撃手段としては弓矢や投げナイフみたいなものとは違う武器を用いない遠距離攻撃だ。
牽制で魔法を放ちつつ剣で攻撃を仕掛けるなどの戦術を扱えるかもしれないと思うと少し楽しくなってくる。
次の週初めにギルドの横の建物の大部屋で講習を受けるように言われる。
「……クルドさんたちがいない」
そういえばあの人たちのチームに入るのを忘れていた。しかし講習を受けるとなると教導依頼に参加するのは難しくなる。
……今回はあきらめるしかない。いや、今回でループが終わるとこれでお別れなのか。そうだとしたら残念だ。
「もし次回が来てしまったら入らない予定の場合は注意をしておくか……?」
その内容を信じてくれるかどうかは知らないが、あの冒険者くずれの男たちのことを注意しておけば生き残るかもしれない。
少なくとも二回目の時のようにチームに入って仲良くする、みたいなことはできないかもしれないがそれはしかたないだろう。
魔術の講習はかなりの老齢のお爺さんが行っている。以前戦争で後ろのほうにいたのを見かけた覚えがある。
戦争で後方に配置されるくらいだからかなりの魔術師なのだろう。
といっても今回は複数人相手に教えるもので、そこまで詳しくしっかり教えてくれるわけではないみたいだ。
どうやら黄色をだした魔術師は銅と呼ばれる分類で、魔術を最低限扱える程度の魔力量らしい。
下に木、鉄の分類があり、そちらは魔術を扱えるほどの魔力量ではない。この内容に関してはうまく理解しきれなかったが、魔力量が多くないと魔術を扱うのに必要な魔力量を出せないらしい。
例えるならホースだ。ホースに流す水の量が少なければちょろちょろとしか水は出ない。多ければ勢いよく出る。この勢いよく出た状態でないと魔術を使えない。
なら入口を狭めればいいのではないかと思うが、魔力の噴出口を閉める方法が今のところないらしい。ちなみにこの方法を生み出せれば国に表彰されると言っていた。
講習で教えてもらった魔術は各属性の最低限度の魔術と身体強化だ。身体強化は魔力量が多いとその分強くなるらしいが、銅分類ではあまり意味がないと言われた。
結局大したことは学べなかった。魔力量が多ければもっと優遇してもらえるらしいが、しかたない。
しかし魔術が使えるというのは十分なアドバンテージだ。少なくとも以前はできなかったのだから何かの役に立つ可能性はある。
とりあえず練習していって戦術に組み込める程度にはものにしよう。
今回も戦争の日はやってきた。以前と違うのは魔術を戦術に組み込んだこと、それにより色々と扱う武器や道具も増えたことだ。
残念ながらクルドさんたちはいない。仲間がいないというのはとても寂しい。いや、チームを組んだことのある冒険者たちはいるのだが。
ある程度の信用はあるが信頼関係を築いているというほどではない。
一回目と同じく多くの冒険者に交じり死神に向かう。以前は見えなかった大鎌の暴風の軌跡が見える。
いや、以前も見えてはいたが、今のようにはっきりと鎌の軌跡を見ることができたのは初めてだ。あまり効果が高くないが身体強化のおかげだろう。
その軌跡の向こう側にいたのはツインテールの女の子だ。今までは大鎌の暴風に隠れて見えてこなかった死神の正体、まさか女の子とは思わなかった。
だが、その体が見えなかったのは仕方なかったのだろう。その大鎌に対して明らかに小さい。軌跡の中に隠れて見えなかったのだ。
大鎌の暴風が迫る。かすかに見える軌跡についていくのがやっとだが、かろうじて大鎌を剣で受けた。
ようやく相手の攻撃を止めることができる、大鎌の軌跡に剣を差し出すことができた時はそう思ったのだ。
剣ごと首を切断された自分の体を吹っ飛ばされながら見るまでは。
次は武器や防具をなんとかしよう、と消える意識の中で思った。