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とりあえず、将人とノエルは罠に引っかかってここまで落ちてきた女性が起きるまで待つことにした。ただ、起きて暴れられると困るので、とりあえず手錠をして抵抗できないようにする。
「何か、こう、怪しい感じですねー」
「そりゃあ、女の子にこういうことしているのは怪しいかもしれないけどさあ……こうしないと安全の確保ができないだろ。でも、わかってる限りではこの子、戦闘能力はないっぽかったよな?」
「治癒の術を使っていましたけど、魔術で攻撃はしてなかったですからー、多分大丈夫だと思いますけどー」
最も、彼らの見ている前で使っていないだけで使えないと言うことはない可能性はあるのだが。それは将人も想定しているため、相応に対策を講じることを決めた。
「とりあえずエリアを改造する……」
「今は侵入者いて駄目ですよー?」
「移動式のベッドとか作るか……運搬用の」
幸い、現在隔離エリアには段差を作っていないようなので、大きさを考え調整した台車の類で移動させることは出来るだろう。迷宮作成と同じように、迷宮の核を用いれば様々なものも作れることができる。もともと、各エリアを監視する監視カメラの機能も、それを表示する映像機器も、彼らが食事をするものもすべて迷宮の核で作り上げたものだ。
こういった便利なものを作れるし、魔物の類や動物の類を制作できるが、結局それくらいしかできないと将人は嘆く。それだけ、というには破格の機能なのだが、人恋しい将人に取っては人間を作ることも、人間に近い魔物を作ることもできないのを少々残念に思っている。
それはさておき、迷宮の核を用いて女性を載せるためのベッド台車を作り、その上に持ち上げて乗せる。女性に触れると言うことで少々どぎまぎしたようだが、そもそも敵でありそういうことを意識する相手でないと思いなおしたようだ。簡単に意識が変わるわけではないが、心持はしっかりしたようだ。
部屋から外に出し、迷宮の隔離エリアを弄る。残念ながら迷宮の機能でも魔術を封じるエリア、治癒の術を封じるエリアなど、純粋に相手にデメリットのあるエリアを作ることは出来ない。仕方がないので、すぐに退避しやすいように、手を封じている限り移動がしにくいように、手錠を通して逃げられないようにするポールなど、色々と設備をつけたしていく。そうして、即席の隔離エリアから生まれ変わった隔離エリアになった。
「こんなものかな」
「あと、落下地点をどうにかしませんかー? 今回は気絶していたし、武器を持っていたわけでもないですけどー、他の人がそうでないとは限りませんよー?」
今回落ちてきたのは治癒術を使う女性であったということで、危険のある武器を持っておらず、落下時に気絶していたため、全く抵抗しなかったが、すべての罠に引っかかった相手がそうなるとは限らない。もし、意識があって武器を持っていれば、襲い掛かられた可能性はもちろんあるだろう。
「……それもそうだな。じゃあ、這い上がれないような穴にして……そっちから隔離エリアの方に行けるようにするか? 村のような、せめて個室くらい持てるような隠しエリアにして……」
ノエルの提案に将人が色々と考え始める。とりあえず、先んじて落ちてくる場所を這い上がることのできない穴にした。あとはおいおい対処することにして、今は落ちてきた女性を暴れられないようにしている。
「これでよし……っと」
「こう、掴まったお姫様って感じですー? でも別にお姫様じゃないですねー」
「貴族だって話があったような……どうだっけ?」
映像だけでなく同時に迷宮内の音声もある程度拾ってはいるが、それらのすべての情報を集められているわけではない。落ちてきた女性についての情報がそこまで存在していないのだ。
「う…………」
結構長い間気絶していた女性だが、ようやく意識が戻ってきたようで、もぞもぞと動き始める。ただ、手錠やその手錠でポールに張り付けられているため、動きにくさで意識が戻るのが早まったようで、すぐに意識が戻る。
「っ!? こ、ここは……確か私は……」
がちっ、と起き上がるようにポールから体を放そうとするが、手錠がそれを許さない。
「だ、誰か! 助けなさい! なんでこんなことに!?」
流石に目覚めた直後に異常な状況ということで混乱したようだ。そこに直斗とノエルが女性の目の前に現れる。
「起きたよう」
「これをしたのはあなた!? すぐに外しなさいっ!」
「……自分の立場、わかってる?」
流石に自分の台詞が遮られたことにちょっとだけむっとした将人は女性を脅すような言葉をかける。
「っ!」
「今、あんたに何ができる? そもそも、あんたにどの程度戦闘力があるのかな?」
「ひっ……」
将人が近づいて女性の首元に手をやる。流石にあれな意味合いで体に触れるのはどうかと思い、頭や顔は微妙に違うような気がしたようで、締める、折るなどができる首に手を伸ばしたようだ。
「生殺与奪はこっちにある。抵抗するな、敵対するな。わかったか」
「…………」
女性は怯えを見せながらも、将人をにらみつける。不明な相手ということで恐怖心があるが、貴族としてのプライドがあるためだ。
「……ふうむ」
流石に現状のまま、女性を解放するわけにもいかない。ポールで動きを固定したのもある意味問題で、自由に移動させることもできない。
「……じゃあ、垂れ流しと、飯テロでいくかな」
「……?」
女性は言葉の意味が分からなかったようだ。前者はともかく、後者はこの世界にある言葉ではないだろう。前者も、それを意図してなければ意味は分からない。
「えーっと……音は拾える?」
「何のですー?」
「ここの」
「わたしに聞かれても―……監視は作ったんです?」
「あー……ここには作ってないな」
落ちた穴の先にある隔離エリアの個室の入り口を監視するものはつけたが、この隔離エリアの部屋には付けていない。隔離エリア同士をつなげる道は作っているが、そこにもつけてはいない。だいたいこの十階のエリアには監視機構はつけておらず、かなりがばがばの管理である。
「じゃあしかたないかー……いったん戻ろうか」
「戻るんですかー?」
「え?」
特に女性に何かをするでもなく、将人はノエルを連れて外に出ていく。
「ちょ、ちょっと!? 置いていくの!? これを外していきなさいよ!」
「残念ながら、俺はこの迷宮の製作者で、あんたはこの迷宮への侵入者。自由にする謂れはないね」
「迷宮の製作者……? も、もしかして迷宮の主……?」
今更ながら、将人の招待を女性は知る。しかし、将人はそんな女性の態度を気にすることなく、部屋を去っていった。
「あ……! え、このまま……?」
女性はポールから離れられない。体の体勢も碌に変えることは出来ず、手錠もポールも硬さは鉄以上。もし、離れようと思うのならば、手錠やポールを破壊するしかないが、それすら難しく、最後の手段として手首の切断も、武器の類はなく不可能。つまり、逃げることは出来ないし、どこかにいくこともできない。たとえ、どんなことが起きても。
「……垂れ流しって」
さっ、と女性の顔色が変わる。先ほどの将人の言葉の意味が分かったからだ。
「あれでいいんですかー?」
「尊厳って大事だよ? 特に女の子は気にするんじゃないかな」
「……? どういう意味ですー? よくわかりません」
ノエルはいまいち意味が分からないようだ。
「……あれ、そういえばノエルが食べている姿は見たことあるけど、トイレに入る場面がなかったような」
水場の類やら何やらを作る際、トイレなどの汚物の処理場も作っている。さいわい、その手のことを引き受ける、廃物処理のできるスライム類の魔物がいるので作るのには困らなかった。その際、ノエルはまったくそのことについて言及したことはない。しかし、将人は疑問に思う。食べることがあるのに出すことがないと言うことがあり得るのか、と。
「……まあ、深く考えないでおこう。えーっと、人間はトイレ……尿とか、便とか出すだろ?」
「そうでうねー。でも、それがどうかしたんですかー?」
「……いや、それを出すための場所じゃない場所で出すつもりでもないのに出す場合、精神的にきついんだよ。特にあの子は服を着たままだし」
流石に脱ごうと思えば頑張って脱ぐことは不可能ではないかもしれないが、もし下半身だけ裸の状態を将人に見られれば、と考えて脱がない可能性は低くないだろう。最も、脱がなければ排泄物を服の中に出してしまうことになる。どちらも、と仕事の女性にとっては精神崩壊しかねない内容である、とは少し言いすぎだろうか。
「そうなんですかー。そういうの、私にはちょっとわかんないですー」
「ノエル天使だもんなぁ……」
珍しくノエル側と将人側の種族の違いによる意識差が判明した瞬間だった。




